2023/08/17 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にメリッサさんが現れました。
■メリッサ > (いつもの買い出しを終えて立ち寄った先は広場の方。
どうやらここでは見世物だとか、奴隷売買とやらが行われているらしい。
メリッサ自身も人に近い外見を持つとは言え魔族だ。
この国を侵略しにかかっている魔族と一緒くたにされてしまえば、枷を掛けられてしまう側。
なのでこういう場にはあまり近づかないようにはしているのだが、今日はたまたま行きついてしまった。
行われている奴隷売買の場には色んな身分や種族の者達がいた。
どうやら古くから奴隷売買というのはこの国の常識であり日常らしい。
露店に売ってる商品を品定めして何か買おうかなんて話すように。
人が人を買うのもこの国では自然なことのようだ。
それに対して何を思うわけでもない。
屋台で肉串を買う時に、売られる肉串のもととなった動物に対して憐憫を抱かないのと同じ。
そんな感覚で、周囲の人間たちも売られる奴隷を眺めているのだろう。)
「(庭の整備が出来る者は、欲しいかもしれないけど……フィニス様に相談してみようか)」
(軽く顎に手を当てながら考える。
それもまた主君に相談してからなので、ここで即決即断で購入することはないけれど。
今富裕地区の端っこのほうにある屋敷の整備はすべてメリッサが行っている。
小さい屋敷だし、体力もあるメリッサにとっては苦痛ではない。
しかし庭の整備はやはり時間がかかるし愛犬に邪魔されがちなので、庭師は欲しいなと考えてしまう。)
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にホウセンさんが現れました。
■ホウセン > (正午を過ぎたばかりの屋外。
照り付ける太陽の苛烈さも対外なこの空間に、ちっこいシルエットが一つ。
貧民地区ほど治安が悪い訳でもなく、日が高い内。
確かに子供が一人で出歩いていても、深刻な危険性は薄いだろうという事情はあるにしても。
薄手の夏の装いとて、十分に上等な仕立てと分かる装束。
金蔓を具現化したようなお子様が、供回りを付けないのも不用心ではあろう。
さて、その当人はといえば。)
「たまには日の光を浴びんと不健全…等と思い付いた自身を縊りたい気分じゃな。」
(緊張感の欠片もなく、危機感の存在も危ぶまれるぐらいに弛緩し。
手に持った氷菓をぺろぺろと、ちっちゃな舌で舐めて涼を得ている。
人の流れも、不道徳な競売も、見るとはなしに見て、聞くとはなしに聞いて。
商談と商談の合間の時間を空転させるので手いっぱい。
黒い髪と黒い瞳が印象的な少年は、せめて日陰に引っ込むべきかと判じ。
小柄で視認しづらいこと、そして体躯の小ささ故に小回りが利くこと。
回りから見れば、唐突な挙動と評されるだろう。
普段なら周囲の気配を拾って、そつなく振舞う妖仙は。
やはり熱気で思考能力の低下を余儀なくされていたようだ。
後方確認も何もなく、不用意に、ぺたっと草履の底を鳴らして踵を返してしまい。)
■メリッサ > (奴隷売買で商品とされるのはどうにも少年少女が多い気がする。
年端も行かない幼子から思春期あたりの年頃の少年少女まで。
若い者ほどよく売れるということだろうかと首を傾げれば、後頭部で結い上げた蒼の髪が揺れる。
不意にメリッサの前方から人が横へと抜けていくのと。
黒髪の小柄な少年が踵を返すのは同時だっただろうか。
167㎝と女性としては平均より高めの身長をしているメリッサと。
振り向いた少年の身長差は大きいようで。
この日差しの中でも薄手ながら長袖のシャツにベスト、ネクタイを締める女の胸が少年の眼前に現れるだろうか。
衣服を着ていても大きさが露骨にわかるほどの盛り上がり。
弾力のあるそれが、振り向いた少年の顔をばいん、と弾いたかもしれない。)
「えっ……」
(急にぶつかった少年に驚きもしたが、その髪の色が主君と同じで。
