2023/09/11 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」に夏虎さんが現れました。
■夏虎 >
大通り。空は曇天、小雨がぱらつき――
濡れないように急ぎ足の人に、
濡れちまおうと諦めてゆっくり歩く人に、
雨宿り出来ますよと呼び込みをかける商店に、
賑わう一角。
『夏天的药店』と印字された幟を立てる屋台も丁度タープを立てて小さなスツールやテーブルを並べて、雨天営業形態。
薬屋さんに何で屋根と椅子と机の用意があるのか?
薬よか売行きよい果実水だの果実氷の所為である。
「はい、いらっしゃい、いらっしゃい。色々あるよー。
何なら雨宿りだけでもしていってねー」
クーラーボックスから、生薬の材料。ではなく林檎を一つ二つと取り出して。
包丁片手に皮を剥いて一つはそのまま切り身にして一つは絞る用に置いて……
『何か違うんだよなぁ』みたいな顔しながら、桃髪店主、呼び込み中。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にルプランさんが現れました。
■ルプラン >
ギルドからの帰り道、ふと鼻先にしずくが落ちて、雨が降り出したことを知る。
フードのついた上衣を羽織っているから、それを被って駆け出せば、
ある程度は凌げるかも、とも思ったけれど。
そもそもいつもの宿からはまだ少し距離がある、それに今日は、
帰る前に日用品の買い出しなどもして行こうと思っていた。
だから通り雨ならば、どこかその辺で、そう―――――
『雨宿り』。
そのフレーズが聞こえてきた、タイミングがあまりにも完璧だったので。
幟旗に記された文字を読むより早く、タープの下へ飛び込んだ。
ぷるっ、と軽く頭を振って、雨のしずくを払い落とし、
「ごめん、ちょっとだけ居させ、…――――― あれ?」
ぱちくりと瞳を瞬かせた、そこでようやく、誰の屋台だか気づいた様子。
一気に気安い表情になり、物珍しげに幟に記された文字など眺めつつ、
「そっか、ここ、シアの店だったんだ。
どう、商売、上手く行ってる?
もう王都には慣れた?」
軽やかに言葉を繋ぎつつ、視線が流れ着く先は。
たった今剥かれたばかりと思しき、瑞々しい林檎のひと切れであったりする。
■夏虎 >
「いらっしゃーい。どうぞ、ゆっくり……ん?」
視線は手元にやっていたが視界の端に雨から逃げてきたのだろう急ぎ足で入ってくる人影が映る。
林檎の皮はこっち、切り身はこっち、剥き身はこっち、と、まな板の上で仕分けして。
バケツに貯めておいた水でさっと軽く手を洗ったあとにはタオルを掴んでお客さん?
に、渡そうとしたところ、聞き覚えのある声と見覚えのある髪色をそこで漸く見留め。
「あら。姐さ、んん゛。ルプランさん。ご無沙汰してますぅ~。
……相変わらずっす……あ、お陰様で道には迷わなくなりましたよ」
気軽な声や親しみある笑顔に口元緩めて。
……商売云々の辺りは視線が逸れたけど。
兎角。
改めてタオルを差し出しては、
「食べます? お代は結構ですんで。
いやね、俺が摘み食いする用だからこれ。お裾分け~」
流れる視線を追うと切ったばっかりの林檎の一切れに行き着いて。
ぅふふ、なんて、笑気を口から零してはその一切れに爪楊枝を一本突き刺す。
蜜もたっぷりと入った白い果肉をひょいと持ち上げれば、
タオルと一緒にそれも差し出した。
■ルプラン >
以前、食事を一緒にした仲だから、女の健啖家ぶりについては、
彼と、彼のお財布がよくよくご存じだろう。
女性特有の謎理論、『甘いものは別腹です』もしっかり実証してみせたのだから。
「こんな天気でもなかったら、けっこう繁盛してるんじゃないの?
てゆか、今……」
姐さんって言いそうになってたよね、というよりほとんど言ってたよね。
双眸を眇めてそう指摘しようとした女の、目の前にささっと差し出されたタオル。
そして、爪楊枝に刺さって差し出された、それはそれはたっぷりと蜜を含んだ果実。
ぶつけるはずだった指摘を呑み込んで、黙って両手を差し伸べた。
右手にタオル、左手に爪楊枝―――――と、その先の林檎。
ばふっ、とタオルを頭から被っておいて、いそいそと林檎にかじりつき、
「いただきまぁ、ふ、……ん、んん、おいひいね、これ!」
頂きます、の最初の一音よりも早く、頂いていたわけだが。
小気味良い音を響かせて、しゃくしゃくと咀嚼しながら、
「この林檎、何処で仕入れたの?
