2024/09/28 - 22:19~02:05 のログ
ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 時計台」にリセさんが現れました。<補足:名簿内ご参照下さい>
リセ >  人気のない放課後の時計台の屋上では――

「や……やめてっ…! やめてください……来ないで……!」

 制服の襟元を引きちぎられてその前をかき集めるように両手で覆い隠しながら屋上の縁まで追いつめられて藤の双眸を怯えたように潤ませ切迫した声を上げる一人の女生徒と。

 魔導写真機を手にそれを甚振って追いつめる三人の女生徒の姿。

 その日は授業が何事もなく修了し、今日は平和だった…と気を抜いて帰宅しようとしていたところ。
 どうもそうは問屋が卸さなかったらしく、普段から虐められていたスクールカーストも上位、貴族としての階級も数段上である同級生三人から時計台の屋上まで連れ出され。
 曰く、

『秘密の撮影かーい♪』

 の強制開催となり。もちろんただの撮影で済む訳はなく。
 制服を破られて無理矢理に肌を露出させて嫌がっているところを撮影する、という陰惨なもの。
 普段は多少の虐めには耐え、碌に抵抗もしないのだが、さすがにこればかりはされるがままになる訳にはいかず。
 制服の前を破かれながらも非力にも抗い、どうにか手を逃れて出口を目指すもそちらは当然塞がれていて、逃げ惑ってしまいに手すりも設置されていない屋上の縁ぎりぎりまで追いつめられてしまい。

『さーあ、もう逃げ場、ないよー?』

『は~い、いい加減諦める~』

『無駄な抵抗はよしたまえ~?』

 語尾上がりの小ばかにした声が三種三様に投げかけられる。

「い、いや、です……それ、だけ、は……やめて、ください……」

 顔色を失いカタカタと小さく震えながら毛先を揺らすように左右に首を振り一歩また一歩とゆっくり近づいて魔手を伸ばしてくる彼女らに懇願めいた弱弱しい声で訴えた。

リセ >  やめてと云ったところで、はいそうですか、と引き下がるなら最初からしない。
 嫌がったところで大して意味のない意志表示であり、勿論連中の進行は止まる訳もなく――

『いい加減いっつもみたく無抵抗主義でバカみたいに突っ立てりゃいんだよ』

『されるがまま~♪』

『はいはーい、追い詰ーめたっと』

「――っ…! い、いやあ…!!」

 それ以上、下がりようのない場所まで追いつめられると破かれた襟元をつかまれかけて反射的にばしっと手を払いのけ、無意識にぎりぎりの場所で立っていた踵が、

          ッズ……!

 後ろへ傾いてそのまま――

「っ、あ…!? きゃああぁあぁぁ!!」

 悲鳴とともにぐらりと大きく傾倒し、重力に従いまるで下へ引っ張られるように高い時計台の上から落ちて―――

ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 時計台」に影時さんが現れました。<補足:黒髪/暗赤色の眼/不精髭/白い羽織+暗色の着物と濃茶色の袴、黒い襟巻/刀/鎧通しの短刀>
影時 > 時が移ろい、日が落ちゆく。
日が落ちれば三々五々と下校する生徒の数が増え、人が減った分だけ学院は静かになる。
それが物悲しいと思うものも居れば、今のうちにと思うものがある。
例えば、静かになった校舎を散歩するのが好きなイキモノが居たりする。
見つかるときゃーきゃー言われたり、追っかけられたり、偶には使い魔である蛇や猛禽から怖い目で見られるのがイヤとか何とか。

「……お前さんらが如何にも歩き回りそうだったからついてきたワケだが、もうちょっと場所選んだ方が善くねぇかねぇ?」

さて、そんな王立コクマー・ラジエル学院の敷地を闊歩するが二つ。そして、それを追うものが一人。
揃いの白い法被を着こんだ小さなシマリスとモモンガと、揃いではないが似たような意匠の羽織を着込んだ男だ。
中庭を過ぎ、木陰に入っては枯れ葉の溜まりをもそもそ漁り、何を探しているのだろう。
どんぐりを探しているのだ。少しずつ涼しくなってきたのだから、そろそろ落ちているに違いない?とばかりに。
だが、まだ早いだろう。気が早く成っていそうなあたりを考えるなら、まだ山野を漁る方が見込みがあるのではないのか。
枯れ葉の山から顔を出し、頭に一枚茶色い葉を乗せつつ、不服そうな顔と共に尻尾を萎れさせる二匹が、不意に。

「――おっと?」

二匹がびくっと震えて耳をぴくぴくさせ、髭を震わせる。何を感じたのか、とある方角に向かって走り出す。
それを追うように男も羽織の裾を翻して走り出す。疾走もまた、素早い小動物たちに劣ることなく静か。一挙一動の悉くに乱れはなく。
敷地を駆け抜けて、見えてくる先は時計台。見回ることはあるけれども、風に当たりたい時は偶にこっそり使う場所でもある。
毛玉達が急に立ち止まり、尻尾の毛並みをぶわわと膨らませながら見上げる方角は――上。上である。まさかなぁ、と思えば。

