2025/01/15 のログ
ご案内:「温泉旅籠「九頭龍の水浴び場」」に八蛟さんが現れました。
八蛟 >  
 冬も長く、土地の向こうでは雪が深く重なる
 衣を厚くし、肩を震わせ、臓腑は酒を恋しがるその熱への望。
 綺麗に円を描く満月の夜、鬼は機嫌よさげに王都に滞在していた。

 普段、腐れるばかりで港湾や奴隷の都に比べればなんら面白味が薄いように思えるこの場所。
 鬼が唯一気に入っているのがこの旅籠だった。
 香りの良い木材だけでくみ上げた湯舟に満ちた温泉水。
 足を延ばし、肩まで浸かれる深々さ。
 海賊か商船か 顔見知りの願いで長らく空いた王都の湯は鬼の肌に沁み込んでいる。


   「あ゛ぁぁ~…、…こればっかりは向こう(ダイラス)にも無いもんだからねェ…、…。」


 長いその金色髪 鬼は気遣う様子も見せず湯舟の中で浸らせ、縁で伸ばし預ける片腕。
 盛り上がった体の瘤と、背中の和彫り 傷だらけの肌。
 顔は笑みを浮かべて覗く歯も、鬼歯が太く逞しい。

 持ち込んでいるのか、素焼きの徳利壺とぐい飲みの器が縁で並ぶ。
 時折喉が恋しがれば、つたりとの指をその大徳利に這わせて軽々と。
 絹のように波もなく注がれる酒の道筋。
 満ちた杯を手酌、唇を離すこともないまま、ややじっくりと傾きを上げて。


   「――――は、ぁっ。」


 その中の澄まし酒に喉を鳴らしたくなるように、周囲の視線が少しばかり、集まるか。

ご案内:「温泉旅籠「九頭龍の水浴び場」」から八蛟さんが去りました。