2024/05/28 のログ
影時 > さて、少し困ることがある。――“手段”についてだ。

状況の如何によっては一番安直かつ手っ取り早いことがある。刃を抜くことだ。
それが何を意味するのかは、多少は理性のある人間ならば、嫌でも考えるだろう。刃傷沙汰の四文字を。
もっと空気が読めてまともな、なお且つ腕に覚えがあるつもりなら、立ち振る舞いの次点で察しただろう。

ただ、そうではない場合が少し、厄介だ。酔っ払いならまだいい。
ささっと背後に回って急所を突き、昏倒させて物陰に転がせば多少は穏便にはなる。

「…………あー。」

問題は、ヒトではない場合である。見知ったとはいえ半狂乱な悲鳴を上げる少女に噛み付く、野良犬。
草履の足音も密やかに小走りで現場に走り寄り、見えてくる光景につい胡乱げな眼差しを向け遣る。
ギャラリーというか、見物客というか。そんな周囲の人間も躊躇うというか、引きが勝るような空気。

「とり、あえず。……離れようや。――な?」

爪先に丁度転がっていた適度な小石を摘まみ上げ、右手に微かに握り込む。
親指でぱちんと弾いて放つ指弾で、野犬の首筋辺りを打とう。
殺意丸出しな重い一撃ではない。どちらかと言えば、敵意(ヘイト)をこちらに向かせる程度のもの。
だが、気づくならば分かるかもしれない。
よりほんの少し、深く牙を埋めたら、次の瞬間にもこの人間は首を刎ねてくるだろう。密やかな殺意を。

ティアフェル >  犬に喰いつかれてその牙をどう離すかに必死でいろいろと余裕のない犬恐怖症。
 生理的に受け付けないものに対して人はどこまでも弱い、という好例。
 どこか戸惑いがちな周囲の視線にもその中にいつの間にか混じる薄い気配にも注意が行かずに、

「いーやあぁぁ!! マジで!! 無理だから!! う゛っぐ……! い゛あ゛!!」

 王都名物強姦現場よりもよっぽど切羽詰まった悲鳴。ぐき、と牙を突き立てられた肌から滲む鮮血。もうそろそろ神経の方が限界を迎えそうである。
 気が遠くなってきたように白目になりかけたところで――

「……っ?」

 不意に投げつけられた小石に食らいついていた犬がびく、と震え。
 首筋という、喰らいついている口蓋に近い部位への衝撃に噛みつかれている側も気づいて。
 泣き濡れた目を見開き、周囲を見回し、犬の方は唐突に受けた打撃に邪魔をされたことに対する苛立ちを覚えてか注意を流し。
 食らいついていた牙を弛め、横槍を入れた気配を窺ったようだったが。

「え……?」

 視覚には頼っていない分嗅覚と勘で不穏な気を察したか、かぱ、としつこく喰いついていた口を開けて耳を寝かせ。
 きゅぃ、と先程までの獰猛な唸り声は鳴りを潜め、小さく情けない降参の声を発すると、尻尾を丸めて、殺気の出所に怯えたような視線を向けてはそろり…と数歩あとずさり。
 そのまま慌てたようにそそくさと退散してゆき。

 その後ろ姿を唖然と見送っては、改めて小石の投石先を探して首を巡らせ、

「……! えっ、あ。っわ……え、っと……ぁー……か、カゲ…さん……?」

 涙で汚れた情けないままの面で驚いたように目を見開いて街の灯りにその目立つ容貌を確認しては伺うようにそろっと久し振りに口にする名を呼んで。

影時 > こんな往来のど真ん中で、段平を振り回すことがどれだけの意味を持つかどうか。
緊急時であったという言い訳とともに目撃者は望めるかもしれないが、所詮余所者は余所者だ。
両手を揃えて縛られてしょっ引かれた場合、無事に住処に戻れるかどうかが疑わしい。
否、戻ることはそう難しくはない。寧ろ容易いかわりに、色々と訳ありとなってしまうのは避けたい。

余程余裕がないのか、同時に苦手……なのだろうか?
あられもない位に響きわたる悲鳴、叫びに諸人の注意が向くのなら、その認識の陰に潜むように事を成せる。
気配の発露を抑えるのはお手のもの。そこから一歩進んで、野犬に指向性を向けて白刃を突き付けるような殺意を示す。
すり足で静かな踏み出しながら、目を遣れば指弾による投石を受けた野犬と目が合う。

