2024/04/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2 広場」にカルロスさんが現れました。
■カルロス > 「あ゛ー……太陽がまぶしい……」
昼下がりの広場のベンチに足を開きながら座っている男が一人。
軽く結っただけの髪はところどころぼさっとして、ライム色の瞳はうつろに近い。その下にはくっきりとしたクマ。
ギルドから出てきて宿屋に戻る道中にある広場に差し掛かって、ベンチに座って、ケツが縫い付けられたみたいに動けなくなってしまった。
めちゃくちゃ疲れた。眠い。連日ぶっ通しでギルドの緊急治療依頼をこなしてきてようやく解放されたばかりだ。
もう今すぐ寝れる。めっちゃ寝れる。ねむい。目を閉じた瞬間に意識が飛びそうだ。
ぐぎゅるるるるううう―――、馬鹿でかい腹の虫もなってる。
魔力もすっからかんで補充したい。いや、霊回復薬の飲みすぎで気持ち悪い。
今何か飲み食いしたら戻しそうだ。こんなボロボロになることある? あるんだよなァ……。
という具合に、かなりの満身創痍であった。
背もたれにもたれかかって腕を乗せ、グロッキーな表情は二日酔いかのよう。
そんな状況で、今日も憎らしいくらいにまぶしく青い空と太陽を見上げていた。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2 広場」にエウヘニアさんが現れました。
■エウヘニア > 人通りの多い広場、行き交う人々の喧騒からまるで隔絶したように
あるいは、この麗らかで気持ちの良い空と陽射しの下にあって
───草臥れきってベンチに腰掛け空を仰ぐ姿というのは良くも悪くも目立っていた。
分かりやすく具合が悪そうな、あるいは行き倒れじみた精彩の欠き方というか───少なくとも女の目にはそう映るものだから。
なんとなく足を止めて、しばし観察する視線を向けてしまったのは生業のせいかもしれない。
(具合悪いのかなー…?少なくとも顔色は、……よくはない感じ…?)
胸中の言葉は当然誰に届くものでもない。
さしあたって自分にできるのは気付け薬を与えるくらいだろうけれど、彼のいで立ちから察するにそのくらいの常備は備えていそうな人物にも見受けられる。
悩むことしばし。
思いつきを得たのちに一度その場を離れてから───。
「……………大丈夫、ですか?お医者様のところに運びます…?」
そろりそろりと近寄って、控えめに伺いの言葉を手向けてみることにした。
■カルロス > 「あ゛ー」だの「お゛ー」だのゾンビめいたうめき声を出しているのは寝落ちしない為の発声だった。
今ここで昼寝をかますのはきっと最高に気持ちいいに違いないが、白昼堂々の盗人にまさぐられても起きない自信しかない。
さっさと立ち上がって宿に戻って爆睡をキめるのがいいのだが、なんてこった尻が動かない。
結果として草臥れた様子で天を仰いでまぶしい日差しにアンデッドエネミーのような声を上げる不審者になるしかないのである。
「……あ゛?」
だからだろうか、そんな状態を見かねたのか、そろりと近づいてきて声をかけられた時、一拍間が空いた。
判断力の低下と、自分に声をかけてきたのかという疑問から視線が向いた先にはこれはまた可愛らしいとも美しいともいえる妙齢の女性。
威圧するつもりはまったくないのだがさっきまでゾンビめいて呻いていたのでそんな声になってしまった。
いかんいかん、と咳払い。
「あ゛ー……んん゛! これは失礼、親切なお嬢さん。
ちょっとばかし疲れて、こう、眠いだけ? だから、あー……医者は大丈夫」
大丈夫大丈夫という目の焦点がややあっていない。ぐらぐらと頭を揺らしている様子はまるで薬物をキメたかのようだが、言葉は通じているので理性的な対応と言える範疇だろう。
わざわざ医者のところまで行くレベルではない寝不足なのだと伝えながら、親切な女性を見上げてにこりと、愛想よい笑みを浮かべてみせる。
■エウヘニア > 今はよれよれボロボロでもきっと普段はきちんとしてるのだろうなあと予想はできるいで立ちに、しっかりとした体つき。
ただし聞こえてくる声は、夜の墓場でうろついてる"アレ"のよう。
とはいえ生きているようだし、もしかしたら普段通りの姿なら、双方何処かで見たことあるな、くらいの認識は生じたかもしれないが。
「…………」
呻き声がそのままこちらに向けられるとさすがに緊張の視線を返した。
一呼吸ほどの間をおいてから、咳払いとともに取り繕ったような声音と言葉が聞こえてきたのなら、少し緊張を緩めた。
「………いや、まあ驚きましたけど。
でも、それならよかった……のかな?
