2024/08/14 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区・大通り」にルスランさんが現れました。
■ルスラン > 「駄目だよ。
その値段では買えない」
暑さに茹だる昼下がり。
薬屋の屋台の前で男は店主に向かってそういった。
確かに消炎用の軟膏を買い求めに来たが、提示されたものは求める条件に対して不足がある。
「この膏薬、作ってから随分と経ったものだろう?
今のところ効果には問題がないのかもしれないけど、生薬の香りが弱い。
これでは持ち帰っても長くは使えない」
ピリッとするような独特の芳香の弱さを指摘する。
これが完全に消えてしまうと薬効は格段に落ちるだろう。
店主もわかっているから、それをどうにかして売ってしまいたいのだ。
「その値段で売りたいなら三つ纏めて、だ」
買い叩いている、と言われたらそこまでだ。
だが、こちらもそれ以上譲歩する気もない。
双方ともに長い沈黙のあと、店主は紙袋に膏薬の器を入れ始めた。
「助かるよ。在庫は今どのぐらい?
うちは荒くれ者が多くてね」
残り数は予定補充数には足りないが構わないだろう。
安く仕入れ、なるべく効力があるうちに使いきるよう指示を出せばいい。
納品先を書きつけて、懐から貨幣が入った袋をを店主に握らせた。
「これは前金。
残りは今日の夜までにすべて納めてほしい」
一先ず自分が受け取るべき紙袋を抱えて薬屋の庇の下を出た。
まだまだ陽は高い。
己の黒い髪はどうしてもその熱の影響を受けやすい。
ゆえにマントのフードを目深にかぶって大通りのほうへと歩き出した。
■ルスラン > 「…まったく、暑くてどうしようもないな」
ふー…、と、吐き出す息すら暑いように思える。
陽が落ちて気温が下がればもう少し街を回るのも楽になるというのに。
膏薬の買い出しも終わった、不足している備品も最遅で明日の昼には詰所に納品される予定だ。
自分も今日はもう勤務時間がそろそろ終わるし、明日は一日休みの予定だ。
少しぐらいは街をふらついて羽を伸ばしたところで許されると信じたい。
フードの縁を親指で少しばかり持ち上げて市街地を軽く見て回る。
街の活気と、僅かな影の奥に息をひそめているこの世の闇と。
賑やかな声の後ろ側に聞こえる悲鳴に誰もが耳を塞ぎながら生きている。
この街はそういう街だ。
一度立ちどまって、フード下の視線を遙か先の王城へと向けた。
あの城の中ですら、きっとこの世の混沌と汚泥が静かに口を開いて生贄を待っている。
(まったく、いやな世の中だ)
口に出せば誰が聞いているかわからない。
だから口に出さずに深い深い、そして長いため息を男は吐き出す。
長く濃い睫毛が、その瞬きに合わせて酷暑の熱気の中で揺れていた。
■ルスラン > 全て事も無し。
そんなことがあるか。
この世はすべて問題だらけだ。
王国の民は神に祈り、信心を捧げるべき人身御供へと捧げ、そして
「くだらないな」
それくらいは思考の則を越えて声になる。
男は知っている。
姿を現さない神に祈って何になる。
既に聖女と全うに呼べる存在の本当にこの世にあることか。
知っている。
この世に人事られるものなど、本当に指降り数えられるかどうか。
だから、男は神に祈らない。
だからと言って自分が神だなって思っていない。
まつろわぬ神に祈ると言えば、あっという間に異端の身になろう。
だからこそ。
既に、この世にない父に、母に、祈るばかり。
■ルスラン > だって誰しもそうだろう。
心のに余裕があるうちは、誰しもが宗教に祈る。
けれど心に余裕がなくなったらそうはいかない。
絶望の淵。瀕死の淵。
神ですら見放したものを、誰が助けるというのだ。
無条件でこの身を愛してくれるものなど、この世には数えられるほど多くはない。
深く、細く、息を吐き出した男は止めた足をまた動かし始める。
明日は休日だ。
もうこのまま己の部屋へと戻り、何も考えずに薄暗い部屋で深い眠りを貪るのもいいかもしれない。
それは、仕事に没頭している普段の己からすればきっと贅沢な時間だろう。
ご案内:「王都マグメール 平民地区・大通り」からルスランさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にエウフェミアさんが現れました。
■エウフェミア > 考えたくないくらいの放浪の末にたどり着いた国で女は休息を取っていた。
王都の平民地区にあるありふれた宿屋の一階部分にあるありふれた酒場の奥の方。
テーブル席に一人で座っている女はぶどう酒の瓶の二本目を注文するかどうかで迷っていた。
さほど酔っているわけでもないが、そろそろ路銀が怪しくなってきている。
放浪する間に冒険者の真似事をしたり剣闘士になったりして稼いだ金だったが、いざ使ってみるとあれよあれよという間に減ってしまう。
大望も大義もありはしない。
守るべきは己のみとなってしまった身のなんと虚しいことか。
かつては窮屈だと思っていた騎士としての生活は今から思えば光り輝いていたのかも知れない。
自由ではあるのだが、女はその自由を若干持て余していた。
「飲むか、飲まざるか……」
■エウフェミア > 「飲まずに後悔するくらいなら飲んで後悔することにしようか」
一人つぶやいた女は大して混んでもいない酒場の主人に二本目のぶどう酒の瓶を要求した。
次は何をして稼ごうかと考えながらミニドレスの裾から伸びた脚を組んだ。
ほっそりとしていながら筋肉質な脚に不釣り合いな華奢な黒いパンプスが軽い音を立てる。
二本目の瓶を開けるとグラスへと白い液体を注いだ。
酒の一滴は血の一滴……いや、そんな言葉などありはしないか。
わずかに酔いが回った頭であまり意味のないことを考えながら静かにグラスを傾ける。
爽やかな酒精がのどを通って胃へと落ちていくのを感じる。
「やはり美味いな……」
また呟くと無意味にグラスの縁を指で弾いた。
■エウフェミア > 次に何をして路銀を稼ぐかは大きな問題だった。
冒険者として稼ぐのはそう簡単ではない。
一人ではどうしても上手く行かない場合が多いから人を集める必要がある。
人を集めるには人脈か名声か実績が必要だろう。
自分にはそのどれも欠けていることは明らかだ。
「…まず名前を売るのが良いか?」
名前を売るために一人でもできることで実績を積む。
ついでに人脈か名声がついてくれば言うことはない。
「となると、また闘技場か……」
この国の闘技場は何故かやたらとレベルが高いところが厄介だ。
出てみたはいいが敢え無く負けてしまっては名声どころか生命すら危うい。
「それとも仲間を探している冒険者に売り込むか…」
どう売り込むかという問題はあるが剣闘士をするよりは実現しやすそうに思える。
問題は新しい仲間とどう上手くやっていくかだが、それは相手によって話が違ってくるから今考えても仕方ないことだ。
そんな事を考えながら女はグラスを傾けた。
■エウフェミア > 「──早いな、もうなくなったのか」
いつのまにかぶどう酒の瓶は空になっていた。
さほどのペースで飲んだつもりはなかったのだが、考え事をしながらだったのがまずかったか。
幸いにして美味かった記憶は本物のようだ。
小さく苦笑いをすると女はテーブル席から立ち上がって主人への支払いをすると店を後にした。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からエウフェミアさんが去りました。