歯ごたえとか甘みとか、あたしの知ってる林檎と、全然違うんだけど」
■夏虎 >
以前、食事を一緒にしたときは驚いたものだ。
給仕される料理が次から次へと綺麗になっていくわいくわ、相当な量を平らげて自分がギブアップ気味なところで彼女がデザート行こうと言い出した時はどうしようかと思った。お財布? 大ダメージです。
「繁盛はしてんですけどね。うん。薬がね……売れねぇ……。
え? いやいやいやいやそんなそんなほら食べて食べて!!」
うっかり口が滑ったところに差し出される林檎。うっかりを帳消しにする為に一切れ差し出したあとにはお皿にもう二切れ載っけて差し出される林檎。
四切れ中三切れをご献上し最後の一切れだけは自分で齧れば、
顎が疲れない程度にしつつも歯にしっかり伝わる固さ。
噛み砕けば噛み砕くだけ舌に伝わる水気と溢れる甘み。
食い物で釣られるちょっと抜けてるところに笑気吹き出しかけたが。
林檎と一緒に飲み込み一つ頷く。
「うん。おいしい。これ? たしかー。こいつは……ああ。思い出した。
ダイラスのほうで商売してる同胞が最近果樹園に手ぇ出したらしくて。
試供品つー事で貰ったんですよ」
自分も今食べるまでは味を知らなかったものだが思った以上に美味かった。
齧ったそれをしげしげと片眉上げて片眉下げて少し器用な顔しつつ眺めて、
「こんな美味いなら今後はそっちで仕入れてもいいかも」
■ルプラン >
ご飯は食べられる時にしっかり食べておくこと。
それが奢りであるならばなおのこと、ばっちり頂いてキチンとお礼を。
―――――そんな人生哲学のもと、ばっちりがっつり頂いた。
輝くばかりの笑顔でもって、キチンと『ありがとう♪』を告げた程度で、
彼のお財布の打撃が慰められたかどうか。
「んぅ? あ、そーか、薬屋さんだったよね、うんうん」
薬?
そこで首を傾げてしまうあたり、この女も大概であろう。
しかし、それもこれも、追加で差し出された林檎の前ではあっさり忘却の彼方に追い遣られ、
女は満面の笑みとともに、林檎の皿をちゃっかり受け取って。
「ダイラス? ってことは、もしかして輸入品とか?
あの辺に果樹園なんてあったかなぁ…… ん、んぅ。
いーよこれ、蜜もたっぷりで、すっごく瑞々しいし、絶対売れるよ」
絶対『買い』だよ、仕入れるべきだよ、なんて力説しつつ、
女の持つ皿の上は、早くも爪楊枝だけになろうとしていた。
――――しかし、そこで、あ、と小さな声を洩らし、
「……てゆか、果物屋さんじゃなかったんだっけね。
薬屋さん、薬屋さん、シアはお薬屋さん……」
失礼の上塗りとは、こういうのを言うのだろうか。
今度こそ忘れないように、とブツブツ繰り返しながら、こころなし、
相手のご機嫌を窺うような眼差しを向けてみるが。
色々と、手遅れなような気がしないでもない。
■夏虎 >
綺麗所の笑顔は何にも勝る、等と周りの連中は言うものの……
彼女の笑顔はなるほど眩かったけれど……
次はきちんと余裕があるときに誘おう。
固く固く決意した。
打撃大変痛かった。
今思い出しても胃痛と胃もたれと胸焼けが再発しそうだったが、
薬? 等と言い出すものだから、ん……!? と、二度見。
「あー。マグメールの果樹園とは言ってなかった確かに。
うん。人気商品になられて高値になる前に実績作って……
ところで。ルプランさん? 薬屋ですよ? 八百屋さん違うよ? ん?」
買いの一言に一つ二つと頷きながら林檎三切れ早くも消費し終わった彼女に対して一切れ目をようやく食べ終わって、一息。ついたら……眉根を寄せて半目になって恨みがましそうな目付きが、自分が何屋さんかすっかり忘れて剰えまた忘れかねない感じで何度も再確認している彼女に向けられる。じっとりと。ご機嫌大変損ねました! とでも言いたそうな具合でごきげん伺う目付きを。じっとりと。
