2025/05/22 のログ
カロン > 「手で直接……。な、なるほど、そんなことがあったのですね」

相手は釣れ過ぎて楽しくなったんじゃなくて、釣れない八つ当たりで魚と一戦交えてきたと言う。
目の前で悠々泳ぐ魚に威嚇して直談判に向かう想像を膨らませながら、腕を組み自慢げに相手が言うものだから、少女もちょっと見てみたかったなんて楽しそうに肩を揺らす。

魚の群れVS黒豹――対戦結果は、食物連鎖に従い見事黒豹に軍配が上がったわけで。
そして黒豹のご相伴に人間があずかる形。
きっと、この後に来る他の冒険者たちも、新鮮な魚を食べながらコックから『大きな黒猫が差し入れてきた魚』との経緯を聞いて驚くことだろう。

「新鮮なお魚はどう調理しても美味しくなりますよ。
 でも、その……私も今晩はムニエルが食べたいと思っていたので、本当に運が良かったです。天の思し召しかと思うくらいっ」

指さし促され席に戻りつつ、相槌を打つ。相席は勿論と深く頷いて、どうぞと向かいの席を勧めながらも解いた席に腰を下ろした。

「偶然……。タイミング、でしょうか。
 おじ様がいらっしゃらなければ、きっと私も一人で夕食を済ませていたと思います。
 もしかしたら、お魚も売り切れで、しょんぼりとしながらベーコンを齧っていたかもしれません。
 ――……あっ、もちろんこちらのお店のベーコンも美味しいのですよっ? ですが……そのぉ……」

話し途中で、慌てて言い直し、あわあわまた焦りながら、ぐるぐる目を回す。
声は徐々に小さくなって、途切れて。

「えっと、つまり……今日の偶然に、私は感謝したいと思います。
 美味しいお魚を貴方と囲んで食べられる。そんな偶然の幸運に、私は感謝するのです」

そう言うと、うん。と一人頷いて、満足げに微笑んだ。

ヴェスタ > 「時には川の中の方まで入っていってな、こう……ぐわっとな。
 見たことのある奴には、それは猫じゃなくて熊だ!って言われてなぁ、別に猫らしく捕らなきゃならんってこともあるまいに」

見てみたかった、と言う様子に。大仰な仁王立ちのポーズを取り、そこから片手で掬い上げるように素早く足元を凪ぐ。
その様子は、最初にそれを指摘した者がまさに正しいと言った様相で、猫と言うより大熊のそれであった。
猫好きの者が見れば顔はどう見ても黒豹で、猫らしい……と見えるらしいのだが、周囲の人々よりやや背が高く、毛皮に包まれているのは確かで。これでもっと太ましい体格であったら熊と間違える者も出てくるかもしれない。
がお、と両腕を上に挙げて、熊のするそれを真似た格好をしながら、ニヤリとしてみせて。

「まあな、釣ってすぐを焚き火で焼いてな、塩だけで食うのも美味いものだぞ。これは自分で赴いてこそできる楽しみではある。やってみ……ろと言うのは酷か?どうだかな。
 ……が、それをせずに偶には持ち帰ってみるか、となったのは――そうかもな、お嬢ちゃんが天に気に入られているのかもなぁ」

旅慣れた様子の相手であれば、自分で釣って焚き火をやって、と言うのを勧めるまでもなく経験済みであろうが。
はて、見た目だけで言えばそうまで旅慣れている様子にも見えないものだから、無責任にやってみろと言い切るのは少し考えたようであった。
そうせずとも、丁度食べたいものを得られた、と言う運の方がよほど凄いもののようにも思えたから、勧められた向かいの席へゆっくり腰を下ろしながら、羨ましいものだとつい、暫くじっと見ていた。

「お、それなら……おぉい、ベーコンも使って何か少し追加しといてくれ。
 ――と、言うわけだ。……なんだ、べつにベーコンが駄目だとは俺も思ってないぞ?」

増えて量が凄いことになろうが、自分で食う。とばかりに、どうせなら追加しておけとコックの方へ軽く叫び。
急になんだかしどろもどろになる様子を、何をそんなに慌てることがあるんだい、とテーブルに片腕を乗せて。
もしかすると、魚とベーコンを比較して、魚を持ち上げたような言い回しになったかも、などと気にしているのなら、その真面目すぎる様子が微笑ましいものだ、と笑っている。

