2023/05/15 のログ
ご案内:「◆城塞都市「アスピダ」外郭部(過激描写注意)」にサスハさんが現れました。
■サスハ > 『おい』
低い唸るような声と蹴られた太ももの衝撃でそれは目を覚ました。
明かりもない部屋の中、壁際にへたり込むようにして眠っていたそれは扉から降り注ぐ光とそれによって逆光になった男の顔をのろのろと見上げる。
『いつまで寝てんだ。起きろ』
そうつまらなそうに告げた初老の男は見るからに不機嫌な様子だった。
その姿をぼうと見上げたあと、それは薄暗い部屋の中へゆっくりと視線を巡らせた。少し広めの石造りの部屋の中には数人の男達と女たちが横たわっている。今しがた目覚めたそれがそうであるように床に転がる男女もまた殆ど何も纏っておらず、足元には様々な液体による濡れた跡が広がっていた。そのまま視線を巡らせると部屋の隅には水場と排水溝がありその周囲に幾分か藁が積まれ、部屋中に拘束具や尋問用の様々な器具、寝具の残骸が転がっているのが目にはいる。それを見ると途端に部屋に満ちていた焼き薬の残り香と体液の混ざった据えたような香りがそれの鼻腔を突き刺した。
「ぅ」
床に座る様にして意識を失っていたからだろうか。全裸の躰は冷え切り手足が痺れるような痛みを訴えかけていた。
ぐずりと全身を刺す倦怠感とカラカラになった喉に僅かにうめき声のような物を零す。
昨晩の行為の最中に外されたのか付けられていた足枷は床に転がり、天井の滑車に繋がる両手を拘束していた手枷は片手だけ。
宙に吊り下げられ蒼白になった腕に繋がる鎖が身じろぎと共に小さな音を立てた。
それを蹴り起こした男は小さく舌打ちをしながら手首の拘束具の鍵を開け、そのまま部屋の隅に大股で歩み寄り、溜まった水を汲むと
『ほら。さっさと起きて片付けろ』
それの頭の上から水を浴びせかけた。
ざぁと音を立て全身を伝う冷たい水に僅かに体を震わせるそれをみると男はふんっと鼻を鳴らし、くるりと踵を返すと部屋の外へと出ていく。
その様をぼうと見送った後、それはゆっくりと立ち上がると部屋の片隅に打ち捨てられていた衣装を拾い上げ、袖を通す。
そして申し訳程度に肌を隠すそれの上に長外套を纏った。
まだ濡れた髪が首元や外套に張り付くも意にも介さず小さく祈りの言葉を口にすると独特の印を切った。
そうして薄暗がりの中、部屋の中に転がっているいくつもの人影を覗き込みはじめる。
■サスハ > 「ラミイ」
床に四肢を投げ出し、粘液と汚泥に塗れさせたまま微動だにしない女の横で立ち止まるとそれは小さく言葉を発した。倒れ伏す女のかつて美しく手入れされていたであろう金糸の髪は汗と脂、そして埃と血液で固まり艶を失ってしまっている。彼女の手首にも手枷をはめられていた跡があり、下着も含め衣装を力任せに引きちぎられたようで、今やぼろきれのようになった布を僅かに纏っているだけだった。首元にも紐状の赤黒い跡があり、床を引っ掻き、爪がはがれて強張った指と全身の殴打の跡、そして苦悶の表情がその今際の情景を物語っていた。恐らく先にあった戦闘で鹵獲した騎士か何かの捕虜の一人といったところか。それなりに豊満な四肢と戦傷一つない四肢から見るにそれなりに立場のある存在だったかもしれないが、この場では育ちのよさそうな捕虜は大体ひどい目に合う。この女も例外ではなく、命乞いも空しく入れ替わり立ち代わり来る男達の乱暴な欲望に真っ先に晒され啼かされていた。戦闘直後はほぼ例外なく気がたっているため乱暴になりがちで、敵ともなれば尚更だ。不死性を持つならともかく、このならず者の群れの中、無事でいるのは難しい。そうしてこの薄暗い部屋で命を落としたのだろう。
「カテラ」
