2023/09/27 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/地下書庫」にネリさんが現れました。
ネリ > 王城内に在る地下書庫に、コツリ ... と響き渡る靴の音色。
其れに重なるように零れる僅かな衣擦れと、ランタンの揺れる音すらも聞き取れる程に、その空間は静まり返っていた。

無人の暗闇の中を、片方の手にはランタン、もう片方の手には幾冊かの書物と一枚の羊皮紙片を携えて歩を進めるのは修道女の姿。
清掃こそ行き届いているものの、利用者の気配も希薄な書架の森の中を、掲げたランタンの明かりだけを頼りに練り歩いてゆきながら。

「 ............ 」

やがてその書架の森の中に認めた一冊の書物の背表紙と、手許の羊皮紙片を幾度も確かめるように見比べた後。
伸ばした白い指先がすっと書架からそれを引き抜くと、片方の手に抱えた書物の中へと加えていった。

ネリ > 其れからまた、僅かな足音と衣擦れの音を伴いながら修道女は書架の森の探索を再開する。
その手許に握られた羊皮紙片に綴られているのは、何れもこの地下書庫内に保管されているであろう書物の題名。
歴史書、学術書、然る貴人の残した手記など、其処には何の整合性も見出す事は出来なかったが、其れらの写しを取って神聖都市まで持ち帰る―――と言うのが此度修道女が王都まで遣わされた目的のひとつであった。

「 ............ 」

改めて、己の手許に有る幾冊かの書物へと視線を送る。
未だ羊皮紙片に綴られた題名の半分も見つけきれていないが、片腕に抱えられた書物は中々の厚さと重さを有していた。
明確な期限は定められて居らず、滞在中は王城内に在る教会で寝泊まりさせて貰う手筈となっている為その辺りの心配は無いものの。
神聖都市へ帰還が叶うのは随分と先になりそうな予感に、修道女は独り誰にも聞こえぬ溜息を小さく零した。

ご案内:「王都マグメール 王城/地下書庫」にアティルさんが現れました。
アティル > 地下書庫に用があるのは稀な話だった。
軽い靴の音は王城の中でも俗世間を思わせる様に騒々しくもあり、道化師の様に一定のリズムではない歩き方を見せる。
その足音は、自分以外の足音に気が付いたのか。
パタっと止まった後、この地下書庫に珍しい客人がいるという興味を惹かれたのか、真っ直ぐ修道女の方に向かって来る。
未だ、距離的には十分な余裕もある。姿を隠す、息をひそめる。そういった事をすれば厄介者の貴族と顔を合わせる事も無いだろう。

こっ、こっ、こっ、ここっ、という音は徐々に確実に近付いて来ていた。

ネリ > 不意に、探索の足を止める。
何時から其処に居たのか、探索に夢中になっていた修道女には知る術も無いが、気が付けばその耳へと届いたのは自分以外の足音と気配。
向こうも一瞬その足を止めたかと思えば、迷い無く此方へと近付いて来る足音に気が付けども、隠れ潜むといったような考えは微塵も無く。
やがて姿を現わした人物と鉢合わせたならば、修道女は緩やかに頭を垂れて見せてから。

「 ...... 今晩は ...... 神聖都市からの遣いにて、暫しお邪魔をさせていただいております。」

王城の学者や見回りの衛兵というよりは、貴族の身分であろうかと相手の装いから考えを巡らせながら。
何れにしてもこの場では余所者の身である修道女は先んじるように、己の身分と用向きを伝えんとした。

アティル > 「やぁ、こんばんは。――神聖都市とはまた遠くから。大変だねぇ。
邪魔なんてことはないさ、本は記録を残すだけじゃなく、読み手がいてこそ。
修道女さんかな?丁度寝る前に散歩の気分だったからね。
――失礼。アティル。アティル=フィラスメンタ。」

修道女が王城にいる事自体が珍しい。いかんせん王族貴族に衛兵騎士といった堅苦しい面子が多いのだ。
一輪の花を思わせる相手の佇まいと礼儀正しさに赤いマントを摘まみ上げる様にしての会釈。
笑みを湛えながら、ゆるっとした視線は相手の顔立ち――ではなく、手にしているモノへ移っていた。
本を探しているのだろうか。それに、まだ探しているのかもしれない。
少し強引だが腕を伸ばし、年下にも見える彼女が手にする本をさらっと奪い取ろうと試みる。

