2024/09/08 - 21:07~01:53 のログ
ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 図書館裏」にリセさんが現れました。<補足:名簿内ご参照下さい>
リセ >  授業の終わった平日の放課後に――

「ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさい……っ」

 今にも泣きそうな声で必死に謝罪を繰り返す銀髪を長く伸ばした女子生徒と、それを図書館裏手の壁際に追いつめて、口汚く責め立てる激しい憤懣に表情を歪める、同級生と思しき女生徒。

 ――そうなる数分前のこと。
 授業が終わって図書館へ調べ物をしに来た銀髪の女生徒は、図書館前で一匹の小さな黒猫を見かけた。
 もとより動物好きで生き物を見かけるとついつい構いたくなる性質の女生徒は、いつも通りかわいらしい黒猫の様子に相好を崩して構おうと手を伸べたのだが。
 黒猫の毛並みに触れた瞬間、その黒い姿が突然土くれと化して崩れ、それと同時に悲鳴が上がった。

 ――黒猫は苦労して生成された魔導生物であり、同級である女生徒の使い魔であって。生まれつきの抗魔体質である己の手が触れたことによって未熟な生成魔法で仕上げられたそれは、強制的に魔法の効力が剥がされ土に還ってしまったのだった。

 その光景を目の当たりにしていた使い魔の主であり、同じクラスでさらにカーストだけは上位の貴族令嬢、ついでに非常に高慢な性格の女生徒は激昂し、抗魔体質の銀髪女生徒を図書館裏に引き立てて――リンチの真っ最中、といった状況。

 何もなくとも虐めの対象となってしまうような気弱で地位も低く人の顔色を伺ってばかりいるような女生徒は、泣きそうになりながら必死に詫びるも、相手の怒りは収まることなくヒートアップしていく一方で。

「――っ、ぁ……!」

 這い蹲って謝れ!と怒号を浴びせられながら、長く伸ばした銀の髪をつかまれて地面に押し付けるように土下座を強制され。

「すみ……ません…本当に……ごめんなさい……」

 相手の怒りが落ち着くまで謝るしか出来ずに、這いつくばるように額を地に着けてひたすらに繰り返した。

ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 図書館裏」にホーセーアさんが現れました。
ホーセーア > 「あー・・・君、君。
お怒りはもっともだが、悪意の無かった相手に
そこまで罵声を浴びせるのは、さすがにどうかと思うのだがね?」

少し大きめの声で呼びかけながら現れたのは
見た目だけなら子供にしか見えないが、実年齢は3ケタ超えている
魔導師めいた格好した外国史教師。

たまたま通りかかった図書館前で、見知った女生徒がもめているのを見て
止めに入ろうとしたが、周りから事情聴いてまずはその対処からと
色々やっていた為に登場遅れてしまった子供モドキは
まずは不幸にも使い魔を失った女生徒の方に向き直り

「失礼、初めましてかな?
僕はホーセーア=デルゼ、外国史を担当させてもらっている、しがない教師だ。
そこのリセ嬢とは多少縁があってね、恐らく彼女には今回の件の償いは難しいだろうから
代わりに僕の方から補償をさせてもらいたい、まずは・・・」

と言って少し膨らんだ懐から取り出したのは、黒く小さな塊のように見えたが
地面に置かれるともぞもぞ動いてから、大きく伸びをして「にゃあ」と一声泣いて見せる
つい30分ほど前まで女生徒とともにいたはずの黒い子猫。
しかも首には鈍い輝き放つ紫色の宝石はまった首輪していて。
どうやら女生徒の事覚えているらしく、仁王立ちになっている足元に
すりよって頭を擦り付けて甘えてみたり。
少しでも子猫に気を取られたなら、一応魔導生物であるので
子供モドキはさりげなく近くにいるリゼの腕取って
影響受けない範囲に連れて行こうと。

リセ >  とんでもないことをしてしまった、許されないかも知れない。
 魔法が使えないどころかそれを打ち消してしまうなんて。
 しかも人の使い魔を土に還してしまうなんて。
 謝っても謝っても、相手の怒りは収まらない。
 それどころか、怒りが怒りを増幅してしまっているかのように興奮状態はいっそう勢いを増して手が付けられない状態で。

