2024/10/27 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」に枢樹雨さんが現れました。
枢樹雨 > 平民地区。大通りから少し外れた位置に軒を連ねる大衆酒場。
その片隅。四人掛けのテーブルに腰掛け、三味線を抱える異国の衣装身に纏う女。
腰掛けているのは添えられた椅子ではなく、テーブルの上。
下駄を履いた足をゆらゆらとぶら下げ、対面する二名の男と向き合い、小首を傾げている。
長い前髪の下では、仄暗い蒼の双眸が不思議そうに瞬かれ、下卑た笑みを浮かべる男を見つめていて。

「何故と言われても…、頼まれたから弾いただけだよ。」

そう言って視線を映す先には、此方を見てくれるなと言わんばかりに身を縮こませる小柄な男性。
異国の楽器に興味を持って演奏を頼んだものの、それを好機とばかりに因縁をつけてきた男達の
体格の良さや柄の悪さに関わる事を厭い、我関せずの姿勢を貫いている様子である。
因縁をつけてきた側も男に用はないとばかりに其方を詰める姿勢は見せず、変わらず女の―――
己の方を見遣るまま。
どうしたものかと、カウンター奥に居る店主と思わしき老齢の男性にも視線を向けてみるが、其方こそ
いつもの事と言った様子で素知らぬ顔。

テーブルの上、演奏を頼んだ小柄な男性から前金と言って貰った数枚の硬貨を指先で撫でては、
傾げていた頭を元の位置へと戻し、頭上の薄絹を揺らし。

「五月蠅かったのなら詫びるよ。貰い物だけれど、お金を渡そうか?」

貰った硬貨がどれほどの価値であるのか、あまり知らない妖怪は、一応の誠意を示したつもりではある。
しかし硬貨の価値を知る者からすれば二束三文にしかならない枚数。
淡々と抑揚のない口調と相俟って、ともすれば煽っているかの様なやり取りとなっているのだから、
遠巻きに様子を見ている酒場の客からすれば愉快な見世物となっており。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にエリビオさんが現れました。
エリビオ > 大衆酒場にてテーブルを拭いたり食事を運ぶ傍らに東洋の居住まいの女性と絡む男衆のやり取りを見ていた。
酒場で喧嘩はいつものこと、されどそれがたおやかな女性ならば、いつものことじゃあない。
謝罪の意の金銭を手に掴みかかろうとした男衆を見れば、手にした銀トレーを振りかぶって投げ。
男は無惨にも銀トレーが頭にぶつかり、倒れた。

「おおっと、ごめんね。ちょっと手が滑ってしまったよ」

銀トレーをすくい上げて、頭の形に窪む部分を指先で撫で。これまた謝罪もそぞろに女性の方へと向き直り。

「それと、お姉さん。そんな奴らに金を渡さなくていいよ。
 ただでさえ煩い酒場だもの。その奇妙な楽器は煩わしさを忘れさせてくれたよ」

枢樹雨 > 華奢な指先でテーブルから拾い上げた硬貨数枚。
それを対面する男達に差し出せば、男の手は硬貨ではなく己の手首を掴もうとする。
―――その、一瞬。
どこからか飛んできた銀色の何かが目の前で男の頭部にぶつかり、己の手首は誰に掴まれることもなく、
そして視線向けていた筈の男も視界から消える。

ぱちぱちと、長い前髪の下で瞬きを繰り返す仄暗い灰簾石。
同じく驚いている様子の男の連れが倒れた男を揺さぶる様子に、やっと事態を少しだけ把握する妖怪。
気が付けば傍らに立つ貴方を見遣れば、抱える三味線の棹を指先で撫で。

「五月蠅くなかった?…それなら、良かった。…その人は、繊細なのかもしれないね。」

煩わしさを忘れさせてくれたと、それは褒め言葉ともとれて、安堵するように小さく胸を撫でおろす妖怪。
男達が悪意を持って因縁を付けていたことも気が付いていない妖怪は、倒れた男を不思議そうに見下ろしている。
――と、そんなやり取りに腹が立つのは当然倒れた男の連れ。
『ふざけるな』と声を荒げては、貴方の胸倉に掴みかかる。