その横でボロボロになった服で尻を中空に突き上げるような姿勢のまま倒れ伏した黒髪のミレー族の女の背中には切れ味の悪そうな短剣が突き刺さっており、そこから流れ出る血も最早固まりかけていた。見分するまでもなくこと切れているであろう彼女は行為の最中で漏れ聞いた内容では確か従者か何かだったか。最初はかなり抵抗していてその時刺されたのか途中から小さく呻くだけだった。先の女と違い、抵抗する力が幾分かあったせいで怒りを買ってしまったのだろう。最も、長く続かなかった分苦しむ時間が短くて済んだと言えるかもしれない。なんにせよ、それはもう二度と自らの意思で動く事はない。
「カクスィ」
まだ何人か地面に横たわっている男達の間を足音一つさせず通り抜けながら見分を続け、そうして一人の男の前にかがみ込んだ。こういった部屋で死ぬのは必ずしも一方だけとは限らない。負傷して死期を悟った荒くれの中にはその瞬間まで欲を貪ろうとする者もいる。近くの足元で転がっている男もまたそんな一人だった。筋肉質の躰の全身にある新旧の傷跡を晒しながら大の字に倒れている男の腹部にみえる傷口からは既に濁って凝固しつつある血液と、血色を失った脂肪が見えている。
その横に横たわっている女の胸は僅かに上下しており、目立った傷も見られない所を見るとこの男の情婦か愛人だろうか。こちらはまだ生きていると判断すると一切の興味をもたずゆっくりと立ち上がる。
■サスハ > 「……」
この部屋にいる死者はこれだけのようだと判断すると、それは再び音もなく立ち上がった。
未だ眠りこける者達の間を縫い、亡霊のように足音も立てないで部屋の外に用意されていた荷台へとその骸を積んでいく。死体を運ぶのは大の大人でも苦労するものだが、誰も手伝おうともしないまま黙々と積み込みそれらを固定すると、無言で歩き始めた。
そのどこか寒々とした光景を見かねたのか、はたまた肌を重ねて情が移ったのか幾分か若い一人がたまらず声をかけようとする様を見て他の一人が腕をつかみ制止する。ゆっくりと荷台と槍斧を引きずりながらも部屋の外へと出ていくそれを何処か恐怖の混ざった視線で見送ったあと、彼は
『おい、あれに深入りすんな。
人の形をして人の言葉を解するだけで、あれは人じゃねぇんだ』
そう唸る様に言葉にした。
■サスハ > 僅かに覆う程度の藁布で隠し切れない死体と僅かに漂う死臭はすれ違う者たちの視線を避けさせるには十分だった。
時折すれ違う誰もが傷つき俯いている中でそれもまた同じように俯いたまま、死体が積まれた仮の台車と岩塊のような斧を両手で引き摺る。汚泥に足を取られ、時々躓きながらも歩き続けようやく顔を上げたのは要塞の壁の外に繋がる細道を抜けてから。
「……ナキクネ ニカャト ソラリシル」
目の前に広がる山並みと荒れた山肌、先日の戦闘の生々しい痕跡がそこが未だ戦場である事を見るものに思い知らせるようだった。
瞳に一切の光を宿さないまま、小さく呟いたそれは再び歩き出す。昨夜の狂宴で体は重く、仮の荷台に乗せられてぐらぐらとゆれ、気を抜けば地面に落ちてしまいそうになる骸に重心を揺らされながらゆっくりと。幾ら剛力とは言え、死体を運ぶのは普通に人を運ぶよりずっと大変だ。
「……」
幾ばくか歩き続けて辿り着いた山間のくぼ地にはうっすらと雪が積もり、その合間に粗末な木を組み合わせたものや、欠け、朽ち錆びた武器がつきたてられた盛り土が無数に並んでいた。少し離れるだけで砦からも、山道からも見えなくなってしまうそこは、この戦いの末路を見届けることは決して叶わなくなってしまった者達の為の場所。
ようやくたどり着いたそこに、道中即席のそりから何度もずり落ちそうになっていた死体をおろすと運び手は休む事もなく地面を掘り始めた。岩盤のような硬い地面へ無心に岩塊のような得物を何度も何度も振り下ろし、地面を砕き、穿って行く。ガッガッと打ち付けられる音が山間に僅かに響き、そして消えていく。
