2025/02/16 のログ
:: [一覧へ] :: :: ::

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にコンゴクさんが現れました。
コンゴク > 公開されている美術展に居る。壁も床も天井も白い。そして広い。
自然光を採光する為の窓は無く、しかし火を扱う訳にも行かなかったのか光源は魔法光。
照らされている明るさも相俟って、今が昼か夜かも判然としない閉ざされた建物の中。

「ほっほー」

フクロウの鳴き声みたいな声。
壁際には金色や銀色、見事な彫刻や装飾を施した額縁に囲った絵画がずらりと並び。
それを順々に見て回っている。
つぶさに眺める画法、技法、色彩。思わしそうに半分に瞼を閉ざして顎をさする。

「解らんな。周囲は解っとるような顔しとるけど、本当に解っておるんじゃろうか」

同じように展示品を見て回っているのは自分だけではない。
美術鑑賞に耽っている周囲の訪館者達が難しそうな用語や横文字をあらんばかりに駆使し、美術の数々を褒めちぎっているのが聞こえている。

コンゴク > 目の玉が飛び出すような運営側の数字の値付けも聞こえて来る。
実際にそこに貼り付けられている値札がその言葉が真実であると物語るのだ。

「絵具を紙に塗ったくっただけじゃというのに、それだけで価値が跳ね上がるのか。人間解らんのう…」

しかし現在理解出来ない、という事は理解してみようという好奇心と挑戦にも繋がる。
お偉そうな作法振る舞いをしているちょっと見回しただけで溢れている上流階級の所作の模倣。
腰の後ろに手を回し、胸を軽く前に張って、顎をしゃくるような難しい顔をする。
ふむふむ、と、盛んに何かに相槌を打ちながら展示品を蟹歩きで歩行する。

「解らん。でも、これらを作った人間が、作品を捻出するのに恐ろしく苦悩した、という事は解るもんじゃな」

懊悩、苦しみ、焦り、怒り、感情の丈をぶつけた表現ではなく、実質的にそこに塗り込められている当時の芸術家達の労苦は感覚的に今も拾える。
少し吸うだけで味がする。胸を張っている姿勢から深呼吸に肩を揺する、森林浴をしているような心地。比喩的ではなく空気が美味い。

「衣食住の足りた後の人間達の暇潰し、かと思えば中々…美術というのも観方を変えれば悪くない」

コンゴク > 「とはいえ…ひのふの、み…と、食事として買い付けるには値が張り過ぎておるが。ぜーたくな嗜好品じゃな」

指先で値札の数字をなぞるだけで離別のさようなら。
見栄えを良くする為にかとても清潔に保たれ、鏡面レベルで拭き磨かれている床石を蹴る加減も少し畏まる。
傷つけでもしたらこっぴどく怒られるに違いない。
絵画展示のスペースから距離を置くと彫刻などが目立って目に留まるようになって来る。

「立体の方が解り易いかと思えばそうでもない。タイトルに固有の名詞使われても良く解らんのじゃが…誰?」

縄ロープで囲まれた石工らしき誰かの胸像のいかめしい顔と睨み合い。
くっついているタイトルカードには【〇〇の〇〇】という風な、
仰々しい形容文句と人物名が入っているものと想像して欲しい。

「こういうのを見て回ると思うんじゃが。ワシも頑張れば美術、とやらになれるのではないか?このびぼーーじゃしな、くふふふ。太陽のように神々しいコンゴク。価値一千、すなわち値千金也」

コンゴク > 「………」

ぽん、と、腹回りを締めている帯紐を手先の指の腹で軽く叩く。
途端にするする紐解けた一部が佇む自らの周囲に正方形に囲い出した。
其の場にしゃんと背筋を正し、劇場の役者みたいに気取ってポーズを取る。
肩幅に両足を拡げて仁王立ちのような構え。腰の左右にへと手を当てる。

「ワシ、芸術品。わは」

コンゴク > 「は………」

周囲で観て回っている訪館者達の視線がちくちく突き刺さる。
すん、と、我にかえって展開させていた紐を引き寄せて元通り。
猫が誤魔化して毛繕いをするかのようにぱっ、ぱっ、と、帯回りを手で払う。

「わらべみたいな事をしてしもうた。浮かれておったか…?」

軽い酩酊。人通りの多い場所で感情を食べて回っていたが故に。
静かにはしゃいだ空気を引き締め直し、肺から抜いた息遣いにだらりと腕を下げる。
そして冷静になって其の場より歩き出した。波打ち際の散歩の様だ。
海をながむような遠い眼差しで飾られた展示品を咀嚼して巡る歩みは続く。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からコンゴクさんが去りました。