2024/02/25 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」に影時さんが現れました。
影時 > 冒険者の朝は早い。貼りだされた依頼を誰よりも早く確かめ、少しでも達成確率の高いものを確保したいからだ。
その生活サイクル、スタイルはいつでも変わりない。雨でも雪でも嵐でも関係がない。
故に――騒動めいた朝方のピークを過ぎた、昼近くとなると何処の冒険者ギルドも一時の平穏を迎えるらしい。

日がだいぶ上がり、様々な店が軒先に品を並べ、呼び込みの声が遠く響く昼前の時間。
そんな時間帯に平民地区の一角にある冒険者ギルドの一つ、酒場を隣接させた建物の扉を開く姿がある。
羽織袴を身につけ、腰に刀を差した無精髭の男だ。
その人影に気づいた受付の係員が顔見知りらしい姿に声をかけ、会釈を以て挨拶を返しながら依頼が貼られる掲示板の前に立つ。

「……おぉ、やっぱりだいぶハケてんなぁ……」

顎を摩りつつ、見やる内容はまるで穴が幾つも開いたかのように、張り紙が剝がされた跡が多く目立つ。
仕方がない。王立コクマー・ラジエル学院の非常勤講師を務めていると、早朝から訓練を希望する学院生に付き合うことがある。
己の訓練にもなるからと監督がてら付き合うのは良いが、どうしても他の同業者に大きく後れを取ってしまいかねない。
場数を重ねたベテランとして、事務員に依頼をストックしてもらうこともあるが、そんな事はいつもある訳ではない。

手間が少なく、簡単に稼げそう――と思われているものは、嗚呼。

「ま、そうもなるか。あとは……何があるか?」

掃けてるよなぁ、と。そう嘯きつつ、首に巻いた襟巻の中でもぞもぞと震える気配に視線を落とす。
襟巻の中から、ぽこ、ぽこんと顔を出す二匹の小動物が、左右の肩で飼い主と同じように掲示板を見る。
一人と二匹と。見る者が見れば呆れそうな、あるいは笑い出しそうな。そんな姿で今のところ残っている依頼を眺め遣る。

影時 > 「……歯応えがあるかわりに面倒なのと。
 こっちは疲れる割に……、待て待て。此れ報酬の設定がおかしくねェか?」

余り物は福があるというが――、どうだろうかこれは。きっとそれは時と場合に寄るに相違ない。
採取並びに納品の類を除き、直ぐに目に入るのは討伐系の依頼だ。
特定の部位が高値が付くかわりに、破損しやすい点に留意して倒さねばならない依頼と。
討伐しないといけない個体数が多い割に、一体あたりの額が妙に安いようにしか思えないものと。
一人と二匹でちらちらと顔を向け遣り、ないわー……とばかりに、嘆息交じりに大仰に肩を竦める。
そんな飼い主こと親分の真似をして、小さな白い法被を着こんだ小動物も肩を竦めるような仕草をして見せる。

「で、こっちは……成る程。俺が請けるなら最低でも二人からか。どうすっかねえ」

他にめぼしいものと言えるのは、数人単位での魔物の討伐、掃討の依頼だろうか。
人数制限を設けているのは、単独討伐が出来る力量者が占有し、荒稼ぎを防ぐ対象に指定してるからだろうか。
本来は何人かで組んでやるべき仕事を、一人で片して報酬総取りというのは金策としては理想ではある。
だが、それが続くと初心者の域を脱してきたレベルの者たちに、機会を与えることが出来ない。
ベテラン同士で組んでより難度の戦い討伐依頼を受け、報酬を均等に分配出来るなら、その方がまだリスク管理としてもいい――といった判断で残存してるのだろう。

男もまた、ベテランの類であれば、その経験をもとに察し、勘案できる。
そう思いつつ、周囲を見回そう。依頼を引き受けるかどうか、悩んでいる者が居れば声をかけてみるのも良いだろうか。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にシャーニィさんが現れました。
シャーニィ >  
根本的に、お金などなくても生活は成り立つ。
とはいえ少々思い立つことがあり、となれば資金がいる。
……ということで、久々にギルドに来てみたりする。

「……さて」

自分でやるなら討伐系がわかりやすくていい。
採集もできなくはないが、どうもこう……ちまちまとした違いを見分けるのはあまり得意ではない。
できなくもないが、時間がかかってしまう。