「仕方ねェなあ。この手はあんまり使いたくなかったが……――ッ、おい!」

正式な進入方法、入る経路は分かっている。
だが、二匹が時計台の最上を見上げつつぴょいこぴょいこと何度も飛び上がってみせる様相は、ただごとではない。不穏である。
ではどうするか。近道をしよう。馬鹿正直に階段を上がるより、時には壁面を攀じ登る、あるいは駆け上がる方が早い。
言葉にすると一目するだけで莫迦のよう。だが、それを為せる手立てに心当たりがあるものは、意外と多い。魔法使い然り。そして忍者然り。
ぱ、ぱ、と印を組み、氣を走らせながら身を低くし、時計台の壁を蹴り付けるように飛び上がる。
蹴り足があろうことか――、壁面にべたりと貼り付く。二歩、三歩、五歩を過ぎて進足。進行。疾走。
忍法・夜守走り。ヤモリよろしく、垂直同然の壁面にも手足を付けるチカラを生じさせ、駆け上がるための秘術。
重力に惹かれ、後ろ髪や羽織の裾が地面の方に向く中、飼い主の異様さに目を丸くする毛玉が慌てて裾に引っ付き、肩上まで攀じ登る。
その姿を横目にしながら、時計台の壁を駆けあがってゆく中、見えてくる姿に、喉奥でおいおいおい、と声を漏らす。

何か落ちてくる。

――その風景に肩上の毛玉が総毛立つ。急いで駆け上がりつつ、右手を伸ばそう。
足裏と左手を壁面につければ、三点確保的に支点を得ることが出来る。落下の勢いを帯びだす何かを捕まえられるか、否か。

リセ >  落ちる――

 足元がぐらついて不確かになったかと思えば重たい頭の方から大きく地上へ向けて大きく傾いて、バランスが崩れてしまうと踏み留まる暇もなく、真っ逆さまに―――

                 落ちる

 ふあ、と一瞬浮遊感のごどく落ちる瞬間の身体が持ち上がるに似た感覚、けれどそれを感じた刹那には、

「きゃあああぁぁぁ!!」

 悲鳴の尾を引きながら地上へ向けて、硬い地表へ真っ逆さまに落ちて叩きつけられていく――

 もう駄目だ……

 ぶわっと瞬時に浮かぶ泪が見開いた双眸から浮き上がって球になる。
 恐怖を張り付かせた表情は、しかし……

「―――っ…!?」

 落ちていく途中で衝撃を覚悟した瞬間……それは地表に叩きつけられたにしてはとても軽い…というか異なるもので
 想定していた硬い地面の上で落下が止まったとも思えず。
 見開いた眼に映ったのは、暮れなずんでいく途中の茜色の空と金色の雲と、

「せ……」

 せんせい、と発音しかけた声が絶句する。

 まさか。
 思いがけないものを見たように刮目して落下しかけた己の身体を片手で捕まえているよく知った教師に声を失ったまま。
 しかし、夢中で縋りつくように掴めるなら衣服なり首元なり腕なり、どこへでも必死に腕を伸ばして捉まってしまう。
 命綱をつかむように。

影時 > ――全く。

こんなところで忍術の練習するつもりは、なかったが。どう思っても自己弁護にも言い訳にもならない。
外面(イイワケ)としては気紛れ。酔狂。壁面登攀の練習をする気になったとかなんとか。
弟子を除けば、一部の教師等は己が素性、技能の正体は感じていよう。察していよう。
だが、何は兎も角。不思議な感覚を持っている毛玉たちが異様に騒ぐ状況は、これは間違いない。――非常事態である。

(間に合うか? 地面を弾ませるか? 否、遅い。術を紡ぐ隙に落ちきる!)

空からひとのようなものが、落ちてくるのだ。
それを異様と言わずして何と言う。
蠟で固めた翼を付けた人間が空を飛び、太陽に近づき過ぎて翼が溶け、堕ちた――なる寓話は聞いたことがあるが、このような心地か。
或いは竜やら大鷲に乗った人間が、何らかの要因で乗騎から落ちることがあれば、今見えてくる状況ときっと重なろう。
この状況でどれだけの手を考えられるか。

大地を液状化させ、軟性を与えるか? ――遅い。大仰な術は紡ぐだけで時間がかかる。
網を張るか? ――不足。何が不足か。糸を張り巡らせ、支えるに足る建造物の類が足りていない。
大きな式紙でも繰るか? ――これも遅い。これもまた、大仰な術、大掛かりな術になってしまう。

