2025/05/23 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にベアトリスさんが現れました。
■ベアトリス > 「────ありがとう」
席に通されるとほっとしたように、給仕に礼を告げた。
本来ならそれを当然とすべきなのかもしれないが──良くも悪くも女は貴族らしさは薄かった。
案内された席に落ち着いてようやく一息入れる。
王城に一晩留まった明けの仕事は早めに切り上げて官舎に戻るところだった───のだが。
割と体力が尽きたのをその途上で自覚して、休憩がてらに道すがらの飲食店らしきところに足を踏み入れたところ。
とはいえさすがに女もそれを顔に出したりはしない。
───若干の疲労を帯びた表情はしているかもしれないが。
柔らかな椅子に深く身を預け、ミルクティーを、と給仕に告げて。
碌に店の様子も確認しないままだったのを思い出して、改めて視線を上げる。
飴色の木材が美しい内装。壁紙や調度類も落ち着いた雰囲気を眺め。
客の視線を遮るための装飾や、花瓶に活けられた花、と視線を転じてゆき。よく磨かれた手元のテーブルに視線を落とすことになる。
恐らくはティーホール…、少なくとも女一人で赴くのに難がある場所ではなさそうだということを確認して安堵した。
もう一度ついた溜息は、いかに注意力散漫と言えど店構えを確認しないまま足を踏み入れた己に対してのそれ。
正直官舎に戻れば、着替えもせずに眠ってしまいそうな自覚はあるのだが。
注文したミルクティーがそれを少し先延ばしにしてくれることを祈ろう。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」に孫伯さんが現れました。
■孫伯 > 配達という名目の雑用終わり。本来であれば自らの店に直帰する所。
気紛れに視界に入った店。幸い懐も気にならない程度の厚みがある今、と足を向けた。
既に幾人かきゃくとがいるようだが刺して混雑している風でもなく、給仕に案内されるまま腰を落ち着けたのは
先客である黒いシルエットの女性、その斜向かい。
椅子や鞄を置く音などで注意を引いてしまったとしたら軽い会釈を。
「先ずはコーヒーを……。 それから──」
着席して暫くメニューを眺めながら、給仕を呼び注文をする。
程なくして届けられた湯気を立てるコーヒーと。一口大の小さな、クッキーのような焼き菓子。
給仕の去り際、おなじものがその女性へも供される。
「折角ですから、甘い物とどうぞ。」
そう言葉を載せて、カップを軽く掲げた。
使い古された軟派の手法も、ここまで堂々と行えばまだ自然か。
■ベアトリス > 家畜のミルクで煮だした茶葉の柔らかな口当たりと、深いコク。
ひとまず甘味はいれないまま、ぼんやりとカップを傾けていた。
個人が占有している場所でもない、程よい喧騒やお茶の味は濃い疲労感を溶かしてくれる。
給仕の声が近くなったのは、ほど近い席に他の客が案内されたから。
視るともなしに視線を向け、無作法にならないうちに視線を下げた。
給仕を呼ぶ鈴の音が響いてから──
「───?」
芳ばしい香りが近くの客人のもとへ運ばれ。
それから注文した覚えのない焼き菓子が己のテーブルにも差し出された。
訝しむように視線を上げると、聞こえた声音。
拒む理由は特にはないが───特に知り合いではない顔だ。
判じるものの若干考えるのが面倒になっていたせいもあるのだろう、ひとまず受け入れるように頷いて。
「ありがとうございます。ですが…どうかお気遣いなきよう…?」
相席でもない己への気遣いに戸惑いはあるものの。
小さな気遣いを無碍にするほどでもなく、礼の言葉を届け。
■孫伯 > 明らかに怪しまれている。当然ではあるし想定内ではあるのだが、
それでもと受け取ってくれたことに双眸を細く口角が上向き笑みの形になる。
此方も掲げたコーヒーと焼き菓子を口含んで、その香り、苦み、酸味を味わるよう。
ふぅ──、と少しだけ長い息を吐いて。
