2023/08/19 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にユーダスさんが現れました。
ユーダス > 「………然様で御座いますか。それでは本日のところはこれにて失礼を。
 また、貴方の眼鏡に叶いそうな品が手に入りましたら伺わせていただきますよ。」

恭しく頭を垂れて、去って行くその人物の後ろ姿を見送る。
場所は王城の中心部からは程離れた位置に伸びる長い廊下の中程。
先の人物は男が取引相手として懇意にしている貴族の一人で、
その日は互いに別の目的で王城を訪ねていた所を偶然出くわし、立ち話に花が咲いた―――といった次第だ。

既に要件を済ませた男とは異なり、人を待たせていると足早に立ち去ったその背を見届けてから、
カツ、コツと磨き上げられた石床を叩く靴の音色を伴って男もまた足を進め始める。

中心部程では無いにしろ、相応に人通りのある廊下ですれ違う人物は様々だ。
見回り中の衛兵や清掃中の侍女、常日頃から王城に出入りする貴族王族のみならず、
己の様に外部から招かれた商人や冒険者、果ては娼婦と思しき女性の姿までも見受けられた。

先のように見知った相手や、或いは男の興味を引くような人物との遭遇がないか気を留めながら、
男はすれ違う彼らに視線を投げ掛けては、目線だけで小さく一礼を差し向けてゆく。

ユーダス > とは言え、男の要件は既に済んでおりこれ以上王城に長居する理由も無い。
後はこのまま正門まで足を運び、迎えの馬車を手配して帰路に就くのみ。………だったのだが。

「嗚呼、そういえば。」

不意に、何かを思い出した素振りを見せてその足を止める。
一度は正門へ続く方角へ向いた行き先をくるりと変え、男が向かったのは現在地から程近く、地下へと伸びる階段の前。
その傍らに控える衛兵へと黒服の懐から取り出した一枚の書状を突き付けると、
検分の後に道を空けた彼に謝辞と共に一礼を投げ掛けてから、カツ、コツと靴音を反響させながら階段の先へ。

その先に広がっている光景は王城の地下牢。
元は言わずもがな、王国に牙を剥いた罪人を捕らえ留め置く為の場所であるのだが、
恐らく今此処に捕らえられているのは罠に掛けられその冤罪を背負わされた者たちか、
ある目的の為に集められたミレー族、もしくはそれに類する魔力を有した者たちが大半であろう。

そんな彼らの嗚咽が、或いは嬌声が時として木霊する地下牢の中を、男は緩やかな足取りで進んでいって―――

ユーダス > 地下の空間に規則的に響き渡る男の靴音が、一枚の扉の前でピタリと止まる。
其処は石造りの壁と重厚な鉄の扉に囲われた独房。
男は扉に設けられた小窓から中の様子を伺うように覗き込んでから、懐から先の書状と共に取り出した鍵をその鍵穴へ差し込んだ。

程無くして、ガチャリ、と重々しい解錠の音から遅れ、軋む音色を上げながら独房の鉄扉が開かれると、

「―――ご機嫌よう。別件で伺ったついでで恐縮ですが、どうしているかと思いましてね。
 きちんと良い子にしておられましたか………?」

地下牢の空気とは場違いな程に穏やかな笑みを浮かべて、独房の中の人物へとそのような言葉を投げ掛けながら、
足を踏み入れた男を迎え入れるように、再び軋む音色と共に鉄扉が閉ざされてゆく。
それから先、その中で起こったであろう出来事は、当事者以外誰の耳目にも届く事は無かった―――

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からユーダスさんが去りました。