2023/08/04 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からイグナスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にルプランさんが現れました。
■ルプラン >
昼食時を過ぎた午後のギルド、一階片隅の四人掛けテーブル。
窓辺に面したその席に身を潜めるように腰かけて、女は落ち着かなげに、
ちらちらと扉の方を見たり、他の席にちらほら居る客の様子を窺ったりしていた。
揃えた膝の上でこぶしに握った両手、俯き加減に伏せた頭。
出来る限り、出来る限り、誰の目にもつかないようにと考えるあまり、
かえって人目についてしまいそうな、そんな有り様で。
そもそも、このギルドにはあまり来たくなかった。
先日、二人の男に攫われ、近くの宿へ連れ込まれ玩ばれた、あれはこのギルドからだった。
それも宿の中だけでならまだしも、そこへ向かうまでの道すがらでも痴態を晒し、
魔導水晶で記録までとられて、それがこのギルドの関係者の間で、密かに流通しているとも聞く。
今回は名指しで、仕事を頼みたいと連絡があったから、仕方なく顔を出したけれども―――――、
「ソッチ方面の依頼とかだったら、絶対、一発ぶんなぐってやる……」
低く、ぼそりと呟いて唇を噛む。
あんまり興奮するのは良くないが、それでも、やはり。
そんな依頼だったなら、先制攻撃をかまして席を蹴ろうと、かたく心に誓っていた。
しかしそれにしても、相手は遅いな、とも思いつつ。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にシァ・フゥさんが現れました。
■シァ・フゥ >
昼飯時を過ぎれば出ていく人足のほうが多い中また一人出ていくのと入れ替わりに入ってくる、派手な頭。
お一人様? と、給仕に声を掛けられ、待ち合わせでぇ~なんて遣り取りをしては店内をぐるりと見渡す。
「えー……と……あっと、いらしたね」
受付の職員さんに聞いた人相と背格好は、
赤みがかった金髪と青灰の瞳の小柄な云々――
窓辺の席に腰掛けてらっしゃる女性を見付けて、
「どーーーーーも! 遅れやして大っっっ変失礼いたしやしたぁ……」
こう、なんというか、近寄るな! 話しかけるな! 関わるな! 的な、
不機嫌オーラを全開にしているものだから少々腰が引けたものの……
街案内の依頼という余り面白くもなければ賃金も高くはない依頼を引き受けてくれるという貴重な人である。
依頼を出した手前いつまでも腰を引かせているわけにもいかない。
どうにもこの王都というのは住んで暫く程度じゃあ慣れずによく迷う。
案の定ここに来るにも、あれこの道どこ行きだっけか!? と、迷った。
おかげで指定の時間よりかいくらか遅れてしまったので、
頭に手をあてへこへこ頭も腰も下げながら彼女へと近付いていく。
■ルプラン >
扉が開く音を聞き、反射的にそちらへ視線を向ける。
ただし俯いた角度からの上目遣い、幾分睨み気味の眼差しであるから、
愛想だとかフレンドリーだとか、そういう要素はほぼ皆無だったろう。
近づいてくるのは若い男、他人のことは言えないが、随分派手な色の髪。
一見して、色々な意味で軽そうな―――――何処かでこの顔、見たことがあるような、ないような。
ともかくも、どうやらこの男が依頼人であるらしい。
開口一番、下品な台詞を吐かれる覚悟もしていたのだが、その展開は考えなくても良さそうか。
それでも油断無く、じっとりと、相手の様子を窺いながら。
「……わかった、良いから、とにかく座って。
目立つの、あんまり好きじゃないのよ……あんた、声おっきいって言われない?」
周囲の視線を気にして、女の声はひそめがち。
ぺしぺし、と目の前のテーブルを叩き、向かいの椅子を目顔ですすめる。
だってもう既に、受付スタッフの男が、ちらちらこちらを窺っているし。
まともな仕事の依頼なら、なおのこと―――――好奇の視線に晒されるのは、極力避けたかったので。
