2023/09/17 のログ
ゴットフリート > どれくらい、そうしていたことだろう。
程なく、公園の入口に馬車が一台止まる。
黒塗りの、分厚い木製の四輪箱型を二頭立てに仕立てた馬車。
家紋の類は一切なく、窓に当たる部分も厚い帳で隠されたそれ。
御者台にも誰かが座っている筈なのに、誰の姿もなく
ただ、手綱だけが宙に浮いているようにも見える。

「遅いぞ。眠っちまうところだった……。」

それに向けて、男が立ち上がる。
ゆっくりと、酔いが大分醒めた足取りで向かっていけば
キリ――…という静かな音と共に扉が開いて、主を飲み込む。
誰かが持っているような手綱が動けば、静かに馬車は走り出す。
馬のいななきひとつなく、僅かな車輪の軋みだけを残して――。
それが向かう先は一体何処か――。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からゴットフリートさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にメレクさんが現れました。
メレク > 王都の貴族邸宅にて行なわれている舞踏会。
普段よりも照明を落とした薄暗いホールには管弦楽団による艶やかな音楽が鳴り響き、
華やかなドレスで着飾った男女が肌が触れ合う程に身体を近付け、会話や舞踏に興じている。
彼等は皆、一様に仮面を付けており、己の素性が何者であるのかを分からなくしていた。

表向きにはやんごとなき者達の社交の場である夜会。
しかし、その実は有閑貴族達が一夜の享楽に耽るための集いであるのは明白。
貴族の他にも見目麗しい奴隷の男女や高級娼婦、事情も知らずに集められた女達が
出生地、人種も問わず、王国人以外にも北方帝国人、ミレー族や魔族まで、多種多様に混ざり込む。
そして、灯りの届かぬ会場の隅からは男女の熱い吐息や嬌声が、音楽の途切れる合間に漏れ聞こえてくる事だろう。

その会場の中央の壁際にて一人の男が二人掛けのソファに腰掛けて高級ワインを嗜んでいる。
でっぷりと肥えた身体に、節くれ立つ十の指に嵌めた豪華な太い指輪。
仮面で顔を覆っていながらも、正体を隠す意志が見られない彼は、この夜会の主催者である。
傍らに奴隷達を侍らせて、時折、近寄ってくる貴族達との他愛もない会話に興じながら、
男は快楽に堕落する人々の姿を眺めて、心底愉しそうに只々ほくそ笑むばかりであった。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からメレクさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にロゼさんが現れました。
ロゼ > ―――――パンンッ…!

有力者ら用達の高級酒場にて、乾いた破裂音が響きわたった。

音のたもとには一人の女と男が居た。
女の方は、今しがた薙ぎ降ろした掌を握り締め、気の強そうな睥睨で侮蔑を篭めて男を見るのに忙しく、
男の方は、打たれたばかりの赤い頬を押さえ、自尊心をへし折られ屈辱で打ち震えるのに忙しない。

事の発端はこうだ。
金があること以外にさして取り柄の無さそうな男が、値踏みするようにべとつく眼差しを注ぎ、伸ばした鼻の下を隠すそぶりもなく女へ閨を申し込んだのである。
最初の内は女の方も体よく断り続けたのだが、気安く肩を抱かれた瞬間程なく沸点を迎えたらしい。

一発見舞い込んだのはその直後。
周囲の喧騒が物見客のように自分達へ注がれているのがいたたまれなかったらしい。
二三の捨て台詞を吐いて慌てて人込みへ紛れていく男の背を睨みつつ、
はふり、と浅く広い、だが決して浅瀬には留まらない溜息を吐き出した。

『また、あのロゼだ』

この騒ぎは、ここいらの貴族らにとって特段珍しいものではない。
社交の場の肴にはもってこいのこの茶番も、今夜でいったい何度目だろう。
好奇の視線に晒されるのも慣れたものだが、場末の酒場にでも行って気軽に飲むべきだったと聊か腹立たし気に顔を顰めた。

直ぐ近くのソファにやや荒く腰を下ろし、背凭れにどっさりともたれ込む。
眉間に寄せた皺をほぐすには酒が足りない。

ロゼ > 程なく女はこの煌びやかな社交の場から姿を消した。
向かう先は、平民地区にある何処にでもあり触れた場末の酒場だ。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からロゼさんが去りました。