「……そうそう、大人しく向こうに行っとけ。なぁ?」

此れで駄目だったら、聊か手荒にもなっただろうか。
少なくとも忍び寄って、野犬の首根っこを掴む方が手っ取り早かったかもしれないが。
尻尾を巻き、唸り声を潜めだした様相に視線をずらさずに犬を見続ける。最終的に後ずさり、そそくさと逃げてゆくまでを見届ける。
見届け終えれば、はぁ、と腹から息を吐き出し、肩をひょいと竦めて。

「はいはい、解散解散。見世物じゃねぇようっと。
   ――と、……よう、久しぶり。変なところで会うなぁ」
   
周囲のギャラリーにお道化た様子で手を振り、散るように促し、涙に汚れた姿の前にしゃがみこもう。
大丈夫か?と袖口を漁り、手拭い程の白い布を差し出してやれば、首に巻いた襟巻の中からぽこん、と。二つ顔を出す姿がある。
先程まで煩かった野犬の気配が失せて、ほっとしたのだろう。
顔を出す小さな獣の姿は二匹のシマリスとモモンガだ。
おそろいの白い法被を着こんだ毛玉が、初めて見る姿をケガをしている様子に心配げに黑い瞳を向け遣ってみせる。

ティアフェル >  色街でもないし酒場街でもないけれど、人気がないという訳でもない平民地区の通り。
 ただでさえどちらかと云えば目立つ風貌の人物が犬相手とはいえ刃物を持ち出せば、やる気のないと評判な衛兵がしゃしゃり出てこないとなっても、ちょっと噂には登ってしまったかも知れない。

 冒険者としての名があれば余計ギルドに顔を出せば苦言のひとつも受けた可能性もある。
 けれど、小石を投げた程度ならば勿論その懸念も失せるし、なんなら犬に泣かされていた情けないのを助けた親切な人、という好い話がもしかすると囁かれるかも知れないくらいである。

 向けられる殺気を気取れないほどに鈍くはない野性。斬り捨てられるリスクを負ってまで食らいつきたい獲物でもない。
 服従しかねない勢いで媚びたように巻いた尻尾を振って素直に立ち去っていく野良犬。

 追い払ってくれたことくらいは察して。驚きの後は安堵。
 何年振りかで見たことになる貌にご無沙汰過ぎると目を丸くした後は、ほー…と失せた犬の気配に胸を撫で下ろし。

「ふぁー…びっくり、したぁ……、ほ、んとに、お久し振りぃ……並びに、ありがとう~~本当にありがとう~助かったあぁぁ……このご恩は極力忘れない~」

 犬に襲われたびっくりとお久し振りのびっくりで心臓はずっと忙しい。
 見てただけの野次馬たちも適当に退散させてもらい、落ち着いてくると、傷が痛んでじわっとさらに涙が滲み差し出してもらった布をずびばぜん゛…と情けない声で受け取ると目許を抑え。

「っわ……」

 そして、思わぬ場所からぴょこぴょこでできた二つの小さな貌にさらに驚いてまた目が真ん丸に。
 見覚えのない小さな二匹に意表を衝かれたように目を瞬いて。

「え、あ、わ……――かわ!」

 かわいい! びっくりしたが法被まで着込んで心配そうな黒い眸を向けてくる二匹はとても愛らしい。涙も引っ込んで痛みも忘れ、わあ、と目を輝かせた。

影時 > ここらが裏路地やら、貧民街区だったらまだ、多少は話が変わっただろう。
人目を憚らずに済む場所は良くも悪くも、手を出しやすい。刃傷沙汰も多いのも道理と言える程に。
己も含め、腕に覚えがあり、なお且つ逃げ足にも自信があるなら、駆けつけてくる衛兵から逃げるのも難しくはない。

だが、その後も常に逃げられるかどうか? 
メンツを穢されたと思った衛兵らが、後の事態をより厄介としかねないか?

ここが人助けの難しさ、厄介さだ。情けは人の為ならず――とは言うけれども、手段を択ばないわけにもいかない。
結果として、余計に事態がこじれることもなく、どうにかなった。安堵の息だって零れてしまうものだ。

「いやぁ、全くだ。久しぶりのついでにどういたしまして、とか云うのも妙な具合だがね。
 今すぐ返せ……なンてことは云わねえから、まずは怪我をどうにかしねぇと、な?」

久方ぶりとはいえ、この遭遇の仕方はどうだろうか。だが、どうにかなる範囲で良かった、と。そう思いたい。
噛み傷の具合はどうだろう?差し出した布で目元を抑えるのは良いが、血の匂いは職業柄嫌でも意識せずにはいられない。
しゃがむ姿勢で、先端が地面をたたきかける腰の刀の柄を押し込み、邪魔にならないようにしながら身を乗り出す。