……寝るならちゃんと横になったほうがいいかな、とは思いますけども」
医者は不要といわれたら、いざとなったら担ぐかどうにかとは思っても引きずっちゃいそうだなと何処か冷静に判じていただけに少しほっとした様子。
───とは言いつつも言葉を交わしてるようで目の焦点があさってですが。
頭がゆらゆら。本当に眠いのだな、と思いながら
かろうじて向けられる笑みに少し困惑と同情の目線を向けて。
「お医者は要らなくても休息は必要そうな。……うぅん」
本当はこのまま休ませてあげたほうがいいのだろうけれど、と思う。近場に木陰などがあればそちらの方がよりよさそうな、と視線を巡らせるものの自分一人で引っ張っていくには少々難しそう。
だからと言うわけではないけれど、先ほど近くの水場で濡らしたハンカチを差し出して。
「気休めですけど。目元冷やすと気持ちいいから少しはましかなって」
眠気があるのなら眠ってしまうのが一番だからそれを散らすようなことになったら少々申し訳なくもあるのだけど。
■カルロス > 強張らせてしまった女性に詫びを入れつつ、続く言葉にうんうんと首肯する。頭が揺らいでいるだけかもしれない。
横になった方がいいというのはまさにもっともな指摘であって、それに頷いているようにも見えるかも。
向けられる視線もさながら、女性の顔やいでたちにあれどっかで見たことあるな、と思ったがいかんせん記憶領域の脳がすでに眠りかかってるらしい。思い出せない。
冒険者かつ治癒術師である男は錬金術も多少なりかじっている。ポーションを含む錬金薬の薬草などにも他冒険者よりは知識もあり、もしかすれば女性の生業と関わりのある商会の依頼を頻繁に受けて、すれ違ったり軽い会話を交わしたこともあるかもしれない。
親切な女性はそれは良かったじゃあこれで、と去っていくわけでもないようで、こちらの心配やら同情やらをしてくれている心根まで優しい女性だった。
女神か?
「女神か?」
女神だ。焦点があってないので太陽の光を反射する淡い色合いの髪が後光に見えた。
なんか口からぽろっと出てきたが、ありがたく湿らせてひんやりとしたハンカチを受け取る。
受け取って背もたれから背を離して、目元にぐっと押し当てれば確かに気持ちよかった。
「あ゛ー……生き返る。マジ女神。
なあ女神様、ここで会ったのも何かの縁、良ければ少しばかり膝を借りられねぇかな?」
と、あれだけ張り付いていた尻を動かし、隣を指さす。
膝。そのスカートの下に隠れた太腿を枕にさせてくれ、と。要求としてはとんでもないし断られる可能性もあるので、軽い口調だ。
断られても、このほんのり柔らかな香りがするハンカチの礼に名前だけでも尋ねるつもりである。
■エウヘニア > なんとなくわかる、これは二度寝の誘惑に屈する直前のアレに似ていると。
ゆらゆら傾ぐ頭と、眠たげに細まった双眸。
話が聞こえてるのかどうかは分からないけれど、一応意思疎通はできてる感じ。
自分だったら寝ちゃうなあ、と眠りの誘惑に弱い自分を顧みながら。
もしかしたらギルドの受付で、あるいはそれ以外で職分のかぶっている部分の集いなどで顔を見たことはあるのかもしれないけれど、彼の今の状態からではこちらもあまり記憶に引っかからない。
工房が近ければ何か薬を持ってくることは可能だったかもしれないが。
唐突な言葉に対して、いささか惑う。
「いえ、その辺にいる一般市民ですけど」
律義に突っ込み返しながら、とりあえずハンカチは受け取ってもらえた模様。
目元を抑える相手の言葉が先ほどよりは明瞭になったが──
