2024/09/09 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」に影時さんが現れました。
影時 > 平民地区に建てられた冒険者ギルドに隣接する酒場。そこは眠ることはない。
時刻によって、人の流れが減ることはあるだろう。
だが、途絶えることはない。冒険は朝起きて、夜に終わるとは限らない。そうでないことも多い。
個々人の事情も絡めば仕事始めの景気づけ。仕事を終えての体力回復のため。祝いもあれば悼みもある。

何はともあれ、人間腹が空けば――。

「……――おーい、お姉ちゃん。俺にもアレとこれとソレを頼まぁ」

――何かものを入れたくなる。それは自然の摂理だ。

夕刻を過ぎ、人入りが増え始めた頃合い。隣接するギルドから遣って来ては、空いたテーブル席に座す姿が声を上げる。
冒険者の装い、ファッションは多種多様だが、いかにも異邦人然とした姿と風貌を示すものも少なくないだろう。
キモノと呼ばれる仕立ての服に袖を通した男がひらりと手を上げ、折よく近場から響く注文の声に便乗する。
他所の席の事情までは知らない。とやかく聞く気はないが、見えた姿は己の顔を知っているらしい。
目礼してみせる姿に、ドーモ、と頷きを返しつつ、左腰に差したままの刀を鞘ごと引き抜き、テーブルの端に立てかけよう。

影時 > 装いが身軽であり、荷物らしいものも何もない――というのも、そう珍しいことでもあるまい。
納品するべきものが軽く少なく、或いは何らかの手続きを行うためにギルドを訪れたついでに、ということもある。
この男の場合は、後者だ。
朝早くからギルドに立ち寄るより、掛け持ちしている仕事を思えばタイミングをずらす方が気楽で良い。
その掛け持ちしている仕事との兼ね合いも考え、資料の取り寄せと細々とした手続き等々。
事務仕事として考えれば、面倒と言えば面倒が過ぎる。
だが、必要と思うなら仕方がない。今やるか、後にやるか。それなら今済ませてしまう方が、後々楽だ。

「お、来た来た。……ついでに“えぇる”も今のうちにもう一杯くれ。どうせおかわりするから」

運ばれてくるのは麦粥に、厚切り肉のステーキ。付け合わせの温野菜類。それと木製のジョッキに並々と満たされた麦酒だ。
分厚い肉は既に予めカットされており、酒や粥をかっ喰らう合間につまむに丁度良い。
だが、麦酒はついつい一気に飲んでしまうと分かっていれば、先におかわり分も頼んでおくのも賢明には違いない。
昨今の流行りか、魔法か魔導機械で冷やされて出される酒は風味付けと相俟って、まだまだ汗ばむ気候に良くなじむ。
イタダキマス、と手を合わせ、まずは酒を一杯。もう一杯。ついでにもう一杯。景気よく飲み干して、ぷはぁ、と息を吐く。

影時 > 美味い物だ。この類の酒は店にもよるが、自分で醸造し仕込んでいる場合、味わいがさらに変わる場合がある。
家庭の味という奴かもしれない。ドワーフ仕込みも旨いが、店ごとに仕込んだ酒というのも、ピンキリあって面白い。
だが、大量に仕入れて、大量に消費する場となれば、どこぞの酒蔵から一括で買い入れていることだろう。
そのお陰で遠慮なくたっぷり呑めて助かる。
好み云々となると別の酒になるが、余り出回らない酒を一晩で何本も空にされるのは、酒場のマスターから見ると困るらしい。

「商会に頼むのは容易いと云や容易いんだが、幾つか纏めてにしねぇと手間が過ぎるからなあ……と」

大商人を雇い主としているお陰で、欲しいものを手に入れやすいというのはいい。
だが、だからと言って、全部雇い主任せにするというのが正しい訳ではない。仕入先、入手先というのは幾つも用意すべきものだ。
それは例えば必要な素材だけではない。
心の燃料ともいえる、酒類だってそう。好きな酒はあるが、偶に他の味わいだって試したくなる。女遊びにも似る。
ジョッキを干せば折よく運ばれてくる新しいものを受け取り、ウェイトレスに忝い、と手を振って見送りながら、懐を漁る。
取り出すのは幾つかの依頼書の写し。初心者向けから、中級者向けまである。色々ある。

「……一人で事を運ぶのも良いが、偶には誰か連れてかねェとお偉方に睨まれるからなあ……」

いずれもギルドの入口の掲示板に貼られたまま、長く残っていたもの。

影時 > 連れて行く際、直ぐに浮かぶのは身内と呼べる弟子だ。
ただ、弟子の教練を考えると易し過ぎるのは避けたい。かと言って、臨時のパーティを募るにしても。

「ものの見事に、面倒しい奴だけ残っちゃってまあ。
 季節の変わり目を考えたら、脅威が失せて取り下げられそうなのもあるが……ン?」
 
次の年も考えるとそうもいかない、か。依頼書の内容に改めて目を通しながら思う。
魔物退治の仕事はよくある仕事だが、夏場の湖沼地帯に潜む類の魔物は、どうしても忌避を覚えるものは少なくあるまい。
討伐すべき獲物の脅威もそうだが、夏場特有の蟲や沼地の臭気、等々。対策と準備を思えば、手っ取り早くサクっとはいかない。
夏から冬になれば、魔物が冬眠か寿命を迎え、沈静化する可能性もある。
可能性はあるが、来年も同じ脅威が生じるか、最悪繁殖していて何倍にも倍加するリスクもある。
それ以前の問題として、冒険者ギルドが未履行の案件を幾つも抱えるのは、信用的にどうか――ということもある。
世知辛いなァと内心で慨嘆すれば、ギルドの入口辺りで小さな声がする。きゃーとか何アレーとかいった、声色。

「お前ら、よくここが分かったなァ。……宿に戻ってても良かったんだぞ」

酒場の床、出入りする人々の足元を機敏に走り回って、卓上に飛び上がってくる毛玉が二つ。
白い法被を着こんだ茶黒の毛玉の正体は、シマリスとモモンガだ。常々子分と呼ぶ旅の道連れ、仲間である。
今日は何やら出歩いていたが、親分の匂いだか何やらから、居そうなところを巡ってみた――のだろうか。
こんなトコに居たんでやんすか、とばかりに、ぺたんと座り込む二匹が尻尾を垂らせば、卓上に置かれた品々を見る。
豪勢なご馳走とはいかなくとも食べ物を並べた様子に、あっしらもー!とばかりに飛び跳ねてみせる。

「仕方ねぇなあ。おーい、ちょっといいかね……?」

強請られたら仕方がない。フォークを下ろし、手を挙げながらウェイトレスを呼ぶ。
目につく良さそうなサイドメニューを一つ二つ、それと水を頼む。
こいつらの、と顎で毛玉たちをしゃくれば、心得ているとばかりに笑って身を翻す姿を見送る。
暫し待てば運ばれてくる生野菜と、水を満たした小さな器が運ばれてくる。
わーいと食事に飛びついてくる姿を見遣れば、エールを片手に依頼書の写しに再び目を通す。

新発見の迷宮の階層探索があれば、此れを優先しようかと考えながら夕餉を済ませて――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」から影時さんが去りました。