「……お前ら、やっぱどこでもウケが良いなぁ?
 ちょっとだけイイとこ見せてみたいか? 見せたいかぁ。――ったく。良いぞ」

傷口の具合を確かめるついでに身を乗り出せば、肩上で心配げにする二匹の毛玉を見ての反応に頬を掻く。
先程までは犬の気配に隠れていたが、それが失せた後の安堵と親分と仰ぐ男の知り合いへの興味に顔を出した。
そんな二匹が可愛いと聞けば、左右の肩の二匹が小躍りするように身を揺すり、尻尾を立てる。
その後、男にお伺いを立てるように視線を向け、何か訴える風に見て、毛並みを漁る。
モモンガの方がもそもそとふかふかの毛並みから、小さな本のようなものと輝石を取り出し、振る仕草の意味が男には分かるらしい。

頷けば、一旦本と輝石を仕舞うモモンガが目を輝かす相手の方に跳ね、ふわーりと皮膜を広げて肩上に留まるだろう。
動きを止めなければ、続く仕草で本と輝石を取り出し、器用に二つ折りの本を開く。
頁の片方に石を近づければ、生じる光の暖かさの内容に気づくかもしれない。傷を塞ぎ、賦活する癒しの魔法の光だ。

ティアフェル >  治安の悪い下層地区であれば、衛兵はそもそもまったく気配もなかったかも知れず、犯罪行為だとしても公けに行えた勢いだっただろうが。
 平民地区であんまり大騒ぎしてればこのまま行けば数分後には一人二人顔を出してきたかも知れない……けど、それだったらさっさとやって来て犬何とかしてくれと被害者は声高に云いたい。

 でも、今夜も衛兵諸氏はやる気皆無。どっかでサボっている者多数。現場は衛兵も来ないまま犬も野次馬も遠のいて一応の落ち着きを見せている。

「お変わりなさそうで何より~……及び、久方振りでこんなザマにて恥ずかしいやら情けないやら……
 いつか必ず…とか云ってると負債が嵩みそうなので速やかに返却はしたい所存であります……が…はい、確かに」

 出来れば遭遇場面のみ速やかにお忘れいただきたいくらいだが、そう都合よくは行くまい。
 噛まれた箇所が疼くように痛む、病気でも持ってたら厄介だ、さっさと治そう、と肯いて、身を乗り出した彼の方から顔を覗かす二匹に、前は見なかったよねーと思い出しながら。

「ちっちゃくってかわいーっ、初めましてだねー。栗鼠と……なんだろう、むささび…?
 ……? いいとこ?」

 犬以外の動物はすべて好き。ネズミ恐怖症だったら悲鳴を上げていただろうが、まったくそうでもないのだからかわいい一色だ。
 にへぇ、と締まりなく表情を弛めて、かわいいと云うと喜んでいるような反応にぎゃーマジでかわいい、と存分にでれる。
 しかし、いいとこ、という謎なワードと輝石に一冊の書を取り出す様子にきょとんと小首を傾げ。
 そして、肩に跳んでやってきてその上で小さな手がまさかの魔法を行う様子に瞠目して。

「え、あ…マジで? なに、えー…使い魔? 魔法生物、とか、なの……?」

 唖然としたような表情で生まれる癒しの光を察して、自分で出来るから平気、と止めるのも忘れて、そんなことできるんならむしろ間近で見たい、と目が零れそうな程の表情で傷を塞いでくれようとする優秀過ぎるモモンガの様子を凝視し。

影時 > 治安が悪い危険地帯は何事も極端になる。なりがちだ。そもそも衛兵が足を運ぶこともない場所だが。
貧民地区ほどではなくとも野犬がうろちょろするのは、若しかすると餌付けしてる者でも居るのだろうか?
時折、そう思わずにはいられない。
冒険者としての仕事で、低ランクの仕事として野犬退治が偶に入るのは問題視している人間も少なくもない証だろう。
ただ、積極的に果たすかどうかは悩ましい。初心者の枠を抜けたランクとなると、割に合わないと思う者も少なくはあるまい。

「どうにかこうにか、っていう程……あんまり時が経ってる気はしねぇなぁ。
 嗚呼、そう思うンならあれだ。何か甘いものでも売ってる店を案内してくれりゃぁ良いや。それで事足りる」
 
一番最初の出会い方も思うと、やはり忘れ難いものがある。
彼女たちのような時分だと、美少年の方が救いの神としてふさわしいかもしれないが。
とは言え、シチュエーションは抜きとしても元気そうなのにはホッとできる。お互いの稼業を思えば、生きているだけでも十分過ぎる。
そんな再会で前と違っていると言える点は、ひとつ。男が連れるには不釣り合いなほどに、愛らしい生き物二匹。

