2024/08/19 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区・酒場裏手」に遊蝶花さんが現れました。
遊蝶花 >  
「ありがとマスター。
 どうしたの今日は気前がいいのね?」

ギルド近くの酒場で舞を終え、店主からの奢りで一杯ご馳走になった後。
それなりのゴルドを金貨袋に詰められ手渡された女はその重さに少し驚いたような顔で店主へと尋ねる。

女が舞えば客が集まり繁盛する。その礼も加えてあると話す店主に、改めて小さく頭を下げた。
──こうやってよくしてくれる町の住人達のおかげで、なんとか生き繋ぐことが出来ている。

こうして裏口から帰してくれたりなども、女の事情を知っている者であるからこそ。

「(追手の影が見えなくなってから数ヶ月…もう、諦めてくれてたらいいんだけど……)」

店主と別れ、酒場の裏手に佇み空を仰ぐ。
明るい月が昇り、深夜の闇が迫る時刻───。

遊蝶花 >  
舞で火照り汗ばんだ肌に、路地に吹き込む夜風が心地よい。

宿に戻って汗の始末なんかをしないと、呪いの影響で客が集まるのは良いけれど、それ以上は求めていない。
それが余り噂になっても、自分を追う人間に見つけられてしまいそうでもあるし…。
女の肌から甘く香り立つようなそれは、遡ること一年近く前…。
王城で密約を交わしていた王族と魔族を目撃してしまった時に身に受けた、呪詛。
その場は運良く逃げることが出来た。
元々王城での、王家の末席としての王女の立場にも嫌気が差していたところ、王城によく訪れていたとある冒険者の手助けで城から逃亡。

彼らの働きで、身分と名前を隠してこうして王都を転々としながら過ごしている。
まさか、王女が平民の酒場で踊り子をしているなどとは思うまい。

「…風が少し冷たいな。雨が降りそうね」

月にかかりはじめた暗雲を見上げ、路地を歩く足を早める。
今利用している冒険宿も、もう数ヶ月。…そろそろ宿を変えたほうが良いかもしれない。

ご案内:「王都マグメール 平民地区・酒場裏手」にエリビオさんが現れました。
エリビオ > 夜間のみのウェイターを請け負った酒場は人がごった返し熱気に溢れる。
皿を取り下げ料理を運ぶ単純仕事といえど浮かぶ汗は額を濡らし麻の衣服が胸板にぴったり張り付く。
仕事の合間に裏口を抜けてちょっと涼みに出かけた。
珠のように浮かぶ額の汗を腕で拭い、張り付く襟元を正して夜風に当たっていると。

「ん……?」

どこからかささやき声が。くるりと巡らす瞳は少し離れた場所にいる金髪の踊り子を見つけ。

「さっき酒場で踊っていた踊り子さんだよね」

目を細め軽く手を振り挨拶。

遊蝶花 >  
離れた位置から声をかけると、少しびくりとした様子。
黄金色の視線がそちらに向けられると、───あ、見知った顔…と、強張りが解ける。

「こんばんわ。よい夜風ね」

ひらひら、手を振り返してにこやかに挨拶返し。

「ご休憩?今日はお客さんも多くて、忙しそうね」

一雨来そうな雲行きだったけど、お世話になっている酒場のウェイターさん。
少しくらい会話をしてもいいかなと立ち止まる。

──少し、呪い(フェロモン)が発露している気がするから、余り近づきすぎないようにしないと。

エリビオ > 「いい風だね。酒場にいる人達も外で飲めばいいのに
 ……でも、ちょっと雲行きが怪しいかな?」

細めた瞳は空を仰いで更に眇める。星と月が見えぬ闇雲に覆われているから。
それでも、一時の憩いとその場から動くことはなく。

「そう。休憩ってことにして。バレたらクビにされて君を恨んじゃうかも。
 踊り。とっても良かったよ。とっても情熱的で。
 そのせいで酒場の温度が少し上がったんじゃないかなってくらい」

乱痴気は窓辺からも聞こえてくる熱狂。それを肩越しに眺めつつ。

「でも踊ってる方は大変だよね。料理を運んだり下げたりする俺以上に。
 暑かったんじゃないの?使ってないタオルいる?」

タオルもって伸ばした手は到底届かぬ相手へと。
されど逆に引くように見える挙動に目を瞬かせ。
仕方なく側の木箱に片方の膝に手を宛がう様に、前傾姿勢。
もう片方の手でまだ熱を持つ首筋撫でて。
瞳の輝きは不可思議そうにじっと、彼女を見守っていた。