背丈もほど近いとなれば反射的にメリッサは手を伸ばして、その少年の腕を掴み、背中に腕を回して支えを取る。
それほど勢いもなかったのでよろける程度だったかもしれないが。
彼の手にしていた氷菓は、掴んでなければ落ちたか、或いはメリッサの衣類にぶつかったかも。
しかしそれよりも、上質な変わった衣服を着た少年の顔を改めて見て、主君ではないことに気付く。
よく考えればこの時間に、こんなところにいる筈もないのだが。
ともあれ、支えを取った手をそっと離し、怪我がないかを尋ねようと。)
「大丈夫?」
■ホウセン > (人の世に紛れる…どころか、人の世で大いに遊んでいる人外。
大概のことでは驚く労力さえもケチっているのではないかという塩梅だが。
完全な不意打ちとなれば、整った顔立ちに小波を立てるぐらいのことはしよう。
出会い頭の衝突に近く、並の人間なら何かしら視界を塞ぐものがあるという認識までしかできないかもしれないが。
妖仙たる優れた動体視力を以てすれば、随分ご立派な胸の膨らみだということまで見て取れてしまう。
そのせいだ。
咄嗟に足を踏み出して転倒しないよう踏み止まる努力を棚上げし、見事にきっちりとした装いに流されるまま顔を突っ込み。
そして内蔵物のハリを想像させる反発力で押し返される一連の動作が完成する。)
「嗚呼、うむ、おかげで儂自身が困ったことにはなっておらぬ。
手間をかけてすまぬ…のぅ?」
(不注意の自覚はあるから謝罪をするが、口から転がり出すのはどうにも古めかしい物言い。
至近距離で視認したであろう相貌は、この王国に多いものではなく、北方帝国の流れを汲むものと察せるやもしれぬ。
さて、こうしている間にもジリジリと肌を焼いてくる夏の太陽からの、唯一の緩衝材だった氷菓はといえば。
持ち手の焼き菓子部分は小童の手の中にあるが、果汁に加糖して凍らせた部分は、ものの見事に両者の体幹に挟まれて零れ落ち。
お互いの着衣に浮かぶシミを置き土産に大地に散ってしまった。
よく回る舌が回転を停滞させたのは、白い服になら薄っすら橙色に見える痕跡を認めたから。)
「じゃが、これは失態も甚だしい。
余人の服を汚してしもうたとなれば、どうやって償うべきかを考えねばならぬ。
シミを抜くために洗濯屋に案内でもせねばならぬかのぅ。」
(細い眉を寄せて思案顔。
その割に、サクサクサクサクと手に残っていたワッフル部分を噛り尽くしている絵面のシュールさは今更だ。
綺麗に平らげて懐から手拭いを出して指先を口元を清める辺り、相応の教育を受けた子弟のように映るか。
浴衣の袖からちょこんと出した手は、苦労知らずなほっそりとした指をしており。
案内するから手を繋ぐよう誘っているようだ。)
■メリッサ > (メリッサの胸に反発するように揺らいだ彼の体を支えて。
わずかに冷たい感覚があったかと思えばどうやら氷菓がぶつかってしまったようだ。
ベストにもシャツにも、彼の上質な浴衣にもかかってしまっている。
不注意と言えば不注意だが、少年程にも見える彼に眦を吊り上げて請求するつもりもなく。
その口からこの国の言葉にしてはやや古めかしい喋り口調の少年を改めて真紅の瞳が見下ろす。
綺麗に整えられた黒髪に、つぶらな黒目。白肌というよりはやや黄色がかった肌。
血筋は王国民というよりは、北方の帝国人のようにも見える。
とは言え、人間の国の事情に詳しくないメリッサにとっては高貴な身分っぽい少年だという印象。
なんとも少年らしからぬ雰囲気だと思いながらも、互いの衣類についた氷菓のシミはそう簡単には落ちてくれなさそうだ。
どうしようかと考えている間にも、思案しながらワッフルを食べ尽くし、口元を拭う様子はとても冷静に見える。)
「……わかりました。一先ず場所を移しましょうか」
(高貴な身分とも見て取れそうな所作と、子供らしからぬ反応や様子に、
ここで子供扱いをするよりは、一人の相手として誠実な対応をするほうが良い気がした。
が、手を繋ぐようにと促す手には、少しばかり固まった。
こういう場合は、繋ぐのが正解? それとも固辞してついていくだけにするべき?
