2023/09/14 のログ
ホウセン > 陽が落ちるのは、確かに早くなった。
夏の真っただ中なら、太陽はまだ地平から離れた位置にあった時刻なのだから。
少しだけ過ごしやすくなった刻限、ちっこい妖仙の姿は平民地区に。
これから自身の店に一度戻ろうというのか、大通りを富裕地区から下っていく形。
そんな中、何とはなしに歩いていた人外の意識を惹くものが一つ。
視界の隅々まで意識を通わせて、原因に行き当たるまで二秒ほどだ。
とててっと小股で駆ける。
右手を肩の上にまで伸ばして、左右にぴこぴこ振ってアピールまでして。

「嗚呼、確か…ミント…いや、ミンティというたか。
院を出たとは聞いておったが、壮健そうじゃな。」

駆け寄った子供の姿には見覚えがあるだろう。
かつて身を寄せていた孤児院の出資者の一人。
金銭というよりは、食料や衣類といった物品での援助が主立っていた存在であることを。
頻度高く院に姿を現していた訳ではないけれど、北方帝国系の見目はさぞ目立っていただろうし印象に残り易いだろう。

「む…忘れたなどと言うてくれるでないぞ?
ホウセンじゃよ。」

自分は相手の名前もうろ覚えだったのに、全力で棚上げしてこの物言い。
両手を腰に当てて、ふふんっと踏ん反り返っている辺り、小さなお大尽だ。

ミンティ > 上着をもう一枚足すには、まだ早いころ。あと一ヵ月も経てば肌寒く感じるだろう夕暮れの風も、今は過ごしやすくていい塩梅の涼やかさ。
薄暗く狭苦しいお店から、ひさしぶりに自由な外出とあって、自然と浮足立つように、目的も定めないまま散歩を楽しんでいた。
大通りの端の方をそんな風に歩いていると、小さな足音が近づいてくるのが聞こえてくる。
小さな子どもだと前を見ていなかったりもするからと、こちらから振り返り、用心しておこうとして。

「……?…え、ぁ……、ぁぁ……」

先に名前を呼びかけられて、きょとんとする。
相手の姿を確認して、忘れたわけではないものの、驚いたような顔。
ずっと昔から記憶にあるままの姿で現れた少年の姿に、ぱちぱちとまばたきを繰り返す。
とはいえ、それも今さらではあったから、人違いだろうとかいう方向に思考を進ませる事もなく。

「……はい。ご無沙汰しております。ホウセンさま…
 おかげさまで、……はい、…このとおり、どうにか独り立ちもできて…」

不思議な存在だと適当な認識でまとめて、深々と頭を下げる。
今となっては年下に見えようと、孤児院へ助けの手を伸べてくれる人物は頭があがらない存在。
こんな国にしては珍しく善良な孤児院だったからこそ、そこが潰れる事もなく今の自分を育んでくれたというのは、感謝してもしたりない。

「…今日は、お仕事の帰り……ですか?」

具体的になんの仕事をしているのかも知らないけれど、羽振りのよさから、それなりの稼ぎがあるのだろうと思われていた相手。
あるいは単なる大金持ちの家のお坊ちゃまだという話もあったけれど。小首をかしげて、問い。

ホウセン > 日中は少々バテ気味だったけれども、今なら北方帝国の夏の装いがしっくり馴染む。
暗めの色彩のせいで、地味過ぎるぐらいの柄のせいで。
妖仙当人の肌の白さと、人目を惹くような人形めいて整った顔立ちとが強調されよう。
そう、恐らく長く存在しているであろう筈なのに、姿が変わらない。
そして長く存在しているといっても、具体的に何年という記憶に辿り着けない。
普通の人間からなら、違和感を持っても”そういうもの”と認識される呪いを帯びた人外。
超常の能力があるなら、人ではないと看破されるぐらいのことはあるかもしれないが。