の、だが

「……邪魔する」

先に依頼を見ていたらしき男の横に入る。
男は見た感じ、なかなかの手練のようでベテランか?と少しだけ考えてから、依頼書の方に目を向ける。

「……う」

真っ先に目についたのは高額依頼。
とはいえ、部位報酬ときている。爆殺なら余裕だろうが、多分そんなことをしたら全部粉々だろう。
では、と見たのは……大量撃破だが、こちらは安い気がする。
他も、ひとりで受けるとなれば微妙なものが多い。

「……む、むむ……遅かったか……?」

ぼつり、と小さく呟いた。

影時 > 冒険者として活動しなくとも、一応は暮らせなくはない。
対外的にも実際にもパトロン、後援者が居る身だ。家庭教師として雇われているお陰で給与含め生活は保てる。
だが、冒険者としての活動は続けている。何故か。
教え子たちにも都合があり、学院生としての生活がある。空き時間、余暇があるなら持て余すよりも何かをしたい。
後は、根本的な問題がある。未だ見ぬ風景を見たいのだ。冒険をしたいのだ。
とは言え、ギルドの掲示板に貼られる内容は往々にして代わり映えがしないのはご愛敬だが――、

「と、失敬」

横から声がする。半歩足をずらし、スペースを開けて遣りながら顔を向ければローブ姿が目に入る。
朝方のピークタイムを過ぎて掲示板と向き合う者こそ珍しくないが、おおよそ二つに大別できるかもしれない。
寝坊した等、時間が合わなかった者。或いは余り物でもこなせる力量者か。
口に出せばツッコミ必至だろうが、そんなことを思いつつ腰に差した刀を揺らしつつ、ローブ姿を見遣ろう。

「……ははぁン、お目が高いが――って、面倒臭ぇのがひっかかったかね?」

そんな相手の視線を追うのは、難しくない。この位置で見るべきものなぞ、考えるまでもない。掲示板だ。
確保すべき部位を指定された依頼は珍しくないが、単独でやれるかどうかはそれこそ人による。
ふむ、と首を傾げながら声をかけてみれば、好奇心ありありなシマリスがローブ姿の頭の上へとぴょいと跳んで行く。
あ、おい、と声を放ってももう遅い。躱されたらすとんと床に着地し、飼い主の身体に攀じ登るだろうが、さて。

シャーニィ >  
「やむをえん。安かろうが……む?
 ああ、流石に部位を壊さずは面倒……」

ひとしきり悩んでいると、隣の男が声をかけてくる。
察した通り、ベテラン風で自分の引っ掛かりも読んだようだ。
それに答えようとしたところで、シマリスが自分に向かって飛んでくる。

「……やれやれ」

ぽふ、とそれが着地したのはローブの少し手前。
見えない壁のようななにかに阻まれるようにして、空中に乗る。

「大したご挨拶だな? まさかこのような場で奇襲をかけるとは。」

手を伸ばし、空中にいるシマリスをつまみ上げる。
そのまま、男への視線を切らないまま手にしたシマリスを目の高さへ持っていく。

「お前も。随分な度胸だな?この吾に挑もうとは、な。
 まったく。危うかったぞ」

に、とシマリスに笑いかけて改めて男の方にはっきり目線を向ける。

「それで。これは一体どういう仕儀だ?」

監督不行き届きでは?そういいたげな視線だった。

影時 > 「若しかしてだがー……細かく狙えない、絞り込めない類かね?」

ローブ姿はひときしり眺めてみるが、己のように武具の類を持っているように見えない。
故に得物を宿に置いている、または魔法使いの類かという可能性が脳裏に浮かぶ。
これだけでこうと決めつけるのは早計だが、武器使いだとすると其処まで悩むコトかとも考えられる。
武器にもよるが、部位狙いを成立させやすい類なら、悩む程ではないのかとも思えるからだ。
その場合、逆に一対多数をなった場合の対処が面倒になるが、そんな思考を断ち切るものがある。

「って、こりゃ驚いた」
 
小さな子分、毛玉の片割れであるシマリスだ。
興味があれば遠慮も欠片もないナマモノがローブ姿の頭に着地――しようとして、しきれない。
まるで見えない壁、足場にでも阻まれたかのように空中に浮かぶ、否、乗っているのだ。
なにこれ?なにこれ?とばかりに驚き半分、楽しさ半分でぢだぢたとしだすシマリスが、ひょいと摘ままれる。
えー、と肩上で跳ねる相方のモモンガを押さえながら、男が見る。考える。
魔法か、それともそういうチカラ、なのだろうか?ぷらーんと摘ままれる小動物は目をくりんとさせながら、小首を傾げ。