「シマリスと、モモンガだ。ムササビよりちっこいのがモモンガな?
 ン、ああ。こいつらは他の同類とちょっと違ってな」

可愛いだけで余程のことがなければ、すっと懐に入ってゆける。そんな役得がこの小動物達にはある。
いかにもな男がこんなマスコットを連れているという意外性もあれば、一層に可愛さが目立つのだろう。きっと、恐らく。
人語は話せないにしても、解していると思える程の素振りと知性を感じる片割れが動くのを見て、相方のシマリスが親分の肩に座る。
何をするのか、出来るのかが分かっているのだろう。とはいえ、手持ち無沙汰そうに顔を前足で擦って。

「このように魔法を授かっているが、使い魔でもまほーせーぶつでも無ぇんだよなぁ。俺の子分、だよ。
 今そっちの肩の上に居るのがヒテンマル、俺の方に居るのがスクナマルだ」

ぺかーと癒しの光を放ち、一通り傷がふさがったと思える辺りでモモンガは書を閉じ、法被の下の毛並みに戻してゆく。
魔法を厳密に唱えて使っているわけではないが、簡単なマジックアイテムを使えるだけの知性がある――らしい。
唖然とした表情を向ける姿に、こてんと首を傾げつつ、顔に鼻先を擦り付ける毛玉を子分と呼ぶ。
そっちがヒテンマル、こっちがスクナマル、と。二匹をそれぞれ指差して紹介しよう。呼ばれたら二匹はぴこんと尻尾を立てて見せて。

ティアフェル >  富裕地区の方までいくとさすがに野犬もうろつけないし衛兵の巡視も盤石である……が、そんなところに居を構えられる身分でもないのが不幸の許…かも知れない。
 たまに個人的に『犬討伐求む!』と貼り紙している犬恐怖症。
 けれど、大体スルーされて今夜の事態に至る……泣ける。
 だが、運よく助けに入ってくれた恩人……祈りを捧げたくなる程には恩義と信仰心めいたものを抱かないでもない。

「そー? 大分お久振りな感はあるけど…そうねえ、月日が経つのは確かにあっという間。
 甘いもの……へえ、意外と甘党だったんだ。それは知らなかった。案内するどころかいっちょ奢りますぜ旦那。せめてそのくらいは……っ」

 他のことならいざ知らず、犬から救ってくれる方は大恩人にカテゴライズされる。何回か助けてもらったならばそれはもはや神であると崇める勢いだ。
 供物のひとつやふたつは捧げたいものである。
 以前会った時と変わらない…と見受けたが。彼にも小さな変化があったらしい、文字通り、小さな。

「モモンガなんだ、そうか、大きさが違うのかー…なかなか生で見ることないからなぁ。
 ちょっとどころか結構な違いは感じる……」

 とびきりかわいいことはさておいて。なんだか言葉が通じているようだし、あまつさえ魔法さえ行使しようという驚愕の光景。
 野生にいるそれとは決定的な違いは一目瞭然。
 肩で不思議な動きをするモモンガと主の肩ですごす栗鼠を交互に見やって。

「使い魔でも魔法生物でもない……のに魔法使い……これはまた異なこと……最近の小動物は進化したものだね……進化に行き詰りつつある人類は驚嘆もの……千年先の生き物みたいだ。
 えーと……ひて……すく……………ひーちゃんとすーちゃん!」

 すげえ勢いで省略した。ちょっと覚え辛かったらしい。さすがに略し過ぎ、と突っ込まれたらお詫びの上もうちょっと考えよう。
 そして、宵闇に眩しく感じるような癒しの光で噛み傷を消し去ってもらえば、うわ、マジで治った…!と傷口を擦って回復術師も驚愕の瞬間。
 
「すごーい! 天才モモンガだーっ、すごいねえ、ありがとーっ、くう、そして激かわ!」

 痛みも引いてその施術に驚いていたが、なんとも飼い主に似て親切で、かわいらしいおチビさんである。
 大喜びで鼻先を擦りつけてくれる仕草に擽ったそうにでれでれしながら指先を伸ばしてありがとうありがとうと、指腹で小さな頭をそっと撫でよう。
 
「よろしくね、わたしはティアフェル、ティアだよ」

 紹介していただいた二匹を交互に見つめて、まるで人間にするようににこにこと自己紹介。

影時 > 野犬退治は――実のところ、忍者としては得手と言えなくもない。
番犬対策は大名はじめ、有力な武士の屋敷や城に忍びこむ際、仕事柄欠かせない事項でもあった。
その知見を応用するなら、群れを纏めてどうこう、ということも不可能ではない。
この国、この街で冒険者として活動を始めた時、得点稼ぎも兼ねてよくやったものだ。

