2025/02/25 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にアダンさんが現れました。
■アダン > 王都の富裕地区。
文字通り、貴族層を中心とした住民が住まう地区である。
特に平民の出入りなどが禁じられているわけではないものの、やはり往来する多くの人間は貴顕や富裕に属するものだ。
その中にアダンもいた。名門フェリサ家の当主であるが、玉座が空位となり混沌とした様相を呈す王国には決して少なくない腐敗した貴族の一員である。
ここはアダンの屋敷の近くである。アダンは屋敷から出て、周囲を適当に歩いていた。
名目としては、王都の視察といったところだ。王都の警備隊の運営というやや貴族には似つかわしくない職を拝命している故に。
無論、そのような家名にややそぐわぬ職務を奉じているのも、自らの欲望を満たすための手段の一つに過ぎない。
とはいえ、今回は配下の騎士や衛兵などは連れていない。
貴族故に時折顔見知りにあえば小さく礼をし、軽く話をする。そんなことを繰り返していく。
中には奴隷などを引き連れている貴族たちもいたが、特に珍しくもないことだ。
アダンが今日富裕地区を見て回っているのは、自らの欲望を満たす対象を探すため。
あるいは、何かしらの陰謀などの種を探してのことだった。
すれ違う人々を眺め、店などを軽く覗いていく。
■アダン > 不意に目に留まったのは、富裕地区にいくつか存在する広場に集まっていた人だかりであった。
足を止めて遠巻きに眺めてみれば、木で組まれた簡易的な舞台の上に何人かの女が立っていた。
女は騎士や落ち目の貴族家の令嬢のほか、ミレー族もいた。皆衣服を剥ぎ取られるか、卑猥な有り様となった衣装を着用させられている。
加えて、女たちは手を後ろ手に拘束されるなどの措置を取られていた。
わざわざ何をしているのかと観衆に聞くまでもなく、ある種の「晒し刑」が執行されようとしていた。
ここではそう珍しくないものだ。処刑などの血なまぐさいものはともかくとして、こういった趣味の悪い刑罰はよく見られる。
なぜなら、アダンもそれをよく行っているからだ。
女たちは無実を叫んでいた。あるいは悪態をついていた。
詳細はわからないが、おそらくは無実なのだろう。あるいは大した罪でもなかったはずだ。
このような刑罰に処せられている時点で、背景としての力を喪っているのがよくわかる。
ミレー族はともかくとして、騎士や貴族の女はそうだろう。
観衆は口々に女たちを罵った。どうやら平民地区からも観衆が駆けつけているらしい。
貴族の娘の晒しなどとなれば、ちょっとした催しだ。
公開することに意味があるのだから、平民の出入りを妨げるはずもない。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にアリアさんが現れました。
■アリア > 貧乏とはいえまがりなりにも子爵家であるため住居は富裕地区にあった。
富裕地区も端の方ではあるけれど。
仕事帰りのアリアは、お土産にもらった葡萄や苺やりんごの入った籠を手に、少しお行儀悪いがその中からりんごをかじりながら歩いていた。
そして、広場へと差し掛かれば人々の罵声や無実を訴える声といった喧騒が聞こえてくる。
「うぇ…」
なんの喧騒かと、広場のほうへと足先を向けたことをアリアは後悔した。
悪趣味な晒し刑が行われていると理解したからだ。
大体がこんな晒し刑にあうほどの罪でなかったり、もしくは無実である女性がこんな目にあっているというのは共通の認識だったろうか。
遠目に眺めるアダンから少し離れた位置で少女は足をとめていたことだろう
■アダン > 今回は自分が彼女たちを責める役にはない。
わざわざ割り込んでいって、他の者の楽しみを潰すこともないだろう。
しかし、どういったものが凋落したかを知るには好都合だ。
アダンは下卑た笑いを浮かべながら舞台の様子を眺めていたが――
「ほう、あれは……」
観衆に目を落とした時、少し先に知った顔があるのに気づく。
とはいえ、アダンが一方的に知っているだけかもしれない。
視線の先にいたのは戦功で爵位を賜ったという子爵家の娘だ。
確か善行で知られる騎士が当主であったはずだ。その善行故に貧しいという。清貧とは聞こえがいいが、今のこの国ではそれは弱みと言えるだろう。
アダンのような悪徳貴族であればこそ、情報は重要であり、主要な貴族家の名前や娘についてはある程度記憶している。
視線の先の少女、アリアについても、彼女にとっては運の悪いことだろうが知っていた。
「ご見物ですかな、アルダートンのアリア様」
アダンはアリアに近づくと、晒し刑の様子を眺めていた彼女に背後から声をかけた。
まずは様子を探っている。相手がアダンを知っているかどうか。