■シァ・フゥ >
じっとりと頭の先から足の爪先まで睥睨される視線には第一印象通りの軽そうな笑顔を返す。
派手な頭して派手な目で服も季節にあっちゃいるが目立たない事はとんと度外視な格好で、
とくるとこういう目線は慣れたものだし何より客商売ゆえ、むくれる事もない。
もしかしたら大通りでパステルカラーの屋台引いてる時に何度か、
彼女は見た事もあるかも知れない顔は笑顔の侭。
「いやほんと申し訳ない。ぁ、それじゃ失礼しまして……。
声についちゃご勘弁を。大通りで商売してるもんでつい癖で、ええ」
ぅん? と、首を傾げる。言われてみれば、周囲の視線が刺さってくるのを感じる。
自分が派手なのも声が大きいのも自覚しちゃいるが、にしたって、
注目を浴びたりする程のことはないだろうとも思うのだが……
疑問は浮かんだが答えに辿り着きそうもない故一度頭を振って
頭をもう一度軽く下げれば勧められた椅子を引いては腰掛ける。
「では改めまして。今回は街案内の依頼の受諾をありがとうございますぅ。
俺ぁ商業ギルドの方でちょいとやらせてもらってますシァ・フゥといいます。
呼びにくかったらシアでもフーでもアンタでも結構ですんで」
どうぞ宜しくお願いします、と、
両手を前に出せば胸の前で合わせる。
名前といい、挨拶の作法といい、異国の出であるのは伝わるだろうか。
■ルプラン >
恐らく何処かの広場あたりで、屋台を引いている姿を垣間見た、程度の記憶。
しかし残念ながら、いつ、何処で、どんな風に見覚えがあるのだか、女はまだ思い出せない。
まあ良いか、仕事の話をしよう、そして可及的速やかにここから離れよう。
そんなことを考えながら、ともかく意識を目の前の、依頼人へ集中しようと、まっすぐに座り直し。
「商売? あぁ、うん……そういや商人って、声、おっきいヤツ多いかも。
―――――…しぁ、……えっと、ん、じゃあ、シアね。
名指しの依頼だったんだから知ってるかもだけど、あたしはルプラン。
アンタ、まではなんとか許すけど、オマエ、って呼んだらぶっ飛ばすから」
相手の名前を正しく呼ぶことは、あっさり諦めて短縮形に落ち着かせ。
しかし自身の呼び方については、しっかりちゃっかり注文を付けた。
胸の前で手を合わせる仕草に、女は長い髪を揺らして小首を傾げ、
「えっと……シアは、帝国の人?
あ、答えたくないなら答えなくて良いんだけど」
それにしちゃあ、明るくて派手な髪形、瞳の色。
帝国にもこんなタイプはいるんだな、などと、口には出さずとも考えたため、
視線は無意識にもう一度、彼の頭髪辺りへ彷徨う。
■シァ・フゥ >
己も彼女に何となしには見覚えがあった。
このギルドに流れて市場にも密かに流れるアダルティどころではない映像の件――……
ではなくいつだかどこだかも思い出せないのだが少しばかり髪が似ていて目に付いた、
程度の話なので、何処かで会いましたっけ? 何て軟派男が吐きそうな台詞は堪えて。
「活気のあるところで商うと小せぇ声じゃあ目立たないもんでね。控えますんでご安心を。
ぶっ飛ばされちゃ敵わんので、いやそれにしてもですよ、
オマエはないですって初対面の女の人にそんな家内みたいに……では、ルプランさんで」
短縮にも一つ頷く。生まれた国の名前はこちらの国の人には発音しにくいのはもう慣れた。
オマエ、なんて気安いどころの話じゃない言い草に肩を揺らして、
挨拶に重ねた手は解いて片手を緩々と振って見せる。
「帝国の人です。地毛ですよこれ、うん。
向こうじゃ珍しすぎるんで商いに支障出まして流れてきました」
此方でも多くは見掛けない髪の色と目の色だろう。
魔族の国ともなればそうでもないかもしれないが。
口にはしていなくても目が物珍しいと語っているのを見留めると、
前に垂らしたほうの桃髪を一摘みしてから軽く揺すった。
「あ。こんなナリで流れ者で男っちゅーと警戒されるかもしれませんが……
露天たぁ言えギルド通してお国に認可貰ってちゃんとやってる身の上ですんでね?