カロン > 「ぐわっ、ですか。 ふふふっ、ええ……っ、そうですねっ、それは……ふふっ」

的確な突っ込みをする見物客に同意して、片手を上げて堂に入った魚取りの様子を手振り身振りで話すのがまた可笑しくて、堪え切れず笑いを漏らし顔をそむける。
これを小さい子供が見ていたら、熊を真似て「がお」なんて鳴く姿にはしゃいだことだろう。
流石に無邪気に喜ぶほど子供でもないので、少女はサービス精神旺盛な黒豹の姿に楽しそうに笑うだけで留めた。

「その場で食べてしまうのですか? 自分で料理を……」

そっか、コックが傍でついているわけではないのだから、自分で作るのが普通なんだ。
また一つ勉強と言うか、常識を学んで。真面目な顔で頷きつつ。

「毎日欠かさず神様にお祈りをしているお陰ですね、きっと」

胸の前で手を組み、にっこりと笑って言った少女はどこまで本気なのかわからない。
羨ましいなんて言われれば、神への祈りを食事の前に勧める程度には、少女は信心深い様子だった。

「えっ、そ、そんな悪いですよ……っ、お魚だけでも十分豪華な食事ですのに……。
 ――えっと。お魚が食べたかった……と言うと、ベーコンに悪いと言うか。いつかベーコンにそっぽを向かれて困ることもあるのかなって……。はい、お魚もベーコンも美味しいです」

ベーコンが追加されるのは嬉しいけど、それは流石に申し訳ないと眉を下げておろおろと。
それでも相手が食べたい。食べきれると言うならば、止められずに見守るだけになってしまう。
じきに、香ばしいバターと魚の焼ける香りが厨房から漂い始める。
この匂いだけで、お腹がくーきゅーとまた鳴き出してしまいそうで、片手を胃の辺りに当てて宥めながら出来上がりを待っていた。

「わぁ……っ 美味しそうですね」

そうして運ばれて来たムニエルとベーコン。スライスされたバケットに顔を綻ばせ、すぐにフォークに手を伸ばしたいのをぐっと堪え、それぞれの前に皿を置かれるのを見ながら正面の相手に目を向け待つ。
一応ご馳走になる立場なので、先に手を付けるのは駄目だろうと。

ヴェスタ > そう、気味悪がられる事の多いこの獣人男も、相手が小さな子供であればいつのまにかよじ登られていたり、案外おもちゃにされるものなのだが……それはそれ。
話し相手を笑わせる、と言うのは元より好きなようであり。大はしゃぎ、とまでは言わずともしっかり笑わせるのには成功したようで、満足げな様子であった。

「そりゃあな、飯の時間となる度にどこか宿なり食事処へ寄らねばならぬ、としたら旅にならんからなぁ。
 違いを上手く説明できんが――料理、は実の所たいして上手くはできん、が、調理、なら必要最低限できるように、自然になるものでな。旅先で得た食材をきちんと料理として仕上げられる腕があれば、それはもう立派な一つのスキルとして名乗れるだろうな」

とりあえず火で焼くだけとか、食べやすい大きさに捌くとか。そのままでは食事になりそうもないものを、ひとまず食べられる状態にする、のは旅をしているとそれなりに出来るようになるものだ、と。
それこそムニエルだ、とか、メニューに名前が乗るようなものは作れん。と言うものらしい。冒険者パーティなど組むのであれば、誰か料理人の腕があるならそれだけで歓迎されるのは間違いないだろう。

「ひとまず今は魚の気分だろうから、気が向いたら他にも摘むといいさ。
 ……おお、なんだかちゃんとした料理、を味わって食う暇が取れるのは久々な気もするぞ」

話し込んでいれば運ばれてくるムニエルの皿、それと追加のベーコンやバケット、普段適当にぱっと済ませてしまうものだから、この男にとっても豪華な食事に思えるらしく、ふむふむと頷いて。
美味そうに食べる、のも見たいものだから見ていようとすれば、ああ、これは遠慮しているなと気づくものだから。

