2024/08/04 - 21:41~00:15 のログ
ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 図書館」に影時さんが現れました。<補足:黒髪/暗赤色の眼/白羽織に暗色の着物、濃茶色の袴、黒い襟巻/腰に短刀>
影時 > ――夏の特定の時期、図書館は一斉に特定の書物がまとめて貸し出されるという。

嘘か真か。否、真であろう。煙のない処に火は経たず、証なくして話は成らず。
貸し出されるのは教本、読本、魔導書等、系統はいずれも不揃いで、生徒たちに課題を出す講師、教師にもよるのだとか。
さて、ここで一つ問題が生じる。正規の手続きに従って、書を貸し出すのは良い。
だが、たっぷり借りて。沢山返却しに行くとなるのは、どうだろう? 最終的に誰が書架に本を戻しに行くのか。

そんな問題があるかもしれない王立コクマー・ラジエル学院が擁する図書館は、今日も幾人もの人の姿と気配がある。
夏の苛むような日差しをこれでもか、とばかりに振りかける太陽が昼を過ぎ、夕刻に向かって傾き出した刻限でも変わりなく。
魔法的な仕掛けか、それとも風通しが良い設計の賜物か。それともどちらもか。 
直射日光を避けられ、なお且つ涼しい場は本に用があるかどうかはさておき、暑さから避難する目的の者も少なくない。
真面目腐ったように書を広げ、文章の退屈さに耐えかねて突っ伏する生徒を起こすのは、司書であったり、

「……起きとけよー。意外と人目を惹くぞー」

何十冊も書を積んだワゴンを押しつつ、閲覧スペースを通り抜ける男でもあった。
白い丈長の羽織を揺らしつつ、進む姿は勿論司書ではない。
だが、教師の籍を持つ。教える者である以上は、本と触れ合う機会は少なくない。
資料造りのために何冊も借りた書を返却に赴いた折、書架に戻せず堆積した書物を見かねて片付けの手伝いを買って出た。

戻す場所は分かっているのか?
幾つも並ぶ書架に描かれた記号、略号と、書のタイトルを突き合わせれば凡そ分かる。
そうでなくとも、手に取った書の匂いを嗅ぐ小さな生き物達が、何となくだが――分かるらしい。
分厚い書を掴む手に乗る小さなシマリスがすんすん、と背表紙を嗅ぐ。
すると、シマリスが視線を向ける先に居るモモンガが男の頭の上に乗り、あっち、と鼻先を向ける。書架と書の匂いで照合している、というのだろうか?

まさかなぁ、と首を傾げつつ、その方角にワゴンを押しつつ進んでみよう。

影時 > 「これは何ンか見たことあるな。……薬草学の教本を難しくした奴、だったと思うが」

手にするハードカバーの一冊には、見覚えがある。
多くの人間に貸し出されているのだろう。擦り切れては、装丁し直しているように見える痕跡がある。
傾向として、専門度が上がれば上がる程、マニアックになればなる程、そんな書物に用のある人間は絞られる。
教本が基本的で頻度が多い内容を網羅したなら、この書は数歩より深く踏み込んだ記述が多かった筈だ。
確か、と薬草学を教えている教師やら講師やらの顔を思い出す。
この時期で、課題でも出していたのだろうかね、と。そう思いつつ、僅かに薬草めいた匂いが宿ったそれを手にワゴンを押した先は。

「……――おー。意外にやるなお前ら」

気のない感嘆の声を零しつつ、立ち止まる。
一瞥する書架の略号が示すジャンル、分類が示す内容は間違いない。今回手にする本を納めるべき場所だ。
ワゴンの端で船頭よろしく立つシマリスが、ふふーん、と言わんばかりに胸を張り、尻尾をはためかす姿に苦笑を零し、ワゴンを止める。
手にする書の他、この書架に納めるべき本が何冊かあった筈だ。
それらを抱え、頭上に貼りついたモモンガの生温い体温を感じつつ、本を戻しに向かう。

身の丈があるお陰で、高い処の空きにも本を突っ込み戻すのには苦労はしない。

影時 > 「あー、元の置き場までの案内は大丈夫だからな?ヒテンよう。続き物なら此処まで来れば、直ぐに目につく」

上中下、一巻二巻などと、続き物となっていることもある。
背が高く堅固に作られた書架を仰ぎ見れば、タッチの差か歯抜けよろしく間隙が空いた場所が見える。
恐らくは司書が戻したのであろう書の傍に本を戻し、別の本もまた然るべき箇所に収まるように戻してゆく。
相方と同じく役立ちたい気持ちでもあるのか、頭上で貼り付いた小動物が前足をぱたつかせる姿を上目に一瞥する。
それでも、匂いの観点で置き場所の指南が出来るのだろうか?
この本はこっち、とばかりに前足の爪を差し出し、ぱたんと尻尾で後頭部を叩く仕草にへいへい、と言いつつ書を置いてゆく。
一通り片付けば次の場所へ行こう。すれ違う生徒から、奇異の眼を受けながらも受け流し。

「…………まァ、こんなのも借りられてるか」

次の本は、と思いつつ手に取った本は、どうやら小説、読み物の類であるらしい。
小首を傾げつつ開き、ぱらぱらと捲って記された筆致を流し読む。ざっと掻い摘むように拾い読む。
脳裏に浮かぶ文字の流れをかみ砕けば、呆れとも笑い出したくなるとも云える気持ちになるのは、男女の機微を語るような類だからか。
それも婉曲とも、時折直球的に挿絵入りで男女の交わりを描くようなものであれば、需要はあるのだろう。

(どっかの教師が課題に出してるワケ、……無ぇよな。無いよな?)

左右の肩に降り、或いは上ってくる毛玉二匹と一緒に文字を追い、ぱたむと閉じる。男と毛玉二匹の溜息が揃う。

影時 > 「戻しに行くのも、なンだろうな。此れは此れで気まずい気がしてきてアレだなあ」

泣ける、というか、なんというか。親分の感情の匂いを感じてか、何だか複雑そうな面持ちの二匹が顔を見合わせる。
だが、仕事だ。その二文字で感情の整理を付けて行動に移る。
本を戻しに行く。ただ、それだけのこと。
其れで特別な報酬も何も出るわけではないが、買って出た以上はそれを完遂することに意味がある――。

ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 図書館」から影時さんが去りました。<補足:黒髪/暗赤色の眼/白羽織に暗色の着物、濃茶色の袴、黒い襟巻/腰に短刀>