2025/05/29 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にヴェスタさんが現れました。
■ヴェスタ > 「……何をやっているのだね」
少女がふらふらと掲示板におでこでもぶつけそうな寸前に、その首根っこの辺り――服の襟の方だが、それをくいっと引っ張る様に支える力が加わり。
後ろから襟を、なので少々、ぐぇっとなるかもしれないが。
「見覚えのある姿があるなぁと見ていれば――掲示板に頭突きする依頼、などは流石に無いと思うぞ?」
床にまっすぐの所までそっと引いて離してやれば、両腰に手を当てながら背を少し前に倒し。
横から顔を覗き込むように、ぬっと現れる黒い姿。
親猫が子猫を咥えるかのように引っ張っていたその男の顔自体、まさにそのまま猫の様子であった。
■カロン > 手に握りしめた杖を落とすなり、手を前に突き出すなりすれば良かったのだが、依頼内容のことで頭がいっぱいになってその判断がつかなかった。
よって、前のめりに掲示板に突っ込んでいく――はずの所を、ぐいと後ろに引かれて連れ戻される。
「うぐっ」
声と息とが詰まったような声を上げる。
「けほっ、……あ、え? あっ、ヴェスタさん」
喉に手を当て軽く咳込みつつ、上から降ってくる声に視線を上げると見覚えのある黒い毛並みがそこにあった。
先日、食堂で夕食をご馳走してくれた黒豹の獣人。冒険者ではないけれど、ギルドで仕事を受けているのだっけ。
そんなことを思い出しながら、覗き込んで来る顔に驚いて少し仰け反る。
「そ、そう言うわけではないのですっ、ちょっと上の方に貼ってある依頼書を見ようと思って……勢いあまってと言いますか。
あの、えっと……ありがとうございます」
言い訳を一生懸命並べて弁明を図るが、助けてもらったのに変わりはないので、えへへと笑って素直に頭を下げた。
「ヴェスタさんもお仕事探しですか?」
■ヴェスタ > 意地悪をして掴んだわけではないのだが、結果的に咳込ませてしまったようで。
おっとすまない、と少しの間だけ少女の背中に軽く掌を置いて。力が強いのは自覚しているし、むやみに撫でたりすると余計に息が詰まるかもしれないから、そっと添えるだけで、すぐにその手は離し。
「悪い、な、もっとこう肩とか支えてやれば良かったのだろうが。
まさかいきなり倒れに行くとは思わなかったからなぁ……咄嗟に襟になってしまったよ」
もしかすると、無闇に女の子の身体を掴むような事をしないようにしている、のかもしれないが。その胸中までは語られず。
それでも、笑ってお礼など言ってくれるものだから、心配そうに覗き込んでいた男の顔の方も釣られたように、ふむ、と目を細めて笑顔になって。
「――そうさな、今まではとりあえず傭兵募集の仕事があれば、としていたんだが。
一応冒険者向けの依頼もそれなりに見てみることにしようかと思ってなぁ。あまり掲示板などの方はまじまじと見ていなかったものでな?
どれどれ……上の方は、ほう。コボルトだのスライムだのゴブリンだの、討伐依頼が多いのかね」
誰にでも目につきやすい、低くも高くもない辺りは、やはりもっと簡単な依頼が多いようにも思う。
下の方、となるとこの男にとってはむしろ身体を斜めにしないと見づらいらしく、変な体勢になったりもしながら。上の方は逆にそのまま彼のような者には見やすいのかもしれない。
「あの辺りを――へぅ、などと言いながら頑張って気にしていたようだが、討伐など行く気なのか?」
一瞬声真似のような事をしたのは、にやりとしているようにも見えるのも相まりからかっているのだろう。
とは言え、そのまま上の方の依頼の張り紙などを眺め始めれば、至極真面目な、少し優しい話し方になっている。
■カロン > 「い、いいえ、大丈夫ですっ! 少しびっくりしただけで、痛くは無かったのでっ!」
謝る声には、大丈夫と告げる代わりに首を横に振って微笑んで返す。
結果的におでこに瘤を作るより、ちょっと苦しいだけで済んだのでありがたい。
主に苦しかったのは自重からくるものだったし。掴まれたのも襟で、爪も立てて無かったし。
その柔らかそうな肉球になら触られて嫌がる人はあまりいない気もするわけで。
ちらり、背中から離れた手を目で追いながら話を続ける。
「ここは王都ですからね、商人さんや貴族の方も行き来が多いですし、護衛の仕事はよく張り出されているように思います。
……あっ、えっと、どうぞ」
邪魔にならないように一歩となりにずれて、相手の視線を追って上の方から順にずらりと並んだ依頼書を眺める。
最初は首が痛くなりそうなくらいだったのだけど、下に行くにつれてこちらは楽になって行く。
逆に背を丸めて猫背か斜めかになって行く隣を見て、ふふっと小さく笑みを零し。
「うっ、そ、そんな声……出てました?
