2022/10/30 のログ
ご案内:「魔族の国・焼け落ちた城跡(過激描写注意)」にソーニャさんが現れました。
ソーニャ > 「――――…… また、来たのね?」

何もかもが煤け、焼け落ち、消し炭同然となって転がる瓦礫の中に、
幼げな少女の声がとろりと流れた。
主の居なくなった隙を衝き、領地を奪い取ろうと目論む【彼等】の前に、
不意にその姿を現し、俯いていた頭を擡げ、閉ざしていた瞼を開いて――――――

途端、巻き起こる劫火が侵入者たちを取り囲んだ。
しろく禍々しいその腕が、瞬く間に【彼等】を絡め取り、
悲鳴も、怨嗟も、断末魔すらも呑み込んで焼き尽くす。
ただ、無感動な眼差しでそれを見据える小娘の蟀谷へ、ただ、ひと筋。
つう――――と、冷たい汗の粒が伝い落ちた。

「は、ぁ……… ああ、駄目、つまら、ないわ……、
 みんな、すぐ、燃えて、しま、う……… これじゃ、駄目、

 ―――――― 未だ、足りない、わ」

もっともっともっと、燃やし尽くしてしまいたいのに。
狂おしいほどに求めているのに、足りない、満たされない。
ふら、と踏み出した右足の下、じりりと燻る気配。
波打つ黒髪を熱風に洗わせ、ゆうるりと首を巡らせて――――燃やせるものを、探す。
あるいはいっそ、己が身を焼き尽くしてくれるもの、を。

ご案内:「魔族の国・焼け落ちた城跡(過激描写注意)」にトーラスさんが現れました。
トーラス > 魔族の国、かつて名のある火炎公が収めたとされる城塞。
鎬を削り合う魔族同士の抗争か、人族の英雄との一騎討ちの果ての結末か。
主亡き城は廃城と化して、空白地帯となった領土は野心溢れる様々な者達の目標となる。
この日、焼け落ちた城跡に派遣されたのは王国の騎士団と命知らずの傭兵や冒険者。
尤も、彼らの殆どは、地獄の業火に呑まれて、断末魔すらも許されず灰燼に帰す。

それは、炎の首魁たる幼き少女には有り触れた日常光景だったのだろう。
親から受け継いだであろう魔力が産み出す火焔は、骨すらも灰に変えて、全てを燃やし尽くし、
その威力たるや、竜種の吐き出す、炎の吐息にすら匹敵する熱量を有する。
そんな彼女に唯一の誤算があったのだとすれば、

「――――、あぁ、足りないな。
 生憎とドラゴンの鱗を焼き焦がす程じゃなけりゃ、まだまだぬるい位だ」

吹き荒れる熱波の中を潜り抜けて、一人の冒険者が飛び出すと、
少女の虚を突いて、その細い首へと左手を掛けて、掴み取ろうとする。
頬は煤で黒ずみ、衣服には焦げで穴を開け、されども、その身を焦がす事がないのは、
竜退治の際に浴びたドラゴンの返り血と事前に飲み干していた魔法のポーションのお陰で。

ソーニャ > 自ら切り離したのか、あるいは何者かの意思が働いた結果か。
何れにしても、父の施した枷から切り離された今の娘に、ひとの子に通じる理性の存在は皆無。
我が生まれ故郷を土足で踏み荒らす者、我が領域を穢す者、
それらすべてを、跡形も無く焼き尽くすことだけが、唯一、確かな意志だった。

だから、相手がひとであろうと、魔に属するなにかであろうと、
娘の反応は変わらない。
誰も彼も、何もかも――――――ただ、燃やし尽くすだけだ。

「――――――――― ッ、………!」

燃え盛る焔の間から、不意に伸ばされた腕。
そこから男の全身が抜け出し、眼前に迫るより早く、娘は一歩後ろへ飛び退いた。
伸ばされた手指が掴み引き千切るのは、僅かに、娘の長い黒髪、ひと筋ばかり。
それだけを男に【戦利品】として与え、爛々と煌めく金色に男の姿を映して、
娘はやはり無感動に、平坦な声で告げる。

「――――――燃え、て」

ごう、と彼我の間に、立ちはだかる炎の障壁。
此度の炎は、先刻【彼等】を焼き払ったものより、更に高温。
炎竜の放つ咆哮、よりはいくらか劣るだろうが、それでも。
生身の男が触れたなら、きっと無事では済まないだろう。
障壁の此方側、炎の娘はふわりと身を翻し、この場を立ち去ろうとしていた――――――。

トーラス > 掴み掛る手がもぎ取ったのは少女の髪一房ばかり。
絶妙のタイミングでの奇襲が功を奏さなかった事に奥歯を噛み締めながら、
更に一歩を少女に向けて踏み出す。

その瞬間、十数年、冒険者稼業に従事してきた経験が示したのは生命的な危機感。
踏み出した足の爪先に力を込めると、前のめりになり掛ける身体に急制止を掛ける。
寸での所で、炎の障壁が鼻先を掠め、勢いを殺し切れなかった前髪がチリチリと焼け焦げる。

「――――チッ!」

眼前の炎の障壁の凄まじさを前にして、咄嗟に腰のホルダーに手を掛けると
人差し指、中指、薬指の間にポーションの試験管を二本、掴み取り、
前歯でコルクの栓を噛み弾きながら、中身を一息にて飲み干す。
痛覚無視の所謂、麻酔に等しき薬剤と重ね掛けの耐火の魔法のポーション。
炎に対する耐性を強引に引き上げ、魔法の剣の柄に手を掛け、――――。

「……一足、遅い、か。」

其処までお膳立てをしておきながら諦めて柄から手を離す。
既に障壁の向こう側、女の姿が掻き消えている事を見て取れば肩を竦め。
全滅した味方の惨状に視線を這わせれば、せめて、生存者の救助か、遺品の回収をしようと試みて――――。

ご案内:「魔族の国・焼け落ちた城跡(過激描写注意)」からトーラスさんが去りました。
ご案内:「魔族の国・焼け落ちた城跡(過激描写注意)」からソーニャさんが去りました。