2023/10/06 のログ
■アルマース > なるほど取引先ということか、と腑に落ちた顔になる。
名乗りに対して、頬杖をついていた腕をほどき、座ったままではあるけれど、銀色の爪でショールを摘んで流れるように広げて軽く目礼する。
銀やパールで彩られた襟元を一時露わにして。
「あたしはアルマース。最近この辺に来たばかりだけど、踊り子やって食べていけそうで良かったなって思っているところ。
エイギョウボウガイになりそうだから、これから仕事に行くお店の名前は言わないでおく。
でも、今度どこかで名前聞いたら見に来てくれると嬉しいかな」
ぱっとショールを放すと、ひらりと肩に落ちる。
乾杯! と声を上げる代わりに、血のように赤い色の注がれたグラスを同じように軽く持ち上げてみせ、一口飲んで美味しそうな吐息。
銀色の爪でフォークを持ち上げチーズを摘む。
「同じ男の人でも抑えられる人もいるんだし、見習ってほしいわ。
イブリース、さん? が、踊りに熱狂して動物みたいな振舞いをするところって想像できないし。
ねえ、『イヴリース』は、お名前? 家名?」
■サタン > 容姿や装い等から把握した通り、踊り子を生業としている女性。
ショールを解き、襟元に覗く装飾の煌びやかな色彩露わになるのが双眸に映る。
「飲み歩きが趣味なので、営業妨害で出入り禁止にはなりたくありませんから、
こちらも詮索は致しませんよ。
ただ、何処かでお目に掛かれた際は、アルマースさんの踊り、楽しませてもらいますね。」
富裕、平民、果ては貧民地区に至るまで飲み歩くのがライフワークな男は、踊り子が舞う舞台のある店も幾つか知っている。
店舗の所属であれば舞う姿を見る可能性も高くはあるが、
フリーであればそれこそ運任せ。
ただ、それも夜を楽しむ興の一つ位に思いつつ、男もグラスを軽く掲げて『乾杯』と静かに言葉を紡ぎ、
琥珀色の蒸留酒を一口飲み、嚥下して喉を焼くような感覚を愉しむ。
「――まぁ、その場の空気というのも、高揚感を高めているんだと思いますよ。
動物みたいとまではならないでしょうが、華やかな女性が可憐に舞う姿を見ていると、
私も昂るような感覚というのはわかりますし、視線でもあったなら『自分に気があるんじゃないか。』なんて、
錯覚もしてしまうのが男という生き物なんでしょうね。
あぁ、この名前は家名というか、商会の長の責務と共に引き継ぐ名前みたいなものです。」
古臭い慣習ですねと、苦笑をしながらもう一口酒を呷ればグラスは空となり、カウンターの上へと戻す。
言葉は不要な関係のマスターは、一度グラスを下げれば氷を新たに入れて、同じ酒を注ぎ男の前へとコースターの上に置いた。
■アルマース > 出されたばかりのカクテルを、ジュース感覚で飲み干してしまう。
動いたあとの体に染みわたる甘い飲み物に機嫌よくにっこりして。
「あたし、堅苦しいのは苦手だから平民地区の方でお仕事開拓していこうかなって思っていたけど、イヴリースさんみたいなお客さんが多いなら、この辺で頑張ってみても良いかもしれないね」
富裕地区のあたりにしかいないのだろうと思い込んで話をする。
「人の気を惹けない踊りなんてつまらないしねえ……。
気があれば自分から誘うから、おりこうさんに「待て」しててくれればいいのに。
ま、次のお店はここの近くだから、もうちょっとお客さんもお上品なはず。
――と……今何時? まったりしすぎちゃったかも」
まずい、と呟きながら、ローブを掴み椅子から降りた。
肩にローブを羽織って一歩、男のそばに立つと、カウンターに手を乗せ、小首を傾げた。
「――ね、近々見に来てくれる前提で、チップの前払いをしない? 意味、わかる?」
酒代をたかっている顔とは思えない媚びも笑みも無い目で、じいっと見つめる。
■サタン > 甘いカクテルを一息飲み干してしまう女性に対し、男はおかわりをまたゆったりとした何時もの自分のペースで堪能し。
「活気というなら平民地区の方があるでしょうし、この辺は富裕層は多いですが、
別に富裕層や貴族だから私と同じとは限りませんよ。