 消してしまった使い魔を返すまで許さない!と地に額を漬けさせたその銀髪を踏みつけた、その時。

「……っ、え……」

 一方にとっては横槍。
 一方にとっては助け船。
 そう言える一声が投げかけられた。

 その声は知っていた。子どものような声、子どもの容姿。
 姿こそ幼いものの落ち着いた声で仲裁を試みる教師に、一瞬虚を突かれたように、銀髪を踏みつけていたきつそうな目元をした赤毛の女生徒は足を下ろして剣呑な双眸を教師に注いでいたが。

『――……!』

 懐から取り出され、現れたのは土くれから生成した黒猫の形をした使い魔。ゴーレムの一種なのだろうが、愛らしい仔猫を形どった辺りは女子学生らしい趣向で。
 先ほど強制的に存在を帰化させられた仔猫にそっくりではあったが。
 注がれた魔力の持ち主が決定的に違う。
 元通りに見えたが、使い魔の主は微かな違和感を抱くのか、擦り寄って甘えてくる仔猫の姿に、険しく鋭い双眸が不意にぐしゃりと歪んで、

『こいつじゃ……ない……』

 ただただ、思い入れのあった使い魔が消えてしまったことが哀しくてならないように擦り寄る仔猫を抱き上げて泣き出してしまった。

 喪ったものは戻らない、という現実と、そのつもりはなかったにせよ奪ってしまった女生徒は、頭を下げたまま。

「先…生……わたし……わたし…こ、んなこと…する、つもりじゃ……」

 また新しく生み出された使い魔を無に帰す訳にもいかないと察して、よろけながら腕を取って黒猫から放そうとする教師に従って距離を取りながら、顔を覆って。

ホーセーア > 「どうかな?
急ぎで作ったから、君の猫くんを完全再現できたとは言い難いが
だいぶ近い感じにしたつもりなんだが・・・」

慰めるつもりで女生徒にかけた言葉遮るように「この子じゃない」と
言われれば、半ば予想していたのかさもありなんと頷いてから

「そう言ってくれるのは、魔法を修めた僕としては嬉しい限りだ。
その通り、『彼女』は君のものを基に僕が作り上げた、いわばまがい物だ。
だから・・・ぜひ、ちゃんと君の使い魔にしてやって欲しい」

そう言って再び懐から取り出したのは、何枚かの羊皮紙につらつらと何事か
書きつけられたもの。

「君が使った術式が判らなかったものでね、僕流で仕上げたが
その資料があれば、僕の術式を取り除いてこの子の性別のみならず
君が好きなように作り上げられるはずだ。
もしこれで不服なら・・・多分学院内で大規模な魔法使う事で他の魔導教師からクレーム受けるだろうが
あの場所で『時間遡流』の魔法を使って、完全に元の使い魔君を取り戻すことも可能だ。
どうするね?」

泣き出した女生徒慰めるつもりなのか、何なら多少の苦情は引き受けてもいいと
優しい視線向けながら提案して。
もう一人、本意ではなくこの事態を引き起こしてしまったリセに対しては

「判っている。
少なくとも、君がそんな事をわざとやるような子だとは思っていない。
ただまあ今回は・・・うん、少し不注意だったな。
その件については後で少し助けを出せるかもしれないから、
彼女が落ち着くまで待ってくれるかな?」

何というか・・・不幸を呼び寄せているのかと思うくらいに
ひどい目に会う少女の身を案じてこちらも優しく声をかけ。

リセ >  喪ってしまったものとは似て非なる黒猫を抱きしめながら膝を折って泣き崩れてしまう赤毛の女生徒。
 余程元の使い魔に愛着があったのか慟哭めいた泣き声はやがて嗄れてゆき嗚咽に変わり。
 教師の言葉が耳に入っているのかいないのかも定かではなかったが。