「あー……お祈りとかは俺はよく解らんぞ、そこはまあ、ちと妥協してくれ」

信仰心など殆ど無いのであったが、食べる前に祈るのを勧められれば、そこは相手を尊重するぐらいの気の使い方はする――よくシスターやら神官達やらがやっているような気がする、程度の仕草の見様見真似でしかないが、一応料理の前で手など合わせてみる。
それから、フォークを取ればまずは魚の方だろう、とメインのムニエルを一口大に刺しては口へ運び。
んむ、美味いぞ。食え――と言うように、目元でにこりとしながら頷いてやって。

カロン > 「料理と、調理ですか。なるほど、確かに旅先に必ず料理人がいるとも限りらないです……。
 調理の勉強……いえ、訓練でしょうか。私も簡単な物を自分で作れるように、練習してみようと思います」

火おこしも切るのも魔法で簡単にパッとやれてしまうけれど、きっと調理はもっと繊細なものだろうから、訓練は必要だろう。
簡単な調理ができるようになって、料理と呼べるようなものもできるようになれば、もしかしたら他の冒険者からパーティーに誘ってもらいやすくなるかもだし。
そういう下心もちょびっと持つのも、訓練の意欲にはつながるので悪くないはず。

「えっと……調理って、初心者は何から作るのが良いのでしょうか?」

料理は色々食べる側としては知っているが、具体的に何が簡単かは知らないようで、困り顔で取り繕うように笑って尋ねた。

「そうですね。そんなにたくさん食べられるかちょっと不安ですけど……。
 ――神様へのお祈りも大切ですが、それ以上に食材と作り手への感謝が大切なのです。食事を美味しく食べること、それが何よりの感謝ですよ」

不安と持論の教えを口にしながら、相手の最初の一口を待っていた。
律儀にこちらに合わせてくれているのか、祈って見せる様子には好感を持って微笑みを返す。
フォークの先に乗せられた魚の身が猫口に消え、次いで目が笑い、頷きが向けられる。
それを確認してから、少女は手を組み、手短ながら神への祈りを捧げてからフォークに手を伸ばした。
口に含めばしっとりした食感と、薄く絡んだ衣に閉じ込められたバターの風味とレモンの香りが広がる。
噛めば身はふっくら柔らかく、ほろほろと解けて行くようで。

「ん~……。思った通り、美味しいですっ」

待ち望んだ通りの上品なムニエルに舌鼓を打ち、頬に片手を添えながら嬉しそうに言った。

ヴェスタ > 「おう。これは……鵜呑みにはするなよ、あくまで俺の個人的主観、ってやつだ。
 とりあえず食える状態にするのが調理、きちんとした料理名が付くような状態にするのが料理、と思っててな」

 自分でも話しながら聞いていれば、どうもまだその辺の事は覚えていないような少女の様子。おや、こんな場末の所に居るわりに、結構良いところのお嬢様だったりするのかね、などと頭の中では少し思ったものの。
 そういう部分で馬鹿にするような気にはならないし、そもそも自分が普段あれこれ後ろ指をさされる側なものだから、いたって普通に、真面目に考えるだけなのである。

「そうさなぁ…… 極論、な。野菜を洗って切って皿に乗せれば、それは立派な調理だな。
 そういう発想でよいのだよ、最初はたぶんな。魚なら、生では危なそうだなぁと思えば、火にかけて焼いてみればいい。あとは、むやみに複雑な味さえ付けようとしなければ何とかなるだろうさ。
 なんなら教える――機会の方がなかなか無さそうだな、わはは」

味付けさえ無理に凝ろうとしなければ、切るとか焼くとか茹でてみるとか、ひと手間、で出来そうなことを試してみればいいさ、などと。
そのぐらいしか思いつかない程度の腕だが、かえってその方が初心者向けには丁度よかろう、とも思っている。

そんな間に食事も少しずつ進めば、美味しそうに食べてくれている様子を、やはり微笑ましく見ながら、自分でも次へ次へと食べていて。
美味しい状態にしたのはコックの腕だが、元の魚を用意したのは一応は自分なものだから、少しは誇らしく思っても悪くあるまい。

「ああ、そう言えば…… 俺は今夜はここが宿なんだがな。だから魚持って帰ってきたと言うやつだ。
 お嬢ちゃんはどこかへ帰るのだろう?――食後の散歩に丁度いいからな、安全な所までは見送るつもりだが」