――えっと、そうなんです。
私でも受けられそうな依頼をと探していたのですが、薬草採取ももう売り切れてしまっているようでして、
ここは思い切って、初めての討伐にチャレンジしてみようかと思ったのですっ!」
自覚がないだけに、そう見えて、聞こえていると思うと照れくさく、眉を下げて照れ笑いを一つ。
そして、改めて自分にも喝を入れるように、グッと杖を握りしめて決意を新たに宣言するのだ。
「……と、思ったのです。が、ヴェスタさんだったら、コボルトとスライム、どっちが怖くないと思いますか?」
決意は固めたけれど、依頼はまだまだ迷い中。先輩の意見を参考にしてみようか。
■ヴェスタ > 痛くはなかった、と聞けば安心したようにも見える。
背に当てていた手を引いた頃合いに、妙に盗み見るような視線を手の方へ感じたものだから、一瞬怪訝そうに自分の手を見たりもするが。
以前話した時に感じたように、妙に素直な子であったから、おそらく特別な意味はなくただありのまま見ていただけなのだろうと思い。それ以上特に気にしないことにした。
「……そうだな、護衛の仕事、で言えば中身を選ばなければ数はあるな。少なくとも俺はこの見た目だからなぁ、頼りなくは見えないようでな、そういう仕事を受ける時には案外助かるものだ」
物は使いようとでも言うものか、見た目でまず警戒される事もよくある獣人男、それで損することも多々あるのだが。強そうかどうか、と言う見た目の方が重視される場合にはむしろ好まれる場合もあるのだ。
時折、隣の少女の様子を見ながら同じ様に何か楽しく思っているのか。顎など指先で撫でながらどこか気の抜けたような雰囲気でまじまじと掲示板を眺めている姿は、威圧感のかけらもなくむしろ子供向けの絵本に描かれた挿絵にでも近い様子であったが。
「わはは、子鹿のようにふらふらと、微笑ましい姿だったぞ?
その子鹿ちゃんが頑張って狩りに出てみようと言うなら、おじさんは見守ってやらないとなぁ」
わりと前の方からそっと見ていたらしく。言葉の後にやはりまた、くく、と笑っているようであった。
気合を入れ直している少女を見れば、それはそれ、うむ、と腕組みをしてしっかり頷いてもいるのだけれど。
「ん?俺か。 ――そりゃあ、コボルトの方が俺は安心だなぁ。
スライムと比べるなら、コボルトの方が群れるし武器も使うし頭も少々回るだろうが――スライムのような何だか良くわからん連中より、至極……読みやすい。
何より、獣人同士の殴り合いをしたとして、おじさんがコボルトに負けると思うかね?」
むふん、とわざとらしく腕を曲げ、坑夫達などがよくやる筋肉誇示の姿勢を作り。
前半はわりとまともな理由で話していたのに、最後の方は説得力こそあるものの、なんだか無茶苦茶な理由にも思えて。
■カロン > 「ふふっ、そうですね。ヴェスタさんはきっと、怒るととっても迫力がありそうですから。
コボルトやスライム、グリズリー、コカトリス、もしかしたらサラマンダーだって怖がって逃げちゃうかもしれません。
……それに、ヴェスタさんのような獣人の方は夜目もきくと聞いたことがあります。
そういう面でも心強い護衛になるかと」
護衛の仕事はあまりよく知らないけれど、人の数だけ内容が異なるのもわかる。
獣人に対する差別的な眼を持つ者はこの国に多く、貴族の中にもそう言う人がいるのは悲しいけれど事実で。少女の家系では、良くも悪くも関りが少ないため偏見を植え付けられず、獣人に出会うことも今までなかった。初めて出会った獣人がこの黒豹であったことは、少女にとっても幸運なことだっただろう。
