2024/02/19 のログ
ご案内:「温泉旅籠「九頭龍の水浴び場」」からアキアスさんが去りました。
ご案内:「温泉旅籠「九頭龍の水浴び場」」に影時さんが現れました。
■影時 > 何処か見慣れた風景、情景であり、腰を据える土地は違う。だが、見上げる空は――意外と変わらないかもしれない。
一仕事、二仕事終えて懐が温まれば、偶には何処かに行こうという気になる。
例えばそう。少しばかり気になっていた旅籠というのも、悪くはない。
「……思っていた以上に広々してンなぁ、ここは」
かぽーん――と。そんな音がしそうな露天風呂に浸かりつつ、酒をちびりと舐める姿が一人零す。
平民地区に作られた老舗という触書だが、数階建ての木造建築は何処か故郷の風情を思わせる佇まいで気になっていた。
寝床たる部屋に子分たる小動物たちを寝かせ、自由になれば行動は早い。
移動の途中に酒を買い求め、持ち込んだ先は広大な露天風呂。湯面に盆を浮かせ、その上に猪口と徳利を乗せて身体を伸ばす。
何と言っても、広いのが良い。大変良い。普段は住処たる宿のシャワー、または公衆浴場で身体を清める。
広さだけを語るならば公衆浴場も勿論負けてはいないが、錯覚でも占有しているという感覚であれば、此処が圧倒的に勝る。
「ん、酒も悪くない。あとは何だろうなー……奇麗どころでも居てくれりゃ、云うこたぁないんだが」
湯に浸かり、火照る身体の表裏には様々な傷跡がある。
切り傷も刺し傷もあり、火傷もある。抉れたとも見える傷跡が癒えて埋まったと見える痕跡も、火照れば余計に目立つ。
確か、混浴でもあるらしいが、どうだろうか。浴場に踏み入る前の但し書き、注意書きはちゃんと見る方だ。
周囲を囲う岩を背凭れ代わりにしながら、そんなことを思い返して空を仰ぐ。湯気の向こうに揺蕩う月を眺めつつ、更に一口。
■影時 > 子分たち二匹をここまで連れてきても良かったが、お湯に浸かるかどうかは――何とも言い難い。
そもそも泳げない。その筈だ。良くて精々洗面器に入れて、湯の上に浮かべる位だろうか。
とても浅い水場で水遊びくらいはするだろうにしても、如何に温かいといっても温泉まで嗜むかは、止めとこう。
夜に目が覚めたりしたら、餌遣り含めて構ってやるとしよう。若しかしたら出歩いて良そうな二匹を一旦は思考の外に遣る。
「静か、……でもねェかこりゃ」
耳が良いのも考えものだ。
この時期虫の音、羽音は目立つほどでもないが、やはり場所が場所なのだろう。男女が睦むような声音、響きが微かにする。
そのことに敢えて文句を挟む所以はない。そもそも、この国では珍しいコトでも何でもない。
は、と苦笑交じりに口元を歪めつつ五体を伸ばし、湯の中から腕を引き上げる。
空になった猪口にもう一杯。どれだけ呑んでも尽きない瓢やら酒壺でもあれば良いのだが、常に同じ味だったら困る。
この場での肴は、見上げる星月で事足りる。贅を凝らした酒肴も嫌いではないが、そんなものは夜が明けてからでもいい。