それから、徐に荷物とソーサー毎カップを手に取ると、女性客の対面に勝手に座ってしまおう。
「若い女性が甘味に興じるでもなく、カップを傾けているなんて、嫌な事か疲労か、憂い事でもあったのかな、と思いまして。」
何かと一緒の方が気分も良くなる。と茶と菓子のようになんて含ませながら笑顔を向けて。
それから、足元の鞄に手を入れると取り出すのは一枚のカード。
「それと、わたくしはこう言う者で、怪しい……つもりはありません。ただ── そう、少々放っておけない。そんなふうに見えただけですよ。」
自らの名と没落した貴族の家、その跡地を継承した店の名が刻まれたもの。
ひょっとしたら良い噂も、そうでない噂も耳に入っているかもしれないが。
■ベアトリス > こちらの返答に応じるように笑みを刻む相手。
炒った豆の香りが深く薫る。
普段より確かにぼんやりしているのは自覚しているが───、見知らぬ相手が席を移動するのはさすがに想定外。
紫の濃淡を宿す双眸が驚きに瞠られた。
「は、……ああいえ、普段から、ですが。───まあ……多少疲れてはいるのでしょう」
お茶請けを欲するかどうかはその時の気分。
眠気を散らす目的だったから胃に何かを入れるつもりがなかったのは確かだ。
見透かす様な、あるいは的外れともいえるような。
けれどそれはこちらの様子を慮っての言葉ではあるのだろう。
身分を明かすように差し出されたカードに視線を向けて。
暫く文面に目を滑らせる。
小さくなるほど、と頷きと共に。
良い噂か、悪い噂か、は立場によるところではあるのだろうが。
身分の保証と同時に──確かにその店の名は耳にしたことはあった。
夜会での思わせぶりな会話の中で──というのは伏せておいた方がいいだろう。
ひとまずはカードを返し。
「いえ、少々立て込んでいたので疲れていただけです、さほど…深刻なものでもないので」
身分を明かしてくれたとはいえ、初対面の相手に話すことでもない。
当たり障りのない言葉と、少し困ったような笑みを浮かべて応じた。
■孫伯 > 「──どうやら、その様ですね。」
疲れている。言葉の通りなのだろう。ともすれば給仕を呼び追い出す事だって出来るはずで、眼を見張る様子に ふふ、と小さな笑い声を零した。
会話の合間、カップに口をつけては時折双眸を閉じ満喫する。
見せたカードが手元に戻ると軽く手の中で弄びながら。
彼女の紡ぐ言葉に、成程と、勿論その内容まで詮索するつもりは一切なく。
代わりに、カードを仕舞いがてら、鞄の中から取り出したのは小瓶。
「今、試供品としてお得意様に試して頂いている物ですが、お試しに如何ですか?」
そう、彼女の目の前に置かれたのは、薄紫色のそれ。容量としては1、2回使えば精々といった言葉の通りの物で
「こちらは、寝る前の枕や、熱い湯に落として湯気を浴びると、呼吸の通りや体温上昇に効果があって、良い睡眠に繋がるとされてますね。」
多少時間も経過し、コーヒーも紅茶もそこまで香りを放たなくなって久しいか、嗅いで見ては?と自ら封を開け先に手で仰ぎ香る。
自然な花の甘い香の奥に鼻孔を擽る少しスパイシーなそれ。上出来、と頷いてから彼女へ差し向けてみよう。
■ベアトリス > 「ええ、お茶を飲み終えたら帰路に就くつもりでしたので」
給仕を呼んで迄の大きな騒ぎに付き合うほどの体力はあるようなないような。
多少強引ではあるがそこまでするほどでもないという認識でもある。
初対面の相手に探りを入れるほど、今は仕事に意識が向いているわけでもないし。
交流を深めよう、というには少々男にまつわる話はきな臭くもある、というのが個人としての所見。
少なくとも危うきに近づくことを好む性質ではない己には。
「………香水…、ですか?」
外向きに使うのではなく、目的に関していうならリラクゼーション用の内向きなのだろう、というのは予想できるが、その分相性がある。
小瓶の中のそれと、相手の店の話に少々考え込んでいると安全性を示したわけではないのだろうが先に相手自身が薫りを嗅いだ。