ムニエルと言うのは美味いものだな、と食べ進め。美味しいと少女が言っていたベーコンの方も、なるほどこれも良いものだ、と、ためしにバケットに乗せて食べてみるなどしつつ。
話しながら食べている間にだいぶもう残りも少なくなってきて、ふと、食事後はどうするのだろうかと気になった様子。
ああ、わざわざ出かけると言うような意味合いで遠慮しなくていいぞ、どうせ元々散歩には出たかもしれん、と。

カロン > 注意は一応程度に聞いて、はい!とはっきり頷いた。
親切に教えを与えてくれる謎の黒豹おじ様の話に全幅の信頼を寄せ、疑うことなく真剣に聞き入る。

「切って皿に乗せるだけでですか? んー……、わかりました。
 後は生ものは火を通して、ですね。味は塩と砂糖……くらいで、複雑な……変わったものは使わない。はい。
 ――えっ、よろしいのですかっ? あ……あー、えっとそうですよね。偶然会うことなんて、そうそうありませんからね……」

食事中なので手帳を取り出せないが、食べ終わったらすぐ書き残せるよう頭に叩き込みながら、真面目に習っていた。
教えるとの言葉には少し身を乗り出して、勢いのままに尋ね返す。けれど、笑って言われた言葉で、社交辞令と気付きいそいそと座りなおして目の前の皿に視線を落とした。
手に持ったナイフをフォークをグッと強く握りしめ、再びムニエルの皿に手を伸ばしもう一口。
それに満足したら、バケットを取って、一口サイズにちぎってもぐもぐと。
味がリセット出来たら次はベーコンへ。少しずつ食べ進める中で、尋ねる声に顔を上げる。

「えっと……私も、一応今日からこちらの宿を借りることになっていまして。
 ……もしかしたら、お隣さんかもしれませんね?」

家を出て冒険者となって数日。まだ宿代を払える程度の資金はあるものの、貴族たちが住む富裕地区の宿は高すぎて流石に連日は借りられない。
宿に困っていることをギルドで相談したのが少し前のこと。そして、ギルドと並列しているこの宿を紹介され今に至る。
“今夜は”と言うことは、相手も冒険者か旅人なのかと聞いてみたい気持ちもあるが、逆に色々と聞き返されて困るのは自分なので少し考えてから、それでも一晩のご近所さんに嬉しくなって、ふにゃりと微笑んで首を傾げた。

ヴェスタ > そこまで真剣に聞くほどのものか、となんだか少し面食らったようになるが。
逆にこれだけ素直なら、調理において最大の禁忌である……余計なアレンジ、はしなそうだから、きっと慣れてくればしっかり美味いものが作れるようになるんだろうな、と安心したような気にもなり。

「こういう場所で教わるんなら、俺が教えるよりそれこそコックにでも聞けばいいわけだしな。
 ただまあ、冒険者の真似事でもしてみたい、と言うならその時は俺を雇ってみる……と言うのは手かもしれん。それなら道中焚き火で肉でも焼いて――なんてのは一緒にやれるだろうさ」

強いぞ、とは言わない。が、必要ならしっかり守り切るぞ、と言う方にはそれなりの自信は持って言えるのだろう。
そもそも傭兵稼業であるのだし、護衛に付くのはよくある仕事だ。そこに関してだけならコックよりも役に立つ。

「もし気が向いて、偶然でなく必然で会ってみたいときには――ああ、そうか、冒険者ギルドでもアタリをつけられるようになったっけなぁ。
 ヴェスタ・クラウス、って名前の猫おじさんを探してみるといいぞ。普段はただの傭兵ってことにしてるんだがな、冒険者としての仕事も振ってくれるような話がついてなぁ」

時折顔を見せる冒険者ギルドの好意で、冒険者の扱いで仕事も受けていいぞ、と丁度先日話がついたところである。それならば、獣人男はそうそう多くもなかろうから、ああ、あの黒いのかと察しはつけてもらえるだろう。
その辺り、ちょうど少女が聞こうとして聞かなかった所だろうか、その話になったのは意外と本気で教わりたそうにしていたから、の偶然ではあるのだが。

おや、何だかんだでベーコンにも手を出してるな、とニヤリとしながら。よく食べる方が見ていてこっちもより食事が楽しいものだよ、と。
笑っていた所で、なんだか真顔になりもして。その後、変な苦笑いを暫くしていてから、少し肩を竦めて。

