2022/08/07 のログ
ご案内:「港湾都市 ハイブラゼール グレーテル広場(過激描写注意)」にイスルスさんが現れました。
イスルス > 港湾都市ダイラス ハイブラゼール近郊 グレーテル広場
半グレとチンピラの吹き溜まり
マフィアや漁師の猛者 組織的な運営らが手を出していない領域
其処は自然と、集まりにくい者らが集まる場所。

グレーテルの意味は、文字で被せた洒落ではなく、その名前。
森の中に置き去りにされた童が、住まう老婆の窯の中で焼き殺し
食料と金品を奪っては、置き去りにした親元で再び過ごす事
それを許された子供らからとってつけられた。


「…、…。」


ハイライトのない瞳 無表情 月明りが灰色に照らす髪色は
青白い幻想的な月明りでではなく、草原を、地面を映すいつもの月の色。
コツコツコツと、紺色のブーツの踵が一定のリズムで刻み、床を叩く。
歩く音は反映されていきながら、イスルスはクラシックメイドスタイル
そして、その手のひらはファッションメイドとは違い、素手。
出かける際ならば、あえてコートと共に身なりを整える目的でつかわれる。
しかし、メイド服を表に魅せる場合は 素手であるべし。
手袋は、使用人を雇う者らにしか身に着けることは許されない。
様々な雑用 水仕事を行う両手が、手袋をはめることは無い印。
故にイスルスは、クラシックメイドスタイルの場合は。その手のひらは何も身に着けない素手である。

小奇麗なメイドスタイルで出歩けば、こんな月の夜でさえ 狭い路地に差し掛かるのであれば
道の向こう その後ろ 男が四人下品で卑劣 略して下卑た笑みを浮かべて声をかけてくる。
女の中では高身長になるだろうイスルスの身長 頭を一つ抜けるものや、同じ背丈が多い。
イスルスは、無言のまま その黒い鮫のような瞳が 左から右へなぞるように、目の前の人物らを見やる。

足音が 二歩 三歩
半グレの前の列へと近づいていくイスルスは この程度では表情を変えない。
両手の拳がゆっくりと、人差し指から小指まで畳む動作を行う。

ご案内:「港湾都市 ハイブラゼール グレーテル広場(過激描写注意)」にロン・ツァイホンさんが現れました。
ロン・ツァイホン > このような場所に集まるのは、一般的にろくでなしと呼ばれる者ばかり。
であれば、こうしてここにいる自身もそのろくでなしなのだろうか。
といっても、極悪非道なことを行っている……というほどではない者ばかり。
要は、小物しか存在しない。

グレーテル広場という名前はいつから付けられたかは不明だが、こうしてすでに意味が浸透している
ということは、もう既にどうしようもない者しか集まらなくなっているという事なのだろう。
そんな場所で暮らしたり、あるいは居つくことが出来る者はそういうことだった。

そんな、どうしようもない者しかいない広場に歩いてやってきたのは、場違いという言葉がこれ以上似合うこともないだろう。
クラシックメイドに身を包んだ、一人の女性らしき存在。
このような場所に歩んでくることなどあり得ないほど綺麗な服に身を包んだ女。
それも、ぱっと見で何らかの武装も見られないともなれば、目を引かれるのは当然で。
さらに言うと、今は夜であり、人を呼ぼうにも場所が場所である。
そんなところに歩いてくるのは、余程の阿呆か、変態か、あるいは……。


『メイドちゃんどうしたんだいこんな時間に。道でも迷ったのかぁ?』

『なら俺たちが案内してやるよ。いい宿を知ってるんだぜ』

『そーそー。おっと、怖くて声も出せねぇか?安心しなよ、俺たち優しいからさぁ』

『ヒッヒッヒ、俺、ナマのメイドなんて初めて見たぜ。さぞ綺麗な体してんだろうなぁ』

など、口々に品性のかけらもない男たちの声。
完全に目の前のメイドを、ただのメイド……引いては、食い物にしか見えていない。
このような手口はいつものことなのか、どこか慣れたように囲んで。
無機質な瞳で見られても、それに対して何の警戒もない。
ただ目の前の女でどう遊ぶか、それしか脳にないのは、不用意に近づいていくことから明白である。

「…………」

チンピラがいる方とは、反対の路地から、その様子を大男が見つめていた。

三日月が浮かぶ空、狭い路地を囲む檻のような建物。
しかし建物の中からは人の気配はあまりしない。
ここの建物を管理する者もいない。せいぜいが同じようなチンピラが使う程度。
それにこのような場所で何が起きても―――誰も見向きもしない。
だからチンピラたちはここでメイドへと近づいたのだろう。
そしてそれは……メイドにとっても、都合がいい場所だった。
それが計算の上か、偶然なのかはわからないが……わかるのは、不運なのはチンピラの方だという事だ。

イスルス > イスルスは、御身に仕える飼いならされることを選択した身
傍でカップに茶を注ぎ、清掃をし 斜め後ろで控え、時には前方に牙を剥く。
しかし、傍仕えかと言われれば、少し違う 自身の力の向けどころは多様性があり
独り占め それをするのは愚行と “ボス” は考えられる。

その一環が 最近ハイブラの下層領域や歓楽街にばかり目が行き
一般的な酒場での荒らしまわる姿 言ってみればタカリ そして道端の恐喝。
ある程度の護身が必要であったとしても 店内のスリルを味わうまで安全な道が約束されれば
金は大きく変動する 酒と薬と女 この三つだけで引き寄せるわけにもいかない。


―――だから己はここにいる。
―――だから自分はここで今夜は“働く。”


目の前の王道な物言い
グレーテル広場は関心のむけられない場所 そして全てが死角といってもいい。
狭間の場所であるならば、いくつかの視線は次を 次の次を 次の次の次を 狙うものか。
連れ帰り甚振り、売り払うところまでいけば一度で終わりだろう中