何事かと、再び驚くこととなる妖怪。
少なくとも演奏を褒めてくれた相手への好意はあるもので、諍いを止めようと掴みかかる男の衣服を掴むが、非力な
妖怪の手に男を止める力はなく。

エリビオ > 「ワーオ、このハゲたおっさんを繊細というか。お姉さん、結構いうね。」

ケラケラと笑う少年は周囲を見ておらず、また乱闘に興じてざわめく喧騒も意識の外。
元来興味をもったものしか目に入らぬ性分だ。
自分が因縁を吹きかけられたことも気づかぬ様相で、辺りを見回すその人へなにか言おうとした唇は。

「っと!」

いきなり胸倉を掴みかかられて止まってしまう。

「……っ、おねえさん、ちょっとだけ。離れてて」

息苦しさに霞む声でなんとかそれだけ吐き出したなら。
掴みかかる腕の肘と肩を掴み上げる。関節が軋む音に悲鳴をあげる男と、少年の周囲に緑色の旋風が巻き起こり。
軽々と男を背負投げにし、その体を地面に叩きつけて大衆酒場を揺らす。それも、また客たちの賑わいになるだろうか。

「ふぅ、おじさん達酔い過ぎてるね。足もつれて転んだみたい。」

皺になったエプロンを掌で伸ばしながら悠々と呟いた。

枢樹雨 > 「違うの?」

笑う貴方の顔は幼い男の子。
答える己もまた幼子のように小首を傾げるのだから、これまた愉快な見世物となってしまうか。
しかしあわや乱闘ともなれば話は違う。
掴みかかる男と比べれば細身の貴方に少しでも加勢しようと手を伸ばすが、当の貴方が離れていてと言うならば、
咄嗟に伸ばした手を引っ込め、三味線を抱え込む妖怪。
そして次の瞬間、ふわりと揺れる頭上の薄絹。確かに見た、色付いた風。
それに気を取られる間に掴みかかった男はひっくり返っていて、この数分の中で一番の驚きを感じることとなる。

前髪の下、丸く見開かれた蒼の双眸。
颯爽とエプロンを整える貴方をじぃ…と見遣る数秒。
束の間の乱闘…と言うには一方的な喧嘩に賑わう酒場の客を気に留めることもなく、テーブルからひょいと飛び降りて。

「すごい。君、今何をしたの?不思議な風が見えた。」

妖怪の華奢な指が掴んだのは、せっかく皺を伸ばした貴方のエプロン。
銀トレーを頭に喰らった男が目覚め、すごすごと連れの男を引き摺って店から逃げていくも、もはや其れに興味はない。
それよりも、すっかり貴方に興味津々の妖怪は、「ねぇ」と黒の双眸を覗き込み。

エリビオ > 「違わないけれど、胸に秘めた方がいいよ。
 お姉さんも自分が怒ってるときに、繊細だね、なんて言われたらカチンと来るでしょう」

何事もなかったように告げて振り返る頃には絡んできた客も店を去っていた。
臨時で雇ってくれた老齢なマスターも何も言わないことに、小さく息を零し。
覗き込む片目に、にっ、と笑い。翠色に輝く掌を相手に向ける。

「風の魔法を使って投げただけだよ。
 こんな風に。」

投げる……のではなく爽やかな風を放った。
穏やかな風は黒髪を、さらり、さらり、と秋風のさやかな心地に靡かせた。

枢樹雨 > そんなものかと、感情の機微に疎い妖怪は瞬きを繰り返すのみ。
その事について思考を巡らすより前、興味の矛先を見つけてしまえば、火に油を注ぐ言動は直るに至らないだろう。
そんなことよりと、貴方への意識が前のめりとなっている。
喧騒の片棒たる男達が店から出ていけば、元の賑わいへと戻り始める店内。
その中で、再び己の薄絹を、髪を揺らす風に、仄暗い蒼は好奇心に煌めき。