「どう、と言われてもな。
 ……偶々お前さんに興味が向いたんだろう。他意は無ぇよな?なァ?」

危なかったと云われれば、そんなー、と耳や尻尾を震わせ、しなしなと垂らす毛玉に一息しつつ、右手を出す。
向こうが右の手のひらに乗せてくれれば、そのまま引き取ろう。
だが、その前に一応子分たるシマリスに尋ねてみよう。もとより悪意とか悪気は、ないらしい。
親分から声をかけられる毛玉は、ぶるぶると頭を左右に振って“その気”はないと態度に示す。

「侘び代わりと言っちゃなんだが、手伝いが欲しい仕事なら手伝う用意がある。如何に?」

だよなあ、と。そもそも悪性の生き物ではない。気儘な生き物であり、小さな冒険者である。
そんな彼らを子分として預かってる身として、提案を投げてみよう。

シャーニィ >  
「……殴り合えないこともないが、専門は術の類だ。
 倒せるかどうかなら、可だが……流石に部位を残すのは面倒がすぎる」

例えば切り刻む、という手もあるだろうが……それをすれば、今度は細切れになるだろう。
とかく、視座が大きいものにとっては細かい作業は逆に骨が折れるのだ。

「こやつには他意も罪もない、か。確かにそうかもしれないな。
 ただな。攻撃だと認識していたら、この程度の小動物では死んでいたやもしれんぞ?
 まったく……蛮勇も相手と状況を選んでふるうがよい。
 わかっていれば相手ぐらいしてやらんこともない」

うっかりすれば対抗魔術でこんがリスに、なんて未来もあったのだ。
そんな風に、つまみ上げた小動物に改めて視線を向けてお説教をする。
とはいえ怒っている、というよりも悪戯者を諭すかのような風情である。
それが通じたかは分からないが、ともあれ男の手に戻してやる。

「まあいい。そやつの好奇心まで責めはしない。せいぜい、主の監督の悪さを責めるまでだ。」

素直に主のもとに戻り、他意はなかった、とばかりふるふる応えるシマリスの様子に満足気にうなずく。
別に罪に問いたいわけでもない。

「うむ。そうだな、主には詫て貰うとして……
 なるほど、そう来たか。いいだろう、その話、乗ろうではないか。」

手伝う用意がある、と言われれば鷹揚にうなずく。
言葉遣いも態度も、なかなかに大きい。

「そうだな……だが、そやつが全て悪い、というわけでもない。
 そこの依頼のうち、ひとりでは受けられないもの。
 そのどれかをこなそうと思うのだが……汝なら、どれを選ぶ?」

そんな風に、提案を返す。
半分難癖みたいなものだし、一方的な流れも具合が悪い。
すべて自分の主導ではなく、男の方である程度決めてよい、ということだ。

影時 > 「ああ、やっぱりか。あれだな。斬り込み役が活きる類と見た」

やはりか、と思うのは寸鉄をも帯びていなさそうな素振りだ。
ローブの下に護身用の短剣を忍ばせている可能性もあるが、それとて魔物の部位破壊、切り取りをするには心許ない。
切断魔法という選択肢があるにしても、ターゲットの動きを止め、しっかりと狙いを定めないと目的達成には恐らくは遠い。

「他意があっても、……噛み付く位か? 本気でやられると痛ぇんだよなあ……。
 一応、無理に戦うなとは言い聞かせてるつもりなんだがね。人間同士の戦いなんぞ、良くて魔法で身を守る位だろうよ」
 
繁殖期で凶暴化する、気が逸り出す時期はあるものだが、そもそも体格差も歴然の相手と戦う以前の問題だ。
今はまだ知らなくとも、存在の差も著しいとなれば、魔法を使ってどうこう、というものでもない。
二匹の小動物は魔法が使えるとしても、彼らに与えられている魔法はすべて自衛、退避のためのものでしかないから。
視線を合わせてお説教されれば、気を付けまーす、という感じなのだろう。前足を挙げて、こくこくと頷いて応えてみせる。
親分の手に戻されれば、相方が居る側の肩へと上がってゆく。
待ち構えていたモモンガが平べったい尻尾でぺちん、とシマリスを叩けば、小言めいたやり取りをし出す気配を感じて。

