2024/04/29 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にタチさんが現れました。
■タチ > 「……ままならぬな」
女剣士は日が暮れた富裕地区を独り静かに歩いていた。
近頃、治安のよい富裕地区を狙った盗人の影がちらほらと見え隠れする故に危険を感じた富豪たちが
用心棒を募っていたが、剣の腕一本では雇われるには至らなかった。
冒険者ギルドや学院の講師と異なり、求める人材の基準などが異なるのだろう。
女剣士は、これも仕方ないことかと割り切り、適当に飯の種となりそうなものを求めて彷徨い歩く。
なるべく実入りのよい仕事がいい。そして、人生の大半を捧げた剣術を生かせる仕事なら。
冒険者ギルドには名前だけ登録しているが、本業とするには些か悩ましい。
この国にやってきたはいいが、あてもない旅の途中。永住するつもりはないのであくまでその場その場で
効率的に稼げそうな仕事を求めて、こうして金の匂いが漂う地区で求職活動に勤しんでいる。
「さて……食うには困らぬが、懐には遊びを持たせたいものだ」
綺麗に整った草木とレンガ道の途中にある、煌びやかなベンチに腰を下ろして夜空を見つめる。
討伐を主とする仕事ならば案外溢れており、衣食住および剣の整備ならば不自由しないが、少し欲を張るには努力が必要。
街灯に照らされ、ベンチに座り込む女剣士はこの辺りでは見かけない風貌をしている故、通りすがりの者達は
ちらちらと視線を向ける程度。
そんな通りすがりでさえも、数も少ない。おそらくは同じような流浪人か。夜の衛兵か。
それとも、”夜遊び”の相手を求めるナンパくらいだろう。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」に枢樹雨さんが現れました。
■枢樹雨 > 薄雲が月灯りを透かす夜の富裕地区。
整えられた歩道を歩くことなく、妖怪は霊体となってふよふよと屋根の上を漂っていた。
もはや日課となったそれ。
己の興味を惹く何かはないかと道行く人々を見下ろし、時には建物の中を覗き込み、
他者から見えないのを良い事にじつに自由に王都を観察している。
人によっては己を知覚するのだけれど、今日はそんな相手に出会う事もなく陽が沈んだ。
そうしてしばらく。見つけたのは、"知らぬ何か"ではなく"知っているもの"。
長い前髪の下の双眸を僅かに見張ると、妖怪は地上へと降りていく。
降り立つとほぼ同時、実体となり姿を現すなら、腰掛ける貴方の正面。建物と建物の間の路地に妖怪は姿を現す。
貴方からは数メートル離れた場所で、カラリと下駄が鳴る。
妖怪は路地から通りへと出ると、迷うことなく道を横断して貴方のもとへと一直線。
頭の鬼角を隠す白絹を揺らしながら、きっちりと着物を着付けているからこその小股で貴方の目の前まで。
「それ…、着物…」
第一声は、貴方の衣服を指差しながら。
■タチ > 仕事に在り付けぬならば、いくら金の匂いに満ちているとはいえ場を改めるべきか。
今も人魔の境界では戦が盛んであると耳にする。
外の存在である自分にとって異国の存在も魔族も、さして差別意識は芽生えない。
斬るべき相手が人か、人外か。それだけの違いなのだから……。
「……うむ?」
聞き覚えのある、木が土を踏み鳴らす音。
不意に、己の眼前へ現れる一回り小さな体躯の人物。
迷い子か、それとも頼る相手がなく手当たり次第声を掛けている者か。
ちら と三度笠から覗くブラウンの瞳には、この地では珍しい和装……己の文化に近しい着物姿。
己の衣服を指差されれば、軽く腕を広げて黒い着物の生地を見せつけ
「この地では珍しかろうな」
まれにこの地の人間も近しい装いをしているが、元の肌色や髪色が浮いていたり、慎ましさに欠ける事も多い。
だが、眼前の女性は和装がよく似合う麗しい真っ直ぐな黒髪。灯りに照らされ、艶を放つ長髪に、親しみを感じて
無表情めいた女剣士は自然と笑みが浮かんでいた。
「そなた、身を護る術もなく女の身一つで夜歩きか?人面獣心の輩も多いと聞く、感心はせぬな……」
ふと我に返り、眼前に現れた貴女には不思議に思う一方で、身を案じて直に問う。
■枢樹雨 > 初めてのことではなかった。
それでもやはり、己の生まれた国では当たり前の装い。この国では珍しいそれを見つけると、何を考えるでもなく駆け寄ってしまう。
それは郷愁の気持ちではなく、己自身の未知への好奇故。
見下ろす己からは顔を隠していた三度笠。
そのふちが少し持ち上がるなら、濃茶の双眸が此方を見遣る。
妖怪が視線を外すことはなく、前髪の隙間からじぃ…と、貴方の瞳を見つめて。
「そう、珍しい。なかなか出会えないから、出会うと、知りたくなってしまう。
君がどうして着物を着ているのか。この国ではない、どこか遠い国の生まれなのか。」
腰掛けていて尚、長躯であると感じた相手。
