2024/06/11 - 14:29~16:21 のログ
ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 身分混合クラス 大教室」に影時さんが現れました。<補足:黒髪/暗赤色の眼/不精髭/濃茶色の羽織と袴、暗色の着物/腰に差した刀>
影時 > 雨が降ると、遣れることが限られてしまう。屋外の訓練場を主に使う人間の悩み処だ。
雨天、泥濘時の訓練も遣らないわけではないが、経験則として受講者のウケが実によろしくない。
学ばせたい側の熱意と学ぶ側の興味が常に合致するわけではない以上、仕方がない。
故に雨天時に備えて前もって屋内訓練場を確保できない場合は自学か、座学。或いは――。

「――予め正解が分かってても、此れは此れで面倒いなー……」

テストの監督、その後の採点の作業に駆り出されるのだった。
昼過ぎの王立コクマー・ラジエル学院、使われていない時間帯の大教室を間借りする姿がまさにそれ。
風雨が明り取りを兼ねた窓のガラスを絶え間なく叩く風景は、帰宅時を思えば既に物憂い。
講義の際は幾人も並んで着席し、書を広げる長机の一角で紙束を広げる姿が嘯く。
壁に得物らしい長細い品を立てかけ、脱いだ上着を椅子の背もたれに掛けた男の姿だ。
答案であるらしい紙の山を傍らに積み、片手に持つ正解を記した側を一瞥し、答案に赤いインクで〇やら×を書き込む。
かりかり、かりかり、と羽ペンを操る音が絶え間なく響く風景は、それだけで眠気を誘うよう。

「遊びてェ気持ちは分からンでもないが、良いと云うまで近づくんじゃねえぞ?な?」

その気持ちは、男に常にくっついてくる小動物達にも変わりないらしい。
長机の上には答案と筆記道具の他、外した襟巻と思しい黒い布がもさっと山のように置かれている。
こんもりとした山に見えるのは、布の中に何かが潜んでいるからに他ならない。
布の山をちらと一瞥しつつ声を放てば、もそもそもそ、ぽこっと言わんばかりの動きで顔を出すものが二つ。
小さな耳が二匹で四つ。黒いつぶらな眼が二匹合わせて四つ。形違いの尻尾が四つ、ならぬ二つ。
いかにも退屈げとも、昼餉を終えた後なのか、眠たげな仕草で大きく口を開けて欠伸する仕草を応え代わりにするかのよう。

影時 > 何故こういうことをしているのか。
今日テストを行う予定だった、別の学科担当の教師が病欠していたからだ。
他の教師に任せればいいと思うが、教師は常に充足していない。
偶々雨天で、屋内訓練場を事前確保できておらず、座学でも遣ろうかと思っていたら――これだ。
講義が丸々座学という名前の自由時間になったことで、歓喜する生徒たちに覚えてろ、と念じて、やむを得ず急に入った仕事に取り組む。

別の身分混合クラスで行う予定とされていたテストを見守り、答案を回収する。
テスト時間が終わった後、三々五々と教室から出ていく学院生を見送り終えれば、あとは地味な作業だ。
他分野の講義を担当する教師の仕事は、準備が良かった、事前の段取りにそつがなかったと言える。

「正誤を付けた後の評定は本人に遣ってもらうとして、……こういう遣り方もあンのか」

座学よりも実習に重きを置く側として、この手のテストのやり方には思うものがある。
期末ではなくとも、その都度でテストを行い、実力を計ろうとする遣り方は実力把握の意味で有用。
ただ、問題が幾つかなくもない。
やり方としては面倒な上に、少しでも成績を良く見せようとする生徒が何か為そうとすることもありうる。

(……あの教師、なーんか、妙な噂あったよな……)

或いは唾をつけた生徒に高得点を付ける代わりに、云々と。生徒数人と浮名を流してるような話が無かっただろうか?
脳裏に過るものに、ははは、と乾いた笑い声を響かせつつ、採点する手は止めない。

影時 > 「……お、これで終わりか」

気づけばあっという間ではあるが、実際はどれだけ時間をかけたのやら。
太陽の傾き、日の動きで図るにしても、外は雨だ。雨が止まない。
雲の向こうの太陽が沈んだ、沈み始めたことを悟ろうとするなら、もう少しかかるだろうか。
赤いインクをつけた羽ペンをペン立てに差し、ごきごき、と首を鳴らす。
親分が仕事を終えた素振りを認めたのか、寝床代わりでもある襟巻の中から、二匹の毛玉が飛び出す。
着物の袖に飛び付けば機敏な動きで肩上に登り、もう一匹は勢いのままに頭上にべったり貼り付く。

「あとは仕舞って、帰り際にでも職員室に出せば――……良かった筈だよな?」

採点した答案を一枚一枚改め、ちゃんとインクが乾いていることを確かめては所定の書類入れに収める。
それを職員室にある置き場に放り込んでしまえば、これで今回の仕事はすべて完了だ。
飼い主が採点に勤しんでいる間は暇だったのか、それとも空腹を持て余していたのだろうか。
頭上や肩上の二匹がせっつくように、または催促するように短い前足で自分の身体を叩いてくる。

「へいへい」

仕方がねぇなぁ、と。小さく息を吐き出し、腰裏を漁る。帯で括りつけた雑嚢がそこにある。
中から取り出す小袋から、欠片サイズに砕いた胡桃を頭上と肩上の毛玉たちに与える。

影時 > 肩上もそうだが、頭上で咀嚼されるとぽろぽろと零れてくる欠片がある。
文句は云うまい。仕事中、インク瓶を倒す等されたら、それで終わりになってしまう。
食べ終わるまでじっと待てば、広げたままの筆記道具類も片づけてしまおう。
羽ペン含め、筆記道具は私物だ。故に全部まとめて雑嚢の中に放り込んで仕舞える。
だが、答案を入れた書類入れはそうもいかない。
出入りできる条件は非常に限定されているとはいえ、雑嚢の向こうに繋がっている倉庫に入れると、外部への持ち出しに繋がりかねない。

「この調子だと、早めの晩飯を強請りかねねェなぁ。……早めに物を納めて、食堂かラウンジにでも行くか。」

毛玉めいた子分たちが小腹を満たして、満足げにげっぷすればもしゃもしゃと毛繕いを始める。
此れだけでどれだけ保つか? 多分、そう長くはもたない。また空腹を訴え出すことだろう。
そう思えば、後片付けと掃除を済ませ、答案を職員室に収めに行く方が正解か。
雨音を聞きつつ立ち上がり、教室の後ろから掃除道具を引っ張り出し、散らばった食べかす共々掃除にかかる。

事が済めば、荷物と得物を片手に職員室へ――。

ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 身分混合クラス 大教室」から影時さんが去りました。<補足:黒髪/暗赤色の眼/不精髭/濃茶色の羽織と袴、暗色の着物/腰に差した刀>