2023/07/29 のログ
■ヴァン > 「酷評、とは……小さいのに、ずいぶん難しい言葉を知っているな」
材料への冒涜だの、ある種の才能だの、部下から散々に言われたことを思い出し苦笑する。
もっとも、しっかり作り方を教えてくれたのもその部下だ。授業料と機材使用料はばっちりとられたが。
――そもそも自分が所有している施設・設備なのに何故使用料をとられるのか、ふと気づいた。後で問い詰めよう。
ともあれ、目の前の彼女は今のクッキーを美味しい、可愛いといった表現をしてくれている。
子供は正直なものだ。もう少し歳をとればお世辞を言えるだろうが、5歳ではそれより先に素直な感想が出てくる。
「そうだな。出来る事が増えるというのは良い。選択肢が増える。
ん……? あぁ、散歩か。家の中にいると退屈だから、ってとこかな?
とはいえ……次は、もう少し陽が落ちてからにした方がよいかもしれないね」
お散歩、の言葉に疑問符がついているような気がしたが、子供特有のアクセントだろう。
冷たい紅茶もヴァンが淹れたもの。それなりに良い茶葉を使っているが、味の良さに気付いた様子がみてとれたので少し驚いた。
男も少し喉が渇いていたが、ぬいぐるみに運ばれているクロスロアの姿は満身創痍、といったようだった。
その後のお菓子を目にした時の姿を見る限りでは平気そうだったが、帰り道にダウンされても困る。
目が泳いでいる様子には気付いたが、それが何を意味しているのかまではわからない。
「そうだ。クロスさんさえよければ、送っていこうか?
これだけ暑いと帰るまでに体力がなくなってしまうかもしれないからね」
どうせ後は自室に戻るだけだ。この子を屋敷まで送っていくのに大した時間もかかるまい。
クッキー二切れを指先で摘まむと、箱の中はほぼ僅かになってきていた。
箱の中の残りを少女が平らげるまで、そんなに時間はかからないだろう。
テーブルに右肘をついて右手の上に顎を載せ、紅茶を味わう相手を眺める。
■クロスロア > 「んふふー…くろすはいっぱい、ごほんをよむの、です。
…えっ、と…ほんをよむと、じんせーがゆたかになる?
ことばがふえるから、だいじだいじ…なんだってー」
胸を張って鼻高々にドヤ顔をかましているが、もちろん受け売りである。
珍しく…本当の本当に珍しく家族以外に接点を持った相手、そんな相手にはやっぱり凄いところを見せたいのが子供心というやつなのである。
えっへん。
「そ、そう!おさんぽなのっ!
たまにはしゃかいべんきょー?…ですわっ!
………あい、あまりにもあつすぎてびっくりしたの…よるにするぅ…」
…どうやらヴァンおじさまにはゴニョゴニョな事情は気付かれてない、な…?
しめしめとそのまま相槌をうち、けれども外出の時間の件にはガックリと肩を落として。
「これもまた、べんきょー…こんどはすいとうもってくる…」
などと、しょんもり呟いた。
ひんやりと喉を潤す紅茶が本当に美味しい…
「ふぇっ…ばんおじさま、いいの?
もんげんで、メッ!っておこられたりしない?」
こてり、と首を傾げる。
おじさまは大人だから執事さんや乳母さんにメッされたりしないんだろうか…?
心配だけど…と、そこで一度思考を止めてヴァンを上から下まで一周眺める。
「きしさまの、えすこーと…」
…ぽつりと呟くのは、乙女の憧れで。
「ねーさまにバレなければ、だいじょーぶ…?」
とモゴモゴ言いながら思案すれば。
「……おねがいしても、いーい…?」
モジモジと少し恥ずかしげに見上げ、えへ、と笑いかけて。
■ヴァン > 胸を張っての言葉に感心したように頷く。
考えてみればこの子にとって目の前の男は親と同じくらいの筈だ。なのに物怖じする様子がない。
「クロスさんは本を読むのか。だから難しい言葉も知っている、と」
受け売りとは思わないが、5歳児にとっては家族から得た影響は大きいだろう。文官の家系なのかな?
