2024/07/28 のログ
■シルニア > 「はーい、いらっしゃいませーですー。
え?いらっしゃいませ?お客さんですっ!?」
私の店は有力な商人とのコネもなければ、広告活動もしていない。これから広告活動を試みる次第だったところだ。
それに、こんな小さな小屋にお客様が入るだなんて、思ってもいなかった。
座っていた私は、がたん、と立ち上がって目を丸くした。
「えっ、あ、はい、売り物ー…の材料、ですね。魔力ポーションの。
お見苦しいところをお見せしちゃってごめんなさいなのです。すぐに片づけるですねー」
そそくさと片付けを開始。とはいえ、作業途中であったので、枝の花が散らないようにバックヤードに隠そうとするだけだ。
だけれど、焦っていた故に、両手を使って枝と桶を手にしたゆえにバックヤードの扉を開けられない。
「ん、しょ…ん…みえない、です…」
手荷物に阻まれる視界をかいくぐって、裏手の扉を開けようとしているものの、苦戦中。
■カナーン > 「あー、すんませんっす。冷やかしっす。いつも閉まってた店が開いてたもんすから、どんなもんかなーってな感じっす」
えっへへ、と困り笑いとともにそう言うと、カナーンは改めて店の中に踏み込んだ。
あまりスマートとは言えない体で商品の間をすり抜け、店主だろう少女の近くまでやってくると、ひょいひょいと手を振って彼女は言う。
「いやいや見苦しくなんてないっす。同業類業の方の作業は興味深いっすよ。まあ、秘密もあろうっすからあんまりじろじろ見るのもあれっすけど」
言いながら、カナーンは小柄な彼女の動きを眺める。そのがんばり感に思わず頬をゆるめながらすすっと身を寄せると、彼女の手からひょいと桶のほうを奪い取ろうとしつつ。
「持っとくっすよ。ひとんちのドア勝手に開けるのも失礼っすし」
■シルニア > 「あ、ありがとうございますです…!」
彼女の手伝いのおかげで私の両手は自由になり倉庫部屋の扉を開けた。
続けて彼女から荷物を再度受け取り、緊急の収納なので倉庫部屋の入口近くにおいておけばいいだろう。
鮮度の劣化は…おそらく、あの材質からすると気にすることではない。
…それよりも。
「…冷やかし、ですかあ…。
…って、同業者さんなのです?あの、あの、もしもしよかったら陳列の仕方とか、アドバイスいただけたら嬉しいのですっ!
私、つい最近お見せを始めたばかりで、それでも冒険者稼業、学校、お店、どれも両立はとても難しくて、時間が取れないので…」
がっくり、うなだれていた様子が一変。私は彼女に対して強い興味がわいた。
同類業とはどんなものか。私のように冒険者向けに販売をしているのか、しているのならばどのような形態で、どのようなプロモーションをしているのか…
聞きたいことはたくさんあるけど、一気に放出してしまえばドン引きされるだけ。好奇心をぐっとこらえて。
「…っと、失礼しましたです。私、標葉魔法店のシルニア=シルハと申しますです。
あなた様はー…?」
■カナーン > 「重ねて申し訳ないっすけど、あたしはこんな立派な店は構えてないんで陳列とかはちょっとアドバイスできないっす。あたしの商売はオーダーメイド中心なもんすから」
荷物を返すと、きらきらと音が聞こえそうな彼女の様子に、カナーンは慌てたような困ったような笑顔を浮かべて両手を肩の前で横に振った。
その後に少女が続けた言葉を聞くと、カナーンは眼鏡の奥で目を丸くし、おおー、と感心の声を上げる。
「三足生活っすか、すごいっすね。ぐーたらなあたしにはまねできそうにないっす。……おっと、あたしはカナーンって言う名前で、向こうの外れの森で注文商売やってるっす。シルニアちゃん……シルハ。ご家名っすか? それとも部族名とかっすか?」
自分より頭半分は小さい、可愛らしい少女の姿に目を細めつつ、カナーンは自分のローブの奥から木製のスツールを取り出すと、勝手にそれに腰掛ける。
■シルニア > 「そう、ですか。でも注文商売という点は参考になるかもしれませんです…!