申し出としては碌でもないのでは?という気がしたのはきっと気のせい。
軽い語調がきっと冗談なんだろうと思わせてはくれるけど、まあこの後何か予定があったわけでもない。
ほんの気まぐれに軽く口角を引き上げ。
「ここまで声をかけて見捨てるのもなんだかかわいそうな気もしますしね
いいですよ?……寝心地の良さは保証しませんけど」
よいしょ、とベンチに腰を下ろすと膝をそろえた。
妙なことにはなったけれど、陽射しは心地いいし構わないだろう。
一休みすれば彼もきっと元気になるだろうし、自分は少しいいことをした気分でいられるだろうから。
「どうぞ?」
そう言って膝を軽くたたいて招いた。
■カルロス > いいや女神だね、とわけのわからない返事をしながらそれすらも眠気ゆえの寝言と捉えても問題ないだろう。
実際に素面であっても似たようなことは言ったかもしれないが、さらに此方からの申し出にいいですよと頷いて隣に座ってくれるのだからマジ??と思わずハンカチから顔を上げて二度見してしまった。
「教会に申請してあんたの像を女神像として安置してもらおう……腕のいい彫金師を知ってるから任せてくれ」
きりっとした真顔で男が言う。人間思考力が落ちると何を口走るかわからないものである。
そして膝をそろえてどうぞ、と言ってくれる彼女の言葉に甘えて、ベンチにごろりと仰向けに横になる。長い脚はひざ掛けにひっかけるように置き、女性の膝に頭を預けた。
「寝心地最高すぎる……あ、駄目だこれ寝る、すまん、15分程度で叩いて起こしてくれ」
スカート越しに後頭部に感じる太腿の弾力。最高だが?
というか膝枕で喜ばない男がこの世にいるのか? いないだろ。
意識がスゥゥ―――とどこかに運ばれていく心地。
もう横になったら無理だ。最高の膝枕があって、眠気のピークはとっくに超えている脳が強制シャットダウンを始めた。
意識を失う前に伝えるだけ伝えて、一瞬で瞼が落ちて――――寝息を立て始めた。
麗らかな午後、広場には多く人が行きかいながら、中には老夫婦とかがベンチで膝枕をしてる男女をほほえましく見守っていたりもしただろう。
■エウヘニア > 目が開いてるけどこれは寝言ですね、と認識した。
相手が、こちらの返答に対して驚いたような表情浮かべたのにはちょっとだけ胸のすく思いもしたので悪戯っぽい笑いで返しておいたけど。
「そんなものより、新しい実験器具のほうがいいですね、と………あ、本気だったんですね」
膝の上にかかる重み。名前も知らない『ゾンビさん』の頭を膝の上に感じて、ゆったりとこちらは背もたらに背を預け。
はた目にはどう映るかわからないが、名前も知らない行きずりの男女の妙な昼下がり。
でも悪くはないので女はおかしそうに笑ってる。
「───それくらいなら、イイですよ。おやすみなさい」
広場にある日時計に目を向けて。
それから頷いた。それくらいならそんなに負担でもないし。
起きたら名前くらいは聞いてもいいのかな、と思いながら。
眠りに落ちゆく相手の庇くらいにはなるかなあ、と額に手のひらを置いて。
暫くして聞こえ始めた寝息を耳にしながらこちらもほのぼのゆったり時間を過ごす昼下がり。
通り過ぎてゆく人々の長閑な姿なんかを眺めていたら、15分なんてあっという間に過ぎていったのかもしれない───。
……あ、意外とまつ毛長いですね、とかどうでもいい発見をしながらの。
■カルロス > 「ん、じっけんきぐ、きぐね」
多分ほとんど反射でしゃべってるようなもの、そんな返事をしながらも膝枕に預けた頭は存外女性には重く感じたかもしれない。