最後には結局、手が届くかどうか、に賭けることになる。足りないなら、否、足りるかどうかを考えるよりも先ずは、手を伸ばすしかない。

「~~~~~~……ッ、いい、から、掴まれッ!!」

伸ばした手に引っかかるものを、引き寄せる。身が軋むのを構わず、強引に抱き寄せる。何をどう触れているかは、考えようもない。
鍛えた身体でも女の子の体重が勢いをついた、としたら、腕一本に掛かる衝撃力は如何ほどなものか。
指先と足裏に氣を集中させ、壁に貼り付く効用を兎に角高め、研ぎ澄ませて、落下しないように堪えて。
肩上に乗った二匹が、目をまん丸くして尻尾をぶんぶか振りつつ、しがみついた姿を引き留めるように身を伸ばすのを見ている暇もなく、動く。
掴まる姿が安定した、と思えば、のっそりと壁登りを再開する。

もし、屋上の手すりから身を乗り出して見下ろすものが居るなら、居たなら、これもこれで異様にも見えただろう。
高めた氣力の影響で、爛々と双眸に赤い眼光を灯らせた男が、それこそ魔法のように何も手がかりもない壁を攀じ登って屋上に上がってくるのだから。

リセ >  高い場所からの落下は本能的な恐怖が凄まじく、死を思う瞬間であった。
 普通ならば、そのまま落っこちてしまうのは当然だし。
 まさか途中でそれを阻んでくれるなんて思いもかけない。
 ただ、思ったよりも落ちていく瞬間の時間は――不思議と長く感じた。
 自分と周囲の時間の流れが異なる現象が起きて、秒も過ぎていないのにまるで永遠のように長く錯覚した。
 死に塗れたその時間は、けれども、

「……っ…! …!!」

 声にならない、まるで声帯を奪われたものの立てるような息の抜けるような笛の音に似た音を悲鳴の代わりに上げながら、ただ必死に無我夢中でその人にしがみつく。
 掴まれ、と告げた声はやはり良く知っていたが、語気の強い調子は初めて聞いた。それを暢気に感じている余裕は、ないけれど。

 落ちたくない死にたくない恐い

 己の身体を落下から回避させて支えてくれている相手がなんの取っ掛かりもない壁に特殊な秘術を持ってして張り付いているのにはまだ気づく余裕、やはりないけれど。
 ただただ、溺れる者が掴む藁のようにぼろぼろと勝手に流れる大粒の涙で濡れて恐怖に震えた腕で教師の首元に抱き着く。
 しっかりと密着した体勢となったのは安定という面で結果的に多分良い方向ではあったろうが。
 爪を立ててしまいそうな程きつくしがみつかれるのは、相手にとっては難儀だったと……冷静な頭があれば配慮したものを。

 煌々と目を紅く閃かせた長躯和装の教師が落下しかけた生徒を抱えて壁を攀じ登ってくる様を一目でも目に入れれば、屋上にいた連中は途端に拙いと思い知って、一目散に遁走を極めたのであった。
 かくして無人となった放課後の時計台。
 屋上には静かな秋風がさわさわと吹き抜けていった。

影時 > 誰かを抱えて、どうこう、というコト自体は初めてではない。
思い返すなら。記憶がおぼろになった昔も含めて。あっただろう。色々あっただろう。
今のように拾えたものから、そうでないものも。味方の手であったり。捕虜にすべき敵であったり。
だが、いずれも、どれも。あれもこれも間違いなく同じと言えることがある。

――重いのだ。

引き留めることに掛かる加重でもある。命の重さの軽重でもある。
最終的にそうしたのが真に正しい判断であったか否かと、手を伸ばす際の前後に抱く心持ちでもあり

「ま、っ、たく、これじゃァ片手で印を結んでもいられねぇか……」

仕掛ける前にせめて、分身の一人か二人でも出すべきだったか、と。脳裏で思い返すと愚痴っぽくもなる。
一番弟子のように自力で飛べたなら、またやりようは違っただろう。
だが、飛べぬとなれば、取り得る手段は自ずと限定される。絞られる。最終的にどのように手を伸ばすかどうか、にかかる。
しがみつく女生徒が秘める力が、もし触れた相手の魔法行使をも制限し、阻害する類だったら、これは一蓮托生にならざるをえない。
辛うじて壁に貼り付く忍術は維持され、僅かな手掛かりがあれば登攀できる体術の熟練の合わせ技で、しがみ付く重みを支え切れる。
爪が立ちそうなほどのチカラの入り用は、気にしない。白い羽織越しであれば、十分な防具となり得る生地の強靭さがカバーする。
平時なら、密着する躰の柔らかさやら何やらで冗句の一つも二つも出ようものだが、それどころではなく。