「俺か?俺か―……。まぁ、一人で遣るのもどうかな、という奴しか残っていねぇだしな。渡りに船、でもあったがね。
 ん、そうだな。この大物相手というのは、どうだ? 角が特に高く値が付くようだが」

態度の大きさは、何も言うまい。慣れている。其れに監督不行き届きと問われると言葉に困る。
胸の前で腕を組みつつ、じぃと掲示板をざっと見して、今の塩梅であれば手頃と思われる依頼の一枚を剥がそう。

或る蛇竜(ワイアーム)を倒し、その角を確保せよ、という依頼だ。
角は武器ではなく、触覚の類であり脆いかわりに薬用の面で色々と需要がある。

故に報酬の面でも折半すれば、互いに納得出来得る額になるのではないだろうか。

シャーニィ >  
「流石に聡いな。見るに、かなりの修練を積んだニンゲンだな?
 ……ふむ。色々と、”持って”そうだ」

改めて男を観察すれば、かつてみた英雄、と言われるたぐいのニンゲンと似たような雰囲気を持つ。
その差異の細かな違いまでは分からないが、なんにしても強者の類なのは間違いないだろう。
そして、見て判る武器の刀があるが、どうにもそれだけではない気配がある。
もっとも、その正体まではわからないのだが。

「噛みつく程度であれば可愛いものではあるがな。
 が、だ。お互いに大事なモノたちであるのだろう?
 であれば、失わぬようにくらい、自制をもつがよい。
 とはいえ、ふむ……少々刺激が過ぎたか?」

男の言葉に鷹揚に笑って見せる。強襲に少々驚いたとはいえ、小動物に目くじらを立てるほど狭量でもない。
どちらかといえば、今の話が本音。うっかりと〆てしまうかもしれなかったのだ。

そのつもりで少々脅しはしたが、どうにもシマリスが相方に窘められてる様子を見てやりすぎたか?と思う。
まあ……これでやんちゃが多少自制されるならいいのだろうか。

「……ああ、汝もそう思っていたか。確かに微妙な依頼ばかりだな。
 やはり時間が悪かったか……

 それか?ん……なるほど、角に高値がつくか。それが取れるならだいぶ収入もよくなるな。
 角ならば、狙いやすいし外すのも容易い、他の部位も……そこそこにやりやすいか。」

残った依頼の渋さに辟易したのは自分だけではなかったか、と少し安堵する。
これで普通だ、と言われれば今後の冒険者生活を見直さなければいけないところであった。
そして、改めて提示された依頼を仔細に見るが……稼ぎとしては悪くなさそうだ。

「なかなかいいところをつくな。
 見た所、汝の主戦場は接近からせいぜい中距離か?
 であれば、役割分けもうまくいきそうだな。これでいこうか。」

悪くない依頼だ、と手を打つことにする。

影時 > 「さて、……と、いや、勿体ぶっても意味はないか。“それなり”に鍛えてるともさ」

韜晦してもはぐらかしたりしても、意味がない。実戦に臨めば遠からずバレるだろう。
そもそも、初見で推察できる程の慧眼、観察眼もあると思えば、早々に認めた方が面倒はなくて良い。
少なくとも腰に差した刀をその特質を弁えたうえで、扱える人間である。
今の時点でまだ知らなくとも、相互の知己たる商人の家の屋敷に入る際、必ず預ける程の代物だ。

「……――冗談抜きでホントに痛いからな?可愛い顔して本気で噛み付く時はホントに。
 まあ、住処の森から出てきて、俺に引っ付いてる以上は最後まで面倒を見てやるつもりだが。
 
 もう少し、気を付けておくよ。こいつらも……身に沁みたようだし、な?」

甘噛みではなく、本気で噛み付かれた際はそれはそれは痛い。硬い木の実を齧る前歯は伊達ではないのだ。
飼い主として覚えがある身として、そんな噛み付きを可愛いもの――と言えるのは、いったい?とつい首を傾げる。
とはいえ、大事なものである点については否定出来ない。
一度動物を飼い始めると、飼い主は色々と動物優先になってしまうらしいが、真実であると体験することがつくづく多い。
飼い主にどこにでも付いてくるつもりの二匹を見れば、危険地帯に踏み入った際の対策なども考える程に。

