2023/10/18 のログ
アルマース > 世話になっている踊り子仲間からの紹介で得た仕事だったから、油断していた。
聞けばその子も、友人の叔父の先輩の雇い主――とやらから紹介された仕事で、詳細を知らなかったという話。
一緒に仕事をした同業者の伝手で次の仕事が決まることは多くてありがたいのだけれど、こういう時が面倒だ。
どこでどう恩や義理が絡まり合っているのか分からないから、脱走するわけにもいかない。
本日の衣装では踊り子は皆、鼻から下の顔半分はヴェールで隠れているし、脱走しても誰がいなくなったか分からないのでは……と考えはしたけれど。

「大体どういう業界の集まりなわけ?
 貴族っぽいのもいるし、宗教関係っぽいのもいるなあ」

要するに各界の有力者とやらの接待の場なのかもしれない。
自分以外の踊り子は委細承知のようで、ステージが終わって化粧を直すと、ホールのお客様へ挨拶をしにゆき、そのまま一緒に飲んだり連れ添って別室へ消えていく者もいる。それでギャラが上乗せされるらしい。
まだ裏でうろうろしているのは自分だけ。

脱走はできなくても、隠れる、はありかもしれない。
迷子になった振りでもして、ホールの外に出てどこかでさぼる。

「ん――……や。先手必勝でしょ」

何か根拠があったわけではない。
ただふと、逃げて見つかった場合のことや、さぼって見つかった場合のこと、など細々と分岐ルートを考えて馬鹿馬鹿しくなっただけだ。
『背中を曲げない』――踊りの練習以外でも、とかく姿勢に口うるさかった、踊りの師でもある母親の言葉が浮かんだ。

「そうよねえ。なあんであたしが逃げ隠れしなくちゃいけないんだか。
 ――よし、マシなの見つけよう」

涙型の額飾りと耳飾りが映えるようにシニヨンにした黒髪を、乱れが無いか軽く撫でつけて、背筋をぴんと伸ばしてパーテーションの裏から出てホールを散歩することにした。
まともな客、はいないかもしれないので、マシなの、を相手にすべく。

アルマース > 分厚いカーペットで足音は全く立たないが、透ける腰布に縫い付けられた飾りが触れ合うと、シャン、シャン、と涼やかな音が立つ。
すでに相手を見つけた同業者と目が合うたび、目だけで微笑んで軽く手を挙げる。
厄介な客に捕まっている仲間はいなさそうなのが救いかもしれない。

ソファ席の横を通り過ぎるたび、挨拶として礼はしていくが、歩みは止めず目的がありそうな足取りの、ふり。
三人以上で群れている男はやめておこう――悪ノリを自分たちで止められなくて厄介だ。
父子で来ているのもやめておこう――こういう雰囲気に染まる英才教育を生まれた時から受けているタイプも厄介だ。
貴族もやめておこう――敬語は疲れる……ちょっと親し気に話しかけただけで不敬罪にされても嫌だし。

一人客が安全かな、とバーカウンターのあるホールの隅へ。
服装は上等だが、明らかに場慣れしていなくて挙動不審になってしまっている、酒のペースも乱れている男に声を掛けた。

「楽しんでいらっしゃる?」

話してみて、話の分かる相手なら時間潰しに付き合ってもらってもいい。
厄介そうなら、酔わせて潰して別室で介抱コースだ。

――いざ戦いへ。夜はまだ始まったばかりである。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 遊技場」からアルマースさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 とあるBAR」にローナさんが現れました。
ローナ >  
職務を終えて、プライベートな時間。
着替えるつもりはなく、そのままBARに足を運んだ。

ここのBARは荒事を嫌う。
静かに愉しむなら、うってつけ。

もちろん、秘密もある程度は守られる。

不貞腐れたような顔をしながら、カランっと、グラスを揺らす。

護衛騎士、しかも専属。

悪くないポジションだ。出世街道は順調だと言ってもいい。

だが。

「めんどくさすぎ」

取り巻く環境が、面倒だ。

大変、大変面倒だ。

職務と、趣味。両方を埋め合わせできるから、今はまだ、いい。

玩具もいくつか増えた。

「薬物、そろそろ補充しねぇと」

使いすぎた、ことは否めない。だが仕方ない。
ストレスが貯まる職場なのが良くないのだ。

「あー、苛つく」

どこかに玩具はないものかと横を見るけれど。
馴染みの店。不機嫌な自分を見て近づく従業員は、いない。

なぜなら、お手つき、ばかりだから。

「ちっ」

だから、客を見る。
周りを見ながら、遊べそうな、玩具はないかなと。

もしくは、遊んでくれそうな者はいないかなと。

ローナ >  
すぐ切り替えて。穏やかを装いながら、酒に口をつける。
餌のふりをする。そうするのは、慣れている。

からんっと、グラスの氷が鳴る。
ちりんっと、BARの扉の音がなる。

そんなとき、隣に知らない誰か ―もしかしたら知っているかもしれないが、自分に認識はない― が、座った。

(ふぅん?)

だれだか、知らないけれど、餌に釣られたのかなとも思う。
さて、わざわざ、隣に座るってことは用事がある可能性もあるし。
いや、そんな考えはあるわけはなく、本当にたまたま隣りに座った可能性もある。

(遊んでみるか)

それで、めちゃくちゃにするのも、面白いなとも思うから。

「なにか、お飲みになりますか? もしよければ、ご馳走いたしますけれど」

酔っ払って機嫌のいい、女性のフリをして。
そう、隣に声をかけた。

ローナ >  
「いいえ、こちらこそ突然お声がけしてすみませんでした。また、お会いしましょう」

ごくりと、飲み、もういっぱいくらいは飲むかと追加の注文。

隣の席の人は帰って言ってしまった。

(うまく行かねぇな)

苛つきは、さらに募ることになってしまった。
ここしばらく、本当にうまくいかない。

"そっち"の面で。

今後あのお姫様は狙われることが多くなりそうだし。
もっとストレスが溜まりそうだ。

「同じのを」

これで6杯目。
これで最後。

飲み終わるまでになにか、ちょうどいいのが見つかればいいのだが。

ローナ >  
「ごちそうさま」

カラン。

――誘拐される次は……

そろそろ助けるのが面倒になったら。

「玩具、もう一個追加でいいか」

扉を開けて、帰っていく。

またいつも通り、素顔を隠して。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 とあるBAR」からローナさんが去りました。