2025/05/08 のログ
■篝 > 「ああ……。ん、理解しました」
そう言えば、駆け出しが貧民地区でペットの捜索をしているのを見たことがある。他にも、どぶさらいや、失くしものの捜索。
簡単な仕事が割と早々に売り切れる謎が今まさに解明されたのだった。
チビチビと酒を舐めながら、相槌程度に頷き返し。
「味方……ですか。ライバルが増えると、仕事が減ります。奪い合い……には、ならないのですか?」
話に耳を傾けながら、不思議そうに僅かに首を傾ぐ。
誰かと組んで斥候に出ることなど、片手で数えたくらいしかない。
年季の浅さに重ね、ほとんど単身の仕事しか受けないせいで、仲間や味方と言うものは小柄にはまだ理解しがたいものらしい。
話し半分と言った感じで頷きつつ。
「そう。……動きやすい、隠れやすい、隠しやすい。便利です」
問いかけには、少し、心なしか誇らしげに答えた。
意外と言いたげな表情も、この服装に対する興味と勘違いしたようだった。
「この仕事を好んでやる者は少ないです。ので、情報提供を求めます。参考知識は増やしたい……と考えます。
――魔道具……。伝令を即座に飛ばせるのはとても画期的ですね。便利です。
……ん。……うん。目測……を、図るのが、得意なのですか?」
相槌を打ちながら、相手の視線を追って辺りを見渡し、首を傾ぐ。
小柄には正確な距離までは測れず、おおよそ7m前後くらいとしかわからなかった。自信をもって伝えられる精度ではない。
5cmのずれでも弓や魔法を使用するには大きな誤差になりかねない。
これが熟練者と言う者なのか、と感心してジッと男を見ていた。
■カイルス > 「そこでいうと、斥候を専業でやろうって人間はあまりいないんだ。
冒険者パーティーだと盗賊が兼任することもあるが、本職には劣る。だから、依頼によっては斥候を単独で募集する所もある。
斥候同士――俺と篝なら、情報交換ができる。どこに魔物が巣を作りそうとか、珍しい薬草とか。
それに――斥候は単独でも採集の仕事とかがあるからね。糊口を凌ぐことはできる」
相手の疑問に対して、自分なりの見解を伝える。完全に同意を得られるとは思っていない。
これまで過ごしてきた中での、男なりの冒険者観だ。
「なるほどね。俺もこの服は隠密性重視で作ってる。街の外用に緑っぽいのもある」
相手が纏う黒に近い色と、男の灰色に近いそれ。日中と夜間、どちらを重視しているかというのもあるだろう。
「ギルドの備品で、俺も使ったのは久々だけど。確かに便利だった。
そんな所かな。物陰に隠れている敵がどれだけいるかとか、他の感覚と重ね合わせて……人よりよく“視える”。
魔術との組み合わせみたいなものだと思ってもらえれば」
隻眼の男が視力を得意と言うのも奇妙ではある。
自分の右目にある魔導具について話すのも憚られたので、少し誤魔化してみた。
「さて……酔いも醒めてきたし、次はお茶か何かを飲もうかな。
篝もどうだい? この騒ぎなら、一緒に飲み食いしても大丈夫だろう」
気付けば頭も冴え、身体は少し冷えを感じるようになった。
この調子なら明日もしっかり仕事はできるだろう。
自分が相手に提供できるほどの情報があるかはわからないが、拒む理由はない。
与えたならいつか戻ってくる――男はそう思うようにしている。
とはいえ、風邪をひいては元も子もない。酒場で話そうかと提案し――。
■篝 > 「なるほど。それは盲点でした。有益な情報を共有することは、生前確立を上げることにも直結します。
味方……仲間、と言うものは理解しがたいですが、情報の交換ならば共存も悪くないです。
……私は、幸い食い扶持に困ることは滅多にありません。が、薬草、毒草の類には興味があります」
斥候専門の冒険者は確かにニッチである。剣士や魔法使いと比べるまでもなく少ない隙間産業だろう。
情報を交換し合い生存確率を互いに上げる。それなら取り合いをするよりも、共存を選ぶ理由になる。深く頷き返し。
「ふむ。もぐる場所によっても、色を変えるのですね……」
術を使えば瞬時に周囲のものに擬態し身を隠せるが故に、服装に気を遣うことも考えたことがなかった。
相手との会話は、実に為になる時間であると再認識して、赤い瞳は熱心に、より真面目になっていく。
「魔術で、ですか。隠れたものまで見えるとは……。本当に目が良いのですね。
……両目だったなら、千里眼にもなれたかもしれません。残念です」
そう言う術があるのかと、また勉強になったと正直に感心するが、続く言葉は少し残念そうに。眼帯に向けた視線を逸らし、伏せる。
「……そうですね。私も、酒以外も欲しいです」
こっそりまぎれこむのは小柄も得意とするところ。
相手の後について、何食わぬ顔で入り込めば変に思われることもない。……はずだ。
コクリと首肯を返し、その後について中へとついて行くだろう。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」からカイルスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」から篝さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 冒険者ギルド」にラナさんが現れました。
■ラナ > 「では、いつも通りこちらで……」
シスター風の少女が一人、冒険者ギルドの受付で木箱を受付の人へ渡している。
中身は緩衝用の藁屑に支えられた小瓶が並んでいて、透明な液体……もとい、水、が入っている。何度か同じ遣り取りをしているのか、中身がいつもどおりの液体瓶だ、と言うぐらいの簡素な確認で受け取ってくれて、しっかり仕舞っておきなよ、と対価の小袋を渡されて。
「ありがとうございます。……次回もまた、同じぐらい出来上がり次第、で構いませんか?」
小袋をしっかり仕舞いつつ、定期的に行っているらしい納品の確認をして。
小瓶の中身はただの水、と言えばそうなのだが。錬金術師や、一部の魔術師などが実験に使う……いわゆる、聖別された水、と言うものが必要なのだそうで。
この少女も準備に一役担っているのだが、住み込みの教会で作っているそれは水としての純度が非常に高く、かつ名前を売る為に無意味な上乗せをしているような悪徳教会のそれと違って安価で済むから、地味に需要は多いようだった。
少女は見た目通り、冒険者ではなかったが、教会のお手伝いで必要な買い物をしたり、或いはあまり人に言えない別の用事で王都を訪れることがよくあって、その過程でこうして教会で作られた何かしらを代わりに届けたりもしている。
一通りの遣り取りが終わり、今は……もう少しで日が落ち始める頃だろうか。窓の外はまだほんのり明るいままで。
この後はどうしましょうか、と考える。無理に日帰りするように言われているわけでもないから、たまには自分の買い物でも見て回ってみようか、それともまだ早いけれど夕食の心配でもしてみようか。少し疲れたから、ギルド内の椅子を借りて、休憩しながらぼんやり考えていて。