2023/11/08 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にスフィードさんが現れました。
■スフィード > 夜の帳が下りて、地平線の向こうが紺色と緋色で溶け合い、最後は暗闇が残る。
遠くの星々が輝き、こうして宴の場から抜け出して、バルコニーで空を見上げる自身にもそれはよく見える。
手摺に凭れ掛かるように体を倒し、吐き出す息が白むことはないが、それでも秋風にしては冷たく染み渡っていく。
先程までいた騒ぎの場へと振り返ると、豪華絢爛という言葉がよく似合う有様。
美酒美食の並ぶテーブル、王宮お抱えの演奏者によるクラシカル、鮮やかなドレスを纏った令嬢に勲章付きの男が手を取り合い踊る。
窓一枚隔てると、曇った響きになるそれが遠く聞こえるのが不思議なものだが、今はその方がいい。
乾いた笑い声も出ない曇の顔、片手に残ったカクテルグラスをゆっくりと回しながら見つめる。
「兄からの引き継ぎは終わったが……どうしたものか」
兄といったが、正しく答えるなら兄の側近というところだ。
彼自身は未だ捕まらぬ何処かの暗殺者の手により、深夜に屠られた。
あれだけ権力を笠に着て貴族の娘を弄ぶわ、人妻に手を出すわ、幼子を壊すわとやりたい放題すれば当然である。
呆れて物が言えないとはこのことで、深く溜息を吐き出すと、ぬるくなったカクテルを口元へ運ぶ。
酒にはあまり詳しくない、ワインを混ぜたことだけは分かるが、それ以外は飲みやすい程度しか感じられなかった。
酒気交じる吐息と共にカクテルを手摺に置くと、庭の方へと視線を向ける。
仕事を引き継いだお前の好きにしろ、事業としてもっと立ち上げるか、それとも軍に取り入るなりお前の自由だと。
父親の言葉に勝手な人だと思うが、唐突に力を渡されても持て余し気味なのだろう。
そういう煩わしさから逃げる為にきた宴より、まだ緑を見ている方が和むとは皮肉なものだと自嘲を浮かべていく。
■スフィード > 薔薇蔦を絡めた生垣に囲まれた噴水の広場、そこは宴に来た女を口説く絶交の場。
バルコニーからもそこが見えるものの、今日は男女の逢引はないようだ。
ただ噴水がざぁざぁと枯れ葉を揺らしながら吹き出るばかりで、その水幕の向こうに人影もない。
特に面白いものもないかと自嘲と変わらぬ笑みのまま、手摺のグラスを手に取ると、再び宴の方へと振り返る。
商売として立ち上げるにしろ、繋がりは必要だろう。
今日はコネ作りと頭の中を切り替えながらガラス戸を開くと、ヴァイオリンの音色を押しつぶす歓談のオーケストラが溢れ出す。
後手で扉を閉ざすと、バーカウンターの方へと向かっていき、黙々とグラスを磨く主へと空のそれを差し替えした。
「何か飲みやすいのを、あまりアルコールは強くないやつで頼む」
承知しましたと静かな返事に、淡い微笑みで応えていく。
スツールに腰掛け、遠く遠くに感じる宴の様相を傍観する暇つぶしに興じる。
最近は城塞都市絡みで、軍手柄を上げて大きくなったものもいるらしい。
胸に勲章を付けた大男がその時の事を語り草に、酒片手に愉快そうに笑い、まぁなんて言いながら社交辞令な笑みを浮かべる女も。
それが当たり前の場所ではあるのだが、お決まりだらけのこの場はやはり、心が踊らない。
気質が乱痴気騒ぎに合わんのだろうなんて、一人考察を重ねながらぼんやりとしていると、先程の場が動いた。
他の男が話しかけていた女にちょっかいを掛け、互いに譲らぬ睨み合いに発展していく。
これは五月蝿くなった挙げ句、面倒なことになると傍観していれば、我関せずなバーテンダーがカクテルグラスをカウンターへ滑らせる。
「ありがとう」
本来ならゆっくりと味わうところだろうが、今はやめておく。
行儀が悪いが一気に傾けて飲み干すと、ご馳走様とお礼も重ねてグラスをカウンターへ置いた。
それからテーブルが揺れる音を背にパーティ会場の外へと逃げ出していく。
コネを作るどころではなくなってしまった、どうしたものかと思案しつつ片手が顎先を擦る。
直ぐに帰るにも少々居た堪れなさを感じそうだと思えば、寄り道へと逃げていく。
城の前庭、四季折々の草花を植えたそこへと歩んでいくと、壁の低い迷路の様に生垣が続く。
誰も見てまいとポケットに両手を入れ、丸く切り抜かれた中央の広場へと向かうと、そこに置かれたベンチを目指す。