灰銀の前髪が揺れ、彼女の気遣いのおかげで目元に刺さる日差しが少し和らぐ。
眠っている男の顔のパーツ一つ一つを見るなら、よくよく見れば整った精悍な顔立ちにも見えるだろう。
広場をかける子供、屋台で飲み物を売る商人、雑談する者、散歩する老夫婦、配達仕事中らしき冒険者、若い学生、穏やかな景色の中であっという間の15分が過ぎて。
夢を見るでもなく泥のように眠り、最初声をかけられただけではなかなか起きなかったかもしれない。
頬でも額でも叩いてるうちに身じろぎ、瞼を数度動かして瞬かせ、ん゛ー……と太陽のまぶしさに唸りつつ、見上げれば女神の顔がよく見える。
15分とは言え少しでも取れた仮眠のおかげで頭はいくらかスッキリとした。
大きな掌を伸ばして女性の頬を軽く撫でてから、三つ編みにしている髪をなぞれば、思い出したように一つ頷いて。
「思い出したわ、あんたギルドで見たことがある。――――よいせ、っと」
上半身を起こしてバキバキと音を鳴らしつつ体をほぐし、改めて隣に座りなおしてから大きなあくびを一つ。
少しだけ上体を前のめりにして、女性の顔を覗き込んだ。
まだどこか眠たげではあるが、最初のゾンビのような状態から顔色は多少よくなっていた。
「冒険者のカルロスだ。女神様、お名前は?」
と、女神呼びが気に入ったのかどこか悪戯っぽい笑みを浮かべて問いかけて。
■エウヘニア > 長いようで短い15分。
柔らかな陽射しさす空に目を向けて、それから風がそよぐのに目を細めて。
何処かの老夫婦のあらあらまあまあ、な微笑ましそうな視線に(違いますよー?)と心の中で突っ込みを入れながら。
露店の呼び込みや、よく見かける冒険者が荷物を運んで早足に通り過ぎてゆくのはいつもの街の風景だった。
眠りに落ちて無防備な相手の整った顔立ちをなぞっていてこちらも気づいたことがある。
ギルドや、薬草関係の仕事で見かけた顔ですね、なんて納得したころ合いでちょうど時間。
「時間ですよー、起きてくださーい?」
最初は声で、それでは反応がなかった。
次は軽く頬を控えめに。瞼が少し震えたのにこれなら鼻はつままなくてよさそうだと安堵した。
もう少しだけ強い力でぺちぺちしたら、呻き声が聞こえて、ややあって自分のモノとは違う明るいグリーンの双眸が自分を見上げていた。
「あ、起きましたね、おはよ……ゥゴザイマス」
伸ばされた手が頬を撫でるのに少々驚いて声が跳ねた。
横に流した三つ編みをなぞって指が離れたのを見送りながら頷いて。
「私も心当たりがありますね?」
寝起きに固くなった体をほぐす音がいい感じに小気味よく聞こえてくる。
まだ眠たそうだけれど最初よりは余程いい顔色になったのにはよかったですね、と暢気に思ってる。
「私は錬金術師のエウヘニアですよ、錬金術以外の仕事もしてますけど」
例えば彼が見かけたギルドの受付事務とか。
へら、と笑って名前を返す。
教えてもらった名前にはカルロスさんですね、と舌の上で馴染ませるように反芻して、頷いた。
「顔色もよくなったみたいで良かったです。あのままだと行き倒れちゃいそうでしたから」
■カルロス > 寝起きにまだまだ頭が睡眠を欲してる感覚。
くぁ、とまたあくびをして口元を掌で隠しながら、改めて顔を合わせて会話すれば、ギルドでも事務仕事をてきぱきとこなしていた姿が思い浮かぶ。
もっとあれやこれや気の利いたことでも浮かべばいいのだが、寝起きばかりは致し方ない。
「エウヘニア、エウヘニアだな。高貴さのある名前だなァ。
見た目も相俟ってどこかのお姫様みたいだ。よろしくな」