護衛は強そうな方が良いですもんね!と、嬉しそうに頷いて、のんびりと話していたのだが。
「こ、子鹿ちゃん……」
地味にショックを受けて言葉を失い、そんなに前から見られていたのかと気付けばどんどん顔が熱くなる。
案外揶揄い好きな様子の相手に、むーっと頬を膨らませてみたが、どれもこれも本当のことなので言い訳できる要素はなく。
「な、なるほど……? スライムがなんだかわからない連中……。
あっ、いえっ! それは、全然。むしろ一吠えしたら蜘蛛の子を散らすように逃げていきそうだなーとは、思います」
作戦を立てて群れで襲ってくるコボルトの方が怖いと思う少女とは真逆の答えに、あっけにとられ目を丸めた。
だが、最初の説明よりも、あとの自慢げな言動の方にむしろ納得してしまい、ぽんっと手を叩くのだった。
■ヴェスタ > 「まあ、あんまり怒りたくはないんだがね――獣の怒りってやつはある意味、そのまま殺意のようなものだしなぁ。グリズリーぐらいならお互い怒る前にシンプルに殴り合ってわかり合う方が平和でいい。
――おう、夜目は効くぞ。完全な闇の中でもなきゃぁ灯りは要らん。遺跡に潜るでもすれば僅かに何かの光源は欲しい所だが……屋外ならまぁ見えんってことはないかねぇ」
怒らずともそのぐらいはちょっとした試合のようなもの、と言うような緩い口調で笑い混じりに話している。
言っている内容の方はよく考えると割ととんでもない気もするのだが、本当にそのぐらいはやりかねないようにも見えるから、どこまで本気なのやら。
すぐに、暗い所でも見るのは任せろ、などと自慢げに話し始めるから、尚更どこまで本当かわからない。
「いいじゃないか、俺みたいにある程度歳を食ってくると、初々しい姿を見ると愛おしく思うものなのさ」
頬を膨らましている様子を見れば、まさにしてやったり、とばかりに面白がっているようでもあり。
しかしそれでも嘲るような様子はなく、本当に微笑ましく見守っているような心持ちなのだろう。
「とは言えコボルトの方が楽、と言うのは俺みたいな連中にとって、だがな。
カロンならむしろスライムの方が楽かもしれん……天井が無ければな。あいつらは上から不意打ちで落ちてきたりするものだしなぁ。
それに、俺はスライムでも斬れるが――ま、一般的には魔法の方が楽だろ」
少なくとも、素早い動きで突っ込んでくるスライム、と言うのはあまり話に聞かない。であれば、杖など握りしめている辺りを見れば、魔法で何とかできそうなぶん楽ではないかな、などと。
「……一番いいのは、それこそ――おじさんが前。カロンが後ろ。
それなら何でも行けるだろうさ、冒険者が複数で組むってのはそういうものだろ?――たぶん」
■カロン > 獣は直感で動くことが多く、怒りも例外なく行動へと直結すると言う。
緩く語られてはいるが、少女の頭の中では劇画調で描かれた熊と豹の決闘が現在進行形で流れていた。
「それはそれでちょっと……怖いですね。ん~、でも、それでも平和……なんですよね?
――まぁっ! それは凄いですっ! じゃあ、ヴェスタさんたちにとっては、夜はお月様がランタンなのですね……」
想像だけで顔を強張らせ、戸惑いながら尋ね返す声はおどおどと。
続く話には表情をすぐに和らげてキラキラと青い瞳を輝かせた。凄いっ!と尊敬の眼差しである。
「わ、私だってもう16なのです。立派な大人なのですよ?
