2024/08/26 - 22:05~02:27 のログ
ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院/実習室」に影時さんが現れました。<補足:黒髪/暗赤色の眼/濃茶色の羽織と袴、暗色の着物、黒い襟巻/刀/長くて2時位まで>
影時 > 特定の学級を受け持たない講師、教師は時と場合によっては暇になる事がある。割とある。
先に使用する場所を勝手に使われていたり、横槍の如く差し込まれた場合は仕方がない。
空いている教室を使って座学をさせたり、自習時間に割り当てることはある。今日はそうではない。
己の受け持つコマを終えてしまうと、残りの時間は丸々空く。
報告書の提出、相談や打診していた内容に関する回答を職員室で貰った後に。
「…………あーえー、と確かぁー。この配分で良かったか?」
学院の某所、数ある実習室のうち、『調理実習室』と扉に銘板が張られた処を使う姿が一人できる。
太陽が中天を過ぎ、少しずつ傾きつつある下界は未だ暑さが絶えない。
だが、加熱器具が多いからだろう。この教室はさまざまな魔導機械や魔法仕掛けの賜物か、風通しがよく涼しい。
その一角の作業台で食器と準備済みの材料を数々並べ、ごそごそと準備を進めるのは、羽織袴姿の男だ。
羽織を脱ぎ、たすき掛けをして銀色のボゥルにじゃらじゃら、どさどさ、と盛ってゆく。
じゃらじゃらと注がれるのは細かく砕かれた氷と、どさどさと盛られるのは白い粉。塩だ。
氷と塩の混合物をかき混ぜて、更に別の奇麗なボゥルをその中に、ぐぃ、と。押し込むように突っ込んで。
「けっ、こう、冷たくなるな。確か、全部ぶち込んで混ぜる……兎に角混ぜる」
非常に冷たいのだろう。指先から熱を奪う感覚の強さに、はっとなるように目を見開き、予め用意していたものを入れる。
予め測り終えてい新鮮な牛乳とクリーム、砂糖に薫り付けの香料を少々。
兎に角手早く器に注ぎ、混ぜる。ひたすら混ぜる。少しずつ固まり始めたのを感じれば、空気を入れるようにかき混ぜる。
たしか、こうで間違いはなかった筈だ。あいすくぃりむなる食べ物の作り方とやらを、脳裏に思い返して。
影時 > 昨今は暑い。まだまだ暑さが辛い。こういう時によく売れる、需要がある者があると聞けば、試さずにはいられない。
店に並んで実食もする。だが、作ろうと思えば作れると聞けば、これもまた試さずにはいられない。
そういうものだ。どういう風に作られて、どのような絡繰り、理屈によって成り立つのか。
魔法や妖術で冷やして作るのではなく、さながら錬金術の延長のように低温を作り出せるなら、あとは。
「……おお。冷でぇ、とはいえ、こンな風にできるんだな。半分くらいをこっちによそって……」
クリーム色のふわふわな粘りが出てくるものがボールの中に出来たことに、大の男が素直に感嘆する。
傍から見れば奇異な光景だろう。だが、仕方がない。このようにして作ると聞いたが、半信半疑もあったのだから。
作業台の片隅で、小皿に置かれた固いチーズを齧る二匹の小動物が、飼い主の風情を見る。
呆れとも興味があるように見えるのは、気のせいではないだろう。しかし、小動物に与えるには甘すぎる。
後でチーズをもう少し盛っておくか。向けられる小さな視線×二つに脳裏で思いつつ、大き目の器に出来たものの半分を移す。
これはすぐに、低温保存が出来る魔導機械の小さな保管器の中に入れる。残り半分はどうするのか。
「あとは、と……。この暑さじゃ点ててられんのがなぁ」
作業台に置いた小さな入れ物を掴み、蓋を開ける。惜しげもなくまとめて入れるのは緑色の粉末。抹茶だ。
製法の関係上、冷暗所に置いていても長くそのままは不味い。であれば、どうするか。
出来たアイスクリームに混ぜ込んで仕舞おう。紅茶の茶葉を混ぜ込んだ焼き菓子もあるのだ。同じことだろうきっとおそらく。