アダンの悪徳貴族としての噂をしてているのか、いないのか。
それで対応は変わってくる。
「あまり御令嬢がご見物されるものでもないように思いますが、ご興味がおありで?」
■アリア > 清く正しい父のもの育てられれば、正義感はもちろん強い。
けれど、正義感と無謀はまた異なるものであるとも教えられている。
現状、このような場面に遭遇したわけだけれどアリア自身に彼女を助けられるような力なんてない。
割って入ってもアリアにはどうしようもないことだって、分かっていた。
アリアはかじりかけの林檎を手に持ったまま、ぎゅっと眉根を寄せて不快感を顕にしていたことだろう。
「ぴゃっ…!」
それでも何かできることはないかと、広場のほうを見ていれば背後から声をかけられて肩を跳ね上げた。
「え、っとぉ…興味?!ありません、興味なんてありません!」
自分の名前を知ってるようだけど、とアリアは怪訝な表情を浮かべただろう。
貧しさゆえに、まだ社交界デビューもできておらず、日々日銭を稼ぐためにアルバイトに精を出しているアリアは、残念ながら貴族の情報に疎かった。
アダンの悪辣な噂についても、そういった貴族がいることは知っていてもアダン自身がそうであるという情報はもっていなかっただろう。
「興味なんかありません。寧ろああいうのをどうにか止められたらなって思ってたんです。」
見れば相手の男も貴族のような出で立ち。
あそこの見物に加わっていないということは、同じ気持ちを持っている側かも、と心内を晒してみるけれど相手の反応はどうだろう
■アダン > 相手はアダンのことを知らないようであった。
悪い噂どころか、アダンそのものを知らぬ様子である。
。いきなり名を呼ばれたことで怪訝な氷所はしているものの、アダンを強く警戒する様子には見えなかった。
「おっと。これは失礼いたしました。
私はフェリサ家のアダンといいまして、苟も貴族の末席に名を連ねる者。
御父君のことは存じ上げておりましたので、御息女にもつい気軽に声をかけてしまいました」
アダンの問に「興味はない」と慌てたかのように言葉を返すアリアに、内心で下卑た笑みを向ける。
まだ社交界にも顔を出していなかったはずだ。そのような娘は、ますます都合がいい。
アダンは慇懃に一礼をして見せる。
「なるほど……もしかすると、あの者たちは無実かもしれませんな。仮に罪があったとしても、このような辱めをしてよいはずがない」
そのような事は微塵も思っていないというのに、アダンはぺらぺらと彼女に同意するかのような言葉を並べ立てる。
父君は我が王国のために戦場で華々しく活躍されただけでなく、貧しき者たちにも施しを与えられているとか。
まさしく貴族、貴顕にあるものの鑑ですな。しかし……御無礼を承知で申し上げれば、財政に余裕がないと聞き及んでおります。
私は戦場などで戦うことは出来ませんが、志は同じくしているつもりでしてな。
前々からなんとかご支援をと思っておりました。こうして出会えたのも何かの縁でしょう。
御息女もまた、御父君と同様な正義の志を持っておられたということですな」
それだけ告げると、視線を晒し刑の方に向ける。
「もし、彼女たちの無実を晴らす方法があるやもしれぬのならば……ご興味はおありで?」
再びアダンは彼女に視線を向けた。
その顔や体を眺めつつ、心にも無い誘いをかける。
それとともに、指に付けていた指輪が妖しい輝きを見せる――
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からアダンさんが去りました。
■アリア > 「フェリサ家のアダン様ですか。」
どこかで聞いたような気がする…と、片眉をあげて考え込む仕草を見せたものの、それが父が注意するように言った貴族の名であることまでは思い出せなかった。
如何せん、注意しなければならない貴族の名が膨大すぎるのだ。
覚えきるのは至難の技だったろう。
「貴方様もそう思われますか?!」
彼女たちが無実である可能性、そしてこのような罰を受ける必要がないといったアダンの言葉にぱあっと顔を輝かせていく。
「そんな風に父の事を…!
はい、父は清く正しく、貧しい者のことを考え、真にこの国を考えていると私も思います!
お恥ずかしながら…確かに我が家は財政的には苦しく…。
ご支援いただけるなら、どれだけ心強いことでしょうか!」
財政が苦しいことを指摘されると、恥ずかしげに俯き加減になったものの、支援の申し出をされれば再び顔をあげて表情を輝かせていく。
「本当ですか?はい、それならとても興味があります!」
怪しい指輪の輝きとアダンの心の内なんてものは露知らず、甘いそんな誘いに乗ってしまったのだった
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からアリアさんが去りました。