「魔法。これが魔法か。こんな風に目で見て感じたのは初めてだよ。
 君は魔法使い?……給仕じゃなくて?」

淡々と抑揚のない声音に、幾分かの興奮が混じっている。
己の髪を靡かせ抜けていった風を追うように背後を見ては、すぐさま貴方に向き直る。
そうして改めて貴方を頭から足の先まで眺めてみると、そういえば席に案内してもらった様なと、儚い記憶を辿って首を傾げ。

「……もしかして、お仕事の邪魔をした?」

ふと思い至った可能性。
そもそも何かを注文する前に演奏を頼まれたこともあって、自分のテーブルには酒も無ければ食事もない。
肉体を得てかれこれ半年。少しくらいは人間の常識と言うものを学んだ妖怪は、殊勝にも若干しょげた様子を見せて。

エリビオ > 「魔法を見たことがないんだ……この国で珍しいね。」

ゆるり、と翠色の手を引いて。

「俺は学生だよ。魔法の勉強をしてる。
 で、夜は学費稼ぎで働いている。
 お店にきたとき最初に席に案内したでしょ。
 だから魔法使いで給士かな。」

ふふり、と小さく笑っていく。が、温和な相手の相貌がわずかに曇るのを見れば小さく瞬いて。

「邪魔……いやいや、邪魔なんて。客のトラブルを収めるのも俺の仕事だから。
 ……でも、うん。そうだな」

何かを考えるように顎に手を添えて。

「もし、ご飯なんて食べる気がなければ、上の宿屋に行かない?
 君のこと色々と知りたいし。」

どう?と薄く小首を傾げていく。

枢樹雨 > 「魔法が込められた道具…とやらはそこかしこで見たことがあるけれど、実際に扱っているのを見るのは初めてだよ。
 …否、もしかしたら知らない間に周りで使われていたかもしれないけれど。」

魔法、魔術、妖術etc…。
様々な力が存在する中、明確に魔法と名付けられたものを目にするのは初めてだった。
とはいえ目に見えぬ魔法が存在していればさてどうか。
ふむ…と思案気に口許に指を宛がっては、翠色の軌跡を作る貴方の手を見送り。

「学生で、魔法使いで、給仕?…忙しいね。」

貴方が教えてくれる貴方のこと。
ひとつひとつ指折り数えて辿ってみれば、じつに色々な事をしている。
何をするでもなく、得た肉体で日々を生きる自分とは違う。人の子らしいと言えば、人の子らしい貴方。
そんな貴方からの誘いを聞けば、示された場所を見るように天井を見上げ。

「宿。…柔らかいお布団、ある?…魔法も、もう少し見せてくれる?」

寝床がなくとも問題はないが、柔らかい寝床の心地良さはよくよく知っている。
興味惹かれた様子で問いを重ねると、掴んだままの貴方のエプロンを軽く引き。

「そうなら行こう」

エリビオ > 「じゃ、お姉さんに魔法を見せたのは俺が初めてなんだ。なんか嬉し。
 ……それにしても何事もなくて良かったよ。」

今更ながら相手の無事な姿に目元を細め。

「柔らかい布団あるよ。ここのベッドは柔らかいって評判だから。
 魔法みたいの……いいよ。いっぱい見せてあげる。」

エプロンひくその手を撫でて、とって、繋いで二人して二階の宿の一室にいくのだった。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からエリビオさんが去りました。
枢樹雨 > 快い返答があるならば、断る必要性は皆無。
こくこくと頷いては、幼さを感じる貴方の顔を見上げ、繋がれた手を柔く握ろう。
そうして向かうは貴方の向かう先。
カラコロと下駄を鳴らし、怪談を上がっていって―――…。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」から枢樹雨さんが去りました。