「……それはもう少し気を付けておいた方がいいな。かもしれない、にせよ見知らぬ男と隣の部屋なのを喜んでると、食われちまうかもしれん――俺もちょっと変な気を起こしそうになったぞ。
 久々に楽しい食事をさせてもらったのに、その後誰かに襲われたらしいです、じゃあ……おじさん悲しくなっちゃうからな。お嬢ちゃんみたいな可愛い子にはちと危ない街だからなぁ」

無防備すぎるぞこの子は、とそこは本気で心配になる。
本当に色々危ない街なものだから、帰り際に襲われたりしないように、と思って見送りを申し出たぐらいなのだから。

カロン > 「ま、真似事……。う、あ、はい」

真似事と言われれば、冒険者に見られていないと言う事実に地味にショックを受け、ピシッと石のように固まった。
何とか返事を返せたものの心ここにあらず。生返事をして、ずーんと重い空気を背景に背負っていたとか。

「えーえっと、では、貴方を雇えるくらいの資金が出来た暁には、調理と……あと、魚の捕り方を教えてください」

ただ、そんな空気も数秒もすれば散って消え、笑って返せるようになる。
肉の焼き方を教えてもらうのも魅力的だけれど、そこは是非、噂の熊の如き漁業を見せてと強請ってみたり。
ベーコンを取り皿で切り分けながら、揶揄うように笑う顔をちょっと物言いたそうに見た。
でも、食べたい気持ちもあるし、もう皿に取ってしまったし。実際、残すつもりはこれっぽっちもないので、食い意地が張っているのが気恥ずかしく頬を赤らめ俯きながらベーコンを頬張るのだった。

「――はい、ヴェスタさんですね。“猫のおじさん”の方で伝えたほうが、皆さんすぐにわかってくださりそうな気もしますが……。
 依頼主としてお願いする時は、そのお名前で指名させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」

聞いた名を何度か口の中で転がし唱え、一度両手の食器を置いてから。

「私はカロンと申します。……こう見えて、一応……冒険者をしております。
 今後はギルドで会うこともあるかもしれません。その時も、仲良くしていただけると嬉しいです」

こちらも自己紹介をして、座ったまま会釈をして返す。
笑っていた相手が急にスンッとなると、何かあったかと首を傾げ返し、苦笑されては更に頭を傾ける。

「えっ。食べられ……。き、気を付けます……っ!」

少女はその忠告に一瞬戸惑ったが、すぐにサーッと顔を青ざめ、怯えて何度も首を縦に振った。
文字通り、カニバリズム的な意味合いで言葉を受け取り、そんな恐ろしい魔族や魔物のような人が街に隠れ住んでいるのか、と。
意味合いは違うが、相手の注意を聞き入れ用心はしっかりと怠らないことだろう。

ヴェスタ > 「おう、カロン、と――おっと、もう冒険者だったか……すまんな。
 何せ自分がこうだからな、意識して見分けようとしなけりゃ人間がどういう者なのかってのは分かりにくい部分もあるのさ」

 それこそ、血の匂いが染み付いている、などすれば獣らしく勘付きもするのだが。最初に少し気落ちしているように見えたのは、そういう意味か、と気づけば平謝りもするもので。
 獣人ゆえに人間の職種までは見た目じゃわからん、と言うことで納得しておくれ、と言うことで気にしないでくれれば良いのだが。

「お詫びと言うわけでもないが、呼んでくれれば資金云々抜きにしてもちょっとした付き合いぐらいは構わんからな。
 それこそ魚捕りにつきあって高額報酬、なわけはなかろう」

幻の魚を求めて遺跡地帯の奥まで!……などと言われれば相応の護衛代を要求したい所だが。
近隣の冒険者用の簡素な依頼などに同行するのであれば、むしろ一部の報酬はこちらにも入ってくるだろうから、尚更そこまで資金の心配をする事もあるまい、と。

流石にそろそろテーブルの食事も終わり、と言う所。
自分が多めに食べている、にせよ残るような事もなさそうで、しっかり食べてくれているのを見ながらと言うのはやはり気持ちの良いものだ。
食べ終わる頃……妙に顔を青くしているものだから、素直で良し、と思うのだけれど。それにしても深刻になりすぎではないか?とも思って暫し考えて。
今までの話の遣り取りと、この少女の素直な性格やらを順に辿ってみれば。――ん?と何か思うに至り、少しテーブルに身を乗り出すようにしながら、口元に片手を当てて囁くように。