促しに応じるように差し出されたそれを受け取り、相手と同じように薫りを立てるように手で仰いだ。
嫌味にならない花の香りがほのかに漂う。調香により、後になって香る刺激もさほど強いものではない、と思う。
「よい香りですね…いやではない、と思います」
素直な感想を紡いで、少し惑う。
押しつけがましいということもないそれを固辞するのもためらわれ、しばし悩む。
断ってしまえば終りなのだろうが、はた目にもそうと見えるほど草臥れていた己が悪いといえなくもない。
「では……お言葉に甘えましょう。」
■孫伯 > 「では……、猶更これは貴女の役に立つことでしょう。 香水ではなく、衣類や寝具につけて香りを楽しむものですね。香油とでも言いましょうか。」
肌には刺激が強いので直接付けないように。と念押しをしておいたのは
有害ではないものの聊か刺激が強すぎたりするものだから……。
「ただ……まぁ、お客様の感想としては、嗅ぐだけではなく、胸の先に落とすのも効果覿面なようですよ。」
その刺激が強い、を補完する言葉を紡いだのは、彼女がその香りを嗅いだから。
勿論そんな少量では劇的に身体が反応するというものではないだろうが
その情報をしれば多少なり違和感を与えるくらいはあるだろうか。
香りその物も、効能その物も、本来は害の無い物。どうやら香りが気に入った様子に笑みを浮かべると、
テーブルの下で靴を脱ぎ、足を伸ばして彼女の足元を撫でようと。
「香りから摂取するだけでも、感じ方が変わり、身体も心も変わる。不思議なものでしょう?」
こういった品をたくさん取り扱ってますよ。なんて営業は、もっと刺激の強い物も、もっと効果の強い物も、暗にある──と。
出過ぎた戯れだろう。ある程度遮蔽物があるとはいえ人前で触れられるのだから、蹴られ水をかけられても文句は言えない。
■ベアトリス > 「………であれば、そうしてみます。あまりそうした趣向は凝らしたことがありませんので──」
勧めに従って、寝具で試してみよう。
よく眠れるのなら、少々たまった疲れが軽減してくれるといいのだが、と小瓶に視線を落としたが。
「………は、ぃ?」
聞き間違いだろうか。膚に塗布するなと聞いたばかりな気がするのだが。
緩く双眸を瞬かせ、首をかしげる。
背に流した深い碧色の髪が揺れた。
話の雲行きが少々おかしい気がする、困惑に表情を揺らし。
その香りがもたらすものは本来何なのかを思考する。
「………っ」
思わず考え込んだ己の足元をくすぐる刺激に、びくりと体を跳ねさせた。
がたん、と椅子が音を立てたのに気づいた給仕を制して。
「いえ、問題は……ない、と」
居住まいを正し、少々無作法の相手から距離を取るようにはしたが。
滔々と語られる言葉には悪びれるところはない。
薄く羞恥を頬に上らせながら、ため息を吐く。
「………そういう事であれば、お返しいたします。私はそういったものには興味はございません」
一度は引き受けた小瓶を、相手に差し出し。
蹴飛ばす様な苛烈な反応ではないが──意思をはっきりと示す様な態度は誤解しようがないはずだった。
「……そのお言葉はとりあえず聞かなかったことにいたしますので」
頭が痛くなりそうだ。
仕事が増えそうなことはあまり言わないでほしいな、なんてさすがに考えた。
職掌上の守秘義務的に言葉にはしないが。
■孫伯 > 一度は、使用を検討したようだったが、続いた言葉に思った以上に大仰に反応する様子。
思案、困惑するような仕草の後、触れては跳ねるほどに反応したその様子に、満足げな笑みを浮かべながら。
彼女と同様、こちらも手を挙げて給仕を制する。
そのまま差し返される瓶へと手を伸ばすと
「ただ、そういう使い方もある。というだけのお話で…… もしかして、その様に使うつもりになりました?」
そう、普通に使う分には有害ではないのだから、ただ体温が上がるのも入眠へ誘う正当な効果。
それを過度に忌避するなんて。とまるで、使用法を知った彼女がそう用いるとでも言うように揶揄の孕んだ言葉を紡ぐ。