けれど。
「ふふっ」
直ぐ。
険しくなった眉根も目じりもすぐに緩んで、
気にしてないと手を緩々と振って見せる。
「果物屋さん化してるのは事実ですしぃ。残念ながらぁ。
……薬屋としてもうちょい何とかしたいとこですが……
まあ。俺はこんな感じっすよ。ルプランさんはどうです? 最近。景気は」
■ルプラン >
ちなみに割り勘ならば、もう少し遠慮がちになった、かといえば。
自分もお金を出すのだからと、結局は遠慮なくなった可能性が高い。
幼い頃から、家でも一番よく食べる娘だったのだ。
早々に自活の道を模索することになったのも、そのことと無縁ではあるまい。
「だよね、あそこならどっちかっていうと、舶来品のほうが多そう。
―――――― え、いや、うん。 薬屋さんだよね、うん、知ってる。
てゆか、おぼえた、思い出した、うん。」
しゃくん。
最後のひと切れを口に入れ、もぎゅもぎゅと咀嚼しながら。
今度はこちらが、さり気なく視線を外す番か。
林檎ほんとに美味しいね、なんて呟くあたり、また忘れる可能性は高そうだ。
じっとりと湿度の高い眼差しが、比較的すぐに緩まれば、
ごめんごめん、と片手を顔の前に立てて―――――爪楊枝がコロンと転がるだけの皿を、
彼のほうへそっと差し戻しつつ。
「ごちそーさまでした、すっごく美味しかった。
てゆーかさ、やっぱり薬なら、ギルドとか通したほうが売れやすくない?
それか王都より、もう少し田舎回ってみるとか…… うん?
あたし、あたしは…… まぁ、うん。 ぼちぼち、です。」
景気が良いか悪いか問われれば、正直、良いとはとても言えない。
遅ればせながら、借り受けたタオルでくしゃくしゃと頭の水気を吸い取りにかかりつつ、
わずか、眉間に縦皺を寄せて。
「やっぱりね、案内役で貰えるお金って、少ないからね。
本当は、もーちょっと色々出来たほうが良いんだけど……」
そこで、そっと溜め息。
零れる吐息はほんのり甘く、林檎の香りを振り撒いていた。
■夏虎 >
家族は、愛娘や姉弟が冒険者なんて稼業に就くにあたっては大層心配したろうがほんのちょっぴりだけ食費の心配しなくて安堵した面もあったのではなかろうか? ……己より頭二つ分は小さい背丈と小柄な体躯で己以上にばくばくいく光景をそんな思いも過りながら眺める食事会であった。
「舶来品かぁ。最近は凄いですよね、海渡るのも一昔まえほど辛くはなくなったって聞きますし。
……次忘れたら擽られるぐらいは覚悟しといて下さいよぉ~?」
こちょこちょと。手を胸の前に持ってくると手指の五指がうねうね蠢き擽る真似して。
未だ若干恨めしそうな口振りではあるが語調は軽いし声は笑気で震えて顔も笑った侭、
冗談だろうと解る範疇で。
巫山戯たものまねもそこそこに返却されるお皿を受け取ると、
先に手を洗ったものとは別の水入りバケツの中へと一度漬け爪楊枝はゴミ袋に放り込んでとてきぱき後片付け。
「お粗末様。
ギルドの方にゃ俺より太いパイプある薬屋さんが販路締めてまして……」
中々景気が良い話というものは転がっていないもので自分もそうだが彼女もそうらしい。
冒険者といえば採取に討伐に遺跡探索にと数多あるが請け負うのが案内のみだと……
と、聞けば、肩を一つ竦めて。
……何で同じもん食ってこんな良い匂いすんだろ、この人……
とは、鼻孔を擽る香りに首を傾げかけたものだが。
「事情があんでしょ? 深くぁ聞きませんや。お話しても良いぐらい仲良くなった、ら、ああ。
懐が寂しいんでしたらうちでちょいと売り子やって貰う、てのぁどうです?