────生まれから育ち、今に至るまで希薄すぎた人との交流の経験不足感が否めない。
困惑で硬くなる表情ながら、人込みではぐれるわけにもいかないので、一先ず手は繋ぐ。
彼の柔らかい小さな手と違って、メリッサの掌は武器を握るし家事もする働き者の硬い手だ。
そのまま一旦広場を抜ける道を選んで抜けた後は、落ち着ける場所へと移動することになるだろうか。)
■ホウセン > (差し出した手をどうしようかと逡巡したことは見て取れ。
されど急かす真似はせず。
困惑の色を認めながらも、機嫌を損ねることもなく悠長に構え。
観察慣れしている妖仙をして、認識のボタンを掛け違いしているとすれば、自身の気安さのせいだろうと推察したところか。
頭から爪先まで整えられた出で立ちは、貴人に仕える従者のそれだったから。
ちんまいながらにお大尽風な妖仙に気後れでもしたのだろうと。
そうして手と手が触れた瞬間に、多少の違和感。
己も人外たる身であるが故に気付けるかという、人外の気配を女に見出して。
王国では死活問題になり得る情報かもしれぬから、興味半分で探りを深め。
されどおくびにも出さず、エスコート――というよりは、先導する子供とそのお目付け役という風情が強いけれど――を続け。)
「いざ染み抜きをすると言うても、その時その場で即座に仕上がるものでもあるまい。
こうも暑ぅては、いっそ何も着んでも体が冷えぬ気がして仕方ないが、そなたの方はそうも言ってられんじゃろうし。
なれば、その間の着替えを先に見繕うというのが建設的というものであろう。」
(ちょこちょこと小股ですばしっこく、それでも相手方の歩みを乱すでもなし。
適度な距離と速度を保った散歩の行く先は、前述の台詞が示していた。
広場に通じる道は、どれも活況を示すような道路が殆ど。
即ち、通り沿いに店舗も並んでいるということであり、その内の一軒を勘で選び取る。)
「御免。
この女性(にょしょう)に、服を見繕ってもらいたいのじゃが。」
(扉を開いて開口一番がこれである。
不自然な取り合わせに、店員が胡乱な顔をしたのも暫しのこと。
身なりの良さから上客らしいと判じて、接客開始。
最低限のシミ抜きの話が雪だるまのように諸々を巻き込んで拡大して。
それを可能にしているのは、女の世俗への疎さの発露らしい決断の頼りなさと、如何にも上品な顔立ちをしている癖に押しの強い妖仙の性情との噛み合わせによるか。
女にはくいくいっと敷居をまたぐよう促しつつ、幾つかの既製品が壁に吊るされているのを認め。
折角だし、お堅い服装以外もさせてみたいものだという思考は、着せ替え遊びをしているのに似ている。
もっと切実な問題として、きっちりとした服では、先刻弾き飛ばしてくれたアレを納められるサイズは早々ないだろうという事情もあるけれど。)
■メリッサ > (彼が女に人外の気配を察するのに等しく、女のほうもまた彼に人外の気配を感じる。
とは言え魔族とは違う何か、程度の感覚的なものだ。例えるなら匂い。
ただの人間の身ではない匂いがある。その正体まで掴むことは出来なかったが。
相手方の少年は果たして気付いているのか、いないのか。気付いていて敢えて口に出さないか。
この場でこれは人外よと叫ばれることはないだろうが、表情は努めて冷静なまま、広場の人込みから抜けていく。
こうなれば、幼さを残す少年の外見をそのまま鵜吞みにすることはない。
姿形に惑わされぬのは、メリッサの主君もまた似たようなものだからだ。)
「……それはそうですが、」
(口早に告げて、先導する姿を後ろからさして歩が乱れるでもなく追いかけていく。
少年の建設的な意見には納得できる。まさか洗濯屋で脱いでその間下着姿でいるわけにもいかない。
シャツの一枚ぐらいは買う必要があるかとも思うが、恐らく金銭的な不自由をしていない少年は、
それをメリッサに見繕ってくれるというのだろう。
それに甘えて良いのだろうかと、ある種の事故でもあったので、どうにも塩梅がわからない。
そうして考え込んでいるうちに少年が選び取った店に入っていく。
店員に堂々と宣言する決断力の速さに今更結構ですと断る流れも出来ないまま、
店の敷居をまたいで店内へと入り、あれよあれよと接客にくる店員やつるされる服と向き合うことになる。)