 ぎゅ…ともう元には戻らない使い魔の姿に似たものを抱いてはよろり、と立ち上がって。
 泪の浮いた絶望を滲ませた双眸で、首を左右に振ると。ただ一言、教師に。

『もう、いい……』

 何もかも諦めたような目を一瞬向けた。
 そして、申し訳なさに顔も上げられなくなっている銀髪の元凶たる女生徒を燃えるように憎々し気な双眸で睥睨して。

『お前が消えれば良かったんだ…! お前なんか消えればいい!!』

 怨嗟に満ちた声で云い放つと背を向けて駆け出していき、いつの間にかその腕の中から降りていた黒猫がその後を付き従うように追っていた。

「ごめ……なさ……」

 投げつけられた心臓に突き立つような鋭い言葉に刺されて、茫然としたように見開いた藤色の双眸からはらはらと大粒の涙が静かに流れ。
 しばし棒立ちになっていたが、仲裁に入って声をかけてくれていた教師に、どこか放心したような貌のまま、

「また……こんな……すみません……でした…本当に……」

 お詫びをしなければと頭を下げるものの、本当に自分なんて消えればいいのに、なんて暗い思考に塗れてしまってどこか上の空のような声になってしまう。

ホーセーア > 「・・・そうか。
君がそれで良いなら、もう僕は何も言わないが・・・
経緯はどうあれ折角帰ってきたんだ、可愛がってやってくれ」

少女に厳しい言葉浴びせかけながらも、その気になれば潰してしまう事も可能だった
創造物をとりあえずでも受け取ってもらえた事に安堵しながら、
女生徒が去っていく姿を見えなくなるまで見送り。

「いや、前にも言ったが僕は教師だ、
君たち生徒が、健やかに学院生活を過ごせるように尽力するのは当たり前だから
気にする事はない。
・・・あまり気にするな、あの怒り様なら
確かにしばらくは彼女と顔を合わせない方がいいかもしれないが、
まがい物とはいえ、似た姿の・・・しかも自分に懐いている
使い魔がいるなら、いつかは傷も癒えるだろう」

それから申し無さげに俯くリセに近づいて、少し思案してから
ひょいと持っていた杖の上に飛び乗り、そのままゆっくりと
少女の頭を優しく撫で始め。

「・・・彼女の言った事を本気にするな。
時が経てばあんな事を言ったのを、後悔するはずだ。
悲しみのあまりとは言え、他者の消滅を望むなど
魔法を学ぶ者にとっては、人一倍あってはならない事だからな。
まして先に失う辛さを知っている彼女なら・・・な。
もし今君が消えてしまえば、君の家族と・・・少なくとも僕と
この間行った洋菓子店の店長や、
氷を作ってくれたあの子も悲しむはずだ。
忘れるな、君は一人じゃない。
たとえ近くにいなくても、君を知っている者は
君が健やかであれと願っているのだからな」

そう、使い魔は子供モドキがやった方法で無くとも
その気になれば取り戻す事は可能である。
しかし、ヒトの命はそうはいかない事を
普通は理解しているはずだし、
命を奪う為の方法を容易に知る事の出来る
魔法使いとしてはあってはならない事だと慰めてみたり。
そして・・・少女の最大の思い違いだと思っている
『自分は不要』という考えこそ間違いだと
これだけは少し強めに言って。

リセ >  もういいと告げて背を向けた女生徒はそれ以上何も云わなかったが付き従う黒猫を振り払ったりはしなかった。
 
 ただの土くれに命のまがい物を吹き込むのが魔法なら。
 その命のまがい物に魂を宿させるのが人の心かもしれない。
 魂を宿らせるほどに大事にしていた使い魔が消されてしまえば、そうそう簡単に気持ちに整理がつくわけもなく。
 ただ、教師のくれた使い魔に限りなく近い黒猫にまた魂が宿れば少しは他者の落ち度を許容する気持ちも沸くかも知れない。

「先生は……先生は、お仕事、だから……義務だから、と云うこと……なのかも、知れません、が……
 ここまでは、きっと……なさらなくても良いこと、なのだと、思います……
 わたし、いつも…ご迷惑……ばかり……
 ……だけど、わたしが、消して、しまった子は、もう……
 ただ、とても…かわいらしかった、から…だから、わたし……」

 使い魔を奪われた悲しみは完全には理解できないかも知れないが、恨む気持ちも嘆く気持ちも良く分かる。
 触ってみたいなんて、思わなければ良かったのに、と悔恨に苦し気に表情を歪めていれば、頭に触れる小さな手。
 ぴくっ、と無意識に肩を揺らしては涙の痕の残る貌で見上げ。

