2024/09/02 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/料理店」にヴァンさんが現れました。
ヴァン > 富裕地区の喫茶店。
開店から一時間ほど経つ店内は、普段なら近場の住民や日替わりランチ目当ての客で賑わっている。
だが、今日はものものしい人種で溢れかえっている。冒険者、用心棒、傭兵……そういった類。
今日のランチを楽しみに来店しにきた客達は入口で固まり、回れ右をする。悲しそうな顔をする店員。

一つだけ、他とは違うテーブルがあった。傭兵たちが周囲を囲んでいることから素人目にもわかるだろう。
暴力を生業としている者達でひしめきあう中、雰囲気を異にする二人の男が座っている。
一人は豪奢な服をまとい、節くれた手に指輪をいくつも嵌めている恰幅の良い中年。後退する頭髪を潔く剃った姿が特徴的だ。
一人は三十代と思しき銀髪の男。奇妙な模様のバンダナを額に、カジュアルな格好をしている。
このテーブルだけ、飲食物の代わりに書類の束が置かれている。――何かの契約書、有価証券、機密情報、etc。

「……オーケー。こいつは出したくなかったが……これでどうだ?」

銀髪の男は懐から封筒を取り出し、対面の男に渡した。封筒を開いた男は目を見開き、射抜くように睨みつける。
禿頭が三度舌打ちをすると、周囲を警戒していた者達が武器を抜き、交渉相手へと向けた。剣、短剣、魔法……。
どこふく風といったふうに、得物に囲まれた男は肩を竦めた。

「落としどころはわかっていた筈だ。あんたが欲を掻くからだ――そこまで耄碌したか?
それと……マジでやる気なら、ここの修理費はあんたの息子に請求する」

さらりと言外に「お前を殺す」と言ってのける。禿頭が次の合図をすれば鉄火場になることは自明だった。
こんな場所に入ってくる者はおそらくおるまい。あるいは、二人の男の問題に首を突っ込む傭兵も――。

ヴァン > ――十分後。嘘のようにがらんどうの店内。
中年男も傭兵たちも、煙のように消え失せている。ヴァンはテーブルに散らばった書類を丁寧にまとめ、肩掛け鞄へと放り込む。

「……すまんね。今日の売り上げの補填はする」

アフタヌーンティーを持ってきた店主へと告げる。今日は商売にならないと、店員はもう家に返してしまったようだ。
店主は渋面を隠そうともせず、三度頷いた。店の奥に引っ込むので用があったら呼ぶようにと言って、台所へと消えていく。
男は紅茶を淹れ、香りを嗅ぎ、ゆっくりと口にする。その後、絞り出すように溜息をついた。

危うい賭けだった。神殿騎士、辺境伯の名代といった身分があれど同じ王国民やその財産への殺人は御法度だ。
万が一にも負ける相手ではないが、さりとて手加減していなせる程でもない。舐めればあっさり殺られるだろう。
何人か“伊達”にすれば、数日間は揉み消しに忙殺されること請け合いだ。
とはいえ、収穫はあった。ただ一枚机上に残っていた文書を手に取ると、しらず笑みがこぼれる。

ヴァン > ふと顔をあげる。――人気が完全に消えた。
店主は買い物か何かあったのだろうか、この建物から出て行ってしまったようだ。自分以外の生体反応がない。

「信頼してくれてんのか……?」

とはいえ男ができる悪いことは、キッチンに入って湯を沸かすこととどこに茶葉があるか探すことぐらいだ。
しばし一人の時間を愉しむのも悪くない。どうせこの状況の店内に入ってくる者などいまい。
誰か来たならば歓談も吝かではないが――。

ヴァン > 茶を飲み干し、店から出ていく。
今日は生き延びた。願わくば、明日も。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区/料理店」からヴァンさんが去りました。