2023/09/04 のログ
ティアフェル > 「なんだこいつっつった…!? 正直過ぎなの!? 素直に生まれ育ったようには見えませんけどっ」

 失礼。失敬。無礼。
 でもある意味その点はお互い様かもしれない。
 心の声が率直に耳に届くと、そんなこと云うかね?といった感情をありありと瞳に映し出して。
 信じられないようなものを目の当たりにしたような顔で恩人の相貌を見上げていた。

 からの、笑声。
 ていうか噴き出しておられる。何故笑う、と憮然とした表情で、むーと眉を寄せて身長差からどうしても見上げる姿勢。
 けれど、謝罪をいただけば留飲は下がる。謝ってくれたのに、ねちねち難癖付ける程根性曲がりではない。
 寄せていた眉を和らげて。

「んー……まあ? わたしも? なんか、云い過ぎっていうか? 助けてくれたし? 怪我するとこだったし。そこは感謝しておりますし? ありがたいですし。
 ――いいね飲むっ。奢り? 奢ってくれるの? 流れ的に奢ってくれそうー」

 機嫌の上昇速度もまた、なんだこいつレベルで早い。
 大の男が小娘相手に謝罪してくれるのだ。小娘としても許すが吉なので、すぱっと水に流して。
 そして笑って杯を酌み交わして手打ちがベスト。
 行こう行こうと肯いた上。やっぱ厚かましかった。何だか彼は太っ腹な雰囲気がして一杯くらいいいぜとか云ってくれそうと利己的に解釈して、奢ってくれるのかなどとのたまうのだった。

クロス > (心の声が漏れてしまい、同時に発言をしたことにむかっ腹を立てる様子を見せる。
どこまで元気な様子、まるで爆竹の様な弾け具合に思わず吹き出しそうな笑いを堪えてにやにやと笑ってしまう。
そのあと、期限直しの食事を提案すればあっさりと乗る様子を見せる。
まぁ、面倒な事には面倒であるが、これまた一興であると受け入れる。)

「決まりだな。
じゃ、適当な店を見つけて飲み食いするか…。」

(そのまま、二人して薄暗い民家から明るい繁華街に出ようとする。
表の道を歩き、煌びやかな街を眺めるようにしながら、大股な歩幅を抑えて、小さい歩幅にしては少女と並んで歩けるように調整する。)

「しっかし、あんなところで何やってたんだ?
酔っ払いが犬の吠えられているのかと思っていりゃ、その正体は嬢ちゃんで、鳴き声がなくなったかと思えば今度は宙吊り…不幸の連鎖だったな?」

(眠っている酔っ払いに集る犬を追い払うならいいと思っていたが予想外のあの光景。
予想外、不意打ちはクロスの唯一の弱点であり、どうすればいいのかと一瞬、思考回路が停止していたのだった。)

ティアフェル >  死霊術師呼ばわりや、なんだこいつ発言、そして噴き出す。
 (自称)乙女としてはこれは捨ておけぬ反応ではあったが。
 そのまま、無駄に膨れて拗ねて臍を曲げていても多分いいことは何もない。
 謝罪ひとつで纏めて忘却するくらいの、あっさりとした性質でもある。
 そんなことより、お酒を飲ませてくれるなら、機嫌を治してついてくのが得なので。

「わーい。海老食べたい海老。シードルと海老料理がいい」

 肉も好きだが、新鮮な魚介がこの街では食べられる。繁華街へ向かいながらるんるんと上機嫌で要望を口にしつつ、並んで歩きやすいように歩幅を調整してくれていることに気づいて。
 意外に紳士的だった…!と彼に対する感想を改め。

「え? 何って、そう犬が……――ぎゃーっ!! 犬ー!! やーっ! やめてぇぇ、来ないでーぇぇっ!!」

 犬に追いかけられて逃げ惑った挙句無我夢中で屋根の上に登っていて、どうにかして降りようとしてあの惨状…と説明しかけた声が、不意に悲鳴に塗り替わる。
 先ほど追いかけてきていた野犬。まだそこいらをうろついていたらしく。
 逃した獲物を見つけて、『噛ーみつくどー』とばかりにわんぎゃん吠えながら、背後から女の方へ突進してきたので。
 悲鳴を上げてダッシュしかける犬恐怖症。