「この歳になると、あンまり年月が経って無ぇと思うことも多いのさ。
 とは言え、経ったのは違い無ぇか。会ったとは言っても、こいつらを子分にするより前だったし。
 
 ――酒呑みの辛党にゃ違いねぇが、甘い奴も作りもするしそれなりに嗜むんだぞ?
 とは言え、高いのはナシでいい。お前さんらが良く行くトコロで十分だ」
 
カミサマ扱いされるなら、神様らしくとは言わなくとも、供物は少なくて良い。奢れ、とは言わない。
非常勤講師という仕事もしているが、ちょっとした趣味のように甘いものを作り、振る舞うことも偶にやる。
どんなものがウケるのかと思えば、情報収集は自分よりももっと身近でありそうな年頃に聞くのが良い。

「あー、あれだ。
 身体を広げるとな、“くっしょん”位の大きさがムササビと考えときゃ間違いない。……まぁ、あンまし見ねえよなぁ」
 
野伏として夜の森に忍び歩いていれば、様々な動物を見ることが出来る。ムササビもその一つだ。
子分のモモンガとの相違点は大雑把に云えば、大きさが何よりも違いか。掌どころか肩に乗せるとなると、きっと重い。
否、重い以前にこんな風に人に懐くかどうか。あまり見ない動物でもある。
ムササビもモモンガもこの土地、この国でもシマリスよりも人目につく機会は少ないかもしれない。

「その内喋り出しは――否、喋られても困るな。俺をどー思ってンのか、あんまり聞きたか無ぇや。
 ……俺の名前と同じように、やっぱり口にし辛ぇのかねえ。どう思う?お前らよ」
 
自分の名を教えた時と同じような反応に、あー、と虚空をふと仰ぐ。
とはいえ、その略し方は元々二匹も受け入れているものでもある。略称で呼ばれれば、ハーイ、と云わんばかりに器用に前足の片方を挙げる二匹が居る。
そんな二匹を交互に見つつ問えば、毛玉コンビの二匹は顔を向かい合わせ耳をぱたぱたさせる。
明後日の方向を見るような仕草は、ノーコメントとでもいうつもりだろうか。

とはいえ、自己紹介を受ければ小躍りするような仕草を見せる。
鼻先を擦り付けてみれば、頭を撫でてくれる相方に続け、とばかりにシマリスもぴょーいっとモモンガの傍に飛び移る。
こちらこそー、と両者ともにそれぞれ形状が違う尻尾をふりふりしてみせて、シマリスも撫でる手にすり寄ってくる。
胸を張るような仕草はお腹の毛も撫でてもいい、とばかりに媚びを売って見せるつもりだろう。

ティアフェル >  まさか今、ベテランの冒険者に頼めるような依頼ではない……報酬額も安価な部類に入るため、きっと彼にも『あー昔やったなぁ』くらいのスルー案件な貼り出しであっただろう……

「そういうものか……お父さんもそんなようなこと云ってた気もする……
 うん、年単位でご無沙汰だったよーな気も……まあ、この街じゃそういう人は多いけど。

 辛党で甘党だったのかー、初耳だわ。そもそもものを食べてる時に一緒することもなかったし。
 善良なご返答を痛み入る……じゃあ、イチオシお菓子をぜひぜひ」

 甘味程度であれば、ご随意に。懐具合を察されたかしらと思いつつ粛々と首を垂れるのである。
 参考になるかはともかく、最近お気に入りの菓子店をご案内したい。

「なるほどー! 分かりやすい。確かにそれに比べればちいちゃいね……間近でみたの初めてかも」

 そもそも森に棲みついてるようなのは近寄ってなど来ない。夜に動物の観察をするよりは寝るか不寝番かのどちらかだ。
 たまに横切ったとしてもムササビやモモンガが飛んでいる場面にはなかなか。だから余計に物珍し気にしげしげと見つめ。お目目がでっかい!と感心し。

「やー……大丈夫じゃない? もしお喋りしたらきっとかわいいこと云ってくれるわよ。それで一層溺愛してしまうかも知れない。
 発音がうまくできない……あ、許可下りた?」

 ちっちゃいお手々を上げての反応に、大丈夫な呼称だったらしいとホッとして。
 もしかフルネームで呼ばなゆるさん!と云われたら少し焦る。たどたどしい発音で呼ぶことだろうが混乱して間違えたり舌を噛んだりしそうだ。
 