弔いに誰一人訪れることもなく、そして恐らく誰も死者を悼むためには訪れないであろうその場所にただ無心に地面を掘る音と吹き抜ける風の音だけが響き続けた。
■サスハ > 「 」
そうして作り上げた大人数人が入れそうな穴へと持ってきた死体のうち一人を寝かせると、それは再度得物を振り上げた。寸暇の躊躇もなく得物が振り下ろされると同時に飛び散った体液が体を汚す。斧槍を振り下ろしたそれはそれらを一切気にかけることなく死体を刻んでいった。幾ら掘れるとは言え穴は小さく、死後硬直で歪に固まった四肢をそのまま収めるような大きさはない。かといって彼等に死化粧を施すような時間もない。ましてやここは戦場。屍術師に利用されて戦力になるような状態では埋められない。返り血や肉、骨の破片で凄惨な様になりながら、それは淡々と運んできた物体を”処理”し続ける。それを続けてやがて、数人の体は小さな穴へと収まった。
「――」
その様を見下ろしながら得物を傍らの地面に突き立てるとそれは穴の前に跪いた。血と脂で汚れながら死肉を震える手で捧げるように掬い上げた様は邪教の神へ贄を捧げる儀式の信徒のようで……その喉が何かを嚥下するように動くと同時に穴を中心として轟と大火が巻き起こった。その炎は人一人の身長よりも高く立ち上り一瞬で周囲の雪を解かすほどの勢いでありながらも周囲に燃え移ることなく穴の中の骸を舐めていく。それを熾した墓堀人はその爆発的に巻き上がる風に髪を靡かせながら瞳を閉じ、自身をも焼くような炎の前でただ一人、葬列で項垂れる人の様に俯いている。
■サスハ > 「スイタナニイモ チイカイスミチモ シラミチ イニト シラモニミイ」
これは本来葬儀ではなかった。死体によって生じる瘴気や生き残った者達が死と病厄を避けるために死体を処理しているに過ぎない。そこに尊厳など無く、祈りも憐憫もない。何処までも何処までも正者の為の行為に過ぎない。だからこそ、本来なら纏めて燃やして終わり。かつての敵に尊厳などあるはずもなく、かつての味方にすら敬意もない。ただ当番やくじ引きなどで押し付けられ、嫌がられる役回りに過ぎない。
「リチソスニモラトチ シニイト ニリリチネ」
ここに来た時点で両陣営に組するものも、それ以外もこんな運命をたどる覚悟はしているはず。戦場にくる以上そうあるべき。ここで骸になっている騎士と従者もそうであるべきだった。そして誰しもがそうであるように彼女らもまた、心のどこかで気分達は例外だと信じていた。自分だけは華々しい戦果を挙げ、名を挙げ、無事に帰ると夢想して、もしくは物見遊山気分でこんなところに来た結果がこれ。でなければこんな小競り合いの状況にもかかわらずあんな軽装で、そして無傷で捕らえられる事なんてない。
砦側も大差ない。。クシフォス率いる血の旅団ならともかく、外郭を守っているような者達は大体が火事場泥棒や辺境の盗賊、追いはぎなどの強盗等で構成されている。彼等は取り残された市民や商人、戦う術を持たないものを盾にすることに躊躇わない。その様は戦意を削ぎ、時間を稼ぐには十分で、だからこそこの辺りにいるのは大半がそれ以外の選択肢を持たなかったか、それを食い物にしている存在ばかりだ。志も、守るべき戒律もなく、まるで巻き込まれたかのように不平不満を垂れ、徒に一時的な悦楽に身を委ねながら自身よりも弱いものを虐げ浪費していく薄汚れた罪人の群れ。
■サスハ > 「タナチ スイトナスキイカ イサ ハチヒニリリチネ 」
彼等は巻き込まれたわけではない。望み、奪うために集った者と、そのお零れに与ろうと集まってきた屑漁り。壊れたそれらを埋める墓堀人もまた、壊れた精神のまま機械のようにその役を果たしているに過ぎない。明日もし戦があればまた武器を振るい、死体を作り、そして埋める。それに例外はなく、ここには救う神も、救われるべき民もいない。