相方に説教をされた、のだろうか。?
耳と尻尾をぺたーんとさせたシマリスと、ふんす、と腕組むような仕草のモモンガの寸劇が肩上で繰り広げられるのを横目にして。

「若しかしなくとも、時間が悪い。
 朝早くから出かける用事があったお陰でこの様だが、この時間は早朝から奪い合うような類はもう掃けちまっていると見ていい。
 まあ、だからこうして臨時で組むやら、予め徒党を組む奴らも居るんだがね。
 
 沼地に棲む蛇竜……か。場所も悪いが、角以外も色々と使い出はあるだろうよ」
 
時間帯と間が悪いとこうなるのは、日常茶飯事かもしれないか。
張り紙に記された場所を思い返すと、埋め立てて農地を拡げる予定が噂されている地域であったか。
以前から棲んでいたか、後からやってきたかは分からないが、駆け出しを寄せ集めて挑むにしても厄介が過ぎる。
だが、その分だけ重要部位以外を売り払ったとしても、小遣い稼ぎ以上の収入は見込める部類には違いない。

「然り。主に接近戦と考えてくれ。
 ……おおよそ固まったなら、名乗らねェとな。俺は影時と云う。こっちはスクナマル、そっちはヒテンマルだ」

請ける仕事と分担が纏まってきたところで、名乗ろう。
この国では珍しい響きの名を男は、そしてシマリスとモモンガたちは持っている。
説教が終わったと思われる気配を感じ、ちょいちょいと肩上の二匹を突けば、揃って二匹がぺこん、と頭を下げてみせる。

シャーニィ >  
「ふむ。はぐらかさないのはよいことだな。
 それでこその強者よ。かつての連中を見るようで……いや、それはいいか。」

はるか昔の記憶とはいえ、無数に相対してきたニンゲンの履歴に勝る情報はない。
空気感、というか……そういった言葉にならないナニカである程度判別がつく。

「ははは、まあ確かに痛いだろうな。が、死にもしないだろう。
 であれば、些細なものだ。
 
 うん。そやつらも汝も。互いに慣れ親しんでいるようだしな。
 自制や判断は大事だ。お互いに、な。」

死ななければ安い。そう言わんばかりのちょっとおかしな価値観であった。
それとともに見せるのは、気遣いにような言葉。
……自分で言っていて、はてな、なぜこんなことを、と少々思っていたりするが忘れることにする。

「少々野暮用を済ませていたらこの時間だ。
 なるほどな。今後は時間も考えねばならんか……
 まあ、今日はいい。汝がいたので話も早い。金になるとなればなお良しだ」

買い物を思い立って色々見てみたら、存外今の自分の所持金が心もとないことに気付かされたのだ。
そもそも生活にそこまで金銭を必要としないことによる弊害であった。
そこから真っ直ぐここに来てみたが……と。しかし、流石にそんな事情は話せない。

「うむ、カゲトキに、スクナマルにヒテンマルだな?
 吾はシャーニィだ。一応改めて言えば、術師、という分類になる。
 ではあるが、防御もそれなりに厚い。こちらは気にせず戦って貰うことになるだろう。
 よろしく頼む。」

丁寧に、小動物たちにも声をかけ挨拶をする。

影時 > 「下手に隠して仕損じるなら、そもそも隠さないに限る。
 一度請けた仕事はきっちり全うしなきゃならんのだから、な。しかし、……いンや、問うのは野暮か」
 
隠密裏に事を運ぶべきであれば、自己で一から十まで完結する。その為の手間は惜しまない。
しかし、今はそうではない。臨時に誰かと組むというのは、報酬のために各々の働きを成すと信頼して行うことだ。
それに向こうの言葉も、幾つか気に掛かるものがある。
自分のような、あるいはそれに類する強者と相対した、渡り合った経験でもあるのだろうか。
うーむ、と胸を組んで考え込み、直ぐに止める。こんな処で考え、問うても仕方がない。

「はっはっは、そうと言い切れる方もそれで凄いな!?そりゃ略して、死な安には違いねぇけどよう。

 ――たまーに飼ってンのか、飼われてやってるのか分からなくなるがね。
 ただ、命を預かるのは大小関係なく軽々しくなっちゃいけねぇから、なぁ」
 
確かそういう略し方、云いまわし方だったか? ナウなヤングなではないが、時たま聞く云い回しを思い返す。
一理はあることではあるが、その考え方で色々と大丈夫だろうか。
しかし、気遣いのような言葉の内容きっと間違いではあるまい。自制や敬意等、色々と忘れてはいけないことは多い。
もともとの寿命の差というのも、いずれ直面するかもしれない。
彼ら二匹が己に付き合っているのだから、行き先含め、付き合わせている身としても留意すべきことだ。