ヴェスタさんから見れば子供に見えるかもしれませんけど……」
楽しそうに言う自称猫のおじ様に比べれば、当然まだまだ子供かもしれないけれど。
それでも一人で冒険者になれるくらいには大人なのだと頬を膨らませたまま抗議して、最後に両手で頬を包み、いじける気持ちと一緒に空気を吐き出した。
「天井ですか? んーと、屋外だと……木の上とか、そういうところにスライムがいないか、注意ですね。わかりました。
そうですね。私はスライムの方が動きもゆっくりだし、血も出ないし……そっちの方が良いです。
それに、スライムは物理的な攻撃よりも魔法や、魔法が使えない時は松明で炙るなどすると良いと聞いたことがあります」
天井と言われ、ギルドの中と分かっていてもつい天井に視線が向く。
真面目な顔でアドバイスに頷き返し、忘れないようにしっかり頭に叩き込んだ。
「――う。……それが出来ればいいのですが、同じ駆け出しの方は登録する前からパーティーを組んでいらっしゃる方が多くて。
他のソロの方や、腕の立つ先輩方は新人は使い物になるかわからないからと……。なので、コツコツと小さな依頼をこなして実績を積み上げている最中でして」
至極当然の意見に、また眉を下げ、へにゃりと苦笑する。そう言うわけで仲間と呼べる人はおろか、知り合いもまだいないのだと。
■ヴェスタ > 夜更けに月をランタン代わりにして、もはや獣同士と言うより魔獣同士と言った体の熊と豹の戦いが繰り広げられていた日々が過去にあったかどうかはともかくも。
「お、じゃあ立派な大人になった記念に、大人の遊びを教えてやろうかねぇ……
さて、どんな悪い遊びから教えてやろうか、ふっふっふ」
スレた大人同士であれば、それは口説き文句のようなものなのだろうが。
この少女、どうもその辺に関してはまだ勘が働かない様子なのを以前会った時に察しているから、そのまま言葉通りに受け取って慌てるか、多少怒りでもするか。わきわきと両手を少女の方へ向けて怪しげな動きをさせながら、わざとらしく変な笑い声を出しているのは単純にまた面白がっているだけなのかもしれない。
「うむ、あいつらは動きが鈍いぶん、本能的なものなのかじっと潜んで不意を付いてくるような生態だからなぁ。
上とか物陰とか、その辺を気をつけてなきゃならん。ま、それこそ人数組んで行くんならその辺に聡い奴が先頭歩けばいいんだがね。で、万一現れたらそうだ、魔法やら松明やらで後ろが助けに入る、で正解だろうさ」
対処に関してはそれで正解、とそこは真面目に頷いて。そもそもスライムでも斬れる、などと言っているこの獣人男の方がむしろ無茶苦茶なのである。
「なんでぇ、丁度いいのがここに居るだろうさ。
基本ソロだし、無理に実入りの良い仕事にこだわるわけでもない。前に置いておけば丈夫だし、何よりじっくり、駆け出しがやってみたい方向へ素直に付き合う余裕もあるぞ。
――本当に危ねぇって時は自己判断で対処できる程度には腕も立つつもりだしな」
ぐ、と親指を立てて自分を指す獣人男。どうよ、などと笑っている。
■カロン > 「大人の遊び……」
また想像を働かせ、悪い遊びを考えては、夜更けにお菓子のつまみ食いや、隠れてベッドにランタンを持ち込んで夜更かしをした記憶が巡って来る。そうして、アレだ!と思い至ったものを頭の中で思い浮かべながら。
「私、お父様にはまだ勝てたことは無いのですが、お兄様方には一晩中やって何度か勝ったことがあるのです。
ですので、いつでもお相手いたしますよ?」
わきわき動く手に対し、軽く親指と、人差し指と、中指で空を摘むようにして見せ、むふーっと少しだけ自信を持って対峙してみせた。
相手は手が大きいから、きっと駒を持つのが大変なのだろうと思いつつ。普通より大きなチェス盤を用意したほうが良いだろうかと思案する始末。
お察しの通り、いやむしろその上を軽々と越えて、少女はその手の話は全くと言って良いほど疎い。むしろ存在自体を認知していないようだった。
「確かに、スライムはほとんど液体のような体ですから、隠れたり、潜んだりは得意そうです。
あ、斥候……スカウト、と言う職業の方がいらっしゃるんですよね? もしくは、シーフの方がそう言うのが得意だとか。
なるほど。そうやってパーティーで動けばいいのですね」
ふむふむと2度頷き話に聞き入る。