「……――なン、だね。失礼な奴らだぁな、ァ。人様のツラ見るなり逃げやがって、よう」

まさかとは思ったが、屋上に誰かいたのだろう。
屋上の手すりに指を掛け、グイと身体を引き上げつつ顔を出せば、見下ろす目線の主らしい後ろ姿と髪の翻えりらしいものが、辛うじて垣間見える。
やれやれ、だ。詰めた息を絞り出しつつ愚痴めいた言葉を吐き出し、手摺を跨ぎ越して漸く時計台の屋上へと到着する。
ゆっくりと腰を下ろしてゆきながら、肩上の二匹がしがみついた女生徒の両肩へと跳びつき、ぺたぺたと前足で叩いて見せるのを見る。

「でー、だ。大丈夫かね。リセお嬢様、よ?」

両足を伸ばしながら、屋上に座り込む。腰に差した刀が邪魔になれば、鞘ごと外して近くに置く。
安定さえ得られば、呼吸を整え、心身を落ち着ける余裕が生じるもの。声をかける余裕もまた然り。

リセ >  正直、今何が起こっているのか良く分かっていない。
 怖くて恐くてこわくて夢中でしがみついたまま離せないし声も出ないし、震えは止まらないし状況を鑑みることもできない。
 ただ、この手に離されたら、離したら本当に死ぬ……ということしか今は何も分からない。

 異能を駆使する面に己の身体が触れてしまっていたとしたら、道連れに引きずり落としかねなかったが、片手と両足、それだけの術力であったならば大きく阻害することもなかったものの。
 しかし潜在的に異能を無効化させてしまう体質がいくらか邪魔をしてしまい、普段よりは余計に力を使わせてしまうことになったかも知れない。

 じりじりと慎重に壁を登っていく速度はそれこそ落ちて行く時よりも長く長く思えたけれども、その時よりも格段に恐怖感は薄いものだった。
 落ちるのではなく登っているという逆の現象なせいもあったかも知れないけれど、それよりもしっかりと落とさないように抱えて安定感さえ感じる膂力で登り上がっていく手には全幅の信頼を覚えて。

 ちらりと一瞬、屋上の連中とは目線が交差したやもだけれど、咎められる前にはその姿は掻き消えていて残り香さえ失せた始末。

 もちろん、失せた後に響いた壁登りな教師の苦言は聞こえていない。
 聞こえていた女生徒は……反応する余裕に欠けていて。
 暴れず騒がず身を縮めるようにしてしっかりとしがみついたまま、やがてそのまま危うげなく時計台の上まで登り上がってくれれば、安定した足場を得て、死の恐怖が去って行って、さらに、両肩にすとんと柔く軽くかかるふたつの重みでようやく、声をかけてくれるのにも反応できるようになる。
 懸命に小さなよっつの前足で叩いてくれるのに、泪でぐしゃぐしゃな目を向けて、

「d、ぃじょ……ぅ、ぁ、あう……~~~っっ」

 大丈夫だと返事をしようとした声はそのまま慟哭に変わってしまった。
 幼子のように泣きじゃくりながらぼろぼろと滝のように後から後から落涙しまだぶるぶると震えてしがみついたまま声を上げて号泣してしまった。

影時 > 片腕が使える状態なら、壁歩きの術に加え、もう一手。縄使いやら糸繰りの術を使って見せたことだろう。
羽織の下、刀を差すために腰に巻いた帯を使って、雑嚢(カバン)も腰裏に来るように括り付けられている。
そこから鉤縄なり、糸巻きでも出して、手摺に結びつけていたことだろう。
だが、その技の要となる氣の通りが、奇妙に普段よりも悪くなった。――何故だろうか。
脳裏に思い当たる答えは、一つある。しかしながら、それを気にしていても仕方がない。
壁歩きの術は、維持できているのだ。であるならば、維持できているうちに時計台の壁を登り切る方がはるかに賢明だ。

屋上から見下ろす視線、あるいは地上から見上げる視線があれば、ああ全く。
暫く姿を隠したくなる。暫くはほとぼりが冷めるまでよろしく、校外演習か本業に専念すべきか否か。

だが、一つ間違いなく確かと言えることはある。あるのだ。

「ヒテンとスクナが騒ぎ出したから、真っ逆(まっさか)とは思ったが、ねェ。
 兎も角、ともあれ、最悪の事態にならなくて良かった――と言っとくか。
 
 何がどうしてこうなった、までは聞いた方がいいか? ……ああ、いや、言わなくていいや。あの様子なら、言わずもがな、か」
 
死なずに、良かった。それは何よりも喜ぶべき、安堵すべき事柄であると言える。
一寸先は闇とは言い過ぎでも、何処にでも剣呑、凌辱その他の種は尽きずとも、知己が万が一とも云えるコトがあれば。
一瞬見えた後ろ姿やらが原因だろうかね、と。内心でそう思いながら、しがみついたままの姿に声をかけよう。
鞘篭めの刀を傍らに放り出しつつ、羽織の裾を敷き物代わりに胡坐を組んで、声をかけながら間近で上がり出す慟哭を聴く。
流れ出す涙は、溢れ出すままでいい。濡れるからどうだ、というのか。
受け止めた側の腕の痛みはあるが、氣を巡らせてじっとしていれば、そのうち消える痛みである。
癒えて消える痛みと、命失せてなお長く残る悔いと、どちらがマシであろう。考えるまでもない、という奴だ。