抹茶を混ぜ込んだアイスクリームをさらに攪拌、混ぜ込んで暫し、出来た後を見た目にも涼しいガラスの器に盛る。此れで完成だ。
影時 > 茶を点てたりするのは、せめてもう少し暑さが和らいだ位が良いだろう。食べ物が美味しくなる季節位が丁度良い。
今のこの時期は風光明媚なものやら、珍しい事物に思いを馳せてみたい。
冷えた食べ物やら氷やらを食べる習慣自体は、故郷でもないわけではないが、大体が貴人の物好きの領域らしい。
手間暇こそかかるとはいえ、このように作り得るのは、色々と驚きがある。
「……気になンのはいいんだが、ああ、こらこら騒ぐな。帰りに果実の“しゃぁべっと”でも買ってやるから。な?」
親分が何か旨そうなものを作ったのは良いが、自分たちにくれないのは何か文句があるらしい。
見た目にも涼しげに出来た薄緑色のアイスクリームに興味を引かれてか、茶黒の毛並みのシマリスとモモンガが寄ってくる。
白い法被を着た毛玉が、ぢぃ、と見上げて尻尾を揺らすのは、いかにも物言いたげである。
だが、甘すぎたりするものは小動物にそのまま与えるのは良くない。
悪ぃなぁ、と声をかければ、抗議か。ぴょんこぴょこんこと地団駄でも踏むように、二匹が飛び跳ねてみせる。
作ろうと思えば作れるだろうが、生憎果実の類は買ってきていない。仕方がない。テーブルの上の小皿に、そっと小さなチーズを盛って宥めておく。
「――さて。実食」
仕方ねぇでやんすね、とばかりの、不承不承めいた風情の二匹に肩を上下させ、ガラスの器に添えた匙を取る。
実際に出来たものの硬さ、粘りは店売りのものと遜色ない、とは思いたいが、如何せん粗があるだろう。
先ずは一口。続けて二口。抹茶の渋みと香りに、大目に混ぜ込んだ砂糖の甘さが混じる。否、砂糖が多かっただろうか。
それでも、フレーバー的な点で言えば、抹茶の量はあれで正解だったかもしれない。手前味噌だがそう思おう。
ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院/実習室」にリセさんが現れました。<補足:名簿内ご参照下さい>
リセ > まだ授業が行われている学年もあるが、他より一時限ほど早く自分のクラスの時間割は終了した。
一緒に帰ってくれる友人は同学年におらず、というよりほとんど学院にはおらず。
いつも大抵一人の下校。そんな少し……大分切ないいつもの下校途中。
学用品の詰め込まれた鞄を背負って学舎を出る途中いくつかの教室の前を通り過ぎて、やがてその実習室の前を通りかかると。
「…………?」
中に気配がした。それも調理実習などの授業でも部活動の類でもなさそうな。単体で実習室を使用しているような……。
その上中から微かに廊下へと漏れ聞こえた声が聞き覚えのある声のように思えた。
小さな二匹に話しかける声。
その次には何か食べようとしているらしい一声が聴こえる。
思い当たる当該人物に、ぱたり、と目を瞬いては。
少し逡巡した後、扉の前に立つとひどく遠慮がちに実習室の扉を叩いた。
こん・こんこん……
女学生の小さめの手の甲で響かせる控えめな打音が扉を隔てた内と外へ響く。
影時 > ただ、この甘さの強さを考えると、濃いお茶でも飲みたくなるのは否定し難い。
氷を入れて冷やした紅茶なら、きっと丁度良いだろう。熱いお茶だと歯に沁みてしまいそうで困る。
そんな甘さと風味をたっぷり混ぜ込んだ菓子を嚥下しつつ、懐から一通の手紙を取り出す。
封蝋を僅かに氣を篭めた爪先を滑らせて切れ目を入れ、開いてはその中身を広げ、目を通す。
――今のこの仕事はずっと続くわけではない。
情勢とニーズ、何より自分の都合に応じて適宜見直し、契約の改定を計るのは別段珍しいことではないだろう。
非常勤ではなく教師、講師としての雇用、それに伴う受け持ち事項の見直しと調整。
その際の給与のあれこれの変化は、やむを得ないものと呑み込む。あれやこれやと抱えだすと面倒が過ぎる。