「だけど……だけど、先生は……なんでも…どんなことでも、出来ます……
 だから、わたしを消してわたしの記憶も全部消すことだって、できます、よね……?
 そうしたら、そうしたら、誰も哀しまなくて済みます……わたしもきっと、哀しまなくて良くなります……」

 時を戻すほどの力があるというならば、きっとその願いは叶えることが出来るはずだ。
 そんなまさに消極的な思考に囚われてぽつぽつと言葉を落とした後。

「………なんて……きっと、出来たって、そんな、こと、先生は、しない、って……仰います、よね……
 すみません……わたし……わたし、先生があんまりお優しい、から……甘ったれた、だけで……
 わたしが消えたら、哀しい、とか……嬉しくて、とても嬉しくて……調子に、乗りました……」

 ごめんなさい、と深々と頭を下げると、自分が不要な存在であるという思考を否定する杖の上に載った教師に――届かなかったので正確にはその杖に――手を伸ばして結局杖を抱きしめる形になってしまいながら。

「わたし、消えずに、がんばる、ので……
 きっと、先生の手を焼かせることもあると、思うのですが……
 まだ、もう少し……どうかよろしくお願いします」

 杖を教師の代わりに抱擁する形になりながら控えめな調子で伝えるのだった。

ホーセーア > 「・・・そう言われると、ぐうの音も出ないな。
だがね、義務と言われるのは少々心外だな?
リセ君の言うようにここまで・・・まして専門の魔導教師からの苦情を受けてまで
事態の収拾に努めるのは、それでは収まらない。
冷たい言い方をすれば『給料外』だしな。
前に言ったろう、目をかけていると。
自覚はあるだろうが、リセ君の体質は色々と特殊だ。
そしてそれは君のせいでは決してない、ましてご両親のせいでもありはしない。
申し訳ないと思うのは勝手だが、自分の存在まで否定するのは
君を知っている全ての存在に対する・・・きつい言い方になるが
『裏切り』だぞ。
そして全て承知の上で好き好んで関わっているんだ、今更迷惑だなんて言われても
正直・・・そちらの方が困るぞ、僕としては」

存在を消すことが出来るだろうと言われると、反論しようとしてか一瞬厳しい目を向けるが
すぐに元の優しい目に変わり。

「・・・そんな事を言わないでくれ。
言っておくが魔法は万能じゃない、たとえリセ君の望み通りにしたとしても
みんな何かを忘れた、失ったという思いはぼんやりと残り、
それが何なのか判らないまま、違和感だけを生涯抱えて生きていく事になる。
そんな思いをさせる事が、本当にリセ君の望みか?
違うだろう、自分のせいで他人が悲しむのが嫌だと
言えるリセ君が、悲しみだけを残して消えたいなどというはずがないからな」

出来るがしない、それを率直に言うのではなく
なるべく少女が負担に感じないように、言葉を選んでそう告げて

「ああ、任せてくれたまえ・・・と言っても、僕も万能じゃない。
現にさっきの彼女の怒りも解くことはできなかっただろう?
だから・・・頼れる範囲で頼ってくれたまえ。
ああ、それと・・・っと」

杖を抱いているリセの横にぴょいと飛び降りると
三度懐を探り、眼鏡のような何かを取り出し

「さっきのような事故が起こらないように、これを渡しておこう。
本来なら魔力探知の護符など作ってやりたかったところだが、リセ君には無意味だしな。
だから貰い物で悪いが、この『魔力を見る事の出来る特殊な眼鏡』をあげよう。
僕も詳しくは知らないんだが、作者曰く『特殊な鉱石を特殊な工法で加工したもの』だそうで
魔法がかかっている物がうっすらと光って見えるという事だ。
当然製法に魔法は関わっていないからリセ君でも大丈夫なはずだ。
先の経験を生かして、学院内で生き物に触りたくなったらまずこれで見てみて、
問題なければ思う存分愛でるがいい。
手始めに・・・僕でよければしばらく・・・30分ほどは時間を取るから
好きなだけ撫でたまえ」