社会勉強、という言葉が幼女から出てくると、どうしても笑ってしまいそうになる。なんとか堪えてはいるが。
察するにあまり一人で出歩くのには慣れていないようだ。少なくとも、夏の炎天下では。
「夜は夜で、一人で出歩くには危ないんじゃないかな……?大人と一緒に夕涼みするのがいいかも。
門限……?あぁ。おじさんは一人暮らしだからね。そういうのはないんだ」
一瞬、意味がわかりかねた表情を浮かべたのは伝わっただろう。ひらひらと手を振って問題ない、と笑ってみせる。
この子の家では大人に門限があるのだろうか? あるいは、歳の離れた兄姉がいて、彼等が怒られたりするのかもしれない。
ぽつりと呟かれた言葉に、今度は男の方が目を泳がせた。
確かに己は騎士ではあるが、物語に出てくるようなものではない。汚れ仕事に首どころかこめかみまで浸かった身だ。
とはいえ、夢をわざわざ壊す必要もない。空になった箱を鞄に詰めると立ち上がる。
紅茶を飲み終わり、乙女が男の方を向いたならば。
右膝を地につけ、左膝を立てる。右手を胸にあてる様はやや時代遅れではあるものの、正式な騎士の礼。
「ラインメタル辺境伯、アーサー=シルバーブレイドが三男、ヴァン=シルバーブレイド。
ノーシス主教神殿騎士団所属、聖騎士(パラディン)。クロスロア様のエスコートをさせていただきます」
妙齢の女性に対して言ったならば求愛に近い言葉も、幼女相手ではおままごとのようだ。だが、それでいい。
先程座ったままで略礼をした埋め合わせでもある。
お茶会の片づけをした後、丁寧に送っていくことになるだろう。
■クロスロア > この幼子が大人を恐れないのは、大人の事を“頭がよくて登りがいのあるおっきなヒト達”くらいにしか認識していない為、なのだが…やはりこの幼女の思考が伝わるわけでもなく。
「そーなのです、くろすはべんきょーか、なのですわっ!」
どうだ偉いだろう!と言いたげな態度を微塵も隠さぬ上機嫌お子様スタイルの幼女に忍笑いが気付かれる筈もなく。
大人の配慮により、それはもう気持ち良さそうに平たい胸を張って。
「もんげん、ないの…いいなぁ。
えー…オトナ、オトナかぁ……あ!でも、あぶなくはないのよー?
くろす、つおーいから!」
ナイショね、と、口元に人差し指を立てて悪戯に笑いながら言えば…まぁ、大人からは子供の戯れ言にしか聞こえないだろう。
人によっては、その幼い瞳の奥に、何処か不穏な風を見ることもあったかもしれない。
其れもすぐに紅茶のカップに隠れ、また、子供らしい笑顔に隠されてしまうのだが。
「はー……ごちそうさまでしたぁ…
……んぅ、ばんおじさま…?
………………わ、ぁ、うわぁぁ…えほんのきしさまだぁ…!!」
急にしゃがんだ彼の姿にキョトンと、ぱちぱち目を瞬かせ首を傾げていれば。
なんともまぁ正に夢見たその姿…しかも、まさかの、パラディン。
家柄的に騎士の知識はそこそこあり、聖騎士というものがどんなものかもある程度の理解はしていて。
そんな殿方が、本当に、子供のおねだりを聞いてくださるとは…!
「…よ、よろしくおねがいしまふ……!」
両の頬を林檎のように赤くして、今にもキャーキャー言ってしまいそうなのをグッと、グッとこらえて…!
両手で顔を隠しながら答えた返事はなんとも間の抜けた音がした。
…幼女のお宅がごりっごりに武門の家系なのがバレたかどうかは二人のみぞ知る。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/公園」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/公園」からクロスロアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にマリアローザさんが現れました。
■マリアローザ >
闇より黒いヴェールを靡かせ、黒衣の裾を翻し、
踵の低いブーツの底で石畳を打ち鳴らし、一人の娘が夜を歩く。
俯き加減の白い顔、口許に浮かぶ綺麗な弓形。
瀟洒な邸宅が点在する、富裕層の身が住まう街から、
今宵、娘が向かうのは、王都の中心部か、あるいは場末か。
どちらにしても、娘が求めるのは刺激である。
囚われた檻の中から抜け出した娘は、今宵も、その空虚を満たすもの、
あるいはいっそ、粉々に打ち砕いてくれるものを探しているのだった。
■マリアローザ >
うふ、うふふふふ―――――…
おかしくてたまらないと言いたげに、娘が肩を揺らして笑う。
この国の貴族には珍しいほど善良な父は、今頃もう眠りについている頃か。
同じくらい善良で、しかも神経の細い母は、今日も屋敷の礼拝堂に籠もり、
末娘にとりついたモノが、一刻も早く消えてくれますように、と、
無駄な祈りを捧げている頃か。
それを想像するだけで、娘はおかしくておかしくて―――――笑ってしまうのだ。
「ふふ、……お父さまも、お母さまも、そろそろ諦めて下されば良いのに。
マリアはもう、生まれ変わってしまったんだって……
そうすればもっと、楽しい夜の過ごし方も思い出せるでしょうに」
可哀そうな方、と呟く声音にも、微かな嘲笑が混じる。
優雅に弧を描く娘の唇は、いつしか、毒々しいまでに赤く染まっていた。
■マリアローザ >
軽やかな足取りで、娘は疲れも知らず歩き続ける。
向かう先は闇夜の奥深く、あるいはその底、
しらじらと夜が明けるまで、その姿は闇に呑まれたまま―――――。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からマリアローザさんが去りました。