歯を見せて快活に笑いながら、ギルドの受付事務などをしてると聞けばああやっぱりと納得の顔。
本業は錬金術の方だろうか。だとすれば興味もある。
自身の故郷、両親もまた錬金術師。田舎に引っ込んで薬屋をやってるからある程度の知識はあるが、王都に来てから他の錬金術師と深い交流を取ったことはない。
「本業は錬金術師? こんなとこで知り合えるなんてマジで神がかってるわ。ご褒美すぎる。
いろいろ聞きたいし今日の礼もかねて、よけりゃ今度一緒に飯でもどう?」
なんなら今からでもと言いたいところだが、仮眠をとっただけで万全でないのは事実。腹は減れども食欲がない。
そして眠気で、言葉通り行き倒れるようにぶっ倒れて、彼女にこのでかい体を運ばせるわけにもいかない。
それでもせっかくの縁をさよならするにはもったいないほどの女神を相手に、そんな風に誘いをかけてみる。
■エウヘニア > 「やっぱりまだ寝ぼけてますね?ぎりぎり平民区暮らしですってば、たぶん…」
もしかしたらぎりぎり貧民区かもしれないあの界隈。
そんな境目のあやふやな怪しい界隈の薬師通りに、女の工房はあったりするものだから。
何故って家賃が激安で、実験に失敗して爆発を起こしてもあまり頓着されないのが大きいところ。
自分への過大な賛美に、くすぐったそうに照れた笑みを返して。
それから興味を持ってくれるのであれば
「そうですね、ご褒美かはわからないですけど……
今のカルロスさんにちょうどいい薬草なんかは見繕えそうですし」
とはいえ冒険者な相手だ、そういった薬は常備してるだろうけれど。
だからやんわりした営業姿勢を見せつつも会話を楽しんでる様子。
顔色が多少良くなったとはいえ、極度の疲労や睡眠不足は少々の休憩でどうにかなるものではないだろう。
こちらに気を遣ってくれる心遣いに感謝するようにお誘いは受けて───。
約束の徴というわけでもないが、こちらもポーチを軽く探って。
今なら少しくらいこういうのも大丈夫そうかな、と差し出したのは
簡素な蜂蜜を固めただけの手製の飴玉。
素っ気ない包み紙に包まったそれを差し出して。
「じゃあ約束の印に。あ、毒じゃないので安心してくださいね」
たくさんご飯奢ってもらいますから、なんて揶揄い言葉とともに。
■カルロス > 「たぶん? え、ギリギリってどっちの意味で?」
ギリギリ富裕層ではないほうの平民か、それとも貧民層ではないほうの平民か。
名前と職ぐらいしか知らないので女性相手に深く言及するのもあれだが、それはそれで一緒の食事に行ったときに確認すればいいかと頷いた。
幸運なことに断られることもなく受けて貰えた誘いに、そんじゃあ今度ギルドで会った時にでも、と約束を取り付けて、薬草の話になれば出て来るのは専門的な草花の名称から一般的に流通してるようなハーブ類だとか、軽い触りだけでも同じ錬金術師、通じるものはあっただろう。
ある程度の薬品なら自身でゴリゴリと調合調薬してしまえるが、女神の腕も気になるところ。
「ギルドとか店に卸してる? それか直接買い取りてぇな。
っと……おお、こういうのも作んのか、すげえな。ありがたく貰っとく」
約束の印にと差し出されたのはシンプルな蜂蜜の飴玉。
毒なんて疑う素振りもなく、さっそく包みから剥がして口の中へと放る。
疲れた時にきく優しい甘さと芳醇な蜜の香りが抜けて、ころころ転がしながら味わえば腹の虫も鳴りを潜めよう。うまい。シンプルに甘くてうまい。
「うめぇー……ってか、今更毒なんて疑わねえよ。あ、媚薬の類とかなら大歓迎だけど?」
