2024/04/08 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」に影時さんが現れました。
■影時 > ――死地から戻れば、潤いが欲しくなる。
どんな時でも、どんな処でもきっと変わらないだろう。好んで向かっていても尚のことだ。
それが一人ではなく、その場限りとは言え、誰かと組んで赴いての帰りであれば、潤いはおのずと定まる。
つまりは杯だ。成功の祝いであれば祝杯、誰かの死を伴うならば鎮魂。枕言葉はその時次第だが。
冒険の後の祝杯とは、大体にして冒険者ギルドに併設か、その近くの酒場が相場が決まっている。
「んじゃァ、生還と成功を祝して――乾ッ杯ぁぃ」
そんな音頭を取る男の声が響くのは、平民地区に数ある大きな酒場の一つだ。
冒険者ギルドに近いそこは、特に夜となれば一層に賑わう。
一仕事を終えた後の癒しを求めるものが居れば、誰かを悼むためにひっそりと呑むものも居る。
それも偏に味は兎も角として、値段設定が良心的とも云えるからか。ギルドから離れていても賑わうのはそれが理由。
だから、特に数人とつるんで呑むには丁度いいとも云える。肉の焼けた臭いや紫煙等、様々な匂いと声が満ちる中、声が響くのは数人掛けのテーブルだ。
テーブルに座する数名は顔も性別、年齢も異なる。だが、一仕事を終えた安堵がある。迷宮から持ち帰ったものが比較的高く売れたこともあれば、喜びの色はまた強く。
「まぁ、吞め吞め。寝たくなったら上の部屋を借りるか、定宿に戻るだけの分は残しとけよう」
座するもののうち、年上に見える姿が声を連ねる。渋染の羽織に異邦風の動きやすそうな装束を纏った男だ。
場慣れした風情と相俟って、なみなみと酒を満たしたジョッキを呷ることに何ら躊躇いも何も無い。
ただ、ペットなのだろうか。
男の近くで二匹の小動物が野菜を齧る情景だけが何処が不釣り合いだが、言うことは間違いではあるまい。
迷宮から戻り、ギルドに報告するまでが冒険だが、流石に寝床への帰りまで面倒は見ない。同衾するならば話は別だが。
■影時 > 酒が進めば食が進み、話も弾む。
そこに迷宮に挑んだ際の反省点――なんて野暮は挟まない。落ち度の探り合い、ほじくり合いは不毛の極みだ。
折半した稼ぎで何を買うか。最近興味を抱いていること、今後どんな風に動きたいか、等々。
己独りではなく、臨時にパーティを組んで数人で動いた際のメリットはそういう話を聞けることにある。
冒険者の話を聞くのなら、聞き取り調査をするよりも、こうして実際の冒険者として活動するのが一番早い。
一例とは言え、昨今の動向を計ることができ、実力の一端を垣間見ることができる。
次第によっては、あまり良い噂を聞かない同業者の話や彼らによる迷宮内に残る痕跡を探ることもできる。
「――……おー、またなァ。ちゃんと身体洗ってから寝ンだぞー」
さて、呑み始めてどれだけ経ったか。テーブルに並んだ料理の大半が胃袋に収まり、酒瓶も数度入れ替わった。
満腹したもの、泥酔しかけたもの、明日にも仕事を入れているなど、個々の状態と理由から席を立ったものを見送り、数度目とも知らぬ杯を傾け、息を吐く。
「中々見どころある連中だったな。なぁ?」
通りかかるウェイトレスが順次皿を片付けていくのを見遣りつつ、一人残った男が声を零す。
独り言には大きな声を聴くのは、他でもない。子分と呼ぶ二匹の小動物たちだ。
野菜に茹でた鶏肉、ナッツ類とごちそうを平らげたらしいシマリスとモモンガが、夢見心地に卓の一角で突っ伏する。
尻尾と四肢を伸ばしながら、一声鳴くように口を開くのは、同意の意思表示かそれとも単なる欠伸か。