「――女性1人で運ぶにはちょっと面倒な量でしょ。
寝る前の軽い運動に付き合ってよ。本は運ぶから君――は本を探す。win-winってね。
……邪魔だった?」

ネリ > 「 ...... いいえ ... 大変と言う程の事は。
 フィラスメンタ様 ... 申し遅れました、わたくしの名はネリ ... と。
 お考えの通り、神聖都市から参りました修道女に御座います ... 」

笑みを浮かべながら赤色の外套を摘まんで優雅に会釈をする相手に対して、改めて名乗りを告げてから深く腰を折って一礼を向ける。
其れから、此方へと腕を伸ばす彼の視線が修道女の腕の書物へと向けられているのに気が付けば。
抱えた其れらを彼から遠ざけるように身を翻そうとするものの、修道女の予想よりも強引に伸びた手はその内の一冊を掠め取ってしまい。

「 ... 邪魔などとは、とんでも御座いません ...
 ですが、わたくしの用向きなどに、フィラスメンタ様の御手を煩わせる訳には ... 」

邪魔かと問われれば、修道女はヴェールと薄藤色の髪を揺らしながらかぶりを振って見せるものの。
一介の修道女が命じられた雑用に貴族の手を借りるなど、あってはならぬとばかりの口振りで、けれども強く出る事も出来ぬ侭に、最終的には困ったような表情を浮かべてしまい。

アティル > 「ネリちゃ、ネリさんか。
――ふっふっふ。それならそのフィラスメンタ『様』に本を持たせ続ける方が、ね?
別に誰が見ている訳じゃないし、そうだなぁ。
この地下書庫にある、私の知らない本を見つけると言う事で。」

肉感的な肢体も魅力はあるが見ない様にした。女性の胸を見れば視線で勘付かれると言うのは本当の話だ。
だからここでは、笑みを浮かべて彼女の顔を見る事と、小脇に抱えた本に視線を移す。
子供がおもちゃを強請る様に掌――武術などの荒れ事はそれほど経験を積んでいない掌を相手に差し出す。
これ以上は無理強いをすると相手も困るだろうと言う事で、逃げ道を作る様に言葉を紡ぎ。
困ったような表情を浮かべた相手に諭す様な言葉をゆっくりと向ける。本質は、ナンパ目的でもあるが。
――まぁ、ナンパする対象が仕事しているのなら、片付けてから改めてお誘いをするなりすればいい。
神聖都市の使いとしか知らない以上は、無理強いをするつもりも害を与えるつもりもない。温厚な笑みを浮かべて相手が本を渡してくれる事を待っていた。

「ほら、私の用向きも出来た。もしかしたら、ネリさんの探している本に興味を惹く本があるかもしれない。
そうすれば私は本を読んで知識を得られる。それに、寝る前の軽い運動は健康にも良い。本を持つ事で丁度良い運動さ。
私は私の都合でしか動かないよ。
……それに、時間も時間だ。あんまりコソコソすると、オバケが出るかもよ?」

ネリ > 「 ... 呼び捨てで構いません ... その様に、敬意を払われるような身分の出では御座いませんゆえ。
  ...... 見られていないから良い、という訳では御座いませんが ...... 」

ゆったりとした修道衣に隠れながらも、その下の肢体を品定めせんとする視線は王城へ赴いてからも幾度か受けてきた。
修道女自身も極力気にしないよう努めてきたものの、そんな彼らとは異なり視線を外そうとする男性の態度に、修道女の緊張は心なしか少しだけ和らいだような気がして。

それでも、温和な笑みを浮かべながら此方へと手を差し出して来る様子には変わらず困惑の色を浮かべた侭。
決して無理強いはせず、此方を困らせないようにと垣間見える気遣いを無碍にするのも憚られ、暫くの逡巡を要してから修道女は幾冊かの書物―――その腕に抱えた内の半分よりやや少ない程度の量を差し伸べられた男性の手へと差し出した。

「 ...... お気遣い、感謝致します。 ... それでは、半分だけ ...
 フィラスメンタ様の興味を惹く書物 ... 見つかると、良いのですが ... 」

まるで子供を驚かす文句であるかのような最後の一言には、ほんの少しばかりだけ、可笑しそうに唇の端を持ち上げて。

アティル > 「なら、ネリと。
あぁ、いいのいいの。身分も関係ないって言えば怒られるか。
貴族であっても、ネリの直接の上司って訳じゃないし本に用事があった同類で良いの……さっと。」