そうして、柔らかな物腰、語り口とは裏腹に瓶を通り過ぎた手が、その差し返した手を掴んで。その手背を撫でまわしてみせよう。
「それでは、口止め料が必要でしょうから……、そうですね。それこそ他にも使えるようあと2瓶お付けしましょうか。」
疲れ果てれば、香りもあって心身ともによく眠れる。なんて戯言を平然と言ってのける。
手背から指の股。そうして指先を擦る様に撫でまわすも、振り払おうとすれば容易な力加減。
そんな様子を給仕が認めたか、男女の間に入るようなことはせず距離も離れて──
「依存性もありませんし、疲れ果てる程に頑張っている貴女なら、こういうご褒美があってもいいのでは?勿論、効果覿面故に、リピーターも多いですが……。」
それを恋人に、や狙った相手に、等この地区の住人であれば多かれ少なかれ見聞きし、或いは経験もしよう。ただ、貧困のそれと違い、依存性が無い故に、香油としても用いるのだと。
■ベアトリス > 憤慨すべき、なのだろう。
言葉も仕草も度が過ぎている。
こちらの認識や、態度をちくり刺激する言葉に、息をのむ。
まったくそんなつもりはない、と首を横に振るものの、揶揄いが止まることはなく。
「……っ、あまり、不用意なお言葉は……、ぅ」
瓶を差し出した手を、瓶を取るでもなく手首を取られ、撫でられる。
くすぐったさに指先が震えて、瓶の追加については余計にいらない、と首をもう一度横に振った。
「そのように使うつもりは、ありません…!」
給仕が反応しないよう、極力声は抑え気味に訴える。
するりと指が己の手を撫でてゆくのを、さすがに払い。
けれどそのような行為はやはり鞘当てじみたものと給仕には捉えられたようで、そっと視線を外して離れていくのにそれはそれで困る、と狼狽えた。
「いえ、です、から、そういう事に興味はないので…っ、しまっていただけませんか」
そんな暇もないし、そういった遊びに耽る貴族たちに馴染める気はしないのだから。
それを当然と勧める程度には貴族社会が倦んでいるのもまた事実ではあるのだろう。
それは理解しているけれど、こうも明け透けに言葉にされるとどう対応していいか困るのだった。
■孫伯 > 「不用意……? いえいえ、ただ私は疲労に窮する方へ、お客様の感想から解決法の一つをお教えしただけですよ。」
そう、あくまで使い方の話であり、客の感想であり、正式ではないと釘は刺している。
首を強く降り拒むその物言いにすら、どんな言葉尻ですら取る男の性格の悪さが滲み出ようか。
「ですので、ただ、睡眠時に使えばいいだけですよ?でも──」
振り払われた手、少し名残惜しそうに指先をわきわきとさせるけれど、その指には瓶が収まる事でとりあえず落ち着いた。
「残念ですねぇ……私としては、寝具や、湯に溶かして使っていただきたいだけなのに──」
──自慰に使いそうだから断るなんて──
給仕や、ともすれば少し離れた場所にいる客へも届いたやもしれぬ声。
大袈裟に演技じみた様子で言葉にすると、小瓶の栓をもう一度あけ周囲にその香りを漂わせよう。
その香りと共に、彼女へ向けて周囲から、少ないだろうが好奇の目が向くことになるのだろう。
その感にテーブルへ戻した小瓶を指先で小突く。カタン、と倒れ転がり薄く軌跡を残しながら彼女の足元へ落ちるそれ。
気づき避ければ床に、視線に苛まれ、意識が疎かであったなら、膝元へ落ちて中身を零すのだろう。
■ベアトリス > 「………、そういった解決法を求めてはおりません」
まっすぐな女にとってはこういった、言葉尻を捕らえる論法は実にやりづらい。
さっさと身分を明かして逃亡するのがある意味正しいのだろうが。
身分を保証されているとはいえ、この男がどのようなつながりを保持しているかはわからないがゆえに自然口は重たくはなる。
だが、悪辣な意図をもっていかようにも言葉は変化する、のを間近で、というよりは目の前で。
そして何とも不運なことにその謂れなき対象は己だ。
相席になった時点で逃げておくべきだった───のかもしれない。
そんな後悔はもう、遅きに失したのだが。
「─────使いません…!」