「あぁ、用事があるならそういうコトもあるよな。
 俺も丁度良かった。さもなけりゃ出直すか、別の仕事も探さなきゃならなかった」
 
ベテランとして、ギルドの顔見知りの事務員に尋ねれば、信用枠的にストックされている仕事もあったかもしれない。
だが、そういう仕事は大体面倒な割に実入りが少ない、誰も遣りたがらない類が多い。
冒険者は便利屋として扱われるにしたって、厄介や面倒ばかりが色濃いものは、流石に辟易もする。

「シャーニィだな。こちらこそよろしくな。この二匹は短くスクナとかヒテンとか呼んでくれても構わねぇ。
 防御が厚い術師、まじない師、術使いというのも中々珍しいが、分担と仕事はきっちり果たそう。
 
 あとは準備だな……あの時間にここで集まりなおしてから出立で良いかね?」
 
名は覚えた。挨拶に一人と二匹で会釈を返しつつ、壁時計を見遣ろう。
このまま出掛けてもよくはあるが、身支度と最低限の準備が必要だろう。故に壁時計を指差し、集合の時間帯を定めてからの集合を提案する。

シャーニィ >  
「それだな。その、仕事に対する真摯さは当然やもしれないが……
 しかし、評価に値する。必要な時に必要なことができるのは強さだ」

手札にしろなんにしろ、やるべき時にやるべきことができるのは強みだ。
それと……気になったことをあえて聞かない、というのも悪くない。
わざわざ口にはしないが、そこも評価できる。

「よいのではないか?なんなら、そやつらも飼っている気持ちでいるかもしれないぞ?
 なあ?
 うん、存分に互いを気遣うがいい」

案外、小動物たちも主を飼っている、面倒を見てやっている気持ちでいるかも知れない。
それはときに、養われてやっている、とか、そういう感じになるかもしれないが。
そんなわけで、どうだ?と問いかけてみたりする。

「お互いちょうどよかった、ということだな。
 ああ……防御については、さきほどの魔術や。
 それから……まあ……あー、友人に見繕ってもらった装備が優秀だからな。」

まだ知る由もないが、共通の知り合いとなる少女に見繕ってもらった装備。
だいぶお金のかかった優秀なそれは、重宝しているのだ。
友人、そう。まだ友人の。

「ふむ、そうだな。吾の準備なら、それくらいの時間で十分だ。
 そやつらのこと装備もあるだろうし、な?ああ、必要であれば加護くらいはやるぞ。
 大事な仲間だろうからな」

そういって、集合時間にうなずくのであった。

影時 > 「おかげで遊ぶ時にどンだけハメを外して良いのか、たまーに分からなくなっちまうンだよなぁ」

何かを成すことで、金銭を受け取る。冒険者の仕事はそういった契約、取り決めの連続だ。
そうやって信用を積み重ね、その信用に応じて受けられる仕事の内容や幅が広くなる。
そのために誰かと組む際、知り得るべきコト以外を下手に聞くのは憚れる。
この国に来る前、冒険者となる前に何をしていたのか――なんて、吹聴するべきことでもなんでもない。
ただ、冗談めかしながら、片目を瞑って肩を竦めてみせる。

「ふむ……ホントかよ、お前ら? こら、目ぇ背けるな」

さて、存外以上にこの二匹も主、または親分を飼っている、面倒を見てやっているつもりらしい。
“親分はあっしらで見てないとダメなんですよなー“、と云っているつもりだろうか。
前足を器用に腕組みするような素振りと共に、シマリスとモモンガがうんうんと頷き、尻尾を振ってみせる。
言葉こそ出さなくとも、ローブ姿の娘の言葉と認識は正しいようだった。
思いっきり眉を顰め、二匹にデコピンでもしようと手を持ち上げれば、肩上の二匹が走り出す。場所を移す。
モモンガは頭上にぺったりと張り付き、シマリスは逆の肩へと移って襟巻に潜り込む。その様子に、やれやれと息を吐いて。