女生徒の肩上に乗った二匹が、じっと身を摺り寄せていれば、尻尾で親分の耳やら肩をせっつくように触れてくる。
いかにも何か出せ、という催促めいているのは、恐らくこういうことではないだろうか。
雑嚢の中に手を突っ込み、もぞり、と一枚の手巾(ハンカチ)を引っ張り出してみせよう。
無言でそれを腰を捻りつつ、女生徒の目元や目尻あたりに押し付けつつ、流れる雫を拭いにかかる。

リセ >  人の邪魔をする体質――
 様々な異能の存在する世界においてはそれに尽きる。
 もしかすると、己を助けようと何かしらの術を発動されれば場合によってはそれを無効化していた可能性もあった。
 自分を害するものも逆に救おうとするものも分け隔てなく総てなかったことにするような体質は碌なものに思えない。

 実際に、落下を防いで屋上まで登ってくれるのを補助する氣の流れも邪魔をした。
 互いの身体を落とすほどではなかったにせよ、要らない苦労を敷いたし、なんならそれを除いても腕をはじめとした彼の身体に負荷をかけた。
 万が一二人そろって落ちるようなことがあれば、自分一人が落ちるべきだったのにと地獄で永劫に悔いるところだった。

 屋上に戻してもらい、安堵を得た筈ではあるけれど、安心したせいか涙腺か急激に緩んで、そのまましばらく泣きじゃくって返事もできない始末。

「っ、うっく……っひ……ふぁ……す、すみ……ませ……ほ、んとに……本当に……ごめ……ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい……っ」

 具体的に何に対して詫びているのか自分でも分かっていないまま、小さな身体で擦り寄って慰めてもらい泪を拭ってもらい、ひくひくとしゃくりあげる嗚咽混じりにただ壊れたように繰り返しては。
 襟元を破かれた制服のままなのも忘れて肩を震わせて泣きじゃくっていたが、

「すみ…ません……あ、あり、がとう…ござい、ました……あ……あの……
      そ、その……う、腕……動かなくて……す、すぐ……離れ、ます、から……す、すみません……ほ、ほんとうに……重ね重ね……」

 拭ってもらった泪が嗄れた頃、腕がしがみ付いたまま硬直して……恐らくは精神的な作用だろうけど何故か普段通りに動かない。
 気恥ずかしいし助けてくれた教師に申し訳ないし、離そうとするのだが小さくかたかた震えて上手く動かず焦ったように身じろぎした。

影時 > 能力の詳細、体質を聴けば――似たようなものに心当たりがあることを、思い出したことだろう。
幻惑破り、まやかし破り等々。世界の東西を問わずして、意外とあるのかもしれない。
特定の何かが発達すれば、それとつり合いを取るかの如く対極を通り越した何かが、生じるという実例が。
敵対する場合、余りに尖り過ぎたチカラだが、先鋭化過ぎるが故に対処法自体は思ったより容易ともなりうる。

――なぞ、と思える場面でもないし、思える状況でもない。
空気も読まずに実際あれやこれやと問うより、落ち着くのを待つ方が大人でなくともより一層賢明である。
もっとも、空気も読まなかったら、女生徒に寄り添っているシマリスが思いっきり噛んでくること疑いない。

「良いから、そう気にすンな。あんまり過ぎるとどーしょーもないものでも要求するぞ。
 そもそもから云うとだな。何に謝ってるかどうかも今の在りようだと、正直怪しく思える位だ。
 まずはゆっくり、時間をかけていいから、自分を取り戻してゆけ。……な?」
 
自分から見れば、大事なくてよかった。経緯は兎も角、その結果にこそ安堵する。それで今は事足りる。
原因等は思えば何となく察しが付くが、それも彼女が言いたくなければ良い。
せめて、姿やら声やらを撮影できていれば、まだ良かったろうか。撮影用の魔法水晶の持ち合わせなら、自分にもある。
普段使いもする理由も用件も無いが、利便性だけは確かにあれば、一応は仕入れておくメリットは大きい。
泣きじゃくる要因は、破かれたように見える制服の襟元にも大いにあるだろうか。そう察しをつけて。