何かあったら首飛んじゃうから」
冒険者とはいえ、女性。依頼人が男であると警戒露わである理由はよくよく承知で、
何事か粗相あれば商売やってけません。と、親指で首を切る仕草をしてはまた小さく笑う。
■ルプラン >
王都は広い、けれども意外に狭いと感じることもある。
だから恐らくお互いに、害のない記憶の片隅に引っ掛かっているだけなのだ、と、
思っておいたほうが、多分、ずっと平和でいられるだろう。
もちろん、波風立てるのが趣味ならば止めないが―――――否、否。
「うん、屋外ならまぁ、良いんだけどね。
ここはほら、屋内だし、今、そんなに混んでもいないし……、
―――――… べつに、さん、はなくても良いよ? 年、そんなに変わんないでしょ」
こちらが呼び捨てにしているので、呼ばれ方にも少し寛大になっていた。
最初の闇雲な警戒心は薄れて、表情も目つきもぐっと気安く。
明るい色の髪が地毛だと言われると、今度はあからさまに、興味深げに彼の頭に目をやって。
「へぇ、そうなの? 帝国の人って、黒髪ばっかりだと思ってた。
そっか、でも、商売するなら目立ったほうが良い、って法則にしたがえば、
少なくとも王都じゃ、その髪は儲けもんかも知れないわね」
確かに王都でもこの色は目立ちそうだけれど、彼の風貌には合っているし、
きっと女の子たちがきゃあきゃあ言って、寄ってきそうなタイプだとも思う。
おどけた仕草にくす、と小さく笑いながら、顔の前でひらひらと片手を振り、
「わかってる、そこはもう、疑ってないから。
悪かったわよ、さっきは睨んだりして、……ちょっと、ヤなこと思い出してて。
でももう平気、―――――…で、街の案内ってことだけど。
具体的には、どんな風にお役に立てば良いの?」
■シァ・フゥ >
「気ぃ付けます。外だとまたちょい大きくなるかもですが其処は勘弁して頂いて……。
や、あんま変わんないたぁ言え、事前にお伺いしてますが年は一つ違うと。
なら、やっぱこう、ちゃんとしないと。もうちょい気安いほうが良いなら……姐さんとか?」
依頼している身とはいえ、依頼を請けて頂いている身の上であり年上でもあり、となると……
商業の組合に属する手前もあり生来の気質もあって呼び捨てされるのは兎角呼び捨ては落ち着かない。
喋っているうち警戒色が薄れてきた目付きに内心ほっと安堵を零しながら、
さん付けは他人行儀すぎるなら身内色をちょっと出してと顎に手を添え一思案。
……『姐さん』になってしまった。
「ええ、お察しの通りやっぱ黒は多いですよ、其処で桃色ってなるとねぇ? ハハハ。
お陰様でこっちじゃ良い目立ち方させてもらってます。
……売れ行きは……まだまだですが……」
薬売りをしているはずが果物系のジュース売り化している状態にほんの少しばかり遠い目。
思ってたんと違う、みたいな、現況に憂いて目の前を疎かにしかけ、気を取り直して首を一振り。
桃髪がまたぱらりと揺れては、中々難しいもんでぇ、何て雑談もそこそこ、
「お察し、んん。いや。気軽にんな事言うもんじゃありませんな、失礼しました。
あ、して、そう、依頼ですけども平民区画をぐるーっと一緒に回ってもらえばと思いましてね?」
ヤな事。どうにも先程から周囲から受付からが刺してくる含みのある視線。
何となく察しが付きそうだったが何となくの察しで余計な事を言うのも気が引ける。
失礼、と片手だけを胸の前で立ててから、いざ依頼の話となれば外へと目を向けて。
「……方向音痴ってわけじゃないつもりだったんですけど。土地勘がねぇのは恐いですな。
週に一度は此処どこだっけっつー目に合うもんで土地勘ある人に案内してもらえば少しマシになるかなぁ、て……」
■ルプラン >
「わかった、じゃあ、うっさいなと思ったら、その都度鉄拳制裁するから。
―――――…てゆか、いや、いやいや。 それは、お願いだからヤメテ」
さり気なぁく、右手をこぶしに握りつつの。
目許が笑っているから冗談のようではあるが、実際やらないとも言いきれない。
しかし、姐さんと言うのはちょっと―――――ふるる、ふるる、目を伏せて左右に首を振り。
それならやっぱり、さん付けのほうが大分マシだ。
明るい、軽い、気さくな風情。
何を売っているのか知らないが、物によってはそれこそ、飛ぶように売れそうなのに。
なにやら遠くを見る眼になる彼を、ガラにもなく、気遣わしげに見つめつつ。
だいじょーぶだよ、そのうち上手く行くようになるよ、なんて、気休め丸出しの台詞は吐けず、
曖昧な微笑を浮かべてみせてから、
「おさっ、……は?