まぁ、こんなもんだろう。この内容を呑むことにしよう。そう思いつつ、目を通した便箋を閉じたところに。
「……ン? あー、鍵は開いてるぞ。そのまま入って来てくれ、……って、行けってかよ?」
ふと、不意に。控えめなノックの音が聞こえてくる。感じる気配は、誰か。
キューブ状のチーズを小さな前足で持って、齧っていた二匹が口を止め、耳と長いひげをぴこぴこ。
親分の受け答えぶりに、行け、出迎えに行け、とばかりに尻尾を立てて見せてくる。
仕方ねえなぁ、とばかりに立ち上がり、実習室の扉の方まで足音低く歩いてゆこう。
扉を向こうの反応と声を待たずに開けば、見えてくるのは想像通りのものだろう。
リセ > 「ぁ……」
扉を叩くと間もなく応答があった。
もう一度声を確認すると扉の中にいる人は頭の中の教師で間違いはなさそうだったし、受け答え以外の話し声の内容からすると小さなお供たちが今日も一緒のご様子。
自然口元を綻ばせて、入室の許可もいただいたことだし中へお邪魔しようと扉に手を掛けたが、一足早くその前に中から扉が開かれた。
現れた姿を見上げては、今日お顔を拝めるとは思っていなかった上最後にお目にかかってから結構な日にちが経過していることもあり、少しばかり緊張気味に。
「こん、にちは……ご無沙汰しています、カゲ先生……と、ヒテンちゃん?スクナちゃん?」
深々と頭を下げた後に、チーズを食べている途中だったらしい二匹の姿を探す視線が巡って。
勝手に目がきらきらと輝くのは小さな愛らしい二匹に思いがけず遭遇できることにどきどきしているからで、頬もほんのり紅潮して。
内心では、手持ちに彼らが好むような木の実の類を持っていないことを悔やんだ。
影時 > 「おぅ、久しいなぁリセお嬢様、もとい、リセ。――ん、無論あいつらも一緒にいるぞ」
久方ぶり、だ。扉を開けば見えてくる姿を見下ろしつつ、ひらり、と右手を振って笑って見せよう。
実習室自体は防音が効いた作りではない。受け答えが一方通行になりがちな毛玉たちへの呼びかけ、声かけも自ずと外に漏れよう。
魔法使いの教師であれば、様々な使い魔を連れていることも少なくないが、多様な使い魔達にも二匹は負けずにユニークだ。
開かれた扉の向こう、親分の身体を挟んだ先に見える知った姿と匂いの持ち主に、二匹の毛玉たちが前足と尻尾を振る。
手に抱えていた食べかけのチーズを落っことしてしまうのも、気にしない。
ついつい大きな食べ物を落としてしまうのはよくあることだが、それを厭わない位に懐いている、気を許しているということか。
「立ちっぱなしも、あれだな。入ってくれ。
……ああ、そうだ。食べてくか?多分、俺一人が食うには多いンだよなぁ」
さて、室内の涼しい空気が抜けるのも良くない。一歩引き、二匹の姿にほわほわしてる様子に目尻を下げつつ声をかけよう。
茶菓子の類は無いが、冷菓子の類なら丁度お誂え向けにある。紅茶も淹れようと思えば、多分淹れられなくもない。
実習室を見回せば、奥の窓側に近い作業台を陣取っている。
壁にいつもの愛刀を立てかけ、傍に置いた椅子に雑嚢と脱いだ羽織を畳み置き、台の上には色々なものを並べ置く。
銀色のボォルの中に見える、まさに抹茶色のアイスクリームは、先に半分に分けた分があってもなお一人で平らげるには多い。
リセ > 「はい、お会いできて嬉しいです。カゲ先生。こちらにいらっしゃるとは思いがけませんでした。
………きゃーっ……」
気さくに声をかけてくれる教師に笑みを向けていたものの、最後は控えめな歓声に変わる。嬌声と云ってもいい弾んだ声。
巡らせた視線の先に小さな二匹の姿を捕らえると、手を振る仕草に嬉しそうに目を輝かせて、入室を促す声より先に思わず踏み出し掛けて、その直後に入ってくれ、と聴こえ、思わず紅くなって「ぁ…はぃ……」と小さな声で首を縦にして。
「お邪魔、します、ね……?