「そうなるな。次第によっては、ほら。
 あそこの黒板に内容書き出して待ち人することもあるんだが、手間が省けて大変有り難い。
 
 ……ほほう。友人、友人ね」
 
顎をしゃくる先に見えるのは、壁時計の横の壁にある黒板だ。そこに符牒めいた書き込みと数字が見える。
それは“前衛一人募集、打撃武器を指定”やら、“癒し手二人急募、防護魔法必須”といったもの。
時期によって魔物が大量発生した場合、その黒板の余白が無い位に記載が溢れることだって、あり得る。
友人という言葉を聞けば、言葉以上に大事なものを感じた――気がして、ふと、口元に微かに笑みが漏れる。

「諸々助かる。
 こいつらも魔法を授かっちゃいるが、獲物を思うと毒を貰いそうでな? 喰らわず済ませるならそれが一番いい。
 決まりだな。んじゃァ、またあとでな。俺の方で、水薬も毒消しも買い込んでおくよ」
 
集合時間が決まれば、一旦は解散だろう。宜しくと片手を挙げつつ、ひらりと身を翻す。
数刻後、集合時間に再度現れる姿を見れば、柿渋染の羽織に黒い装束といった装いの男と相まみえることになるだろう。
目的地近くまでの乗合馬車を使い、移動の合間に互いの知己やら何やらを話しつつ、仕事を果たしたか。

シャーニィ >  
「性分、ということか。ほどほどに羽目を外せばよいのだろうがな。
 吾の立場としては、成したいように成すが好い、というべきだろうが。
 まあ実際好きにすれば好いとは思うがな」

肩をすくめる男に笑って応える。実際、邪神としてはそうであろう。
ただまあ、相手の性分としてはどうだろうな?と少し面白そうに見ている。

「ははは、存外に面倒見がいい連中ではないか。
 親分が心配だそうだぞ?」

小動物と男のやりとりに思わずカラカラと笑う。
なんだかんだで、強い絆で結ばれていることはよく分かる。

「今回は手間が省けたわけだな。
 思い返してみれば、あいつと会ったのも……いや、いい。

 ……む。なんだ、その笑いは」

ちょうどその友人との出会いも、このギルドで。依頼をひとりで受けられなくて難渋していたときだった、と思い出す。
お陰で色々と思い出したわけだが、そんな折に意味深に笑われるとつい反応してしまう。

「……まあ、いい。では、時間にな」

時間になれば、ローブ姿のままの少女が現れただろう。
そして、道中……特に体捌きを見てからは知己についての話題も多くなっただろうか。
そして……実力を持つ男と、力を持つ少女は確かに仕事を果たしたことだろう。

影時 > 「まぁ、そりゃそうだ。遊び方が分からねぇハズはないんだがなぁ」

性分だろうがな、と。冗句交じりの話題のつもりでもあり、実際のことでもある。
大変珍しい事物やら何やらには金を使う時はあるが、基本的には気づけば溜めてしまっている類でもある。
女遊びも嫌いではないつもりだが、もう少し羽目を外していいのかどうか、というのは偶に悩む。

「面倒見が良いというか、仁義を弁えているって言うか、な?
 とはいえ、こいつらのお陰で退屈だけはしそうにないのは有り難ぇよ」
 
こんな会話、言葉のやり取りをしている相手がまさか邪神の類とは――夢にも思わない。
だが、人間と小動物の間柄、絆というのも成り立つものだ。
飼い主としての責任感は確かにあるが、頼ってくれるからこそ大事にする。
ただ、偶に食べ残しの木の実やナッツの類を羽織の袖やら、隠しポケットやらに突っ込むのはだけは勘弁して欲しいが。

「本当に運良く、な。
 ははは――そっちもそっちで、気がおけん誰かさんがいるみてぇだ。
 どうせ現地に向かうなら、馬車を拾うことになるだろう。その時にでも話そうじゃねェか」
 
恐らくは、と前置くまでもない。“あいつ”と呼ぶのはきっと友人のことであろう。
ついつい気にしたり、反応する程に心に留めているだ。それも移動の合間、尋ねてみたりするのも同道の楽しみと言えるだろう。
また時間通りに、と分かれて再度集まり、実地での体捌き等を示せば、また別の話の話題も多くなる。

後はしっかりと仕事を済ませ、帰還の報告を経て報酬を手に入れたことだろう――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」から影時さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からシャーニィさんが去りました。