「いえ、大層なものでなくて構いません。
一時的に肌を隠せるもので、動きを阻害しないのであれば、それで」
(どういう物をお探しかと店員に尋ねられて、また困る。
正直メリッサは自身を着飾ることにはとんと無頓着だ。
家事炊事買い出しから訓練戦闘に至るまで動きやすさを重視する。
故にどれが流行でどれが人気でどの柄が自分に似合うかもわかっていない。
一先ず替えのシャツだけで良いと、シンプルに伝えよう。
女性用のシャツでは、おそらく胸周りが厳しくなるのは必定なので、男物でもいいと思っている。
華やかであったり可愛らしかったり、普通の女性が目が生きそうな品よりも、
実用的なものへと視線が行くのが、根っからの従者属性の証左だろう。)
■ホウセン > (はてさて、覗いたのなら覗き返されるのが必定。
とりあえずとかひと先ずはとかという程度の隠匿しかしていないから、妖仙の妖仙たる気配は、人外の感知能力を以てすれば気づかれもしよう。
さりとて、さして頓着していないような振る舞いをしているのは、”いざとなればどうとでもなる”という慢心めいた自負の産物だ。
そんな探り合いは表面化することもなく、周囲に二人だけという時間も終わって。
素っ気ない口ぶりで、素っ気ないオーダーをする女を見聞きし、小さな頭を左右に振る。
頭の動きに一拍遅れ、さらりとした艶のある髪が追従し。
動作一つで舞うのは、仄かな甘い花の香。)
「横合いから儂が口を差し挟むべきものか悩ましいのじゃが…
男物のシャツでは布が余って逆に動き難くなろうと予想するのじゃよ。」
(そう、特定の一部分以外は、布が余って仕方あるまい。
その最も主張の激しい寸法に合わせた服選びをしたら、肩幅も袖の長さも着丈も、きっと酷いことになる。
諸手を挙げて、反対ーとぴょこぴょこしている辺りは、お子様っぽい仕草ではある。
ちらっと中年の女性店員に対して目配せをする。
最初に服の購入を表明したのは羽振りの良さそうなお子様の方だったから、購入資金のお財布はこちらが握っていると認識させられているだろう。
だから、素朴な服装に難色を示す妖仙と、素朴な衣服より価格の上がるものを売りたい店員の間で暗黙の共犯関係が成立する。)
『そうですね…やはり丈のあったものをお選びいただいた方が、動き易さという点でもお勧めできると思うんです。
それに寸法違いの服しかお勤め人にご用意してくれなかったのか…なんて、雇用主様への誤解は避けたいでしょうし。』
(そこは専門家というもので、従者の装いであることと、それが本人用にきちんと採寸して作られた一品ものなのだろう看破している。
尤も、体形に特徴があり過ぎて、既製品を少し手直しという範疇では事足りないように見受けられるから、推理は簡単だったろうか。
衣服から察せる主従関係は、どうにも福利厚生ばっちりのようだからこそ、主の為でもあるなんて説得材料を引っ張り出したのだ。
営業トーク、恐るべしである。)
「さもありなんというところじゃな。
然し、そう言うのなら、解決策はあるんじゃろうな?」
(そして間髪置かずに、妖仙からのトス。
一時の着替えということに立ち返らせないよう、未来の着用者の意向をスピードで圧倒する気満々だ。
お膳立てが整い、店員が用意したのは、白と黒のチューブトップ。
縫製はどちらも同じで、色だけが異なっている。
曰く、ちょっとした手直しでどんなサイズでも着用できるとか、動き易さは保証できるとか。
布面積が少ないのだから、当然だが。
これまた不自由な二択という奴で、白と黒のどちらかを選ぶよう促すことで、どちらもNOとはしにくくするやり口だ。
二着を差し出しながらフィッティングルームはあちらですと案内する店員と、良い顔で見送らんとするお子様コンビ。)
■メリッサ > 「えっ、いえですが、えっ、あの」
(男物のシャツでも袖や腰を絞ればなんとかと考えていた矢先に飛んでくる反対の声。
艶のある黒髪を左右に揺らす様子に、洗濯屋に出す間に一時的に着るだけならその程度でもいいと、
そう判断していたメリッサの思考を店員にも否定されてしまう。
雇用主、というメリッサにはよく効くであろう主君のことを引き合いに出されてしまえば、
かの方はそんな些事を気にされないとは思うけれどと思いつつも、主の為と言われると弱く、