――――― あー、うん、なるほど…… そっか、うん、そんなことなら」
視界の隅でちらちらと、背中にちりちり刺すように、今も視線は貼りついているが。
それについてはコメントしたくないので、気づかないふりで目も向けず。
依頼内容を聞けば、ふんふんなるほど、了解しました、とばかり、テンポよく頷いて、
「いーよ、そのくらいのことで良いなら、いつでも、なんなら今からだって。
シアって、今、どこに泊まってるの?
どうせなら、そこから始めたほうが良いんじゃない?」
宿が定まっているのなら、そこから案内をスタートさせるのが一番わかりやすそうだ、と思ったので。
ひとつの案として提示してみたが、彼のほうに、特に希望があるのなら、プランは変えても構わない。
■シァ・フゥ >
「道中、俺の顔面は果たして無事でいられるだろうか……。
えっ? わ、わかりました、そしたらやっぱりまあ、ルプランさんで」
右拳が握り慣れているし殴り慣れていると言わんばかりに固められたのに視線を遣る。
右手で頬やら鼻やらを撫でて、ぐっばいイケメン……云々ぼやいてはまた笑った。
冗談なのは解っているから、いや、冗談にしては拳が力強いので不安だが冗談という事にしておきたい。
「あ、そだ、ルプランさんもよろしければ是非ご利用下さいましぃ。
昼間に大通りで水色の屋台引いてやしてね。売り物は主に薬や湿布とかそのあたり、薬屋ですな」
決して果物のジュースやデザートではない。主戦力だが。
生暖かい視線に、ありがとうございます……とは気落ちした様子で言ったと思えば、ちゃっかり宣伝。
「ご都合宜しいようだったら今からでも全然。
宿の方は、九頭龍から出てる温泉引いてる宿がありましてね、そっちに取ってる……んですが、ぃや、
そっちは女の人あんまり近づかん方が良いですな。ここから宿は何とか覚えたんでここから始めましょ」
拠点にしているところからの道案内のほうが覚えやすい。
提示されたプランにたしかに、とは、頷きかけたが……
拠点としているところはどうにも余り治安が、殊に女の人には宜しくない場所だった。
毎夜毎夜、館内を歩くとあられもない声がやたらめったら聞こえるのは困り物である。
首を横に一振りしては視線はそのまま人差し指も外へと向けて。
「暑ぃ中ご苦労お掛けするんでね、色付けさせてもらいますよ。
勿論飲み物や食べ物ご要望ありゃあご随意に。出させてもらいますんで」
■ルプラン >
「それでお願いします。 もし姐さんって呼んだら、やっぱりぶつから」
にこにこしてはいるものの、握りこぶしは絶賛継続中である。
口の利き方によっては、強制的に整形、と相成る可能性もゼロではないような。
しかしそれはそれとして、水色の屋台―――――あ、と、女のほうがやや大きめの声を立てた。
「あ、あ、あの、冷たい果実水とか売ってるところ?!