「ど、どんだけかわいいねん……もはや異常…かわいすぎ…あざといまでに……かわいいーそして超よいこー!
 いいなあぁ、この子たちどこで会ったの? わたしもこんなおチビちゃんたちいたらなー」

 小躍りしている、ちっちゃい足のステップが萌える。
 栗鼠ちゃんの方もやってきた、尻尾をふりふりしてくれる、あ、萌え死ぬ、と胸を抑え、よしよしよしーと擦り寄ってきてくれる所作に、栗鼠もモモンガも愛し気なレベルで撫でさせていただく。
 お腹いいの?いいの?とそーっとお腹に触れて毛並みに添って撫でると、ふわっふわあー!と感動。ふるふると肩を震わせて。
 結構なお毛並みで……!と大賛辞である。でれでれでれ。全力でデレきるひと時。

影時 > うっかり昼近くに起きて、目ぼしい仕事が掃けており、他に仕事がなかったら――という程度だろう。
野犬退治に対する報酬額とは、ベテラン勢から見るとそのような塩梅だ。
ゆくゆくは魔物の群れを手際よく掃討するための練習と、ギルドから見られることも多い仕事でもある。
手慣れているものであれば、まともに戦うことなく、毒餌やら群れを誘導する手立てを考える。

「そう言うもんだ。が、……おおよそそん位だろうなぁ。ティアお嬢様にお目見えすンのは。
 酒はよく呑むが――手慰みに俺の故郷の菓子を作ったら、意外と受けが良くてなぁ。
 諸々引退した後の仕事に、と思うつもりは無いが、お前さんらの世代で流行りでもあんなら試しておきたくてね」

懐具合もそうだが、最終的にやったことへの対価と思えば、無駄に吹っ掛ける理由が無い。
第一、弟子が懐いている相手でもある。下手な吹っ掛け方は巡り巡って、弟子からのツッコミという形でやってきかねない。
最後に会って、または遭遇してどれだけ経ったかは――深く考えないでおこう。
子分が出来たり、昔取った何とやらで、茶の湯の道を思い出したり、それにまつわる事物を見つめ直した。それだけの機会が在った。
案内してくれるなら、頼むと言いつつ顎を引いて頷いて。

「だーろう? それに警戒心も強い筈だからなぁ……。人を選んでる、のか?ン?」

夜の森で音もなく星月の光を遮るものがあれば、蝙蝠や梟以外で何が居るかと言えば、ムササビやモモンガだろう。
騒々しい鳴き声もさせない生き物は、観察しようと思っても難しい。こうして誰かに懐いて見せるのも珍しいかもしれない。
ハート形を横に転がしたような、くりくりおめめの生き物は感嘆の声にぱちくりと瞬きして。

「だと良いが。……もしかすると、俺よりも上手く喋れて世渡り上手そうかもしれん。
 呼び方は元々、知り合いにそーゆー呼ばれ方もしてたからなあ。俺もきっちし全部呼ぶのはしてねぇや」
 
ヒテンやらスクナとか呼ばれる二匹は、より短い呼び方でもちゃんと自己の名であると認識しているらしい。
二匹が離れて動くことは稀だが、ちゃんと揃っている時でも個々の名にしっかり反応してみせる。
そんな頭の良さに、愛嬌の売り方も知っているかもしれない。あざとさの塊である。

「北の魔族の国に近いあたりの森で、仕事を請けて行ったときにな? 
 ついてくる気満々だったから、連れて帰ってみた。……他の野良とかと間違えねぇように服こさえたり、色々大変だぞ」
 
栗鼠のほうのお腹は、相方のそれと比べてもっこもこである。夏場も冬場もおかまいなしに。
いいの?と聞かれれば、いいですとも!と云わんばかりにえへんと胸を張って、撫でる指先にシマリスが身悶えしてみせる。
相棒に負けじとばかりに、平たい尻尾でぺたぺたと留まる肩を叩いたりするモモンガが、ちらと飼い主を見る。

――先程良いところを見せたお代、でもせがむつもりか。

胡桃かひまわりの種、どっちをご所望だろう。甘味処や喫茶店などについた際、持参の餌を振るまうとしよう。

ティアフェル >  運が良ければ気紛れに受けてもらえるかも…くらいの気分で貼り出しているが、実際そんなものらしい。
 今後も期待はしないで運頼みで依頼書を壁に焦げ付かせていようと思う。

「偶然出くわすとしたらそういう周期にはなるわよね……お嬢様って唐突な呼び方出たな……ど平民ですんで。ついでにガラも悪いです。
 へえぇ……故郷のお菓子かーそれは珍しくて喜ばれるでしょ。わたしも興味ある。
 流行ってるのがいいのね、了解、じゃあそういうの……とはいえ、なんだろう。わたしも流行りには敏くないしな」