クロス > 「ん、海老か…。
嬢ちゃん、センスが良いな?俺も肉よりも魚系だからよ、そっちの方が助かる。」

(犬、基狼のミレーのくせに肉よりも魚を好んで食する性質であった。
少女が海老を食べたいと言うのならばこちらも好都合、いい酒もここなら見つけやすいのでもう一度良い夜を過ごせそうであった。)

「あ?何慌ててんだ…?
ん…。」

(事情を話始めようとする少女の声は悲鳴に変わった。
耳で感じた小さく細かい足音と呼吸を聞き取り振り返ればこちらに向かって走ってきていたのである。
狙いを考えて、おそらくこの少女に向かって吠えていたあの犬だろうと察しがついた。
このまま見過ごして、海老と酒を飲みたい気分を持ちながらぶらつくのもいいと思ったが、謝罪を込めての食事となるなら、対象が居なければ意味がないと思い、手を打つことにした。)

「・・・。」

(ダッシュで逃げようとする少女を捕まえて自分の胸に頭をくっつけたる様に片腕で抱きしめるような体系にしようとした。
見た目からすれば完全に犬に獲物を差し出すような動作であるが、それは胸に当てた時に聞こえる『唸り』で気付けるかもしれない。
クロスは少女に見えない覚悟で走る犬に威嚇をしたのだった。
その表情、無表情な所から出るとは思えない皺の寄り方と牙のむき出し。
人型であれどミレー、動物の血が流れているせいか、その表情には犬の祖先でもある狼の顔が浮き上がる。
鬼のよう、悪魔のよう、そして、狼らしい威嚇の表情を作りながら唸り声を上げ、抱きしめた少女を『俺の雌だ』と言う主張をするための様に突進する犬に無言に訴えかけるのであった。)

ティアフェル > 「え? そなの? 肉好きな感じもするのにねー。
 でも、やったぁ、魚介好き仲間嬉しい」

 肉派が多いような気がしていたし、狼の耳や尻尾を有する容姿からしても彼は肉派に見えたので魚介派と聴けば何だかそれだけでちょっと嬉しそうにアホ毛をひょこひょこ揺らして喜色を表し。

 ――しかしそんな呑気な状況は、そこへ現れた闖入者たる野良犬がぶち壊しにやってきたのであった。

「いぃやあぁぁーっ! なんでっ!? なんで追っかけてくんのよ!? いやだってばーっ!!って、おっわっ!? なになになになにーっ?!」

 犬を見たら反射的に怯えて逃げ惑うものだから、それが面白くて容易い獲物と見込んで犬も追いかけてくるのだろう。
 そして追って来られると恐怖に耐え切れず身体が勝手に走り出してしまう。
 これから飲みに行く、なんてことも頭から一瞬吹っ飛んで、とにかく追って来る野犬から逃げることしか頭になく、走り出したのだが、途中で捕まって。何事かと混乱。
 かなりの身長差があるので抱擁めいた体勢になると胸より少しばかり下になるかも知れないが。
 顔は相手の腰上あたりだろうか。刹那、視界が彼の纏う黒衣の為に真っ暗になったかのように感じ。
 そして頭上から聞こえる獣のような唸り声。

 訳が分からず、じたばたと藻掻きつつ、犬!犬が来るの、逃げなきゃなのー!とパニくっていたが。
 不可思議な唸り声が彼の口から響くと、迫り来ようとしていた野犬は不意に動きを止め。
 明らかに己の上位種である威嚇の声と表情に、急に耳と尻尾をしゅん…と寝かせ。まるで王命を受けた臣下のような従順さで、まるで謝罪するかのように一声鳴いて、すごすごと尻尾を巻いて踵を返し。通りの向こうへ去っていった。

クロス > 「肉は食わねぇ訳じゃないが、まぁ、どうにも油が逃げてでな…。
おっさんくせぇかもしれねぇが、そういう体質なんだよ…。」

(無論に肉も嫌いでなく、好きな方でもある。
だが、物によっては脂身が多く、それが欠点でもあるため一概に得意とは言えないのであった。
だが、魚好きで飲み仲間が増えるのも悪くはない。
普段は群れることを好んでは居ないが、ある程度の人脈を揃えれば今後の業務でも少々有利になりそうな気がしていた。)