やだ、そんなら最近けっこう流行ってるじゃない、……え、あ、あれ?」
薬屋さん?
やっと思い出した、なかなかに商売繁盛しているところに行き会ったのを。
けれど、薬―――――薬、置いていただろうか、なんて、店主にとっては残酷なことを。
その上、自らいっそう視線を集めてしまったものだから、こそこそと肩をすぼめ、首を竦ませ気味になり、
「………ごめん、ごめんね、薬屋さんね、うん。
そーいえば、薬、売ってたかもしれない、うん、そーよね。
―――――― て、九頭龍…… あぁ、あの、……」
誤魔化そうとして誤魔化しきれない、しどろもどろなくだりを経て。
九頭龍と聞いて、なるほどと思い至った。
確かにあの宿、ちらほらとアレな噂が聞こえてくる。
近づかなくても良いと言うのなら、もちろん、女としても近づきたくはない、ので。
「それならさ、シアが食べたいもの、先に教えてよ。
帝国風のが良いとか、スパイシーなのが良いとか、肉が良いとか、魚が良いとか。
教えてくれたら、あたしが知ってる限りで、一番美味しいとこ案内したげる。
そんで、食べて、気に入ったら、シアが奢って?」
もちろん女も、美味しいものは大好きだ。
誰かの奢りで食べられるのなら、なお大好きだ。
ウキウキと話を振るうちに、こぶしも解けているくらいだし。
それでね、と、ほんのり頬染めて付け加え、
「シアのとこで出してる、あの、ひんやりデザート。
あれが、おまけについてきたら嬉しいなぁ、と思うんだけど……」
女の子―――――と自称するのはそろそろ躊躇われるが、
端くれとして、もちろん、甘いものも大好きなのだ。
■シァ・フゥ >
「やっぱりぶつんですか……っ
ルプランさんってより姐さんって呼んだ方がしっくり、いやなんでもっ」
しっくり来るからってうっかり呼んでしまったら顔が台無し。
めきめきっ、と音を上げそうな握り拳からついに視線は外れ、
「おやま。お見掛け頂いてたのは有り難い話です。が、まあ、はい……
薬の方は全然……売れなくて……仕入れついでに採ってきてるあれが……ええ……」
薬置いてたっけ? 何て台詞にはついに目線が落ちた、肩も落ちた、声のトーンもがくんと。
湿布、塗薬、飲薬、生薬、等等置いてあるし幟にも果物云々は書いていないのだが……
果実を絞った飲料水や果実を凍らせて砕いたり砕いた氷に乗っけた献立は非常に好評。
薬屋としてより甘味屋として好評な事実はどうにも素直に受け止められない、
はぁ~……なんて重たくて長~い溜息まで零れ出てしまう始末である。
「まあ。全く売れないよりは。うん。商いしてて食うや食わずやなんて生活よりは……うん……。
ま、まぁまぁ、まぁまぁまぁうん。気を取り直して……」
九頭竜の噂は来て日が浅い自分より在中の長い彼女の方がよくよく知っているだろう。
頷きに頷きを返しては、料理の話ともなると、小首傾げて目線が逸れること数秒……
肉か魚か、帝国風か王国風か、悩んだものだが悩んだ末に、
「そしたら、スパイシーなもので。暑い時期に何なんですが。暑い時期にこそっていうか?