女神の膝で無防備に爆睡したのだから、その善性を疑うことなどない。直感的にも安全だと思っている。
それで騙されたならそれはそれ。
揶揄い言葉をかけられたので、それとは別種の揶揄いをかけるようにウインクしてみせる。
媚薬の飴、一定の層には需要がありそうだ。もしかしたら女神も作ったことあるのでは? なんて、錬金術師をやってればそういった需要のある薬の知識もあるだろう。錬金術師あるある。
要するに、飯以降の寝台の上でのお誘いも喜んで、だ。
■エウヘニア > 女神扱いがデフォになってきてませんかと、若干胡乱な目つきにはなったけれど。
錬金術師でお金持ちってあんまり聞きませんよね、とそこはスマイル0ゴルドな笑みで押し通した。
ただ、薬草の話になると興味があって、かつ得意分野のことなのか非常に楽し気に。一般的なものなら全草使える薬草類、今の季節なら新芽が森のどのあたりでたくさん採れたかを答えつつ。
「基本的にはギルドを通してますね。後は工房に来てもらったらある程度オーダーも受けますよ
はい、疲れをとるときにちょうどいいんです」
工房の位置を告げたら、割と怪しい界隈にあることに気が付くかもしれないけれど。
飴玉をあっさり口にしてくれるのに初対面なのになあ、とちょっと困ったようにしつつも、自作のそれが評価されるのはうれしくもある。
「ここで媚薬使ってどうするんですかー…売れ筋ですけど。
カルロスさんがもやもやしてみるのを楽しめと…?」
ああでも、蜂蜜も一応そういうたぐいの薬の材料の一つではありますね、と今更な言葉を追加しておかしそうにして。
そういった方向に発展著しいお国柄なので、自然需要と供給から女だってそれらを製薬することは……ないとは言えない。
肩をすくめて、でも結構高いんですよ、なんて軽口で応じた。
あるあるからの、夜のお誘いにはまた軽く口角を上げるだけの笑みで、相手の唇を指で挟もうとした。
「そーいうのはちゃんとそういうお誘いしてくださいねっ」
ちょっとだけ頬が赤い。
■カルロス > 錬金術師に金持ちはいない。それはそう。何せ稼いだ傍から必要な器具やら素材やらに消えていくのだ。
純利益を出そうと思ったら値を吊り上げるしかなく、しかし値を吊り上げるなら高品質さは必須。
そしてほかのところの方が安いからと消費者は大手の商会やギルドの物を買う……錬金術師は国家のお抱えにでもならないと金が溜まらないというつらい現実。知ってる。
それでも知識の共有は当然楽しいもの。専門にしている女性から聞ける内容はどれも為になって、今度奥地まで採りに行ったら工房に卸そうかという提案もしただろう。
飴が小さくなるまで雑談に矜持ながら、工房の場所を聞けば地図を頭に思い浮かべて「そこ貧民地区寄りじゃね?」とか思ったり、媚薬はやっぱり売れ筋と聞けば「ははっ、わかる」と似たような経験から笑ったりして。
「お? 男がもやもや悶々してんの見て愉しむタイプ? それはそれは女神様もいいご趣味をお持ちでェ?」
にやにやと笑いながら意地悪な顔で揶揄いつつ、蜂蜜も原料の一つと聞けば舐める口の動きが一瞬止まって、下半身を見て、女神の顔をじっと見た。
もし勃起でもしたら大変なことになってた。軽口で応じる様子にまた冗談めかして笑い、唇を挟む細い指先に「んむぇ」と言葉ではない鳴き声が出る。
続く言葉と、白い頬がうっすらと赤い様子に、どうやらその手の話が嫌と言うわけでもないようで、吊り上がった目が「へ~ぇ?」と言いたげに細められた。
女神の小さい手を取って、手の甲にちゅ、と触れるか触れないかの唇を押し当て、笑みを向ける。草臥れてはいるが顔立ちだけはいい男だ。