「どういたしまして、だ。
 ……――あー、いや、すぐに離れなくていいから。少しでも気にするなら、ちぃとばっかしそのままにしててくれ」
 
一先ず、涙は落ち着いたか。そう思いつつ、手巾を戻して雑嚢の中に放り込もう。
気になるのは腕が動かないということだ。状況は状況だが、見た目で分かるような大怪我やら何やらは、なかった筈。
では、どうだろう。こうしてみるのは。
硬直する様子にもそもそと草履の足裏を床につけ、身体の向きを変える。ゆっくりと正面から向き合うように。
それが出来たら、痛めていない左手を向こうの細い体躯の背に回し、抱き寄せるようにしながら、ぽんぽん、と。
宥めるようにそうっと背を叩いてみよう。無事で良かった、と。コトバにするのではなく、行動で伝えるように。

リセ >  何でそんな風に生まれついたものか――誰も知らないし自分にも分からないが。
 本当に時として人は無益というか要らんもの背負って生まれたり生きたりする。
 ただそれだけのことだけど……今回はそれが危うく仇を成すところだった。
 実際に成さなくて……セーフ。

 しかし普通なら間違いなく落ちていたし、取っ掛かりもなにもないただの時計台の壁面を登れる訳がない……一体どうして、どうやって……と、冷静に問いかけるのはもう少し先のことになりそうで。
 ひたすらに言葉もなく泣きじゃくっていた。
 しゃくりあげる程度になってもまだ平静とは云えない。

「……ぃ……はぃ……すみません……あ、あの……よ、要求……なさることが、ある、のでしたら……その、どう、しようもない、としても……善処、します……っ
 ので……何かあれば、恩返しさせて、ください……」

 自分を取り戻したとしても満足に恩を返せるかどうか疑わしいものの、そういう意志があることだけは伝えて。
 いつもならばすぐに小さな友人たちを喜々として構いだすところを、まだそんな余裕はない…というか満足に何故か身体も動かせない状況で。

「ほんとに……申し訳ありません……っ
 っ、ぅ、っく……う、で……どぅ、して……んんっ……いま、どぅ、にか………え?」

 力を込めてどうにか放そうとぐぐっと力んでみるものの神経がどうにかなってしまったのか。
 先ほど死に直面して、離したら死ぬ、と思い込み過ぎたのか。
 わたしの腕が云うこと聞きません……。
 焦って頭から汗を飛ばしていたが、ふと教師が身体の向きを変えて改めて対面すると、密着していると照れくさく無意識に紅潮し。
 そして左手が回って宥めるように抱えるような姿勢で背を柔く叩く仕草に、くしゃりと表情が崩れる。
 また泣きそうになってしまったが、言葉でなく厚意で意図を伝えていただくと、ありがとうございます…っ、とこちらも言葉の代わりにきゅ、と震えた両腕でしがみついたまま固まっていたそでは感謝を込めたように抱擁の形となって。
 そうしたら、

「………ぁ……」

 動いた。

影時 > 偶々。偶然。星辰の位置。運命。宿命。色々その他諸々。
理不尽ともいえる事態に対し、ヒトは誰しも理由を求めるものである。
想起した理由が必ず正しいとは限らない。結局、誰にも分からないのだ。神仏にさえも。

「……とは言っても、なァ。ぱっと思いつくコトを言っちまうと、ほれ。
 こいつらが噛み付いてくること疑いないワケでね」
 
例えば、一晩ヤらせろとか云うと。その時点でムードを重んじる義侠心溢れるちっこいのが牙を剥くわけで。
親分にして飼い主が、益体もないことを言いそうな風情を見れば、「あ゛ぁ゛?」と言わんばかりの目で見てくるのである。
本気のシマリスの噛みつきは、とても痛い。氣を集めてどうこうしても貫いてきかねないのは、気のせいか。
齧歯類特有の前歯をちろりとさせつつ、小動物二匹が、ぢー、と見てくる風情に大袈裟に肩を竦め。

「だからまぁ、服越しなのがすこぉしだけ悔やまれるが。
 此れで十分――と俺はしようか。変なことするより、多分思いっきり効くンじゃねぇかなあ」
 
本当に神経がどうこうなっているとしたら、魔法やら忍術が駄目なら、薬草薬種の類を使っての療法となるだろうか。
大雑把な見立ては出来るが、それ以前にもしかすると、と思うものが脳裏に一つ浮かぶ。
墜落死未遂というのは、それだけで否応なく、事後のケア次第では思いっきり後に引くだろう。夢に見る、という程に。
下手な言葉やら何かに頼るより、もっと生の実感を感じられるような何かが、衝撃が残る心身には良いのではないだろうか。
例えば? こんな風に。身の向きを変え、正面から抱き合うように腕を回してみると、どうだろう。
飼い主の動きに二匹の毛玉が顔を見合わせ、呆れたように尻尾をはためかせて、女生徒の首筋や顔にぎゅーとしがみ付いてみせる。
二人と二匹。大きさと姿は異なるものがぎゅっと抱擁の形を取って、暫ししていたら。

「……な?」

動いた。その様子にぱちっと片目を閉じ、小さく笑いながら腕を緩めて身を離そう。

リセ >  無効化体質なんか関係なく……基本的に察しが悪い。
 空気が読めないから、虐めの対象になり易いのかもしれない。
 だから意図するところが理解できず首を傾げ。