お勧めの味期待してます。ルプラン姐、ごほん、ルプランさん詳しそうだ」
うっかり言い掛けた名称を慌てて咳払いで何とか誤魔化しつつの。
体躯を揺さぶりさえしそうなうきうきっぷりには、
何か可愛いなぁこの人……
だなんて微笑ましくってつい笑気に声を震わせてしまった。
どの道付き合って貰うからには財布は自分で持つ心算だったが、
それでね? と、付け加えられ、染まる頬に首を傾げ。
「ああ。はい、ふふ、了解しました。スパイシーなあとにはさっぱりするのもいいですものね。
不本意ですが評判になってる味、ご賞味いただきましょ」
溢れてきた、甘いものに殊に興味津々な様子に喉をくつくつ鳴らしては頷き一つ。
明日出す用のものから幾つか見繕って、ふんわりと細かく砕いた氷に混ぜたり乗っけたりして……
と、献立組み立てながら、お任せあれとスナップ一つパチンと鳴らした。
■ルプラン >
「うん、ぶつ。
ぶつよ、……… ぶつからね?」
なんか今言いかけたよね。
こぶしの唸りどころだろうか、なんて、ほんの少し睨んでみたりなぞ。
しかしもちろん、この程度のことでいきなり顔面パンチを見舞うほどの、
乱暴者ではない、―――――ない。たぶん。
それに、だ。
「いやいやいや、ごめん、あたしほら、嫌になるくらい健康なのよ。
だからね、そーゆーときって、ね、薬屋さんとか、目につきにくいもんじゃない?
どーしたってほら、美味しそうなもののほうにね、目がね、吸い寄せられてね……」
慌ててフォローを試みているが、この女、はっきり言ってフォローは下手な質である。
言えば言うほど―――――になってしまっているような、ここはひとつ、空咳でもして話題を変えるべきかという感じに。
そういう意味でも、相手の料理の好みを聞いたのは正解だったか。
返ってきた答えに、ぽん、と軽く胸の前で手を叩き、
「あ、良いじゃない、スパイシー。
暑いときほど、パンチの利いたもの食べて汗かくとキモチイイしね、
それで冷たいデザートご馳走してもらえるなら、今日だけと言わず、
シアが王都に慣れるまで、何日でもお付き合いしちゃうわ」
完全に、食い気で仕事を決めた形。
楽しげにそんなことを言ったものだから、受付方面で誰か、咳き込む音が微かに聞こえた。
お付き合い、というフレーズから、何か想像したらしいが―――――女の頭の中はもう、
美味しいもの、でいっぱいである、ので。
彼が応じてくれるなら、いそいそと立ち上がって街へ繰り出そうとするだろう。
ギルドの建物を出ても、しばらくは通りすがりの人々の眼が痛かったかも知れないが、
餌で釣られた格好の女は、もうそんなこと気にしていない。
張り切って彼を案内し、美味しいものの宴に辿り着こうとするはずだ―――――。
■シァ・フゥ >
「ご勘弁っ」
何も言い掛けてはおりません! 頭も両手も風切り音がする程盛大に左右に揺れる。
果たして拳は顔面に叩き込まれる事なく胸の内で抑えきれず安堵の息が零れ出た。
「まぁまぁまぁ。確かに……ええ、確かに薬屋が暇であるのは何よりです……。
目にまったく付かないより目について記憶に残ってもらえるだけマシか……」
フォローという名の追撃がグサリグサリと頭とか胸とかに突き刺さる心地である。が。
彼女は彼女なりに慰めには向いていないようだが一生懸命慰めてくれているわけだ、
もう大丈夫と謝意に一つ手も上げたところで料理の話題にきっちり変えて。
「あ、わかってもらえます? ですよね、冬もいいですけど夏ですよねやっぱり。
ハハハ、それじゃあ、何日でもお付き合いしてもらっちゃいましょうか、いや何、
一緒に食べる人もあんまりいないから結構嬉しいなぁと思ってぇ」
受付の方から何だか物言いたげな咳払いが。
うん? と、首は傾げそうになったものの、
折角の楽しい話に水を差されるような気配があった。
故、あえて無視して楽しげな彼女の方へ目線は固定。
一緒に。食べる。辺りは声が若干大きくもなった。
善は急げ! とばかりに立ち上がるのにあわせて席を立ち、
何にも考えていなさそうな笑みを拵えては周りの皆様に手を一振り。
「じゃ、まずは、この辺り一帯から。
ていうかこの辺りが特に入り組んでる気が――」
ぽつりぽつりと雑談を挟みながらの此処はこう入って此処行けば何処へ出ての案内を受け、
やはりどうにも暑いものだから、あっっっついねぇ、なんて汗を流しながらの日中を経て、
日が落ちたあとには件のお勧めの店にて見目も香りも食欲そそる料理を前に乾杯と。