「マナシニソチミシナト クラモラ スイナトル」
……それでも、祈りは必要で、信仰が必要だった。
誰に祈るのかわからなくても、誰の為に祈るかさえ忘れ去っても。
空虚なおままごとのような、偽善ですらない自己憐憫と僅かな良心を満たすためだけの形だけのものでも。
捧げられる祈りは誰にも届かない。神は死に、風は澱んだ。
それでも、それでも、儚く身勝手極まる願いと嘆願は止む事はない。
■サスハ > 「……クナニソ イスキラ セチスソイ スイサル」
煌々と燃え盛っていた大火は墓堀人の祈りが終わる頃には贄を味わい尽くし、既に肉も溶け、熾きの様になった骨と灰、そしてかつてそこに在った命の名残の様な熱だけが残っているだけだった。それらが山風に撒かれる前にと墓堀人は再び得物を手に取ると、横に避けていた土をかけ始めた。次第に見えなくなっていく白灰と人だったものを死人よりも死んだ瞳で見つめながら、小さな山を築いていった。
そうして出来上がったのはその下に眠る人の欠片もわからない、土盛りが一つ。それはまるで元々そこに在ったかのように無数の墓標の中に紛れるそれはあまりにもこの場所に馴染んでいた。
「ニ クチヒイ カラ キイカ コチソノ カラ カクイ ハラスカ チト トララミ チト セラトトニコリイル」
その様子を見送ってそれは一つ大きな吐息を吐き、再び地面へと座り込んだ。
炎の熱気が肌についた血を乾かし、吹き付ける冷たい風がそれを運び去っていく。
曇天の空を見上げた瞳の端から一滴だけ雫が零れ落ちた。
それは今日になって初めてそれが見せた僅かなヒトらしさのある所作だったが
「コイソチナトイ ニャモ トナスイ クイ テラナリシ テチミカ モイ カラル」
そう呟いて開かれた瞳は昏い昏い虚無に満ちた闇のような色を湛えていて。
遠くの墓標にとまってその様子を見守っていた烏が一声しわがれた声を上げながら飛び去って行った。
ご案内:「◆城塞都市「アスピダ」外郭部(過激描写注意)」からサスハさんが去りました。
ご案内:「王国北方の村(過激描写注意)」にベルナデッタさんが現れました。
■ベルナデッタ > 王国の北方。そこは古くから魔族の侵略を受け続けた受難の地。
タナール砦が陥落した時には国境を超えた魔族に襲われるのが常であり、その度に多くの血が流れて来た。
しかしながら今の所、王国軍は反撃し、魔族をタナール砦まで押し返すのに成功している。
その後は、避難民の帰還、領土の復興に合わせ、逃げ遅れた魔族残党の討伐が行われるのが常であった…。
「まさか村丸ごととは…困りましたね」
手にした剣でゴブリンを斬り伏せ、額の汗を拭うのは異端審問官ベルナデッタ。
魔族の残党が潜伏していないかの調査に加わっていた彼女であったが、
訪れた村の一つがあろうことか、魔族に丸ごと乗っ取られていたのだ。
周囲を囲むは魔族の手下の魔物達。油断はできない。
ゴブリンが粗雑な武器を振りかざし、次々と襲い掛かってくる。
「一人で来たのはまずかったでしょうか…」
しかし、歴戦の異端審問官たる彼女は慌てることなく、近い物から次々首を刎ね飛ばしていく。
手にした剣は処刑人の首切り剣。聖別された特製品。
そして、腰に下げたホルスターからピストルを抜くと引き金を引く。
それも、ただのピストルではない。銃口からは猛烈な炎が吹き出て魔物達を纏めて燃やしていく。
辺りに悲鳴と肉の焼け焦げる臭いが漂う。
「あと5発…大切に使わねば」
今の所遭遇しているのは魔物だけ。どこかに指揮する魔族がいるはず。
それと戦う時まで、装備は温存しておきたい。
ベルナデッタは魔物を駆逐しながら、村を進む。