渡された本は半分にも満たない位だ。どこまでも奥ゆかしい性格がそれだけでも垣間見える。
落とさない様に預かるも、確かにこれは女性一人では手に余るかもしれない。大切な本に疵をつけない様に纏めて抱え直し。
配慮と熟慮を重ねた相手の態度へ好感は自然と上がる。
唇の端を軽く持ち上げてくれた相手に、くすくすとした微笑を自然と浮かべるのは仕方がない事。

「ま、本の数は多ければ多い程興味を惹く可能性はあるからさ。
まだ、探し物の途中なんだろ?神聖都市には中々出向く機会がないから、どういう生活をしてるか知らない部分もあるんだ。
やっぱり神様への御祈りと、清掃とか説法についての話が盛んなの?」

本を探す為に隣に立つ。彼女が本を見つけた時に、腕を伸ばす先にまるで子供が競おうとするように腕を伸ばしてその本を取ろうとする。
神聖都市の黒い噂を聞く事は多いが、目の前の修道女はそんな様子が見えない。
きちんとした出自の修道女なのだろうかと思っての問いかけ。
言葉のやり取りをする事で警戒心を解き、ファーストステップ。最低限警戒をさせずお茶に誘える程度の関係性を構築しようとする男の働きかけは続いていた。

ネリ > 「 ... 怒りは、しませんが ... えぇと、はい ... フィラスメンタ様がそう仰るのでしたらば、それで。」

貴族と平民の身分差を意に介さない貴族階級の人物に出会ったのは、珍しくはあるが初めてでは無い。
その意を平民側である修道女が真っ向から受け取る事は出来ないが窘める立場にも無く、今はこうして手持ちの書物の半分を譲り渡したのが、恐らく修道女にとっては最大限の譲歩だろう。
唇の端を持ち上げたのはほんの一瞬、くすくすと微笑を浮かべる男性の隣で、感情の淡い修道女はランタンの明かりを掲げ、先導するように地下書庫内の探索を再開する。

「 ...... それでは、お言葉に甘えてもう少しばかり ......
 そう ... で御座いますね。 他には巡礼に来られる信者の方の応対や、貧民街の方々へ炊き出しを行う事もありますが ... 」

神聖都市での日常を尋ねられれば、思い出すように言葉を選んでから修道女は受け答えを重ねて行く。
その裏に秘された黒い噂とは自身も決して無縁とは言い難かったが―――態々進んで他人に聞かせるような事では無いだろう。
それから先も言葉のやり取りを重ねながら、二人書架の森の中を練り歩き目的の書物を見つけ出してゆく。
最終的に彼からのお茶の誘いに修道女が応じたかどうかは定かでは無いが、少なくともこのひと時を悪く思ってはいないであろう事は確かだった―――

アティル > 耳にする話の数々は初めて聞く内容や炊き出しと言ったボランティアに至るまでの数々の行動。
噂でしか知らない数々の善意の行動を耳にしつつ、手にしていく本が増える頃合い。
彼女が探していた本を見つけて、それを運び終えて――送り狼になる事も無くただただ悪くない印象を植え付けるだけの一夜。

お茶に誘うのは今回でなくとも問題は無い。待つ時間と言うのもナンパや――その延長線にある性行為を考えれば悪い事ではないのだから。
本の種類で興味を覚えるよりも、その本の表紙に描かれた自分の読めない文字等に興味を覚えたりと。
少なくとも彼女の肉体や容姿といった男ならば惹かれるだろう数々の存在よりこの時間を重視している様子だった。

別れ際に一言、こう声をかける。その反応で相手の自分への感触を確かめようとするように。

「今度炊き出しに並んでみようかな?――タダ喰いは問題あるだろうけど。」

そんな冗談とも本気とも取れない言葉。タダ喰いは文字通りに取るなら、ただ何もせず食べるのに困った人の食事を奪う事になる。
好意的な解釈をされるか、真顔で駄目と言われたかで判断は判れるだろう。
ともかくネリという修道女は不幸にも女好きの貴族に顔と名前を憶えられてしまったのだった。

ご案内:「王都マグメール 王城/地下書庫」からネリさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城/地下書庫」からアティルさんが去りました。