最後に冷たい甘味を締めにする宴は辿り着いたら随分盛り上がった筈――――……
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からルプランさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からシァ・フゥさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍜治場」にスピサさんが現れました。
■スピサ >
聞こえるのは鉄の音
聞こえるのは槌の音
―――夏の鍜治場は蒸し暑さが濃くなる。
余計な明りを持たない鍜治場工房は、炉を鞴で猛させる。
金床の上でヤットコで摘ままれた鉄の棒は、赤白く全身を燃やしている。
―――“ギィンッ ギィンッ ィィィンッ”―――
どれだけ火を籠めようと、弾き返すような硬さが槌に返ってくる
硬すぎる鋼ではなく、鈍らで仕上げることが定説な騎士鎧用のロングソードならば
これはまるで魂を込めるように槌が吸われていく感触に仕上がる。
それが、並大抵の魂では拒むような硬い音 弾き返す手応え。
サイクロプスの薄青い肌 力瘤には汗が伝い、頭に赤布のバンダナを巻いたスピサ
その種族性の優位な怪力と、手製の耐えうる槌を以ってして未だ抵抗を続ける音。
純鋼鉄の芯が、何度も形を変えさせ、何度も炉で火を込められているのに未だその形を拒むような硬さ
硬すぎれば歯が欠けやすい 硬すぎれば折れやすい そんなものを超えて、一度定まれば変わらない頑固者
そんな気質を感じさせる。 俺はまだやれるんだと、何人斬ろうと意固地になる剣が目に浮かぶ。
橙色の大きな単眼は、そんな鋼の火棒を見て、唇が小さく笑みを浮かべた。
「うん、普通のロングソードじゃ、なさそうだね。」
ここまで跳ね返される鋼も久しぶりだった。
たっぷり汗をかいた分だけ、自己主張できる性格じゃないスピサでも、両腕がこの剣に夢中になる。
両刃直剣仕上げ 工夫や最新の形なんていらない 古風な真っ直ぐな両刃の剣に仕上げることを決めて
ただひたすらに純粋なロングソードに仕上げていこうと、何度も何度も打ち付けていく。
頑固者故、何度も火を入れて槌を撃つと、いずれ槌にまで火が入り形が歪むから、それを抑えるためにと
傍の水桶に何度も槌を浴びて冷まし、再び打ち込んでいくという光景。
外で響く鍜治場の音はいつもよりも重く、鋭く、夢中である。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍜治場」からスピサさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にルイーズさんが現れました。
■ルイーズ > 平民地区の路地の傍の店の近く。
石畳の道に敷物を敷いての小さな露店と趣味の占い屋。
扱う商品も傷薬やよくわからない鉱石、森で採れる食材がメインであり。
「毎度ありッスよ。
またのお越しをよろしくですよー」
そんな露店ではあるが固定客はそれなりに居り。
今も食材を買ってくれた主婦と言える女性を見送っては手を振り。
その姿が見えなくなれば次のお客が来るまでのんびりと待って。
■ルイーズ > そうしてのんびりとお客を待っては商売を繰り返し。
ある程度、品が売れると手早く店じまい。
巡回する兵士などに目を付けられる前にと荷物と儲けを手に路地に姿を消して。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からルイーズさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にロスさんが現れました。
■ロス > 「確かに受け取りました。また御贔屓に」
平民地区の一軒の商店に品を下ろしては代金を受け取る。
もう何度目かの取引になる店なので多少は色も付けての取引を今回を無事に終えれば一息吐き。
そうして店を離れれば通りを歩きだし。
「今回もいい取引が出来ましたね。元手も貯まってきましたから少し拡張も良いかもしれないですね」
何時ものリュック分の取引でも十分な利益はあるが、儲ければつい欲も出てしまい。
量を増やすならまず何を用意すべきか、それを考えながら歩いて。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からロスさんが去りました。