自分を指さし言った相手の言葉に、パチパチとまた2度目を瞬かせて。
「――えっ」
沈黙の後、一瞬声を裏返す。
続けて、慌てて首を大きく横に振り、顔を前でふりふりと杖を振って。
「そそそそ、そんなっ! 悪いですよっ! だ、だって、私……護衛の代金を払えるほどまだお金に余裕が……。
あ、えっと、あのっ……」
正直、相手の申し出はとても嬉しい。一人で討伐に赴くのはやっぱり不安で、足踏みをしていたところだったのだ。
しかし、世話になってばかりとなると素直にこの話に食いつくこともできなくて。
どうしよう、どうしよう……っ!とグルグル目を回す。
「わたっ、私、そんなに良くして頂いても、ヴェスタさんに返せるものが何もないですっ!」
■ヴェスタ > 「おう、機会があればそっちの相手も頼んでみようじゃないか」
正確に、は少女が何を想像したのか当ててはいないかもしれないが、おそらく何かゲームのような物を頭に浮かべているのだろうな、と言う考えは概ね合っているだろう。
行き着く所はそんなものだろうな、と予想していたのがほぼ正解と言った反応が帰ってくるから、だろうなぁ、とただ素直に笑って返している。
「そうそう、スカウトとかシーフとかだな。
俺も、勘みたいなものは長年の旅ぐらしで磨いてあるけどな、そうさな――鍵開けだとか、どういう罠なのか、みたいなのは流石にそっちの本職じゃないとなぁ」
鍵のかかった扉などあるのなら、鍵を開けるより扉ごと壊して開けた方が早いような男である。
流石に冒険者としての探索で毎度それ、と言うわけにも行かなかろう、と肩を竦めたりもして。
「わはは、護衛で付くならそうかもしれんが、パーティーひとつ、で依頼を受けるんなら取り分が俺にもあるってだけだろう。それなら別におかしくもなんともないぞ。
……まあ、そうさなぁ。金でなくとも俺が得するものは色々あるが――夜通し部屋で話に突き合わせるとかな? ……そこは追々考えるとするさ」
と言うわけだ、世話になる、と考えるより一緒にやってみるかぐらいで考えてみるといい、などと。
その後の事はまたその後の事。どれを受けてみるかねぇ、などと選び始めて見せたりもするのであった。
■カロン > 「任せてください。でも、私も負けないつもりでお相手しますので、お覚悟くださいね?」
楽しい夜更かしの予感に期待を膨らませ、ちょっとばかし挑戦的な言葉を使ってみたが、最後はお互い和やかに笑って締めくくる。
その後に続く職業のお話も、ギルドの受付ではそこまで深く語られなかったものもあり大変勉強になったんだとか。
冒険者を続けていれば、いつかスカウトやシーフの人、鍵開けが得意な人にも会えるだろうかと夢見つつ。
また豪快に笑って言う相手の顔を不安げに見上げる。
駆け出しが受けるような依頼は報酬が低い。それを知らない相手ではない。承知の上で申し出てくれているのだ。
少女は一度目を伏せ、再び視線を上げ、掲示板を見上げた。
「……ヴェスタさん。お心遣い、ありがとうございます」
礼を紡ぐ口元は綻び、あとは静かに、二人で依頼書を吟味しよう――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からヴェスタさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からカロンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にイグナスさんが現れました。
■イグナス > 「んぐ、ここもか―――。」
今日はついてない。せっかくひとつ、冒険を終えて、あとは飯と酒と風呂と女だ。
そういう時間だったんだが――。
「これで3件目だぞくそゥ……!」
どこもかしこも、店が閉まってる。
仕入れが上手くいきませんでしただの、喧嘩でボロボロの店を改装中だの、暴れて店のモン食いつくす半巨人はお断りだの。
ふん、と息を吐いて、大男は壁に背で縋り付いた。
道行く人々は楽しそうだってのに、恨めし気に軽くねめつけた。
こんな大男ににらまれて、かわいそうな通行人はそそくさと立ち去った。
しかし、こう立ちすくんでいてもしょうがない。
…腹が減った。ぐうぅうう、るォオ…ッ。…けものみたいな腹の音が鳴ってひびく