口を挟む暇もなく少年と店員のやり取りが進んでいく。
もしかしたら店員からは、隣の少年との主従関係に見えているのかもしれないが。
そうこうしている間に少年が投げかけ、店員が応えるように二色のチューブトップを持ってくる。
さあどうぞ、どちらの色になさいますかと言わんばかりに手渡され、
フィッティングルームへとご案内され、あれよあれよという間に布で仕切られた小さな小部屋に入って。)
「……どういうことなの……」
(断るだとか別のものを所望するとかそんなレベルでもないまま流されきった。恐るべし営業トークとプロの接客。
布面積の少ない手元の二着を見る。
こういう服を着たことがないメリッサからすればどう着るのかというところからだ。
とりあえず、ベストを脱ぎ、ネクタイを外し、シャツのボタンを外していく。
メリッサの豊満なバストを支えるのはシンプルな薄青の下着。
手に取ったのは黒色の方のチューブトップだが、そのまま下着の上から着てみると、フルカップの下着のレース部分やら肩紐やらが出てしまう。
左胸には主君との繋がりを示す主従契約の刻印もあるのでやっぱり流石にこれは、と、
悩んだ結果、仕切りのカーテンからそっと顔だけ覗かせて、店員の女性を呼んだ。)
「すみません、あの、着てみたけどちょっとおかしいというか……見て貰っていいですか?」
(これでいいのか、あってるのかすら分からない。下着が出てしまうのはどうすれば、という。
女性店員を呼び、どうにもならない場合はやっぱり別のものを用意してもらおうとも考えているようで。)
■ホウセン > (真っ当に考えれば、一時しのぎのもので余人の目に触れることは殆どない。
だから、適当なもので良いのだろうという女の判断が正しい。
正しいのは正しいのだが、それでは平々凡々過ぎてつまらないというのが、この人外の行動原理だ。
店員とのコンビネーションで、試着という段階まで推し進めることができた作戦。
そこはかとなくいい仕事をしたという顔つきの店員と顔を見合わせていたのも束の間。
着用者からおずおずと声がかけられると、お仕事モードになって、”只今お伺いします”と即答。
その先は、妖仙の位置からは見えなかったし、急いて覗き込もうという気もしない。
首尾よく済めば、お披露目があるだろうから。
仕切りの布の隙間から中を確認した店員は、ほっと胸を撫で下ろす。
取り立てての問題は無かった。
少なくとも、販売者にとっては。)
『あぁ、はい、事前にご説明申し上げずに失礼いたしました。
よろしければ、正しい着付け方をお手伝いさせていただきますね。
実はこの商品、カップ入りの商品でして――』
(仕組んだ側の妖仙はといえば、仕切りの向こう側の会話を余すところなく拾い上げており。
されど口を出さないし、出せる局面でもない。
こういうのは、同性の店員に任せるのが一番だ。)
『――下着なしでご着用できる作りとなっております。
正しくは、これをこうして…このように………着心地向上のため伸縮性はありますけれど、ズレないし零れない優れた構造でして……』
(何やら衣擦れの音が忙しい。
きっと、一度着用したのを脱がす手伝いをしたり、胸元の締め付け具合を調節するホックなり何なりの操作方法を見せているのだろう。
というか、カップ付きの所にブラ着用でアレを押し込んだのだから、窮屈且つ谷間の陰影がとんでもないことになっていたのは想像に難くない。
適切な着用方法をレクチャーし終えたなら、声掛けに備えて店員はフィッティングルームの傍らに控え。
厄介なのが、多少趣味的な、或いは金銭的な思惑がありながらも、ここまで押し運んできたのは善意という点だ。
趣味に合わなくて、”これはちょっと…”と拒否をしにくくする作用はあろうが、許容範囲のボーダーラインを踏み越えるかは女の胸先三寸。
勿論、本来の目的が達せなければ本末転倒甚だしいから、更なるお節介をしようとまでは考えていない。
だが、もしも。
女が流されてしまったのなら。
下着にシャツにベストにネクタイと、四重の拘束を受けていた豊満な膨らみが、カップ付きとはいえ着衣一枚で押さえるという状態になるのだ。
夏らしい装いであることは確実で、その上で身体的特徴が強調されて色々と眼福なことになるのも想定される着替え。
その成否は。)