「? 何を思いつかれた、のでしょう……? あの、出来るかできないかくらいはお答え、出来ます、ので……
 えっと……だから、ヒテンちゃんスクナちゃん、噛みついたりしないで、ね……? いざとなったらわたしも、ビンタくらい、できる、ので」

 できたところで攻撃力はそよ風程度な気がする。
 取り敢えずお話くらいは伺いたい、と真面目な顔で伸べる女生徒は……多分金銭的な問題か何かだと思ってはいる。
 貯めていたお小遣いでなんとかなればと算用していた。

「悔や……? 何をですか……?
 ……先生の仰ること……良くは判らないん、ですが……えと……こうして、いただくと……なんだか……ほっとします……」

 何をするでも特別なことでもない、身を寄せたり抱擁したりという単純な行為は童心に訴えるものがあるのか人を落ち着かせる作用がある気がする。
 信頼できる相手かどうかにもよるけれど。
 少し照れくささは感じたものの、ほーっと息を吐き出したら固まってた腕が動いた。
 さたに首筋、顔にも柔らかな感触が押し付けられるようにしがみついてくれる所作。それを受けると一層気持ちが落ち着いて、柔らかく暖かい心地になって。
 思わずふくふくと柔い笑気を洩らすと。

「はい……っ」

 片目を瞑る表情にくしゃりとした深い笑みを浮かべると大きく肯いて動く腕を放しかけて、最後にもう一度ありがとうございましたっ、の意でぎゅっとしてからほどき。

 そして両肩にいる愛しい重みに頬を擦り寄せて。

「ヒテンちゃんとスクナちゃんも本当にありがとう。
 いつもいつも……元気を沢山もらってます」

 抱きしめる代わりに両頬に小さな身体を押し付けてしまうように両手で包み込んですりすりと頬擦りした。

影時 > 「……あー。言うぞ?
 やーらしいコト、ってこら、ちゃんとボカしたから止めれ。寧ろ自重したと褒めろ俺を」
 
察しの悪さは、どうだろうか。それこそ個人差もある事象でもある。
空気を読む、察しを良くする方法――と言われて、すぐに思い浮かぶ手段はなかなか見当たらない。
例えば小説を読み、その登場人物になぞらえて、察しの事例を蓄積するにしても、最適解であるかどうかは個々人による。
さて。この切り替えしもまた、正しいコトであるかどうか。
事細かに言い足すなら、水増しも出来そうな位でもあるものの、子分たちのジャッジの水準はどうやら厳しいらしい。
金銭に替えられることと今回の事は思い難い。もとより、向こうの懐具合はいつぞやお宅訪問した際、垣間見えている。

「あー、あンまり気にしてくれなくていいや。
 うっかり言葉にすると、こいつらの我慢の限界になっちまいそうでね。……むしろ、そっちの感じの方が今は大事だな。うん。
 人間、衝撃的過ぎることがあるとな。ぎゅっとしてもらうと、落ち着けることがあるとか、なんとか」
 
さて。抱き心地がありそうな体躯を素肌で――とかなんとか。流石にそのまま言葉にするのは、粋と言えるかどうか。
外付け的両親めいた毛玉たちのジャッジは、繰り返しになるが矢張り厳しい。
こうして抱きしめる行為も下心よりも、率直な厚意に基づくもの。だから。毛玉二匹たちもぎゅーっとしがみ付いてみせるのだ。
動けるように、動かせるようになった様子に身を離しかけるが、ぎゅっとしてくる動きに己も一度抱き寄せる仕草を篭めて応えて。

「あとで、こいつらにリセお嬢様から餌を与えてやってくれ。
 それとな。壁を登っている時にしがみ付いてもらってたが、その時に力の通りが妙な感じがし出してな。
 何か心当たりがありゃ聞いておきてぇ。
 貸し借りやら何やら気にするなら、これだけやってもらえりゃ俺としては納得と満足出来る」

そして、ふかふか毛並みと法被の上から手で包まれ、すりすりと頬ずりしてもらうと、嬉しそうに毛玉たちが身を揺する。
形違いの尻尾がぱたぱたぴこぴこと揺れる姿を見遣りつつ、くしゃりと前髪を掻き上げて声を放とう。
下心云々は抜きとして、此れ位あれば過不足なく得心と共に差し引きゼロにできる。
時計台から降りて、ラウンジやら喫茶店にでも立ち寄ればいい。その時落ち着いて茶を呑みつつ、餌を貰えれば二匹も喜ぶだろう。
そのついでに、壁上り中に感じた違和感の答え合わせが出来れば、凡その得心も出来得るだろう。