お陰様で薬はともかく果物のおかげで売上は良いんでね。一人位雇えますし。
ルプランさんぐらい器量良しならまた売上伸びるかなーって」
ふと思い付いた案は思い付いたら直ぐに口に出る。ひょこっと人差し指立てては話し始めて。
彼女の懐事情に同情して、云々はあるにはあるものの、
此方にとっても十分利益が見込めるだろう話でもある。
……果物の売上伸びて薬の売上がまた落ち込みそうだが、
利益があって懐が温まるほうが優先事項だ。
■ルプラン >
それはもう、両親は愛娘の門出を、涙を流して見送ってくれた。
あの涙に別れを惜しむ以外、どんな意味が隠れていたか、なんてことを、
この女はきっと、永遠に勘ぐったりしないだろうけれど。
ただそう言えば、年の離れた兄まで涙していたのは、ほんの少し、
泣き過ぎなのではなかろうか、と思ったりもする。
「人も物も、どんどん来るし、出ていく人も多いしね。
王都でも、見たことないようなもの、売ってるの良く見るよーになったし。
って、だから、ごめんってば。 忘れないから、うん、」
……たぶんね。
ぽつり、小声で付け加えるのが、なんとも怪しいが。
ひそかにくすぐったがりの気がある女は、ふるふると否定の意味に頭を振っておく。
渡した皿が手際よく片付けられるのを眺めながら、外の雨の様子をちらりと窺って。
「あー、うん、そっか……後発だとやっぱり難しいんだね。
役人とかに、コネでもあれば違うんだろうけど…―――――― へ?」
個人事業主の悲哀は、いずこも同じということか。
うんうん、と沈痛な面持ちで頷いてみた、女が林檎の香りなのは、
新鮮な林檎を彼の三倍もぺろりと食べたせいだろうけれども。
きょん、と目を瞬かせて顔を上げ、彼の鮮やかな紅い瞳と、
ぴんと立てられた人差し指とを見比べて。
「え、っいや、あたし、客商売ってあんま、経験ないんだけど……
あの、丁寧な接客?とか、全然自信ないし…… え、でも。」
漂ってくる甘い香りに、くん、と鼻先を蠢かせる。
甘いものも大好きな女にとって、ここは正にパラダイスのような職場である、と気づいて、
タオルを頭から肩へ滑り落とし、真顔で彼に向き直って。
「……従業員割引、とか、してくれる?」
給金だとかお休みだとか、具体的な仕事内容だとかよりも。
食いつくのはそこか、というツッコミは、きっとこの女には効きやしない。
■夏虎 >
もし、門出の話を聞く機会があったら何となく察する。もしかしたら、次に食事を一緒にする時にでもそんな話が出てきっと察する。……食費やり繰り大変だったんだろうな……と、いや、彼女に言う事は決してなく、彼女の家族になんとなく親近感を覚える事になるだろう。
「今小声でたぶんって言った?
笑い死にさせてくれるわっ」
くすぐる真似だけでもちょっぴり擽ったそうな様子に――
うねうねうね! と手指が余計激しくのたくったものだが。
「若いもんだから舐められがちですしね、商売に限った話じゃないですけど。
身一つで来たもんだからコネもないしこう賄賂とかはあんまやりたくないし」
個人事業主で。年若くて。移民で……
商売やるには不利な要素がずらずらずら。
本業ではないとはいえ商売で懐暖かいほうだけまだ良い方ではある。
色々とある苦難に眉も潜まるが新しい利益を見つけた瞳が彼女へと。
「教えるんで大丈夫っす。乳やら尻やら撫でられたらぶん殴っていいですし」
彼女の鼻孔を擽るのは、薬効の独特な香りもあるがそれを押し退けるぐらいに濃い果物たちの香りだ、甘い匂いから甘酸っぱい匂いまであれにこれに。……視線が泳ぐのを目線が追って、此れ見よがしに屈めば保冷箱の蓋を開けてみせると、林檎に、棗や葡萄や珍しいところだと木通なんかも入っていた。
接客の仕方だの、畜生は客じゃねぇだの、ぽつぽつ零しながら、
従業員割引。その一言に一つ頷き。
「詳しいことは後で詰めますけど。勿論、それなりには出させて頂きますし、お休みも本業の方優先してもらって構いませんし……
割引なんてケチなこといいません。
三食出しますしご飯毎に付けますよ?