しかしその顔つきと、声と、そして何より衿のあわせから覗く乳房が、女性であると教えてくれる。
和装の、女性。それは妖怪が初めて見つけた組み合わせ。
貴方の言葉にこくこくと二度頷けば、無遠慮に貴方を指していた指を下ろし。
「人面獣心…」
女一人の夜歩き。言われてみればそれは、人の子の世に置いては危険なことだった。
けれど夜を生きてきた妖怪は、不思議そうに瞬きをひとつ、ふたつ。
おもむろに己を見下ろし、白い手で己の胸元に触れ、改めて貴方を見つめよう。
「それは…、私のことかもしれないよ?」
人の顔をした、獣。
獣ではないが、人ならざる者ではある。
場合によっては人に害をなす妖怪。怪異。
一貫して淡々と、抑揚のない声で、貴方に答え。
■タチ > 己の言葉に返ってくるのは、存外饒舌なれど抑揚のない声。
彼女の関心の対象が己の出生にある事は着物を指摘していた時から自ずと察しがついた。
「そなたの察している通りだ。拙者はこの地の人間にあらず……。
海を越えた遥か遠くより、剣と共に流れ着いた。特別、おかしな話ではあるまいよ」
せいぜい同郷の者を見つけた喜びと同族意識でも芽生えての行動としか考えていなかった女剣士は、
ふっ と軽く笑いながら多くを語らずに、剣一本で海を越えてきた身と告げる。
こんな夜更けに堂々と出歩いている時点で、多少なり自衛手段を持ち合わせているのかもしれない。
または、外に守り手でも伴っているのだろうと勝手に思案しつつ、現れた貴女は何者なのかと漠然と疑問を抱き始めるが、貴女の反応は思っているのと異なっていた。
「……なに?」
己の忠告に対して、瞬きを繰り返せば貴女自身を指差して返す言葉には女剣士も表情を変えた。
少なくとも、己が第一印象で感じたか弱く嬲られるだけの女ではないという事は薄々察しながらも、ふーむ と腕を組み。
「かもしれんな。残念だがそれを知るのは牙を剥かれてからというものだ……」
続けて何かを発しようとした矢先。
ゆっくりとベンチから立ち上がり、帯刀したまま、あちこちほつれた無骨な黒い着物姿が草鞋で数歩、貴女のもとへと歩み寄る。
そして、貴女のすっきりと整った顔を見つめれば、女剣士は不敵に微笑み
「……拙者もまた、例外ではあるまい?
あまり、いたずらに人をからかえば児戯では済まぬ事も世の中には多々あるが……さて、どうする?」
貴女を間近な距離で見つめる。
そのまま貴女が退かねば、着物から今にも飛び出そうな程に豊かな乳房が押し出す繊維は、貴女の衣服と微かに擦れ合うだろう。
無防備な女として過保護にする必要がないと分かれば、どこか目の色を変えて貴女を見つめる女剣士の姿は、果たして貴女にとっては『獣』に映るだろうか。
■枢樹雨 > 海を越えた、遥か遠く。それはいったい、どんな場所だろう。
同郷であったとて、妖怪は己が局地しか見られなかったその地への興味がある。
同郷でなかったとて、近しい文化を持つ貴方の生まれた地に、新しい何かを期待する。
おかしな話ではあるまい。そう言う貴方に、妖怪はゆるりと頭を左右に振り。
「私は、気がついたらこの国にいた。
君は、剣ひとつ、身ひとつで…、己の意思で異国へやって来たんだろう?
私はその行動の意味を、知りたいと思うんだ。」
異国の生まれの者には、数人出会っていた。しかし思えば、皆どうしてこの国へとやって来たのか。
己の意思はなく、誰の意思なのかもわからず、この地に立った己では知り得ぬそれ。
妖怪は率直な好奇を貴方へと向ける。
――そして、言われるままに鬼角を隠しながら、己が人間であると偽る気の無い妖怪は、無垢な態度で獣の可能性をちらつかせ。
「牙、か…」
じぃ…と、貴方の表情の変化を見つめる。自分とは違い、大きくはなくとも動く表情筋を。
警戒、したのだろうか。しかし何やら思案する様は己に敵を向けるでもない。
その理由を話してくれるのならば、今更ながらに己の牙とは何だろうと首を傾ぐ。
その間に貴方が立ち上がれば、自ずと目線は上へと。
思った通り、己の知る女性体にしては長身の体躯。
視界に入ってはいたが、腰の獲物はやはり刀だろうかと、視線が落ちる数秒。
黒の着物が隠す――否、隠しきれない豊かな乳房が己に触れる程の距離まで近づけば、反射的に視線はブラウンの双眸へ。
「―――悪戯に、からかう。それは、妖怪の本分…、なんて、言う子もいるよ。」
見つけたのは、端正な顔立ちが作る、妖し気な笑み。
挑戦的とも取れるそれ。見つめるままゆっくりと瞬きを。
そうして長い前髪の下。妖怪の薄い唇もまた、浅い弧を描く。
スッと伸びた背を少し倒せば、黒布が覆う貴方の胸元に、妖怪の鼻先が寄る。
すん…と、その鼻を鳴らせば、「人の子の香りだ」と。
「子供の遊びで済まぬその先にあるのは、獣の遊戯?
君は、私の知らない女の獣となってくれるかな。」
明確に、何があるかはわからない。けれど貪欲に未知を求める妖怪の嗅覚が、貴方を捕えろと訴える。
持ち上げた白い左手。叶うなら、貴方の右手をすくい上げるように握ろうとして。