食べる……? ぁ、お菓子、ですか……? ほんの少し甘い匂い……」
凍らせると匂いをあまり発しなくなるので、分かりづらいが先程まで攪拌していたお陰か匂いがほんのりと漂ってくる乳を使用した氷菓の匂いのような……しかし嗅いだことのないなんだか苦いような…良く知った茶葉とはまた違った清涼感を覚える青い薫り。
不思議な香りに首を傾げていたが、食べたことのないおいしい物ならぜひご相伴に預かってみたい。
今日も暑い一日だった。廊下は外よりはマシだが涼しいというほどでもない。身体の表面は外気で僅かに熱い。
冷たいお菓子なら特にありがたい。
中に入ると冷気が逃げないように扉を閉めて、調理台の上に中に緑色のアイスクリームの入った銀のボウルに目を止めると思わず軽く凝視して、
「わ……先生が作ったんですか?」
調理に使用したと思われる器具の類を見つけると、まあそれ以外になさそうではあるが感心したような眼差しと声で尋ねた。
影時 > 「今日の受け持ちは全部終わったンでね。
だから、前々からやってみようかなーと思ってた奴を試しにここを借りてたのさ」
自分が此処にいる事情というのは、手短で良いだろう。そんなことはどうでもいい、とばかりに、動くものがある。
食べかけだったチーズをよいせ、よいせ、と小皿の上に戻してゆく毛玉たちだ。
夜の暑さも相まって、向こうの少女のお宅にお泊りの遠足、というのはここ最近は出来ていないせいか。
実習室内に入ってくる姿を見れば、台の上を走って勢いよく飛び上がり、ぴょいんと。ふわーりと。二者二様の動きで向こうの肩上に飛び乗ってくる。
無事飛び乗れれば、ひさしぶりー、とか、げんきー?とか云うように、頬ずりもしてみせたことだろう。
「おお、鼻が良いな。いかにも。“あいすくりん”とか“あいすくりぃむ”とか、あるだろう?
それをな、作り方を知ったから試しに作ってみた。
作ったうちの半分は混ぜる前にとっておいたが、……ふむ。リセは抹茶は初めてだった、よな?」
攪拌前に混ぜ込んだ抹茶の匂いは、風通しが良い部屋であってもまだすぐに抜けきるには時間がかかる。
塩と氷の混合物はまだ完全に溶け切らず、ボゥルの中身はしっかりと低温を保ち続けている。
試食用に二つ用意していた器の片方は使ったが、残りは未使用となればもう一人分を供するに丁度良い。
空いている椅子に適当に座ってくれ、と声をかけつつ、掛かる問いにいかにもと笑ってごそごそと用意にかかる。
食べ比べも兼ねて、保管器に入れておいた分も出そう。
こちらは抹茶を入れる前なので、薫り付けはあるとはいえ牛乳の匂いが強いクリーム色のプレーンなもの。
どちらを試してみるか?それとも両方か? 抹茶は好みが分かれるが、試食した範囲なら、渋さも気にせずに楽しめるだろう。
リセ > 「学院は広いので先生がいらっしゃっていても……なかなかお目にかからないと思っていたのですが……
まさかこんなところにいらっしゃるとは……ここを通りかかって良かったです」
いつどこでどんな授業を行っているのか、その教師の専門である課目は取れないもので存じ上げず。
偶然、こうして出会えたのは運が良かった。
小さな彼らがチーズを食べるのをやめてこちらに跳んだり飛んだりして来てくれれば、さらに「きゃあぁ~」と嬉しそうな高い声が上がる。
人懐っこく肩の上に飛び乗って来てくれるほんのりと暖かく小さな重みに「げんきですよー」と頬擦りに心地よさそうに嬉しそうに目をとろとろに細め。
「ヒテンちゃんとスクナちゃんも元気そうで良かった……お久し振りです、わたしの小さなお友達」
そう囁いて両の手指で両の方にいるモモンガと栗鼠の小さくてふわふわした頭を撫でて。
「おいしい匂いには敏感なんです。アイスクリームを作られたんですか…?