……余ったら……お持ち帰り可で!」
待遇は要相談。此処で働いたらこの果物たちが沢山食べれる! 口説き落としに掛かっていた。
■ルプラン >
確かあの頃、兄には恋人がいたのだった。
幼馴染みの誰ちゃんだったか、あの後すぐに結婚したと手紙が来たのは、
小姑が居なくなったから、だなんて、そんな切ない事情からとは言いきれない。
きっと、単純に、食い扶持が減って結婚資金が出来たせいなのだ―――――女は知る由も無いが。
「え、言ってない、言ってない。
やめ、やめて、その手つき、今度やったら蹴るよ?!」
もにゅもにゅとやたら器用に蠢く手つき、見ているだけでぞくぞくする。
ほんのり頬を赤らめながら、声を上ずらせる女。
きっと今度やられたら、本気で蹴りが入るだろう。
コネも何も無い若い男で、しかも帝国からの移民という悪条件。
薬を扱う腕が良くても、先見の明にすぐれていても。
それは恐らく大変だろう、と同情する気持ちは本物だ、出来ることなら協力したい。
しかし恐らく、女が何より心惹かれているのは―――――
「え、っうん、いや、あの、うん、でも…… ん、ん。
――――――――――」
こくん。
女の喉が、ひそかに鳴った。
かぱっと開かれた箱の中身、色とりどりの果実の群れ。
つやつやの林檎はもちろんのこと、プルプルの葡萄だとか、
あの紫色の楕円形は何だろう、え、木通って何? それ美味しいの?
沈黙は長く続かない。
女はタオルの端を掴んでいた手を離し、ぐいと伸ばして彼のほうへ。
叶うならその手を、ぎゅう、と思い切り握ってしまおう。
必然的に、ずずいと詰め寄り至近に顔を寄せて。
「お世話になります、ゴシュジンサマ」
やはり真顔である、しかも、選んだ呼称が何だかアブナイ。
しかしいずれにしても、胃袋をがっちり掴まれてしまった女が、
あっさり我が身を(売り子として)売り渡した、
これが、その顛末であった、という。
■夏虎 >
「ククク。伊達に一人で仕入れから調合からやっておらぬわぁ……!
この器用さでそりゃもう脇の下から足の裏まで、まって、蹴るのは止めてぇ!?」
一人で自然地帯まで出向いて野生動物から野生の魔物から狩って。一人で独学プラスαの配合表とにらめっこしながら擂り鉢やら材料やらと格闘して。勉強と鍛錬も兼ねているが手間賃を節約しないと売上も中々、何て悲哀がちょっぴり伺えてしまうエピソードが漏れたりしながら漸くウネウネが止まった。
相当に擽ったがりなのだろう。
顔は赤らむわ声は上擦るわ、
其れ見て得意げな顔……は、
出来なかった。
姐さんと呼んだら殴られるし擽る真似したら蹴られるし……
彼女ったら元は徒手空拳で戦う系統の人なのであろうか?
案内職一本でやる以前をこっそり想起したものだが、さておき。
「ふふふっ」
保冷箱の中身を見せびらかした途端から喉が小さく動いたのを見逃さなかった。
自然地帯のあちらこちらを駆けずり回って獲物を狩る傍らに採ってきた果物たちは、
近辺の土壌のせいか気候のせいか果樹園で採れるものと比べてもさして遜色はない。
木通なんていう珍しいものも取れる。
いける!!
確信に近い笑みさえ溢れたが。
「おぅ!?」
手を握り潰すつもりかというほどがっちり握られ、
頭突きでもするのかというぐらい間近に来たのは、
驚いた。素っ頓狂な声も上がった。
「お、おおぅ、びっくり、ゴシュジンサマぁ!?
人聞き悪いんでシアのまんまでお願いします!!」
――少々予想外の反応もあったが無事に攻略完了であった。
その気ならこのまま唇でも奪えそうな距離、には流石に少し顔を離し、
がっちり過ぎるぐらいにがっちり握り込まれた手を軽く握り返しては上下に揺らして笑う。
■ルプラン >
決して、力自慢の女豪傑であったとか、そんな過去のある女ではない。
けれども腐っても元冒険者、瞬発力にはそれなりの自信があるし、
何より美味しいものへ傾ける情熱が、少しばかり普通の人より強い。 アツい。
そんなわけで、がっちり握り締める手はなかなかの力を秘めていたし、
顔を寄せる勢いたるや、店主を襲う気なのかと疑われても文句も言えない。
ともあれ、女は無事に、三食デザート付きの美味しいお仕事を確保し、
彼のほうは、とりあえずは若くてぴちぴちの店員を得ることになるのだろうが、
この店員が彼の利益を生むかどうかは、また、別の話となろう―――――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からルプランさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」から夏虎さんが去りました。