「そう畏まるほどのこともなかろうよ。
別邸を建てるという貴族に、帝国風の調度品を所望されておったから打ち合わせを終えて、店に帰るところじゃが…」

本業は貿易商というのは、孤児院の経営者辺りは知っていただろうが。
皇女降嫁までは帝国に関わることには緊張感があったし、子供たちには知らせていなかったのかもしれぬ。
今では背丈は逆転してしまっているけれど、態度の尊大さが改められるでもなく。
しげしげと少女の姿を爪先から頭の天辺まで見遣り。

「そういうお主は、特段急ぎの用事という風でもないように見受けられるのぅ?
折角じゃ、茶飲み話の相手をするがよい。
身なりを見るに喰い詰めておるようには見えんが、心配が無いというと嘘になってしまうのじゃ。」

人外の能力に起因したものではなく、人の世に紛れてきたが故の観察力。
ちんまいなりをしている癖に、一丁前に保護者的視点で見ており。
積もる話があるというほど距離が近かった訳ではないけれど、気掛かりなのは違いない。
引っ込み思案ながらに生真面目と評価しており、タイミング次第では自身の店を働き口にと勧めるかもしれなかったのだし。
くるりと回転して見せ、近くにちょうど良い喫茶店は無いかと探す風情。
断らなければ、ちっこい人外に引っ張られていくことになってしまうか。

ミンティ > 自分と同じ年頃の孤児の中には、出資者であれ、遊び仲間のように接する子もいたようだけれど。
そのころからよくも悪くも身の程をわきまえていたような性格だから、緊張気味に伸びた背筋、姿勢はそのまま。
畏まらなくてもいいと言われても、小さな会釈を返して応じるのみで、口元はきゅっと引き締められて。

「でも…とても、お世話になりましたから。
 ホウセンさまのような方々がいらっしゃるおかげで、今のわたしたちがありますし。
 ……あ、それは、おつかれさま…です」

独り立ちしてから、劣悪な環境にある孤児院の話を耳にする事もすくなくない。そして、自分がどれだけ恵まれた環境で育ったかも思い知らされていて。
ただ、それとは別に。
意地の悪い男の子たちと一緒になって脅かされた時のトラウマが微妙に残っている、というのも硬さの理由。
今となっては、まさかそんな風に子どもじみた悪戯で泣かされる事もないだろうけれど。
無難に話を切り上げるつもりで、仕事終わりの身を労いつつ、さて、どうしようと目を泳がせたところ。

「ゎ……っ、ぁ、の、いえ、…っ、もう、夕食も、近い時間ですし…」

先ほどまで甘いものが食べたいなどと考えていたから、すこし歯切れが悪い。
急に手を取られてつんのめりそうになりながら、どうにかバランスだけは保ったものの、そのままぐいぐいと引かれていくはめになる。
相手が相手だけに力尽くで振りほどくという手段にも出れず、仮にそうしようとしたところで、きっとうまくはいかなかっただろう。
そうしてそのまま、どこかへと引きずられていってしまったようで…。

ホウセン > 【移動します。】
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からホウセンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からミンティさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にニュクスさんが現れました。
ニュクス > 平民地区にあるとある酒場の小さなステージで踊り子が踊っている。
露出の高い衣装に、スタイルの良い肢体。
主に男性陣からの熱い視線を受けながら、くるくるとリズム良く。
何の変哲もない、夕食時の光景だ。

今のところは。

華麗な舞踊を見せながら、踊り子は端々に視線を送る。
内心では、今日の食事はどうしようかしら、と考えているのだが…。
踊り子がその気になれば酒場を乱交会場にすることもできる。
が、今のところその気はない。まだ獲物も見定めていない状態である。
今のところ眼鏡に叶う者はいない。男でも、女でも。