「ふむ、如何なったかのぅ?」
(程なくして、小さな人外にも知れるだろうか。)
■メリッサ > (仕事人の顔で入って来てくれた女性店員に商品の説明を受ける。
内側にカップがあったのはそういうことなのかと納得の顔。
店員の声も薄い布地のカーテン越しに漏れて外にいる少年聞こえているだろうが、意識を向ける余裕がなく。
見えないというだけで音だけでも想像通りのことが行われていることは相違ない。
下着を外して上裸に改めて着用し。ホックで調整する。使い方を教われば実践したくなる習性というものか。
かくして夏にしてはかっちりと着込んでいた女の上半身はたった一枚の布地だけで覆われることとなった。)
「…………」
(ズレないし零れないを謳うだけあって胸部周りは問題はない。着心地もいい。
ちょうどよいフィット感だし、涼しいし、かつ存外カップもしっかりしている。
そそくさと着ていたシャツやベストを纏めつつ、店員にレクチャーして貰ってから程なくしてカーテンが開かれる。
白い肌が映える黒のチューブトップ。
すっきりとした長い首元から美しいデコルテライン、しっかりとした肩幅に、
普通の女性よりは筋肉のラインが浮かぶ二の腕。
そして胸である。下着がなくともその豊満な胸が垂れさがることがないのは胸筋が鍛えられてる証。
寄せてカップに納めてしまえばその中心にはくっきりとしたI字の深い谷間が刻まれて。
左胸のあたりからタトゥーのように刻印が少しだけはみ出ている。
そして本来はおへそまで覆うものだったのか、あるいは腹部周りが出るタイプのものだったのかは分からないが。
盛り上がる女人の象徴とも言える白い双丘をしっかりと覆うせいで裾が通常より上に上がり、
うっすらと筋肉の線が浮かぶ腹部と臍孔、腰周りまでが露わになってしまっている。
冷静な表情を崩さないままでいるものの、軽く咳払いを一つした。)
「……涼し気で、いい品なのですが、あの、何か羽織るものも頂けますか……」
(ショールでもストールでもカーディガンでも良いので、と伝える女の、蒼い髪に隠れた耳がほんのりと赤らんでいた。
少年がどういう評価を出してくれるかはわからないが、着てしまったものを脱いで別のものを探す時間もない。
あまり遅くならないうちに屋敷に戻って主君を迎えに行かなくてはいけないのだから。
店員がお勧めしてくれたものをそれでと言って購入するのか、あるいはしてもらうことになるだろうか。
着ていた物は紙袋に包んでもらい、それを手に二人で店を出る頃には、
やや忙しなく、頻りに羽織の位置を直したり弄ったりしていて。)
「すみません、色々とお手数をかけました。ありがとうございます。
……そう言えば、まだ名乗っていませんでしたが、メリッサと申します」
(慣れない服装に表情を強張らせつつも、少年の名前すら知らない事を思い出した。
そうして名乗り合ったなら、この後はこの夏らしい露出過多な恰好で彼と街中を歩き、
洗濯屋まで向かうことになるのだろう────。)
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からホウセンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からメリッサさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にニュクスさんが現れました。
■ニュクス > 「ん…。」
平民地区のどこかの路地。
通りから漏れる明りで薄暗い中、微かに響く女性の息遣い。
直後、どさり、という音が響く。
「ふふ……。」
小さな笑み。ぺろりと舌なめずりを一つすると『ご馳走様』と一言呟いた。
目の前には倒れ込んだ哀れな犠牲者が一人。
一応まだ息はあるのか、小さく呼吸音は鳴っているだろう。
露出の多い踊り子の衣装に身を包み、わずかな間それを見下ろした女は、さて、と思いながら通りの方へと踵を返す。
踊る場所でも探そうかしら、という雰囲気であったが…。
振り返った瞬間、あら、という表情をした。
咎める者がいたか。通りからの視線に気づいたか―――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にルミさんが現れました。