魔法薬を売りにしているので、ぜひ固定の取引先を得られたらなー、と夢見ている最中なのですが──」
自分語りの話が長くなりそうになって口をつぐんだ。
「カナーンさん、ですね。よろしくお願いいたしますですっ。はい、シルハは家名ですっ。
カナーンさんにとっては見ごたえがないかもしれませんが、今椅子を持って来──」
狭い空間に並べられるポーション棚、それから、棚に分かれた小さな籠に詰められた、小さなスクロール。
壁に掛けられているのはサンプルの杖と、杖制作に使う植物の植木鉢。それらを見せるために、椅子を用意しようとして…
そんな私の気遣いも彼女の準備万端によって無駄になる。すこしげんなりとしたけれど、それ以上にあらわになるのは相変わらず好奇心だ。
「んっ、その椅子、魔法で出したのですかっ?それとも最近流行りの折り畳み式…?」
ローブからスツールが取り出されたことに興味津々。私の知っている魔法は故郷のものばかりで、王国のこと、それも多文化集う王国の魔法の把握はほとんどできていない。
一朝一夕で覚えるのは難しいだろうけれど、それについての知識への欲は大いにある。
■カナーン > 「ご商売始めたばっかりって言ってたっすね。あたしも安定収入のために近所の村に簡単なポーションを売りに行ってるっすけど、このへんだともうだいたい商売固まってそうっすからねー……冒険者やってるなら、ダンジョンのセーフエリアで出張店やるといい宣伝になるっすけど……」
椅子を取り出して腰かけると、少女ががっかりするのが見えた。ありゃ、と笑いながらも再度しまうのもはばかられてそれに腰かけたまま、カナーンは組んだ足先をゆるゆると揺らす。御家名ということはお貴族様か、と心中で呟きつつ、すっと両手でローブの前を開くと意外とぴったりとしたレオタードのような服が露わになった。
「ローブの中に折り畳みの椅子持ってたらちょっと面白いっすけど、一応魔女なんで魔法っすよ。あたしの先生が開発したんすけど、紋様化っていうのを使ってるっす。こうしてー……こう」
言いながらカナーンがローブの裏地の紋様のようなものに指を引っ掛けて引っ張ると、今度は空の鍋が姿を現した。ひょいひょいと調子に乗って水筒、クッション、ロープなどを取り出していたカナーンだったが、ふと動きを止めて。
「……あれ、これなんだったっすかね」
言って、首をかしげながらその紋様に指をかけて引っ張ると、手の中に現れたのは赤黒く節くれだった棒状の卑猥な形状のものだった。一瞬固まった後、顔を赤くするとばっと両手でそれをローブの背に隠して。
「あっ、はは、ははは。ちょちょっとこれはナシで。ナシで!!」
■シルニア > 「ダンジョンの中、ですね。確かに名案です。
今していた作業は、おいしいポーションを作ろうと思って…。そのポーションの試作を、夏季のお祭りなどの機会で配布して宣伝しよう、なんて計画なのでした。」
彼女の案を頭に入れつつ、彼女の説明の言葉としぐさをしっかりと見る。
ローブの内側に刻まれていた模様を見て、私はそれがすぐに魔法に関連するもので、今の現象は転移魔法やその応用だと推測した。
「魔女さんなんですね。それに、そんなに次々と…転移魔法…じゃないみたいですね。紋様化…だと、物体を記述に書き換えているような、そんな魔法でしょうか?」
次々に現れるものを興味津々に眺める。冒険に必需な水筒にロープ。休憩の品質を上げられるクッションに…
「…!」
一瞬目を見開いた。用途はわからないけれど、明らかに男性のソレの形をしたモノ。それが卑猥なことに使われることは間違いない。
「は、は、はいっ、そーですねっ。のーたっちということにするのです…!」
淫具を持ち歩いている…?ちょっと興味があるかもしれない。私は獣の特性があるため、そういう日もある。うずいて仕方がないときは枕にかみついて我慢しているだけなのに。
「え、えっとー。その紋様化は転移魔法とは別のものですよね?変化とか、変身とか、そのたぐいのものなのでしょうか?」
話を逸らすことにした。だって、それについて考えるほど気になって仕方なくなりそうだから!
■カナーン > 「先生とあたしの秘術なんで詳細はヒミツっすけど、おおむね当たりっすよ。やるっすねシルニアちゃん」
自分より小柄な相手で、それを拒まれないせいかすっかりちゃん付けで呼びながら、カナーンは両手を後ろにやったままこめかみに汗を浮かべて笑った。
ちらちらと周りを見て、机の上に出した鍋を手に取ると、まるっきり男のアレでしかないその棒の上にひっくりかえして被せ、なかったことに、を強調するように両手を彼女に向って開いて見せる。
「ま、まあその……。ほら、注文商売っすから。注文されたら作るわけっすよ。決してあたしが使ってる……っていうか、そもそもあたしのじゃないっすから!」
一気に早口で言い終えると、ひとつカナーンは息を吐き出す。そしてローブの前をそっと閉じると、彼女の話題に回帰して。
「そ、それよりも。ポーションがおいしいっていうのは確かに新しいっすね。確かに、飲む系のポーションは飲む系のくせに飲めたもんじゃない味のものばっかりっすし――」
ごまかすように始めた商売のアイデアの話。それでも話し出すと熱が入ってしまって、それは新しい客が来るまで続いたとか――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 標葉魔法店」からシルニアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 標葉魔法店」からカナーンさんが去りました。