2024/07/08 - 22:14~00:37 のログ
ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 ラウンジ」に影時さんが現れました。<補足:黒髪/暗赤色の眼/白羽織に暗色の着物、濃茶色の袴、黒い襟巻/刀>
影時 > 昼休み時を過ぎた、王立コクマー・ラジエル学院。
そのラウンジに出入りし、或いは陣取る者の数は掻き入れ時にこそ劣るが、皆無ではない。
授業を抜け出し、サボる学院生も居れば、受け持ちの講義や授業を終え、やることがなくなった講師等々。

「……――長雨続きで別の仕事を請け負うのは吝かじゃァないが、せめて集中できる部屋位用意してくンねえかなあ」

場所によっては風通しのよさや涼しくなる魔法でもかかっているのか、陣取り続けるものも多くない。
人入りが失せた隙を縫ってか縫わずしてか、云わば穴場のような一角に腰を落ち着けてぼやく姿が一人ある。
既定の制服とは全く違う、特徴的とも云える異邦風の服装に袖を通した男の姿。
4人掛けのテーブルに幾つかの封書や書類を広げ、傍らに鞘篭めの刀を立てかけた姿は良くも悪くも目立つ。
だが、訝しがる姿が少ないのは講師として顔を知られ、或いは違和感を損なう位に着こなしているからだろう。

「口語訳や注釈書を認めるなら、辞書の幾つかを借りて部屋に篭る方が気楽なんだが」

傍らにある得物が示す通り、メインは武術の指導。だが、培った知識や技能は多岐に渡る。
故にこのマグメールの地から見れば、異国のコトバで記された故郷由来の書に目を通し、訳書や解説書を記すことも出来る。
そう、出来はする。出来はするが、せめて専念できる環境位は用意をしてほしいとも言いたくもなる。
文学専任の教師の一人から依頼、要望という形で寄こされた封書の中身を一瞥し、零すぼやきはため息交じり。
漏れた溜息を篭め直すように、手に取るカップの中身を呷る。魔法で冷やされ、氷を浮かべた紅茶の味は実に渋い。

影時 > 此れは非常勤教師の仕事――かどうかは、偶に考えることがある。否、よく考えろと言われるとそれまでだが。

天候に左右されることはあっても、実技訓練のコマを受け持つことは多い。
はたまたあるいは、不定期ではあるが実地訓練の監督、補佐を務めることもある。外勤の“ぴんちひったぁ”とやら、だろうか。
この手のことが続くのであれば、受け持ちの内容の整理見直しを掛け合ってみるべきだろうか。
そう思いつつ、テーブルの上に放られた皿の上に手を伸ばす。食べかけの軽食がある。
薄くスライスされた黒パン二枚に塩漬け肉の薄切りを葉野菜と共に挟み込んだ、という食べ物。
貧乏臭いと評するものも居るが、逆にこの位のシンプルさが好ましいと思うものも居る。

「……別に講義室丸々とは云わねえが、小さくても資料室やら準備室やら寄こしてくれねぇかねえ、と?」

書斎代わりにとは言わなくとも、開いている場所が在るなら宛がって貰う方が能率は上がる。
図書館の住人になるのもそれはそれでいつもの事だが、思考を巡らせるには人の気配が邪魔になることもある。
手にした軽食を齧り、もきゅもきゅと齧っていれば視界の端を横切るものがある。
早い。そして小さい。テーブルの脚を小走りに攀じ登り、すたっと見栄を切るように上がってみせるのは二匹の毛玉だ。
茶黒の毛並みをしたシマリスとモモンガたちだ。
だが、今日は普段着としているミニ法被は着ていない。そのかわりとばかりに、頭に小さな帽子を被っている。
青いつば付き帽子はどうやら、配達人のつもりだろう。今日は二匹で手紙運びをしていたのだから。

「ご苦労さん。ヒマワリの種喰うか、ン? ……なに、そんな気分じゃねぇって?」

仕事の報酬はだいたいヒマワリの種やナッツ類だが、今日の彼らはそんな気分ではない――らしい。
カップを置き、羽織の袖を漁って取り出す小袋から、小さな種を摘まみ出して寄ってくる小動物たちに示す。
一端は手に取るが、夏毛となっても暑いと言いたいのだろう。
種を突っ返してみせれば、二匹は置いたカップに引っ付きに行く。
水滴を帯びた表面にぺたー……と二匹が抱きつけば、ぺたんぱたんと尻尾を揺らしてゆく始末。

影時 > 「冷たい奴をご所望、か。仕方ねぇなぁ。買ってきてやるから俺の荷物の番をしてろ」

使いに行かせた分、その分の報酬は支払うべきである。子分だからロハということにはできない。
ただ、氷の塊を買ってきて――というのは珍しきものとは言わずとも、味気が無さすぎる。
それならば、嗚呼、良いものがあったか。最近の貴族の子女が食べていたりする売れ筋を思い出す。
冷たい飲み物のカップに貼りついたままの二匹に声をかけ、返事代わりに尻尾を立てる姿を見ながら席を立つ。
厨房の方に向かい、暇そうにしているスタッフに注文を通して暫し待つ。
頼んだ品が乗った碗と小皿、スプーンを乗せた盆を持ち、戻れば二匹が喜色めいた光をつぶらな瞳に宿すのは。

「桃のしゃぁべっと、とか云ったっけか」

新鮮でみずみずしい桃から作った氷菓なら、余分な混ぜものも何もない分、安心して与えられる。
飼い主の分と子分たちの分と分け合って食べるなら、与えすぎの心配もないだろう。
椅子に座し直し、小皿に半分盛れば二匹の傍に置く。
彼らに与えた取り分は、更に半分になるよう盛っておけば、喧嘩にもなるまい。
ぱぁぁ、ときらきらした眼差しで氷菓を舐めだす姿を見遣りつつ、食べかけの軽食を食べ終える。
口の中を茶で清め、漱げば男も自分の分のシャーベットが入った碗を取る。
あ、美味いなこれ。ぱくりと一口、そして二口。それなりに値が張った分、良いものを使っているのだろう。

影時 > 「ああこら、がっつくな。仕方ねェ、あとで濡れ手巾でも取ってくるか」

自分の住処である宿部屋で同じものが作れる――とは、限らない。不可能ではない、というだけと言える。
だが、一番いいのは相応の施設と道具が整い、専門家に任せることだ。
この手の菓子は旨くとも見た目が悪い果実を使えるのも特徴だが、恐らく見た目も整った果実を使っているのだろう。
だから、というわけではないが、小動物二匹の食べっぷりが良い。
身体が冷え切らないようにしているつもりか、時折口を止めながらも結構な勢いで食べてゆく。
お陰でべったりと果汁塗れになってしまうのは、やむを得ない。
だが、べたべたした状態の二匹に、肩に乗られたり襟巻などに潜られるのは少々困る。あとで拭かねばならないだろう。

「……取り敢えずこの依頼は受ける、として。色々掛け合ってみるか……」

現実逃避にもならない思考の切り替えの一環に、元の話題に戻る。
無条件に請け負うばかりにもいくまい。そろそろ交渉ならびに諸処の見直しも測ろう。
作業部屋もそうだが、茶室の類が使えるなら、趣味も兼ねた講義の幅も増える。
そう考えながら自分の分のシャーベットを食べ終え、間隔をあけながら咀嚼する二匹の様子を見守ろう――。

ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 ラウンジ」から影時さんが去りました。<補足:黒髪/暗赤色の眼/白羽織に暗色の着物、濃茶色の袴、黒い襟巻/刀>