そう言っていつかの様にくるりと背を向け、
今度は必要以上に胸に触らないように気を付けながら
少女の体に軽く凭れゆっくりと目を閉じ。
もし眼鏡を試してみようと子供モドキ見てみるならば
うっすらとよく見ないと判らない程度に光っていて。
これはリセに触れること前提で『気』を全身に巡らせているからで
僅かに漏れ出た魔力が見えているだけなのだが。

リセ > 「だから……ですから、先生、はここまで…しなくって、いい、んですよ……?
 ボランティア…の範囲では少々重荷、でしょう?
 ……わたし、誰を裏切ることになったとしても……本当にどうでもいいから……時々ふ、と世の中から五分くらい、消えられたらいいなあ…って思うんですよ。
 あ、五分だけ、ですよ…? ずっとは…まだちょっと、思い切れませんから。
 先生はそんなこと、ないですか…?
 ……それにしても、こんな面倒くさい生徒に、好き好んで関わる、なんて……先生が一番特殊、ですね」

 大体の教師は避けたいだろう、問題児。
 わざわざ関わってくれようなんて本当に風変わりであると感じれば、胸が暖かくなったように泪の痕を手でぐい、と拭って紅い目許でくすくすと笑った。

「すみません、もう、云いません。
 多分、先生にそんな風にお説教、していただきたかった、だけ、ですから……
 忘れて下さい、ね…? 後で思い出すと、恥ずかしくなりそうですから」

 優しくしてもらうと甘ったれてしまう。小さな子供みたいですごく恥ずかしい行いだ。
 もう云いませんと誓って。

「先生は……魔法で気持ちを鎮めたりすること、出来たんじゃないですか……?
 でも、そんなことをしても何も解決しないから、なさらないん、でしょ?
 魔法でなんでもできても、きっとしてはいけないこと沢山あるんですね」

 魔法倫理についても少し習ったことがあるが、理論的には可能でも簡単でも、禁忌となっている魔法もいくつかあったはずだ。
 飛び降りる小さな教師を見下ろして、杖を離しては眼鏡を取り出す所作を首を傾げて見つめ。

「え、っと……いただいて、いいん、ですか……?
 ん……とじゃあ、少し試させていただきますね……
 あ、本当です、ね……先生の杖とかも燐光みたいな……光っている感じがします」

 眼鏡を試運転がてらに掛けて見ると教師の杖や彼自身がレンズ越しに光って見えた。
 なるほどと肯いては、撫で…?と「好きなだけ撫でたまえ」なんてなかなか違和感のあることを平然と口にする小さな教師が凭れ掛かってくる様子に。

「……先生? わたしが触りたいのは仔猫さんだったんですよ…?
 ちょっと、希望と違ってるんですけど……?
 もしかすると、先生抱っこして撫でられるの……割とお好き、ですか?」

 などと少々軽口をたたく余裕も生まれてしまいつつ。
 彼は見た目通りに甘えるのも好きなのかもしれないと邪推混じりに凭れ掛かって来る小さな身体を受け止めては藍色の髪をそっと撫でて。
 どちらかといえばかわいがりたい、よりも今は感謝を込めて優しい手付きでしばし髪を梳くように撫でていたのであった――

ホーセーア > 「そう言ってくれるな、物好きだと言われればそれまでだが
少なくとも魔法関係で難儀をしている・・・まして望まず不利益を受けるだけの
生徒の事を黙って見ていられないのは間違いないな。

・・・僕はこうなってしまってから、30年ばかり引きこもっていた事があってね、
そうしたら僕の事を知っている者、僕が知っていた者の大半がこの世を去っていたよ。
あの時は己の不甲斐なさ、薄情さに嫌気がさして何度か自分を消すことも考えたが、
それらをすべて覚えて・・・いや忘れない事が不老の身となった僕がするべき事だと
ある書物を読んで悟ってね、そこからはまあ気楽に、しかし忘れずに生きていっている。

そうだなあ・・・本当に僕の力でどうにかなるものなら、
さっさと面倒事を無くしてやりたいと思っているよ、リセ君の為にも」

ただ普通に生きたいと願うだけで、こんな仕打ちに会わねばならないのなら
自分の手の届く範囲だけでも何とかしてやりたい、というのが本音なのだが、
善人ぶっていると思われるのも心外だから、軽口めいて答え。