少し声が大きく響いた。それを否定する女の声はさらに。
それに気づいて口許を抑え。
「な、なにをなさる、…っ」
ふわりと漂う薫り。
本来と違う用途の話を聞けば多少なりとも印象は引っ張られてしまう。
同時に、視線はあまり絡まないような配置にされているとはいえ、壁で仕切られたような場所ではない。
ひっそりと此方の話に耳をそばだてている気配は感じられた。
「…っ、ぁ…っ」
かたりと、ふたの開けられた小瓶が倒される。
華やかな香りを放ちながら転がるそれを咄嗟に受け止めようと手を伸ばしてしまった。
……それがよくなかったのかもしれない。
■孫伯 > 本当に真っ直ぐで、芯の通った女性だと。だからこそ搦め手の揶揄が面白い。
体裁だけ見ればあくまで商品紹介であり、彼女が良からぬ想像で言葉を荒らげているように見えるのだから。
最早、今腰を上げた所で余計に視線を集め良からぬ想像、そして噂が広まりかねない状況に、
予想以上と口元は緩む。楽し気に揺れる頭、それを示すよう纏めた髪が揺れた。
「そういう、ムキになるところもいいですね。 それに、身体も昂揚してきたでしょう?」
所詮香りだけならば、体温が上がる程度で済む、はずだった……。
或いは衣類についても香りに悩まされるだけで済んだだろう……。
触れてしまったのは香油である。皮膚や、爪の合間の粘膜から経皮でも接種してしまえば効果は香るだけの比にならず。
「──全く」
この期に及んでまるで彼女のせいと言わんばかりの嘆息と共に、鞄より布を取り出すと彼女の足元へ跪く。
香油に濡れた彼女の手を取ると、その布で丁寧に拭っていき。跪いたその姿は幸か不幸か、尚人目に触れづらくなるもの。
ただ、染み込む油はその肌に熱を持たせ神経を過敏にしてゆくだろう。これが胸の先端だったならば、仮に男の言葉を思い出しそう考えてしまったなら
香油の効能、その意味、その状態を想起するのも容易だろう。
拭きとった後も、その掌を撫で摩り、視線は上目に彼女の表情を眺めるよう見上げていた。その刺激に、どんな貌を見せてくれるのか──と
■ベアトリス > 「…っ、貴方の無体な言葉に怒っているだけ、です…!」
実際頬に上った熱は、注目を集めることの羞恥や、言いがかりめいた恥辱によるものだし。
感情を乱せば、自然体温は上がるものだ。
だからこれらは薬のせいではない、と言い切りたかったのに───
手指を濡らした冷たい刺激は、すでに熱を持ち始めていた。
花の香りはしつこく無く、万人が好むタイプのものだしそれが本当に香油としての役割だけを持つのなら問題はないのだ。
己を不当に貶めてくれた言葉とともに、じわじわと沁み込む香り。
そんな相手が己を嗜めるように距離を詰め、濡れた己の手を取った。
香油を拭う為の布があてがわれ、男がそのまま掌を拭うのだが───。
「────…っ」
男の言葉をすべて信じていたわけではなかった。
話だけで紛い物である方がよほどよかった、のだが───。
じんわりと熱を持ち始める掌に、布の感触が自棄にくすぐったい。
ひりつくような、じくじくと疼く様な。
ふわふわと薫る花の香りが絡み付く。
同時に思い出されるのは、男の戯言めいた言葉。
「─────…っ!!」
色白の肌に熱が点る。
その言葉を振り払いたいのに、掌はいまだ相手によって固定されている。
その刺激が布から指に変わったのにも気づかなかった。
「……っ、や、…っ」
ぎゅ、と眉を寄せる。
むず痒いような何とも言い難い刺激をこらえるように。
揺れる紫の双眸をかすかに伏せて視線をそらす。
肩を強張らせ、身動きを抑え。周囲から身を隠すように縮こまっていた。
■ベアトリス > 【移動致します。】
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からベアトリスさんが去りました。
■孫伯 > 【部屋移動です。】
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」から孫伯さんが去りました。