「それじゃ、そういうお誘いはきちんといいタイミングで、口説かせて貰おうか」
どうやら食事だけでなく、そっち方面のお誘いも効きそうだ。女神すぎる。
どちらにしても楽しみだとしながら、よっこいせと腰を浮かせて立ち上がって、そのまま彼女の手を引いて起こそうか。
借りていたハンカチも返して、軽くあくびを零す。
「そろそろ真面目に帰って寝るわ。いろいろ世話になったな、エウヘニア。
次会う時までに食べたい飯、決めておいてくれよ?」
結構高額な緊急依頼のおかげで懐は今とてもあったかい。近いうちならその細い腹がはちきれそうなぐらい食べても問題ないだろう。この見た目でオークほど食べるとなったら真顔にはなりそうだが。
そんな冗談も絡めつつ、広場の出口まで、一緒に歩きだそうか。
分かれ道にさしかかるまで、話題はきっと尽きないはずだ。
■エウヘニア > 奥地の薬草…!
彼は女の弱点を短時間で見つけてくれた様だ。明らかに釣れそうなチョロさを醸し出している。
──というのも、女は錬金術師で、薬剤や魔道具の扱いには多少長けてはいるものの
戦闘向きかといえばそうではない。
森の奥は通常の獣もそうだが、魔物だって跋扈している。
それ相応の知識と経験は必要だから、女の腕では探索許可が下りないのだった。
「卸してくれるなら、ぜひ…! 飴玉おまけしますから…!」
労力に絶対見合わないおまけを提示しつつ、若干食い気味に返事を返す。
ちゃんと既定のお値段だって払います…払います…。
「っ、そういう趣味は、ない、です、がっ
………カルロスさんの顔立ちは大変いいので、観賞用にですね……」
ごにょ、ごにょ、とろくでもない答えになったのかもしれない。
でも実際のところこんな往来でそんな反応されたって困るのだ、自分も。
自分が唇を挟んだことで、変な鳴き声になった声を聞きながら、ふー、と指を離して溜息。
よし、ちょっと落ち着いてきた、かも。
「………!」
と思ったら、芝居がかった仕草で手を取られ、手の甲に唇が触れる。もしかしたら吐息かもだけれど、びっくりしたように動きが固まった。
そのあとぶわ、と頬の熱が急上昇した自覚がある。
「これは、……カルロスさんは女の子泣かせ、ですね…!」
あわ、と戦慄いた唇が、何とか絞り出した言葉。
ぶんぶん首を振って熱を散らしてから、立ち上がる相手に手を引かれるまま。
道すがらにハンカチも戻ってきて、宿に戻る言葉を聞けばそれがいいだろうと頷いた
「はい、ちゃんとベッドで寝てくださいね。食事は……考えておきます。
美味しいところ探しておきますね…!」
とはいえ、女にとってギルドの酒場のご飯も十分美味しい部類だったりするので───
相手にとっては見慣れた場所だったりするかもしれないのだけど。
……たぶん飢えてても子牛一頭も入らないとは、思われる。
なんだかんだと言いながら、会話は楽しい。すぐに弛んだ笑みで言葉を返して、話題はきっと尽きなかったけれど。お互いの向かう先への分かれ道までたどり着いたら───。
「それじゃあ、また。いい夢見てくださいね」
する、と手を離して、軽く挨拶を交わすと女は歩き出す。
のんびりゆったりした足取りはきっとすぐに雑踏に紛れてしまうだろう。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2 広場」からエウヘニアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2 広場」からカルロスさんが去りました。