凄いですね…っ、先生なんでもできてしまうんですねー……
………? まっちゃ…? です、か?」
聞き慣れない単語にきょとん、と小首を傾げた。前に伺っていただろうか? 憶えていない……
それはこの青い薫りがするもののことだろうか。
間違いなく初めていただくもの。味の想像がつかないがアイスクリームになっているならきっと甘くて冷たくておいしいのだろう。
興味は津々。
小さな二匹を肩に載せて余り揺れないように留意しつつ、空いている椅子のどこに座ろうかと見回して、食べかけのチーズの小皿が乗っている付近の席を選んだ。
チーズを食べる彼らと一緒にアイスクリームをいただこうと考えたから。
ちょっとごめんなさい…と肩にいる彼らを掌に移るように促しては、そこからそっと小皿の前に下ろして、背負っていた鞄を下ろしては隣の椅子に置き。
そして、小さな頭を撫でながらアイスクリームの支度をしてくれている背の高い教師の動きを興味深そうに見つめ。
影時 > 「俺はだいたい、あれだ。
外回りが無けりゃァ、運動場か教練場、雨で運よく予約が通ってたら室内の教練場か。
報告書書かなきゃならん時は、空いている教室を借りたりはするが……暇な時は割とここも使うな。
なんか作ろうと思う時、便利なんだよなぁ。大体の道具は揃ってるし」
外回りと呼ぶのは、実地授業や実地訓練だ。付き添いや監督のために出かけている時は当然ながら留守となる。
学院に詰めている時は、仕事をするかそれを終えて暇を持て余しているか。主にそのいずれかだろう。
こうした実習室を使うのは講義のための準備、研究の一環――という建前や名目も一応は、ある。
今の住まいである宿部屋に調理器具が揃っていても、限界がある。
逆にこの実習室は素晴らしい。凡その入用となりうる用具その他が揃い、奇麗な水も出る。言うことなしだ。
だが、こうして知己と会うのは、まさに偶然、僥倖と云えるだろう。
挨拶がてらでもあり、久々に会えた知り合いに気づかわしげにしているのだろう。
珍しく誰かに飛び乗り、肩上まで上がって見せては擦り付いて見せる仕草は、中々に珍しい。
静かな部屋を満たすように嬉しげな声と、とろけた表情がほころぶのは、二匹に対する呆れ等も失せるほどに目尻が下がる。
お友達、と言われると、毛玉たちも嬉しい。感情の匂いに敏感な生き物は、そうした喜色が好ましいらしい。
撫でられると二匹のそれぞれの形違いの耳を揺らし、尻尾で相手の肩や首をぽんぽんと叩いてみせて。
「それは何より。年頃の女の子はやっぱり、皆そうらしいなァ。
出来そうならやってみたくなるのが、俺の癖でな。砂糖入れ過ぎたかもしれんが、まあまぁよく出来たんじゃないかね。
――善し、その反応、初めてとみよう。んじゃまあ、半分半分で……いいかね?」
如何にも年頃の女の子らしい言の葉に、楽しげに口の端を釣り上げて見せつつ、手元に空いた器を引き寄せる。
遣れそうだからやってみたのはいいとはいえ、ちゃんとよく出来てるかは他者に諮りたい処でもあった。
小さな掌を示されれば、ちょこんとその上に収まる二匹が行儀よく先程までいた辺りに下ろしてもらい、食べかけのものを手に取る。
あとは、少女の分を取ろうか。許可を貰えれば、プレーンなものと抹茶入りのものと。
たっぷり器に盛って差し出そう。銀色の匙も添えておくのも忘れずに。
リセ > 「なるほど……この時期は屋外授業は大変ですね……生徒さんが倒れないよう気を遣わないといけないでしょうし……
わたし、運動が苦手で最低限の受講で済むようにしているので、お見かけしない訳です。
むしろ、こちらの方がお会いする確率が高いのは道理ですね……」
身体を動かす場にはほとんど訪れることのない。少し虚弱な体質もあるが運動は大の苦手。
そこが主な仕事場である教師には滅多と遭遇しないのは致し方ない。
逆にその教師の趣味(?)で使用するらしい調理実習室の方が縁がある。
つい通りかかってしまうのも馴染みがある場所のせいだ。
久し振りにお目にかかるとひとしおかわいく見える姿に頭からハートや音符が散っている幻影が見えそうなほど嬉しそうな顔をして。
ふわふわ柔らかい毛並みに触れさせてもらい、頬ずりしてもらうと至福…と云わんばかりに陶酔気味な幸せ貌。
喜んでいると小さなお友達も嬉しそうにしてくれているように思える。それがまた幸せ。
満面の笑みで肩や首を叩く小さなお手々にまたしても「きゃ~」と甘い歓声が上がる。
「はい、甘いもの大好きです。辛いのも酸っぱいのもほろ苦いのも好きですけど……先生のアイスクリームどんな味なのでしょう……?