「…そら、犬はどっかに逃げていったぞ。」

(逃げて姿が見えなくなるのを確認すればため息を吐き出して少女を開放する。
別にそのまま威嚇するような真似をするのも良かったが、あまり先ほどしたような顔を見せたくはなかったのだった。
別に顔が崩れるだとかそういうナルシスト思考故ではなく、ただ単純にこの無表情な顔が自分のアイデンティティであったため、それを崩したくはなかったのだった。)

「そら、さっさと店を探すぞ。
酒が飲みたくて仕方ねぇんだ…。」

(先ほどのもめ事をなかった事にするために空気をリセットしようと店探しを再開させようとする。
しばらくはあの犬も近寄ってきたり追いかけるようなことはしないだろうと思い、面倒ごとが一つ消えたことには気分が少し良くなった。)

ティアフェル > 「そうなんだー、じゃあロースとかよりヒレ肉とか胸肉とかの方が好きなのかな?
 別におっさんじゃないでしょー。いいじゃんヘルシーで」

 脂身が苦手というタイプはまあまあいる。自分も脂身が多い肉の部位はそれほど得意でもない。
 分かる分かるーと能天気に肯いて。
 こちらは特に打算も他意もないまま、取り敢えず飲み食いできるということに釣られているだけだったが。

「お、おぉ……、え? えー……ど、どうなったの? なんで? どして……?
 い、いや、取り敢えず……追い払ってくれたのかな? ありがとう…その2……」

 今日は二度目のお礼をいうべき出来事。
 顔をその胸下に伏せるようにつかまっていたものだから、何が起きたのかよく理解できなかったが。
 とにかく彼の起こした何らかの行動の結果、あのしつこい野良犬が尻尾を巻いてズラかったのは判った。
 解放されて、きょとんとしたようにそちらを見上げて首を傾げていたものの。
 お礼案件ということで頭を下げて。

「え、あ、うん……っ、そ、そーね、もう犬……いないならいいや。
 クロスさんといたら犬も逃げちゃうのかー。助かるわあ。
 ――あ、あのお店は? 海老の香草パン粉焼きとかおいしいの。ニンニクとか大丈夫? ガーリックシュリンプもいけるんだわ。あと、ホタテのバター焼きも」

 酒飲みたい、とのお言葉に、そうね、うんと得心気味に肯いては、通りを再び歩き出し、繁華街の喧騒が響いてくるにつれて食欲をそそる匂いを漂わせる店も何軒か行き当たるようになり。
 その内の一軒は以前食事をしたことのある魚介料理が特色の酒場で。リヴァイアサンの看板が特徴。
 海竜亭と店名を掲げるその店はどうかと指さして。了承を得られれば入っていくのだ。

クロス > 「ん、そうだな…そこら辺の部位だったら、喜んでいただくかもしれねぇな?」

(脂身の少ない部位は少々パサつくことが多いが、それは調理次第でいくらでも変えることができる。
その部位の味付けを濃くして酒のつまみにするのもまた一興だ。)

「別に気にすることはねぇよ。
ま、強いて言うなら…俺のこの風貌の性かもしれねぇけどな?」

(目つきに無表情な顔、服装からしてカタギの人間には見えない。
実際はその通りでもあるし、この格好と風格のせいで目に着けられることは数えきれないほどあった。
それもまた笑い話として軽くハハッと笑って流すのであった。)

「ん…随分と洒落た店だな…。
あぁ、ニンニクも好きだぞ?ホイル焼きなんか、最高のつまみになるしな。」

(複数の店が展開されているため様々な匂いが漂ってくる。
嗅覚も鋭いため、どの店も美味そうな匂いがしてきて仕方がなかったが、少女が指さす店から香る海鮮料理の匂いはかなり良い香りがしてきた。
無論、断る義理もない。
少女も良しとするならばその店に入り、また一夜酒盛りを始めようとするのである。)

ティアフェル > 「なーるほど、そんな高蛋白低カロリーの食事を好んでるから……そんな感じの体型になるのねえ……納得」

 ふむ。得心気味に首肯しながら、身長は見上げる程高い割に細身で引き締まったような体躯に相応な好みであると感心し。

「ええ……犬にそれ、分かるのかな~? いや、犬が逃げてくれるんならなんでもいーんだけど……何か誤魔化されている感。
 でも、普段はむっつりしてるかもだけど、笑うと結構、イメージ変わるのにね?」