遊蝶花 >  
「…そうね。おかげで風は冷たくて心地良いわ。
 ふふ、お褒めに預かり光栄ね。お客さんにも喜んでもらえて何よりだわ」

酒場から聞こえてくる喧騒は、まだ夜の始まりを感じさせる熱気。
その熱気の中心にさっきまでいたのだから、眼の前の彼が心配するのも無理はない。
実際、それで振り撒いているモノ(フェロモン)のおかげで熱狂しているところもあるわけで…。

「あ…、ありがとう。
 簡単に汗の始末はしたのだけど、ふふ…どうしても火照ってしまうから」

…少しくらいなら、と。
せっかくの親切を無碍にしたくはない。
この王都の、たくさんの親切な人のおかげで今の自分が生きていられるのだから。

歩み寄り、タオルを手にとる。

「優しいし、それとない気遣いも出来る。女の子が放っておかないんじゃない?」

少し年下に見える、そんな少年にくすりと笑みを向ける。
モテるでしょ?なんて悪戯な声色で紡ぎながら。

エリビオ > 「俺も踊りのときは皿運びをサボって見ていたよ」

言葉の交接楽しみながら、いつのまにか瞳はにっこりと細まる。
こちらの好意を受け取ろうとするのに、笑みを噛み殺そうとして殺め切れなかったような
そんな朗らかな感情のひとひらが黒瞳に宿り。

「はいどうぞ……っ」

渡した後にくらり、と頭を下げてしまう。
強い酒精の如く脳を焼く匂いが鼻腔を擽ったから。
俯いた頭をあげようと額に手を当てて。

「モテる?そんなことないよ。
 基本、いつも一人で……ブラブラ……」

悪戯な声に朗らかな声も酩酊したように弱々しく。

遊蝶花 >  
「ふふ、それはダメね。
 お仕事はちゃんとしないと───…、大丈夫…?」

気をつけていたつもり、だったけど。
でも、元々店内で踊りを見ていて、近くにいたなら、その時点でアテられていたのかも……。
……こういったことも、初めてじゃなくて、申し訳無さげに金色の瞳が細められる。

「…顔が赤いわ。少し休んだほうが───」

ぽつり、ぽつり。
そんな言葉を切り出すと、大きな雨粒が落ちはじめる。

「………しょうがないわね」

少年の手をとり、酒場の裏口の扉を開く。
確か、二階は冒険者達の宿としていくつか部屋があった筈だから。

「店主さん、ごめんなさい。彼が少し、具合が悪そうで───」

なぜか店に戻ってきた踊り子と、手暇に外に出ていたウェイターが連れ立って戻ってきた様子に店主は眼を丸くする。
しかし店主は、遊蝶花の持つ事情をある程度知っている。
そういうことか、と二回の部屋の鍵を手渡し、快く部屋の使用を許可してくれた。

──少年の手を引き、部屋に入れば、ふぅと溜息一つ……。
現状、解呪の手立てがない以上うまく付き合っていかなければいけないのだが、なかなかうまくはいかないものだ。

仕方なかったとはいえ、手を引いた彼は更に自分のカラダの近く、それでいて部屋という密閉された空間に来てしまった。
ある程度、耐性があれば耐えられるかもしれないが───。

「(だって、放っておくわけにもいかないものね……)」

己の呪い(フェロモン)にアテられた、心優しい少年を雨の中に放置して去る…なんてことは流石に出来ない。
それは城から逃げた王女の、少し不器用な優しさ…ではあったけれど。

エリビオ > 「大丈夫……なんか、夏バテ……
 さっきまでは、平気だったのに」

細める金色に申し訳無さそうに細める瞳に朱が走る。
朱色となった瞳は手を引く女性に申し訳なさそうに伏し目となり。

「ありがと、でも、風邪だったら君にも移っちゃうかも?」

部屋に入った後は胸元に手を当てて何度も仰ぎ。
額の汗を拭う。
室内は酒場より涼やかなのに、何故……。
そんな想いを抱きながら金髪の踊り子と部屋を過ごすのだった――

ご案内:「王都マグメール 平民地区・酒場裏手」から遊蝶花さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区・酒場裏手」からエリビオさんが去りました。