あ、はい、ミルクのアイスクリームと、まっちゃ?のアイスクリーム、ですか?
ありがとうございます、すごく楽しみです」
わくわくとした心地が湧いてきて、声がまた弾む。
肩にいた彼らをアイスクリームの為に下ろさなければいけないのは名残惜しかったものの、食べ終わったらじゃれて遊んでもらえるようお願いしようと思った。
そして、思わずつぶさに見守るアイスクリームを盛りつけてくれる所作。
差し出していただいた緑と白の色の組み合わせも目にもおいしそうに見えるアイスクリーム。
「わぁぁ……すごい……ありがとうございます、とてもおいしそうです……あ、融けない内に失礼して、早速いただきますね……っ」
感心して手元に置いた器のアイスクリームをきらきらと輝く双眸で眺め、少し匂いを嗅いで。
融けては勿体ない、と急いでスプーンを手に取り、一口分ミルクアイスを掬って口に含むと舌に甘く蕩ける冷たくて濃厚なミルクの風味に、んん~と舌鼓を打って。
「んっ……甘くってミルクの優しい風味が舌に蕩けます……滑らかですごくおいしいアイスクリームです……こんなの作れちゃうんですねー……」
おいしい…とお菓子を食べた時特有の目許蕩け気味な甘ーい表情になった。
嬉しそうに口にして舌で溶かして味わって、ほぅ…と感心したような息を吐いた。
影時 > 「昨今は全くそうだな。……加減を知らねえ教師は倒れそうな中でも容赦なくシゴくが、倒れちまうと色々なぁ……。
運動が苦手なら、是非もねえやな。
今みてぇなコトを合間に遣ると言っても、そうそう頻度があるわけでもねぇし。
俺とこいつらを探すなら、暇してる処を探す方が一番危なげないかもな」
一番確実なのは、己を指名して実地授業や実地訓練の付き添い、監督にすることだろう。
だが、そうでなくともそも運動が苦手なら、自分の講義や授業に係ること自体がそもそも難しい。
まだラウンジで暇そうにしているときや、手慰みがてら調理実習室を探す方が自分と二匹を探すには手っ取り早い。
二匹は偶に、魔法の講義にひっそりと混じって聴講生を気取ることもあるが、此れも相当珍しいことか。
(……何せ、使い魔って聞くとなぁ。あれだろう?蛇とか梟とか、いかにもなのを好むらしいが)
自分を親分と仰ぐ二匹の毛玉はただの毛玉ではない。
賑やかしとはいえ、飼い主ともども迷宮に潜り、専用品だが魔法のアイテムを使ってみせる頭のいい毛玉である。
その上愛らしい。法被で隠れているとはいえ、外に出ている毛並みや尻尾はふわふわでとても柔らかい。
べたべた触られると困るが、今のようなスキンシップならお互いに嬉しい――らしい。
直ぐに間近で上がる甘い歓声と幸せ貌に、二匹がお互いに見合って、やったぜ、とサムズアップめいた仕草をひとつ。
「何せ、初めて作ったからなぁ。多分街売りのヤツより甘い……んじゃねぇかなあ。
甘過ぎたら言ってくれ。後で湯を沸かして茶でも淹れてやろう。
何のあいすくりぃむ、と云えばそうなる、か?