 笑うと云うか、先程笑われたというか笑かしたというか。噴き出していた表情はそんなに人を寄せ付けないようなものでもなく、逆にちょっと親しみやすかったような。
 まあ、笑えば大抵の人間の顔はそうなるのかも知れないけれども。
 今もまた、笑声を響かせる表情はとっつきにくそうなものでもなく。

「うんまあ、ごちゃっとしたお店もいいけどさ。小洒落ていきたいお年頃だしさ。奢り(確定)となればここがいいですっ。
 おー。よしよし、じゃあガーリックシュリンプ頼んでニンニク臭くなっちゃおうぜ。
 クロスさんの云う通り、ニンニクってお酒がまた進むんよねー。あー早く食べたいっ。
 こんばんはーっ、二名でーす、空いてますー?」

 調子のいいことを云いながら扉にも海竜のレリーフの彫り込まれたその店に入ると、二名、と人差し指と中指を立てて見せて。
 応対してきた店員は肯いてカウンターでもテーブルでもお好きな席へと勧めてくれて。
 やっぱここは調理風景の見えるカウンターかなー?と席は6割がた空いていて、ゆっくり飲食できそうな店内を見回し、角のカウンターでいい?と示しては。
 異存はなければそこへ着席し、注文を考え始めるのだ。

クロス > 「それだけじゃねぇさ…。
貧民地区は常に喧嘩と命の危機が隣り合わせだ…。
そんな場所じゃ、安心して寝れねぇし、喧嘩が起これば受けなきゃならねぇ…。」

(だからこそ鍛えて、どんな相手でも確実に勝利をもぎ取れるように経験を積んでいくしかない。
それがクロスの生き方であったのだから。
その様子は体にも生き方にも反映されるものだ。)

「…そうさな。
そこまで笑い声を出せるようなことがあれば、良いんだが…。」

(雰囲気が柔らかくなり、関わりやすくなるというのは一理ある。
だが、そうなるような切っ掛けが無ければそう簡単には決まらないものである。)

「貧民地区出身には小洒落た場所は場違いな気もするが…まぁ、そんなお年頃の奴に奢るなら、選ぶ権利もあるさね?

ハハッ、こりゃ俺の花が少々イカれそうだな…?」

(小洒落た雰囲気のある店でニンニク臭く。
真反対にも思えるよな言葉の並びを聞いて軽くフッと笑う。
だが、どうなろうとも楽しんで飲めればそれで良いということだ。
酒も飯もゆっくりと食べたい、角の落ち着いたカウンターが空いているならそこでも良いとし、メニューを眺めては注文を決める。
酒はすでに決め、ある程度のもは任せるとしてゆったりと眺めることにする。)

ティアフェル > 「追いつめられると否が応でも鍛えられるもんよねえ。
 喧嘩慣れしてそーな気もするわー。というか……あなたに喧嘩売ろうって奴は少ないだろうけどさ……多勢に無勢ならいけるって思う連中もいるか……」

 喧嘩吹っ掛けるには分が悪そうな相手だ。わたしなら売らんなと思うものの。
 徒党を組んで襲われるというのはあるかもしれない。そこまでして彼を沈めて得することもそうそうなさそうだが。

「ま……常に笑ってる人の方が案外信用できないこともあるし、そのくらいでいーのかもだし……。
 ていうか、さっきはお年頃の乙女相手に噴き出してたよね? どういうこと? わたし別に面白い人とかじゃないからねっ。ネクロマンサーな訳はもっとないしっ」

 普段そんなに声を立てて笑う方でもないらしい。でもさっきは噴いていた。何故だ。何がおかしかったんだ、と非常に解せない顔をして。

「なんでよー。そんなの関係ないし、クロスさんはルックスいんだし大丈夫っしょ。っふふ、気前もいいしねっ。
 あ、やっぱり嗅覚も鋭いの? にんにくマシマシはやばい? おいしんだけどなー」

 鼻がイカれたら悪いなあ、などと考慮はしつつも、ニンニク少な目でガーリックシュリンプを注文。
 今日は海老気分だったのでその他にも、海老とブロッコリーのサラダと、アクアパッツァを海老入りで作ってもらうことにして、飲み物はシードル。
 料理は任せてもらうことにして、相手の好みも確認しつつオーダーを通すと、飲み物はすぐに運ばれて来て。