美味しそうな獲物が見つかればその踊りで惑わしてあげようと考えているが―――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にサウロさんが現れました。
サウロ > (夕食時ということもあっていつも立ち寄る店は殆ど満員。
 ようやく見つけた酒場もまた人は多かったがカウンター席が一つ空いているということで通してもらい、
 店内の様子をぐるりと見渡す。
 だいたいの酒場は食事に酒に賑やかだが、その酒場は少し雰囲気が違う。
 男も女も、小さなステージへと視線がくぎ付けになっていた。

 サウロも必然、彼らに倣うようにステージへと視線を向けた。
 プラチナの髪を美しく翻し、目のやり場に困るような露出の多い衣装で、リズムよく踊る美しい踊り子。
 露出の多い女性の肌からはなるべく目を反らすようにしている実直な騎士だが、
 何故かその女性からは目が離せなくなる。
 何処かで会ったことがあるような────、ぼんやりと夢うつつに見た誰かと似ているような。

 かつて学院の図書館という場で、サウロを食事にしたことを果たして彼女は覚えているだろうか。
 より一層、淫蕩に堕ちやすくなった男の姿は彼女の目に留まるだろうか。
 視線が逸らせないまま、無意識に口の中に唾液が溜まり、喉を鳴らして嚥下する。
 踊る彼女を映す碧眼には、隠せぬ高揚。わずかに眉間に皺を作る抵抗じみた葛藤。)

「……、……」

(席に座ることも忘れたまま、他の観客と同じく、その青年もまた彼女の踊りに魅入っていた。)

ニュクス > 踊りを見せながら、視線を周囲に向けていけばふと目に留まる。
カウンターに座る金髪の美丈夫。あぁ、あの子は…。
いつぞや篭絡してあげた男性であるだろう。
自分の事は表面上の記憶からは抜け落ちているだろうが、
その視線から、無意識と身体にはしっかりとあの時の事柄が刻まれている事は理解できた。

くす。

踊り子がわずかに笑った。
くるりと舞う。その動作にわずかずつ魔力が込められていく。
観客たちの視線が一層踊り子に集中していくだろう。
一人一人に艶やかな流し目を向ける。
その肢体を揺らし、誇示する。
うっとりするような心地よさを感じる事ができるだろう。

しかし、カツン、というステップの音が現実感を引き戻す。

その瞬間に微笑を浮かべる踊り子と目が合う。
そして再び踊りを、肢体を、魅せつけて引き込んでいく…。
その繰り返しは徐々に蕩けるような夢幻の世界へと導いていくようで。
幾人かの観客の視線が恍惚としたものへと変わっていくだろう。
しかし、それも他人事に過ぎない…。

サウロ > (仰け反る細く白い首筋、くっきりと浮かぶデコルテライン。
 揺れる胸元は柔らかそうで、細くくびれた腰つきも蠱惑的だ。
 腕を、脚を広げ、手や足の指先に至るまで美しく視線を誘う。甘美な陶酔感を与える踊り。
 注文をした時以外はずっと視線は、小さなステージで独壇場とする彼女へと。
 知らないはずなのに知っている気がする。
 彼女が込める魔力を乗せた踊りに、ますます誰もがのめり込むように恍惚とした表情を向ける。
 誘惑、魅了──その類に抵抗力があるサウロでさえ、一度は墜ちた。
 抗いがたい甘美な誘惑。)

「……ッ、……う、」

(ヘブンリーブルーに似た美しい青の瞳と視線が合った瞬間、痺れるような感覚が脳天を突き抜ける。
 それは警告でもあった。今すぐ逃げろと、この場を離れろという本能に近いもの。
 カウンターに手をつき、頭を抱えるように額に手を添えて抵抗を続けるが。

 彼女という存在に飲み込まれていく者達のように、踊り続ける彼女を前に、やがて抵抗力も削がれていく。
 心地よく、淫蕩な気配を纏う夢に落ちるように、思考力が落ちて、眠気がくるように意識は薄らいでいった。)

サウロ > 【移動します】
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からサウロさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からニュクスさんが去りました。