そう思いつつ、放り出した刀を拾い上げ、のっそりと立ち上がる。

リセ > 「はい、どうぞ。お金なら―――………え?」

 金で肩がつく放しではないことは理解した。
 その後、しばらく処理落ちして固まってから。
 え?あ?え?とあたふた慌ててぼ、と紅くなった後。
 いやそのわたしなんかでは役不足と思われldia@と噛みまくっていた。
 お小遣い全放出の方がまだ覚悟は決まっただろうが。
 あわあわしまくった後、分かりました、と真顔で肯き始めたら――多分本当には何も分かっていない。

「そう、ですか……?
 何というか……先生は、包容力がある、という方、なので……だから大分、安心できます……」

 相手による類のことだから多分これまでの基盤がないと落ち着くどころか余計に怯えかねなかったとは思えて。
 震えもすーっと収まってほっこりと暖かくなった心にもう感じていた恐怖は薄まって。
 それよりも落ちかけて救い出してくれたことを思い起こしては、まるで絵物語のようで、先生は英雄様です…と口走りかけたが軽薄かも知れない…と控えた。
 ただ、今後も憧憬と尊敬を抱くことだろう。
 しか、と抱擁を交わすと離れる時はさすがにはにかんだ表情を浮かべつつ、餌、と聴いて大きく首肯し。

「ええ、ええ…もちろん…! 今日もきっとヒテンちゃんとスクナちゃんのお陰で助かったのもあると…思いますし……
 え……? あ、力……魔術、のような……異能力、のこと、でしょうか……それでしたら多分、わたしの体質のせいかもしれません……
 何も、返せてはいないと思う、のですが……」

 返せるものもなければ返したものもないと思うが。
 むしろふわふわふかふか、柔らかで暖かくさらに愛らしく己を癒して優しい気持ちを与えてくれる小さなお友達。
 いただいてばかりで何も返せていないのに、と思う。思うが……やはり幸せ。頬の感触を尊く感じながらしばしじゃれ合いを愉しみ。
 破かれた制服を何とかしてから、お礼と説明がてらお茶くらいは、これくらいは…!とラウンジで一服して小さな彼らが好むものをなんでも注文してくださいと財布のひもを大いに緩めた。

 そして両肩にモモンガと栗鼠のお友達を乗せてこちらも立ち上がると一旦制服を着替えに行かせてもらってから、ラウンジで放課後を楽しく締めくくるのだった。

ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 時計台」からリセさんが去りました。<補足:名簿内ご参照下さい>
影時 > 「役不足とか云ったら、歯噛みするオンナノコは結構いるんじゃねェかなあ」

金で解決する、片を付けだす、とか言うと、頭のおかしい事をやらかす、言い出す事例は世の中事欠かない。
金品のやり取り云々を求めだすにしても相手による。そうでなければ、色々と面倒にもなりかねない。
さて。体質は抜きとしても、素地がある、見どころがある類ではないだろうか。
言葉して暫し固まった後、あたふたし出す様子にくつくつと笑いながら、本当に分かっているのだろうかね、とも内心で思う。
分かっていなくとも良い。構うまい。こういう話題は、笑える範囲であるのが丁度良い。

「だと、良いんだが。そうそう、お礼ならこいつらに、な。
 ――魔術のようなって云うコトならば、然りだ。今後のこととかも含めると、聞かせてくれると有難ぇ。
 
 命の遣り取りってのは、価値でどうこうしよう、とすると際限なくなっちまう。
 服を繕うとかにしたって、限度もあるだろう?ん? なら、俺としちゃぁ話を聞かせてもらう位で、十分に納得できる」
 
毛玉達含め、これまでのことがあったから、とも言えるだろう。そうでなければ、すっと奇麗に震えも止まらなかったかもしれない。
そんな感慨を抱きつつ、件の不思議な毛玉たちを見る。
そうすれば、えっへん、とばかりにふかふか毛並みの胸を張るように見えたのは、見間違いではないだろう。
内心で、全く……と零すも、この二匹の限定的とはいえ、文字通りの動物的感覚や直感がなければ間に合わなかった事例と言える。
だから、彼女から手づから餌でも貰えば、十二分の満足できることだろう。

「今の季節だと、何があるかねェ。林檎?梨? たまにゃ種や麦粒とかから離れてみたくてなー……」

夏毛から冬毛に生え変わる前とはいえ、ふかふかさはいつだって鼓動と共にそこにある。
そう言わんばかりの二匹と少女がじゃれ合う光景を眺め、気遣いながら二匹を肩に立ち上がる姿を見遣り、言葉を返す。
餌といっても、そんなバカ高いものを頼むつもりはない。つつましげに二人と二匹でと思えば果実一玉が丁度良いだろう。

そう思いつつ、時計台を下りてゆき――。

ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 時計台」から影時さんが去りました。<補足:黒髪/暗赤色の眼/不精髭/白い羽織+暗色の着物と濃茶色の袴、黒い襟巻/刀/鎧通しの短刀>