 助けてやったんだから、と恩に着せるタイプではないので安心して救助してもらえる。
 怪我も治してもらったうえお礼が甘味で済むなんて恐縮してしまうが過剰なのも宜しくないだろう。
 お店を教えて、その店でいつでもお勧めを味わえるように店の人にお願いして代金を支払っておこうと決めて、ウェストバッグからえっとねーここ、と簡易な地図を紙片に記してお渡ししよう。お勧めのメニューはコレ!とも書き添えて。

「野生動物はねえ……ぜーったい近寄って来ないからのう……わたしも野生動物であったらそうするであろう。この子たちは本当に変わってるのね」

 敵意がないとかそんなこと普通は分からない。知能の高さがうかがえるというか特殊性を感じるというか。
 森をくまなく観察してもこんな個体はほかにいないだろう。
 
「あははっ、確かにね。喋れなくってもこれだけできれば口が利けたら向かうところ敵なしだわ。
 じゃあ良かった。どう呼ばれてもちゃんと反応するのやっぱり賢いなあ」

 きちんとした響きでないと普通覚えないだろう。略したし省略し過ぎたりしてもきちんと認識できるのはお見事である。
 
「魔族の……なるほど、だからこの辺の森にいる子とは違うのかな。
 っふふ、大変…とは云いつつもかわいいおべべ仕立てて……実はめちゃめちゃ甘やかしているのでは?」

 きっと大事にしてもらっているのだろう。のびのびと人懐っこくかわいい性格なのはそれが所以ではと感じるのだ。
 ちっちゃな胸を張ってお腹触らせてくれる仕草……わたしが悶えそうです!と身悶える小さな動きにもう、ハアハアしそう。変質者になってしまいそうでやばい。
 ふかふわなお腹の毛並みを堪能させていただいて、さらに平たい尻尾がペタペタ触れると、ひーちゃんもかわいい~と頭や背中を撫でて。悩まし気な溜息さえ漏れる。

 そして怪我を治してもらったお礼はこちらがせねばなるまいて、と素煎りの乾燥豆とかなら家にあったと思う。好むようなら差し上げたい。
 少しそっちの方へ寄ってもらえるだろうか?と伺って、了承いただければ、近くまで連れ立っていくことにして。
 難しいようなら後日ギルド経由とかで届けてもらおう。
 二匹分の、彼らが好みそうなおいしいもの。
 
 一人と二匹の都合を伺いつつ、ともかくも立ち上がって歩き出そう。別れ際には改めて丁寧にお礼をして――

影時 > 安い仕事はしない、とは言わないが、他に請けるものがなければ小遣い稼ぎ程度にはなる。そんな認識だ。
ベテランは此れだから難しい。初心者やら駆け出しに請けさせるべき仕事を奪いかねない。

「まぁ、そうなっちまうよなぁ。……と、お気に召さなかったかね。柄が悪いかどうかは元より気にしてねぇとも。
 仕込むのも作るのも大変だが、その甲斐あって――な感じかな。
 今度ラファルがそっちに行くことがありゃ、何か作って土産に持たせてやるかね。
 
 最新最高!でなくとも、普段食べてそうな奴でもいい。
 “べすとせらぁ”って云うのかね?お手頃な奴だって甘く見てらんねぇもんだ。甘いものなのにな」
 
それこそ、身体を求めるような恩着せは、もっと時と場合と次第だって考える。程度があるというもの。
魔法という子分たちの虎の子を出さずとも、どうにかなっていれば、癒し手として自力で治療できていただろう。
簡単とはいえ地図を貰えば、数度頷いて、忝いとそっと懐に納めておく。近いうちに賞味に行こう。

「野営する時、虫除けや獣除けの香を焚いていたら猶更来ねェよなあ……。
 何せ、冒険心のある奴らだからなァ。同種よりたぶん頭も良いし、力持ちだろうし」
 
感情の匂いに敏感、なのだろう。如何にも怪しく、如何わしい匂いをしている者にはそもそも寄り付かない。
自分にくっついてきたのも、怪し過ぎることはなかった――のだろうとは思いたい。
真っ当な人間ではなく、時折殺生もするはずだが、それでも離れないのは必要十分以上のコトをなさないから、だろう。

「喋れたら何をどう話すやら。とはいえ、かなり頭いい方だよな、お前ら。……故郷が色々ある処だったからかもな。
 甘やかしって言うか、世話をする以上は諸々責任持たなきゃなンねぇからよう。
 