摘んだ茶葉を粉に挽いたのが抹茶、という奴でな。味は――まぁ、あれこれ講釈垂れるより食べてくれた方が早いな」
二度三度も作れば凡そ感覚も掴めるだろうが、手慣れた和菓子作りとは違って今回はこれが初めてだ。
味見してみた限りでいうなら、ちゃんと食べられるものである筈、だ。
透明なガラスの器に白みが強いクリーム色と緑色の氷菓をたっぷり盛り、差し出す。ボリューム感で言えば店売りの大盛り版に近いか。
あとは、そう。味見の感想次第だ。小皿の近くでちょんと座った二匹が見守る中、零される感想は。
「……っは、ならば重畳って奴だ。後で塩梅を控えておかなきゃなぁ。
用具と材料さえ整えて、分量と手順を間違えなきゃ凡そどうにかなる。見栄えまで凝り始めると、大変だがね」
分量については頭の中に入れておいたつもりだが、目分量の点もある。砂糖の使用量を計っておかねば。
そう思いつつ、味わってくれている姿にほっと息を吐きつつ、己の器を手元に引き寄せる。
緑が少し溶けかけな処も出てきた処に、ミルク味の方をよそって入れる。此れでミルク味の分はすべて無くなる。
抹茶を入れる前のプレーンな味わいは、嗚呼なるほど。こうなるのか。ふむふむ、と頷きつつ嚥下して一息。
ひときしり味わい終えれば、暫し語らいとじゃれ合いの時間となるか――。
ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院/実習室」から影時さんが去りました。<補足:黒髪/暗赤色の眼/濃茶色の羽織と袴、暗色の着物、黒い襟巻/刀/長くて2時位まで>
リセ > 「指導に熱が入ると、どうしても行き過ぎてしまうことは、あるのでしょうね……わたしはそれが怖いのもあって余計に嫌煙してしまっています……
うーん……それも、やはり運任せですね。
今日は運に恵まれて良かったです」
運動は苦手な上に好きでもない……お茶を濁す程度に身体を動かして落第しないようにするのが精々。
肩を竦めたものの、今日の幸運は喜ぶとにこりと表情を綻ばせ。
かわいくて有能なふわふわなおちびさんたち。
しかし例え彼らが特別な能力を持っていてもいなくとも、自分にとっては優しくて愛らしくて一緒に遊んでくれる大事なお友達であることは揺るぎない。
彼らが暖かい心を持っていることだけがとても重要なことだった。
またしても微笑ましく双眸に映るサムズアップのような仕草にも、きゅん…と心が震える。どこまでわたしの心を虜に…?と思考が拗れ初めてくるほど。
「冷やすと甘みを感じにくくなりますし……暑さでエネルギー消費も激しいですし、このくらい甘い方が夏には嬉しいかもです。
あ…でも、お口が冷えてきてしまったので…お茶いただけるのであれば嬉しいです。
これが緑のお茶の………ハーブともまた、違うん、ですね……不思議です。こんな珍しいものいただけるとは……」
久し振りの遭遇に珍しいお菓子。幸運が重なっているような心地。
今日はいい日になった。
ご機嫌で食べるアイスクリームは殊更においしくて。
ただ…多かった。食べ始めた頃はいける気がしていたが、途中からお腹がいっぱいになってきて、口は冷えた。でもこんなにおいしくて手作りのものを絶対に残したくなくって温かいお茶をいただいて完食するのである。
その日の夕飯はあまり進まなくて具合が悪いのか訊かれるまでが落ち。
そして、ミルクアイスの次は抹茶味のアイスをスプーンで掬い。
「わ……、こちらは口に含んだ途端、お茶?の爽やかないい香りがふわーっと広がって……少し苦みを感じますが、コクがあって……ベースの味が甘めなので中和されて丁度良い感じがします。
これはお店ではいただけない味……これが、まっちゃ、なんですね……っ、すごく、とっても、おいしいです、お伝えする言葉が足りないくらい本当においしいです。
見た目も色合いが白と緑でかわいくてわたしは素敵だと思います」
これまた食べたいです、と思わず云ってしまったくらい、抹茶味のアイスは新感覚でとてもおいしいものだった。
同じようにアイスを味を吟味するように口にする教師へと、素晴らしいです、手放しで賞賛と尊敬。
嬉しそうにおいしそうに顔を輝かせて融け切る前においしいアイスクリームをいただき。
お腹がいっぱいになった後は、ごちそうさまでした、大変おいしかったですと丁寧にお礼を伝え。
はー…と満足げな抹茶の匂いの息を吐き出して。
それから、少し遊んでも?とお伺いしてお許しをいただけば、かわいい小さなお友達としばしの触れ合いを楽しませていただくのであった。
ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院/実習室」からリセさんが去りました。<補足:名簿内ご参照下さい>