「はい、それじゃあ、今日もお疲れ様ー! ゴチになりまーす! かんぱーい!」

 グラスを合わせるとまずは駆けつけ一杯。きゅーっと喉に通して。ぷはーと心地よい息を吐くのだった。

ティアフェル >  そうして、談笑しつつ酒と料理を楽しみながら、その夜は更けていったのであった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からクロスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にクロスさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からクロスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/商店」にユーダスさんが現れました。
ユーダス > 「―――ふむ。」

手にした帳簿へと視線を向けながら、思案の様相と共に頷く。

場所は平民地区の大通りに面した一軒の商店。
店舗の規模そのものは然程大きくないが、平民向けの生活用品から冒険者向けの雑貨まで、
壁面に設けられた商品棚には多種多様な品々が所狭しと陳列されていた。

「インクと油、それから火打石も思っていたより売れ行きが良いですね。
 その辺りの消耗品も、矢張り一種類だけでは無く幅を持たせてみるのも手でしょうか………。」

誰に聞かせるでも無く呟きを漏らすのは、黒服姿の長身痩躯。
普段であれば別の、もう少々年嵩の恰幅の良い男性が店主として立っているのだが、
その日ばかりは彼の姿は無く、カウンター奥のスツールに帳簿を手にした男が一人腰掛けているだけだった。

ユーダス > 其処に特段、込み入った事情がある訳では無く。
男はこの店の経営者で、その日は市場調査も兼ねて普段雇っている店主に代わり店番を買って出たというだけの話。
尤も、別の目的もあるにはあるのだが―――それは今は些事に過ぎない。

手にした帳簿を鍵付きの引き出しに仕舞い、ぐ、と大きく伸びをする。
当然、売上とその詳細な内訳は逐一男の元に上がってはいたのだが、
書面で読み上げるのと実際にこうして店先に立って確かめるのとでは、矢張り見えて来るものが大きく異なる。

初めはほんの気紛れですが良いものが得られました―――と一人笑んでいると、
カラン、と涼やかに鳴り響いたのは入口の扉に取り付けられたベル。即ち来客を知らせるものだ。

「―――いらっしゃいませ。何かお探しの品がおありでしょうか?」

スツールから腰を上げると、男は扉を開けた相手へと仰々しく頭を下げてから、
人当たりの良い笑みを浮かべてそのような言葉を投げ掛ける。

ユーダス > 見遣れば、入口の扉を潜ったすぐ其処で硬直したままの客人が一人。装いからして冒険者であろうか。
平民地区の商店には些か不似合いな男の挨拶に緊張してしまったらしいその様相に、クスリと笑んでから失礼、と告げて。

相手の話を聞いてゆけば、どうやらクエストで喜びヶ原へ出るに際し、傷薬を幾つか買いに訪れたらしい。
それならばと男は背後の棚から幾つかの薬瓶を見繕い、相手の前へと並べて見せる。
一口に傷薬と言えども、傷の治りを早める程度のものから短時間で全快出来るものまで様々であるし、当然後者ほど値は張る。

相手の予算と必要数、冒険者としてのスタイルや今回のクエストの内容なども踏まえ、より適切な品を提供する為の商談―――
それが無事に終わる頃には購入した傷薬を抱えて謝辞と共に店を去ってゆくその冒険者の姿を、
男は人当たりの良い笑顔で送り出す事になるのだった。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/商店」からユーダスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にエレイさんが現れました。
エレイ > ──夜更けでも人通りの絶えない表通りを、悠然と大股で歩く金髪の男が一人。
その足でやがて中央広場までたどり着けば、適当に周囲を見渡した後片隅のベンチにどっこいせ、とか
言いながら腰を下ろし、脚を組みつつ背もたれにぐでりと身を預け。

「──ふーぅ……さて、と……今夜の宿どうしょうかねぇ」

中空を眺めながら、眉を下げた表情でため息混じりにぽつりとそんな事を呟く。
普段利用している宿が今夜は満室ということで、男は現在宿無しの状態だった。

宿など選ばなければどこかしら見つかるだろうが、それではなんか面白くない、などというしょうもない理由で
男は今夜の宿を決めあぐねているのだ。

「ンン……誰か親切な人が今夜の宿を提供してくれたり……とかそういうのがあると
エエんだが……」

なんて詮無い願望を口にしながら、そんな親切そうな誰かが都合よくいたりしないものかと
眉下げた困り顔のまま改めて周囲を眺め回してみて。