「焼いて食うとかではないぞ? ――夜伽、の意味な?」

その辺ももしかすると教えてやらねばならぬのだろうか、などとまた苦笑い。意味を、であって実践をの話しではもちろん無いのだが。
囁いた後、座り直せば食事の残りを片付けて、では、ごちそうさまだな、と頷いて。

カロン > 謝罪には慌てて首を横に振り、気にしないでと手まで顔の前で振って。

「いえ! 私もまだまだ駆け出しなので、きっと雰囲気とか、威厳とか……そう言うのが足りてないので……」

自分で言っていて少し凹んで来るが、これも数年後にはきっと!と思えば希望も見えてくる。
相手の言うように、人種、種族が違えば、見た目ではわからないことも多いだろうし。そう思えば前向きにもなった。

「それは駄目です。口約束ですが、依頼として受けて頂くと言った以上、そこははっきりしなければ駄目なのですよ?
 ……勿論、仲良くしていただけるのはとても嬉しいのですが。
 んー、では魚捕りをしに行くのはお友達としてで。それ以外で、また護衛として依頼させてください」

幻の魚を探すというのも心惹かれる名目である。
が、幻の魚をぐわっと手で鷲掴み、叩いて掬ってと言うのは情緒が無いものまた事実。
近所の森まで散歩がてらに釣りに行くのとはまた別に、前衛を必要とするような仕事の際には相手を指名させていただこうと。

内緒話をするように、こそこそと話しかけるので、こちらもつられて乗り出し耳を傾ける。
焼いて食うわけではないと言われてほっとはしたものの、今度は聞き慣れない言葉に首を傾げた。

「よとぎ?」

何度か瞬きをした後、何か比喩で“食べる”と言われたことだけは理解しつつ、疑問符を頭に浮かべたまま、ちぎっておいたバケットの片割れを口に運び、それを最後にナイフとフォークを揃えて皿の上に置く。

「ふぅ……。美味しかったぁ、もうお腹いっぱいですっ。
 ヴェスタさん、ご馳走様でした」

美味しくて楽しい、素敵な時間にお腹も心も満足。
数日ぶりの満腹感に頬は緩み切って、心底幸せそうに天井を仰いだ。

ヴェスタ > 「なぁに、あれこれやっている間にいつのまにか立派になっているものさ。
 飯を作るのもそう、それこそ魚を捕るのもな」

熊のようなやり方をそのまま覚えられてもそれはそれで困る気もするのだが。
最初から一人前に見える、と言うのもなかなか居ないものだろうし、そこは数年後を楽しみにするもの、で良いのだろう。

「……おっと、その辺はカロンの方が既にしっかりしてるようだ。こりゃまいった。
 まあそうだな、友として呼んでくれるのも嬉しかろうし、護衛の必要がありそうな時は、そのように依頼してくれたまえ」

そうさな、普段基本的に抜かずに済ます背中の剣が必要になるような時は、しっかり仕事をさせてもらうとするか、と考えて。
もう一つの話の方は、こりゃあ――あれか、箱入りご令嬢の為の教本みたいな物をまず用意する所から、と言うぐらいの話なのか、と。おお……と天井を仰ぐのが、丁度考えている事は違うが似たような光景になり。

「そ、そこからか……。これも真面目に教えてやるべきなのか?
 いや、まぁ、今まで無事に済んでたのを天に感謝と言うやつだなぁ」

本当に何か天とかそういうものがこの少女を守ってきたのかもしれない、と思うと、少しは信じてやってもいいかもなぁ、と言う気にもなってくる。
そのまま素直に生きていてくれ、とどこにお祈りしておけばいいのか解らないが、どこかへお祈りしておくか、と思いつつ。

「うむ、腹いっぱい食べてくれる方が、振る舞う甲斐もあるってものだからな。
 よしよし、これにて食事会はお開き、と言うやつだ」

暫しの食休み。
その後は、流石に寝るにはまだ早い、そのまま暫し話しもあるやもしれず、各々夜までの用事を済ませる事もあるやもしれず。久方ぶりの心地よい夜を過ごすのである。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からヴェスタさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からカロンさんが去りました。