 ……不慮のなにやらで怪我しねぇように特注したり、巣箱やら何とか、単に甘やかしてるわけじゃないぞ?本当に」
 
彼ら二匹の故郷は悪戯好きの妖精が棲んでいたり、色々と奇妙なものが動いていたりと大変な処だった。
そんな場所で生きているからこそ、自ずと鍛えられ、頭も良くなったかもしれない。それとも二匹が偶々変わり者だったからか。
他者と交わり、あんな風に愛でて貰うのも楽しくしているのは、今の在り方を満喫しているからという気がする。
何だかんだと甘やかしている――と言われると、否定が難しい。子分として大事であるつもりではあるが。
ひときしり愛でて貰えれば満足したのだろう。向こうの肩上で伸びるように留まる姿を見遣り、伺いに心得たと頷こう。

あとは少し買い物か、飲み食い等して寝床に戻るつもりだったのだ。
ちょっと遠回りする位、何も問題はない。立ち上がり、散歩がてら連れだって歩き出そう。
乾燥豆やら手持ちのナッツやらで毛玉たちが腹鼓を打っての帰り道、二匹と一人は手を振って――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」から影時さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にミストさんが現れました。
ミスト >  古木で作られている店内は、床にも、天井にも様々な時代の流れを感じさせる。
 清掃は行き届いているものの、取り切れないシミや、汚れが残っている場所だった。
 しかし、それで人が去るという訳では無く、沢山の冒険者が屯している場所でもある。
 冒険者ギルドは、本日も満員御礼と言う様子で、様々な冒険者が居る物だ。
 その、冒険者ギルドの扉を開き、男装の女性、若しくは、女顔の男性冒険者、と言う雰囲気で足を運ぶ。
 皮のブーツが踏みしめる音は酒場の喧騒に融けてゆき、楽しそうに酒を酌み交わす冒険者達は、新たな冒険者を見ることなく杯を交わす。

「あははっ  今日もまた―     ―楽しそうな所だね!」

 楽し気に、大きく口を開けて笑い、燕尾服の裾を、ひらりと舞わせ、かつかつかつ、とカウンター席へ。
 冒険者ギルド発行のタグを見せて冒険者(仲間)だと言う事を、店員にエールを大ジョッキで注文。
 若々しい顔は、何方かと云えば、透き通る氷の様な様相ではあるが、明るく笑う顔からはその印象は薄いか。
 隣にいる、大柄の冒険者に肩を回して組んでから、飲んでるかい?なんて絡んでも見せて。

 自分の目の前に届く酒杯、それを掴んでは、乾杯!と、隣の冒険者のジョッキとぶつけ合う。
 ゴン、と木のジョッキがぶつかる音がして、ごっくごっくごっきゅ、と美味しそうに、酒を呷ろうか。

ミスト >  隣に座っている冒険者は迷惑そうにみえる、まあ、知らん奴が絡んでくればそうなるか。
 だから?
 それを気にするような冒険者(酔払い)など居る筈はないではないか。
 これもまた、対人関係の構築のうち一つだと言ってしまおうか、にぃぃ、と蒼く彩った唇が緩く悪く吊り上がる。

「おいおい、こんな美人な僕が抱き着いているんだ   そんな迷惑な顔をしなくてもいいじゃないか?」

 隣に座る冒険者に放たれる声は、落ち着いたハスキーなボイスで、囁くように耳元に掛けてみせるのだけども。
 矢張り彼はとても、とても、迷惑そうだ。
 仕方がないなぁ、照れているのかい?なんて問いかけながらも腕は離す事にする。
 視線を巡らせれば、酒が悪い所に入っていったのか、喧嘩が始まっていた。
 酒に酔った赤らんだ顔、とろんとしている、酔払い特有の視線。
 其の上で、何が気に入らないのか、大声で喚きたてていて、こぶしを握って――――。

「――  あ。」

 右ストレートが、喚いていた片方に繰り出される。
 確りと握り込まれている拳に、筋肉の乗っている腕は、滑るように、もう一人の冒険者の頬にぶち込まれていく。
 殴られる様子がスローモーションに見える気がして、殴られた冒険者は。

「耐えた ねぇ。 はははっ――!」

 もっとやれ、周りの野次馬と同じく、冒険者同士の喧嘩をさらに煽る事にする。
 円陣はまるで闘技場(リング)の様に、冒険者を囲い、その中で、二人の冒険者が、殴り合う。
 顔面を、腹筋を、闘士クラスではないだろうけれど。
 肉を打つ音が響き、Aがよろめき、それでも歯を食いしばりBの顔面に一発。

「はて  彼らの喧嘩の理由は―――  ?」

 問いかけて、それが帰ってくるとは思わないが、近くの野次馬に、首を傾いで見せた。