2024/02/02 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 居住区」にニュアさんが現れました。
ニュア > 閑静にして豪奢な住宅街。目に入る屋敷はどれも豪勢で呆れるくらいに大きかった。
初めて訪れた時は途方に暮れたものだ。けど、もう慣れた。
ひと区画毎、城壁と見紛う白亜の塀が延々と続く、その途切れ目。
荊を模した門扉の鉄格子の前。佇む人影は二つ。
屋敷の使用人であろう小綺麗な身なりの初老の男、と。

「───ハイ。これが今月の薬。」

鳩羽色の煤けた外套をすっぽりと被った、小柄な人影だ。
白くほっそりとした指が、手にした小箱を男に渡し。
代わりに硬貨の入った革袋を受け取り、懐に仕舞う。

「まいど。奥様のぶんは、御希望どおりに少し配合を変えた。
…おっと、別に無駄に値を吊り上げたわけじゃない。
三日も飲めば“黒き海のエッダ”に出てくる真珠姫のごとき、玉の美肌になれる。」

嘯く声は、甘めのアルト。胡散臭い売り口上に愛想笑いも無く眉を顰める使用人に対して、小さく肩を竦めてやる。
彼のような態度はいっそ正直で好ましい。
───薄汚い守銭奴め、用が済んだらさっさと失せろ、とでも如何にも態度の端々に書いてある。

「足りなくなったらまた、“注文書”を火にくべてよ。そうすれば煙が蠅になって俺に会いに来る。」

あからさまに相手が厭そうな顔をしたのを見届けてから、それじゃ、と一言告げて踵を返す。
月は見えず、夜陰の寒気が頬を撫でる。外套のフードを目深に被り直した。

ニュア > 一度金蔓を掴めば、貴族というのは金貨をたくさん実らせる。
次から次へと際限なく欲を語るからしめたものだった。
勿論、そう頻繁に出遭える金脈ではないけども。

外は寒いがお陰で懐は随分温かくなった。
稀なことだ。心なしかブーツの奏でる足音も軽い。

「 …今日はちょっと、イイ酒飲める。」

フードに隠れた口元が綻んだ。ふふ、と淡く息を抜く。
非常に微細な、けれど柔らかに印象を変える表情の変化。

このあたりは金持ちの大邸宅が建ち並び、夜とて魔石の嵌まった街路灯が明るく照らす。
故に、───馴れども、落ち着かないのはいつものこと。。灯りを避けるように、路を曲がった。
影の深い方へと道を選べば、やがて喧噪姦しい市街地へと辿り着く。いつも選ぶルートだ。

足元の影が長く長くのびる。この影の闇色が、道の暗さと同化した頃に、宿に着くだろう。いつもそう。

「……おなかもすいたな。」

露店に寄るのもいいかもしれない。思う。
きっとこの辺りに住む御偉様方は、食べたことのないだろう油臭くて辛い肉。あれが食べたかった。

ニュア > 魚もいいな。香草焼き。この辺の店でしか嗅いだことない、独特の匂いのするなんかよくわかんない草のやつ。
それを買うならパンより蒸し米だろう。裏路地の屋台にならあるだろうか。
ぼんやりと煩悩に浸れば、ますます唾液が湧いた。

「決めた。」

ン。と小さく決意表明。たまにはいいだろう、と思う。

「──今夜はニュア、めちゃ飲んで、めちゃ食って、めちゃ寝よ。」

もう一度、角を曲がれば空気が変わる。
鼻白む程の閑静から、苛立つ程の猥雑へ。
足を速め、雑踏を擦り抜け、夜を往く。
ちっぽけなりに大それた、慾を満たして日を終えるべく。
欲望の坩堝へと、身を躍らせて───。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 居住区」からニュアさんが去りました。