2024/01/10 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」に影時さんが現れました。
影時 > 喜びにも悲しみも決まってそこに酒がある――とは、誰が言った言葉か。
知らない。見当もつかない。
ふと浮かんだ取り留めもないことであるかもしれないし、若しかしたら古人がすでに気づいたことかもしれない。
だが、決まって矢張りハレの日も。ケの日にも。人が集まればそこに酒があるらしい。

平民地区に存在する冒険者ギルド。そこに隣接する酒場は夕刻から夜に時が移っても、喧噪が絶えない。
だが、その喧騒がいつになく派手なのは、集団で挑んだ魔物の群れの掃討の成功を祝っての席であるからだ。
生還の祝いの席でもあり、更には治療が間に合わずに死んた隣人を悼む席でもあれば、騒がしくもなるだろう。
複数のテーブルで騒がしくもあり、さめざめと酒を舐める卓もあれば、

「……悪かった悪かった。餌も水もちゃんとしてたろうに、そんなに退屈が過ぎたか」

或いは飼っている動物を宥める席もある、らしい。
壁際のテーブル席のひとつに、酒肴を兼ねての料理の皿と酒が満たされた甕をどんと置いている姿がある。
壁に得物らしい刀を立てかけた男は席に座し、テーブルの上で猛然と何かを齧るものに頬杖を突きつつ、声をかける。
その対象は人ではない。二匹の小動物であった。
白い法被を着た栗鼠とモモンガが、器に盛られたナッツ類や野菜をしゃくしゃくしゃく……と云わんばかりの勢いで齧ってゆくのだ。
飼い主であろう男に背を向けつつ、つーん、といわんばかりの素振りはどこかやけ食いじみていて。

影時 > 平原に多く生じた魔物を掃討するのは、一日では済まない。数日掛かりの仕事だ。
腕に覚えがあり、経験があるものでも十分に余裕を見るのは、決して容易いことではないと知っているが故に。
それも駆け出しや多少は戦い慣れてきた者も加えれば、更に所要日数、時間を考慮せざるを得ない。
ここに問題がある。動物を飼っているものたちで住処を数日留守にする場合思うのは、餌と飲み水をどうするか。

「お前さんらの隠れ家のせい、ばかりじゃねぇかねこりゃ……」

男の場合、所持する鞄の向こうに繋がっている倉庫の中に二匹の小動物の避難場所を設けた。
本来の住処である宿部屋だと、ストレスの余りに調度類を齧りかねない憂いがある。
故に数日間は餌や水の備えをしたうえで、その避難場所に放り込んでいたが、色々と退屈が過ぎた……らしい。
過保護過ぎる誹りは受けてしまいかねない。この二匹もまた、親分たる男と冒険したいのだ。
そんな親分に数日間、離されていたせい――なのだろうか。このありさまは。

小動物たちは身振りはしてみせるくらいに知能があっても、言葉は喋れない以上推し量るしかない。
背を向けて、しゃくしゃくしゃく……と今はナッツを齧り、殻を撒き散らす姿を眺め、小さな盃を手に取る。
甕に入った柄杓を掴み、掬った一杯を盃に注ぐ。珍しく見つけた故郷の酒と思しい一品だ。
今回の仕事で得たささやかな報酬の大半を費やしたが、後悔はない。こういう時にこそ、ぱっとやるものだ。
口に運ぶ酒の味は、悪くない。舶来の品であれば船賃も含めての額だろうが、納得は出来る程に。

影時 > 解毒能力の高さからか、酒はどれだけ呑んでも酩酊が極まることはない。
だが、それでも呑むのは味が好きであり、一時ではあっても気分が良くなる。
喉を過ぎる酒精が胃に落ちる感覚を意識しつつ、ほ、と息を吐く。何か口にしようと顔を動かせば、目につくのは。

「……分かった分かった。次は連れて行ってやるから、これ食って機嫌直せ。な?」

つーん、と。背中を見せ続ける二匹の姿であった。あ、これは駄目だと。その有様に大きく息を吐く。
最近授けて貰った魔導書で身は守れる、危ない時は避難できるから、という考えも恐らくはあるのだろうか?
酒杯を置き、物言いたげにし続けている二匹の様子を見れば、羽織の袂をごそごそと漁る。
2つ取り出して見せるのは、まるまるとした殻付きの胡桃だ。軽く握り、齧り易いように亀裂を入れてみせれば、彼らの後ろに置く。

そうすると、本当?とばかりに二匹が振り向き、ぢーと見てくる。つぶらな黒い瞳が見上げてくる。
本当本当と頷いて見せれば、わーい!と声を上げたげな素振りで胡桃に飛びつき、思い思いに歯を立ててくる。

「あー、串焼き肉の追加頼む」

そんな光景は和むものも苦笑するものがあるかもしれないが、品の持ち込みはいい気分がしないのだろう。
カウンターの奥の店主らしき姿が向け遣る視線の気配を感じれば、やれやれ、と片手を挙げる。
物を頼み、金を落として店の売り上げに貢献してやれば、きっと溜飲も下がるに違いない。