2024/10/07 のログ
■ヴァン > 室内の鐘が鳴る。隣の大聖堂が日没を告げる鐘を鳴らしてから一時間。閉館時刻だ。
立ち上がると玄関へと向かい、閉館を示す札をかける。人がいないか念の為に館内を巡って受付へと戻る。問題なし。
とはいえ館内でも男性では立ち入れない所がある。トイレ周辺を調べていなかったことに気が付いた。
魔導灯がついていなかったから使用者はいないと早合点したが、そうとも限らない。
個室を利用中、他に人はいないだろうと誰かが明かりを消してしまう。盗みに入るために司書が立ち去るまで隠れている。
ぱっとそんなケースが思いつくし、前者は男自身にも経験がある。
さて、どうしたものか。残っている女性司書がいれば見てもらおう。
いなければ――ノックなど配慮をすれば、己が確認しても大丈夫だろう。
■ヴァン > よいせ、と立ち上がると執務室を確認した。
残っていたのは自分以外で唯一の男性である館長のみ。
そんな雑用を押し付ける訳にもいかない。やることを説明だけして、確認に向かい――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/神殿図書館」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」に影時さんが現れました。
■影時 > ――冒険者の一日の始まりは、早い。
毎朝掲示板に張り出される仕事の奪い合いに誰よりも早く先んじようと思えば、早起きせざるを得ない。
明日から仕事を始めたいと思うなら、早寝早起が肝心であると誰が言ったのだろう。
それでも欲しい仕事に在りつけない人はご愁傷様。
安い仕事を渋々受けてもいいし、懐具合がまだ大丈夫ならばそうしなくともいい。その判断は自由である。
欲しい仕事を掴めず、残った仕事が数人がかりになるのであれば、それを待つのも自由。
「……――あー、粗方掃けちまってるか。朝のうちに訓練入れてりゃ、やっぱこうもなるわなァ」
と、平民地区にある酒場と隣接した冒険者ギルド、その入り口近くの掲示板に立つ姿が顎を摩りつつ、苦笑を滲ませる。
羽織袴と呼ばれる異邦の装束に身を包み、腰に刀を差した男だ。
朝をとうに過ぎ、昼に差し掛かろうとする頃合い、つまりは依頼争奪戦のピークタイムを過ぎた後には、ぺんぺん草も残らないというのは言い過ぎか。
残る依頼は稼ぎが少ないか、多少なりとも旨味があっても面倒、或いは前提条件として数人で請けることが指定されているか。
その程度しか残らない有様に訪れた理由は、勿論ある。
兼業をしているからだ。兼業している冒険者は最低限の収入を見込めるが、そのための時間配分故に争奪戦を見送らざるを得ない。
「まぁ、仕方がねえ。……さぁて。今日の品書きはどんなンだね、と」
仕事は仕事だ。どれもこれも疎かにするつもりはない。だが、旅に出たい。つまりは冒険に出たい気持ちはある。
雑用じみた依頼を片すのも良い。遠くまで出かけるのも良い。
鍛えを求めて迷宮に潜るのも良いが、準備と情報集めをしなければ、単独行での生存率に大きく関わってくる。
ともあれ、王立コクマー・ラジエル学院で朝から訓練を受け持ち、一仕事終えた後は腹が減る。
時刻もあればちらほらと人が見える酒場の方に歩み、空いている席にどかりと座る。壁にかかった品書きを一瞥して、片手を挙げよう。
行き交うウェイトレスを呼び止め、幾つかの料理と酒を頼む。
■影時 > 暫しして、並ぶ品々は薄切りの黒パン、分厚いベーコンのステーキ、付け合わせの葉野菜、エール酒を満たした陶製の酒杯。
依頼書を見ながら食べるためにパンに挟んで良いし、ちまちま切り出して食べてもいい、と言ったところか。
遠出のために朝から沢山食べるものも見かけるが、昼餉はこの位でも事足りる。足りなければ追加で頼めばいい。
追加で頼めばいい――と思えるだけ、贅沢ではあるのだろうか。
酒杯を持ち上げ、ちびりと泡が浮いた液体を口に含みつつ、横目に周囲を見遣る。
項垂れているのは仕事がなくてグダを巻いているのか。
テーブルに乗った皿一枚とカップを見て固まっているのは、もうこれしか食べられないと絶望しているのか。
片や、真昼間から酒盛りに興じているのは――嗚呼、朝帰りだろう。夜を徹して仕事を終え、興奮状態のままに呑み食いでもしているのか。
「やけ酒な風情でも……無ぇってコトは、上手くいったンだろうなあ。あやかりたいもんだね」
眼を遣るうち、最後に目についたものを眺め遣りつつ嘯く。
ありゃあ酔いつぶれたら寝るな、と。そう見立てる。酔いつぶれる前にちゃんと宿に向かうのか、そうではないのか。
ともあれ、仕事終わりを歓喜で迎えられるのは、いいことだ。そう思いつつ、己が料理を口に運ぶ。
■影時 > 「……ん、ああ、起きたか。大方腹減ったクチか?ン?」
食事を進めること暫し、首の後ろでもそもそもそ……と動く気配がある。
パーカーよろしくフードがついた羽織だ。そのフードは垂れているにしては、何か中身がありそうな垂れ方をしている。
然り。中身がある。その中身が目を覚まし、もそもそと男の肩口に出てくる。
茶黒の毛並みのシマリスとモモンガだ。
毛並みを耳から尻尾の先まで逆立てるように欠伸をし、こしこしと顔を擦って毛繕いをしてみせる。
その二匹が男の肩や腕を伝い、テーブルの上までとことこ降りてくれば、振り返るように、ぢっ、と見てくるのである。
「はいはい。おぅい、……あー、生野菜とナッツ、塩も何もかけずにな。あと、林檎も切ってくれるかね」
詰まりはお腹が空いた、ということであろう。ウェイトレスを呼び止め、サラダの注文にしては奇特な注文を通す。
然程困惑する様子もないのは、同様の注文を何度も請けているから、だろう。
冒険者の中には、何らかの使い魔を連れている魔法使いも少なくない。使い魔の餌のために似たようなオーダーは慣れたものらしい。
程なく運ばれる小鉢と皿に、シャキシャキの野菜とナッツがそれぞれ分けられているのも、彼らにとっては嬉しい配慮で。
「これは俺が切るか……」
もう一枚の皿には、カットされた林檎が乗っている。デザート代わりのつもりでもあり、飼っている彼らに与える分でもある。
すぐに野菜に喰い付き始める姿を見つつ、林檎の一切れをフォークで小さく更にカットする。
皿の端に持っていくのは、これはお前たちの分な、と示すように。
二匹ともどもに腹を満たし、一息つけば改めて仕事を確かめる。新たに張り出されたものがあれば良いが……。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」から影時さんが去りました。