お金や身分があるというのは、違う意味で面倒かもしれませんから。」
長く住んでいる住人だからこそ知る、厄介な富裕層や貴族は、平民以上に面倒くさい一面もある。
この街で頑張っていこうとしているのだから、厄介な火の粉が掛からぬようにと、一つアドバイスを告げて。
「人を魅了しその気にさせてしまうというのは、その踊り子の技や技量でしょうし、
気に入って貰える様に舞いを愉しみ囃し立てれば良いのでしょうが、
まぁ、酒も入れば気も大きくなってしまいますしね。」
それも酒の魔力の一つでしょうなんて呟きつつ、時間を気にした様子を見れば、ひと時会話をした時間などを加味しては、凡その時刻はこの位かと告げ、
席から降り立ち衣装を隠すローブを羽織る女性の姿を、双眸は眺めた。
カウンターへと代金を置いて去っていく――のではなく、此方へと一歩寄り傍へと立ち、言葉紡ぎ見つめて来る女性を双眸に映り。
「―――…営業妨害にならないのならば、お受けしても構いませんよ。ただし、私の気を惹く舞いであるのなら、ですが。」
別段、普段から店主と二人会話も少ないバーに珍しく華やかな彩りが増えたのだから、その礼程度で奢る事など気にもしないが
心付けを要求するのならば、相応の対価は必要である。
先ほどまでの会話で男の雰囲気は、女性が今宵見ていた客とは違うタイプだろう。
付け加える言葉は聊か挑発めいた色を宿しているだろうが、果たして。
■アルマース > 「そうなんだよね……搦め手で来られるのもそれはそれで面倒だよねえ。気をつけまーす」
踊り子を囲いたがる富裕層は珍しくないし、それを後ろ盾としている子もいるから不利益ばかりとは限らないけれど、面倒な記憶しかよみがえってこなかったようで首を振る。
再び琥珀の色を注がれたグラスを持つ手の関節に指先で触れて。
「お酒や踊りで変わってしまうあなた、見られるかしら。とりあえずお酒は強そうだし、踊りを頑張るしかなさそうだね。
顔、忘れないうちにあたしを見つけて。
踊りを見て、気を惹けたか確認して。
それで今夜の酒代に見合わなかったら、その時取り立てて良いよ。
つまり、見つけてくれなきゃ損のままってことだからね、商人の名折れでしょ?」
離した指を、自分の唇へ持っていくと、マスターと同席したお客様へ、ついつい癖でキスを投げて店を退場する。
ごちそうさま!と元気な声を残して。
チップの前払いと言ったところで酒代以上を要求するつもりはなかったようで。ただ酒にあやかりたかったのか約束のつもりなのか、心を読む術があったとしてもきっと分からない。
酒も踊りも、深い考えとは真逆のものだから。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からアルマースさんが去りました。
■サタン > 「私を豹変させてしまうかどうか――貴女次第、でしょうね。
まぁ、今宵の酒の席が華やかになった分で、十分に元は取れていますし、巡り合わせ次第、でしょうか。」
その心の内に秘めた物が果たして何だったのかを知る術は無いが、
店主と男へと指先に乗せたキスを飛ばしながら、また元の明るい声で店を去っていった女性にへと、男は一人呟く。
男の纏う仮面を剝がせる事が出来るかどうか、其れも含めこの街のどこかで再び出会えたのならの話。
グラスに残っている酒を煽り、その器を一息飲み干して空とすれば、
静かにグラスを置くが、店主はおかわりは注がない。
長い付き合いが故に感じ取れる空気感か。
程よく酒精が思考を鈍らせるような浮いた感覚を愉しむも、それがゆっくりと冷めてゆけば、
今夜はこれで終いとのように、席から立ち下りてカウンターの上に二人分の代金を置く。
聊か多い分はまた今度来た時にでも、引いてしまうか、酒を収める際に上乗せすれば良い。
上着の釦を留め直せば、店の扉へと向かうためにマスターへと背を向けて、軽く右手を持ち上げ。
「――御馳走様。」
一言告げれば、扉を開き男は夜の街へと消えていった――。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からサタンさんが去りました。