2024/01/30 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 市街」にホアジャオさんが現れました。
ホアジャオ > しんとして風の無い冬の夜
夜空にぽっかり空いた白い穴のような月から降る光が照らす市街は、時刻も時刻とて動くものも音もない。
ただ冷たく冷えた空気だけが蟠るようにあって、通りかかる者の耳と身体を痛いように刺す。

「手发凉(手ー冷える)ー…」

整然と小奇麗で背の高い建物が立ち並ぶ路を、黒い影ならぬ黒服に黒髪の女が歩いて行く。先ほどまでポケットに突っ込んでいた両手をこすりあわせて、ふぅーと吐息を吹きかけた。
吐く息は白くはならないが、身体を動かして居ないと端から冷えて来る。

(はずれかなァ…)

アルバイト先の公主がやたらと出歩くのはいいが、行く先々で華美をこのむのでどうにも性に合わない。移動中はともかくじっと待っていなければいけない場面などはおしりがむず痒くなって、何とか言い訳して抜け出しては見るものの、こうして喧嘩相手も見付けられず、彷徨うだけになる事しばしば。

それも慣れたもので、周囲の観察だけでもまあ良しとするくらいにはなった。

ホアジャオ > 居ついて暫く経つ国ではあるけれど、生まれ育った場所による違和感は未だに埋まらない。
だものでこんな誰もいない夜は、等身大の博物館を独りじめしているようなもの。

(―――…ぐるっと回ったら、帰ろ)

どのあたりを『ぐるっと』したかちょっと判別しづらいが
取り敢えず、見覚えのある路に戻ったら逆を辿る事を決めて、吐息を吹きかけた両手をこぶしに握って大きく振りながら歩く。

だんだんと弧を描いて回るような路は延々と続くように思える。そのうち右手遠くから川の流れる音と、その川の上に小舟でも舫われているのか、ぎぃと軋むような音が届いてきた。

(川――――― あった あった)

確か、お出まし先の屋敷を出てすぐに小さな橋を渡った覚えがある。
思わず右手に聳えるお屋敷を見上げて、登攀で乗り越えられないか考えてしまう。

(…できないこた、 無さそうだケド)

仕事中にこんな所で捕まったらヤバい、くらいの分別はつく。定期収入の為にはこの程度、ぐっと我慢だ。

「嗨ー…」

諦め悪く悪態だけついて、女は再び行く手に顔を向ける。

ホアジャオ > 『ぐるり』回った路を見付けたのはそれから空が白み始めそうになる前、一日で一番寒い時刻。

唇の端から白く息を零しながら流石に小走りになって、まだ灯りの煌々と灯ろ屋敷に駆け込んでいく姿が建物に吸い込まれると
白い太陽に照らされるまで、市街は束の間の凍った休息の時間―――――

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 市街」からホアジャオさんが去りました。