「・・・すまん、それは考えもしなかった。
失ったのなら、取り戻してやりたいと思っただけで、
こんな事言ってはいけないのだろうが・・・幸い、簡単な術での生成だったから
元に戻せれば彼女も納得してくれると思ったんだが・・・
結局無理だった、リセ君にも不快な思いをさせたな、申し訳ない。

ああ、人の心を操る系統の魔法は大体強く規制されるはずだ。
後・・・人に限らず生き物を生き返らせるのは、どこでも禁忌だ。
あれは使い魔だったから、ぎりぎりセーフだとは思うが、
生き物を基にした使い魔だったら多分叱られるでは済まなかったろうな」

少女が軽口きいて『コレジャナイ』的な指摘すると
目だけ笑いながらも口をへの字にして

「・・・一応、リセ君を慰めるつもりで言ったんだがな。
何だ、今の僕では不満かね?
何なら猫耳生やしてもいいし、魔法で子猫に姿を変えてもいいぞ。
・・・リセ君の望み通りの可愛い猫になるかどうかは保証しないが。

まあな・・・常連の生徒たちに撫でられている内に
一日それがないと、何となく落ち着かなくなったのは事実だが
イヤなら別にいいんだぞ・・・と、ふふ・・・」

文句返しながらも結局撫でてくる手には素直に身委ねて「はー・・・」
とか満足げな声上げ。
なお、もし本当に猫化したならば
青毛の・・・少し目つき悪めの子猫になったであろう事は
想像上の事だけで。

リセ > 「……本当に、世話を焼かれそうな見た目なのに……お世話好きの先生、ですね……
 わたしなら、とても疲れてしまいそうな生き方、です。

 確かに30年は少し長いですね……引き篭もるなら三年くらいが妥当ですよ……
 あ、でも……先生のように不死でないにせよ、30年、引き篭もる方も稀におりますね……それどころか死ぬまでお家を出ないことも……
 そういう方とは違うんでしょうけど……

 でも、もしわたしが面倒な生徒じゃなくなったら、先生はもうお世話焼きに来てくれないんですねー……」

 問題児を返上したらきっと別の問題児の面倒ごとを解決しにいくのだろう。
 少し寂しいがそれが学院の教師と生徒の立場というものである。

「あら……そうなん、ですか……?
 ……わたしのしてしまったことは、多分壊れた物を直すようにはいかないことだったんだと思います……
 彼女があんなにも大事にしていたなんてわたしも知りませんでしたし……
 零れたミルクは元には戻りませんからね……
 先生に責任は何もありませんから、謝らないでくださいね…?」

 生き返らせることが禁忌ではあるだろうし……そもそも出来ない場合がほとんどなのではと思う。
 寿命を操るのは神の領域ではあるだろうから。

「うーんと……不満、ではないのです、が……
 先生が……決して小さな男の子ではなく、立派な先生であることをもうようっく、知ってしまっているので……
 子どもや動物をかわいがるようには、扱えないんですよ……
 
 だから、慰めようとしてくれているのに感謝をして、先生が心地よいように、鋭意、撫でさせていただきますね」

 撫でられないと落ち着かなくなってきてしまっていると聞いてくすりと小さく笑いながら、それでは彼が少しでも満足してくれるようにどんなふうに撫でたらいいのか伺いながら、柔く緩く手を動かして丁寧に撫でていたのであった。

 そして、双方がある程度満足したところで、正門が閉まる時間が近づいていて暗くならないうちに帰宅しよう。
 改めて親切へのお礼を告げて。

ホーセーア > 「・・・わかった、では次に何でもないときに会う事があったら
子猫にでも何でも化けてやるとしよう。
世話を焼かれないと寂しがる生徒の為に、な」

笑いながらも下校時間近づけば、あたふたと身支度整え
少女に別れ告げるだろう。

次に会う時もきっと何かしらあるのだろうなあと、漠然と予感しながらではあるが。

ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 図書館裏」からリセさんが去りました。<補足:名簿内ご参照下さい>
ご案内:「」にホーセーアさんが現れました。