「…、…。」


ブルっているのかと言われるイスルスは、真っ黒なハイライトの無い瞳を向けるまま


ヒュパッ


その擬音と共にロングスカートが膨らんだかと思えば、その足を惜しげもなくヤクザ蹴り
真っ直ぐに爪先を天へ向けた靴底蹴りが、目の前の男の胸骨を強かに砕いた。
靴底に広がる ボキボキボキ と広がる感触
肋骨の繋ぎ目足る線が砕けて、背を伸ばすことすら難しくなる破砕骨折。
それと共に、後方へと吹っ飛び、吐き出される肺の空気は血と入交、数度横転してから止まった。

一瞬の空白と共に、後方から首をこちらへ向き直りにさせたもう一人。
握りしめていた拳が、右足を後ろへ擦らせるように姿勢を変え、顎先から斜め上へ向かうような
半捻りを加えた正拳 顎がクッキーのように砕けながら、顎下と鼻がくっつくようにつぶれながら最後は

パンッ

と頭部の 脳漿 脳髄 それらが押し出され、鼻下の溝から上が“散らかった。”


「…、…。」


後ろを振り向くイスルス。
喉がヒュッと呼吸を鳴らすそれを聞きながら、逃げようとする者らへと
革のブーツが爪先を曲げ、ギチギチギチッと鳴らされながら、一蹴飛び。
右足で飛び出した体が、右回りに体を回しながら 左足が膝を曲げた状態から伸び切る。
二つの頭部が、首から上を ぼぎゃっ と無くした。

噴血 壁に叩きつけられる皮。
カツンと着地するイスルスは、目的のための粛清に向かおうと、その場の死体を眺めると再び
その踵の音を鳴らそうとするだろうか。


「…、…。」


ただ、ヒクッと鼻先が鳴いて。 

ロン・ツァイホン > パチ、パチ、パチ、と一定のリズムで拍手の音が響く。
一瞬でチンピラとはいえ、本当に瞬く間に行われた処理。
流れるような動きで、大の男の肉体を簡単に砕き、千切り、屠る手腕。
ある種のショーのような鮮やかさと楽しさがそこにはある。

しかしそう思うのはほんの一握りだけで。
血が飛び、首が飛び、周囲の壁にぶちまけられた血痕。
真っ赤で新鮮な、本物の死体を量産する光景など、誰が楽しめようか。

「さすが、ここら一帯を仕切ってる”ボス”の飼い犬。
たかがチンピラ、しかし殺人もしたことがある大の男を、こうも屠るとは……」

心底感心したような声で、別の建物の影から、2mは越す巨躯を持つ大男の姿。
よくは見えない、しかし鼻が利くのなら……”人”というより、どちらかというと”魔物”に近い。
しかしどこか、そう……屍臭が僅かに香るが、概ねは爬虫類のような匂い。
一歩、その体を動き出して、月明かりの下へその体躯を見せた。


「イスルス……その名前の意は確か、黒の鮫の瞳。でしたか。
なるほど、その目は確かに、鮫のようだ」


くっくっ、と喉の奥で笑う声が響く。
人間の死体がこうして広がっているのに、その男は意に介さない。
いや、”人間”の死体だからだろうか。その目が死体に向ける視線は、ただのモノでしかない。
月明かりの下で漆黒の鱗が反射する。夜中だというのに丸サングラスをかけ
その衣類はシェンヤン風の神官服のようであり、黒い外套のようでもある。
しかし一番、人が見れば驚くのは、その異様な外見。
ワニのような口、大きく、外からも牙が見えており、足元を見れば大きな尻尾がある。
広げられていないが、背中には二対の翼があり、そして……その姿は、二足歩行の竜としか形容できない。


「ここのマフィアのボスは相当”上手い”礼儀もプライドもある。
ここのルールを作り、ある種のここらの”長”の位置にすら収まっていると言っていい。
―――だからこそ、そんな”ボス”を目障りに思う人はたくさんいる」


三日月が陰り、光の差す角度が変わる。
狭い路地に、覗き込むような月光が差し込み、その竜人と、メイドを照らす。
対峙する、という表現が正しい。それほどまでに、感じる圧。


「ですがまぁ、”ボス”は用心深い。当然ですよね。
それほどまで大きくした組織の長ならば自身を守るのも当然。
だからこそ―――あなたが餌になる」


その言葉と共に、大地を踏み鳴らして、竜人が空気を裂き、メイドへと踏み込む。
体重と、そして体躯に見合う力によって踏みしめた石造りの床が割れて、空気が揺れる。
一瞬で距離を詰めて、その右手から伸びるかぎ爪をメイドの目へと伸ばす。


「”黒鮫”の賞金、かなり”美味い”んですよねぇ――だから。
ここで、私の財布になってくださいな♪」

イスルス > 拍手 様子見ではない 隠れるつもりもない
イスルスはそう理解した。 ただ観察し、どの程度か見てから、姿を現した。
鱗と肌の匂い 沼地 が似合いな匂い。
体の移動のシルエット 神官服とは、武闘家が魔法使いの衣装を着るようなミスマッチさ。

イスルスの無表情とは 眉も 唇も 無変動。
故の鮫だろう 瞳だけが物語る。
背格好は随分と高く、イスルスは最初それを リザードマン と認識した。
しかし背中の翼を見て、ワイバーンにも似た雰囲気 竜人 一瞬そう思うものの、己自身
人狼というミレーが多いこの場所で、別枠としてとらえられる獣人としては奇異なもの。
そんな希少な者が、雇われのようなことをするのかと、思う反面で
今この状況に悦を出している戦闘狂の匂いがする。
死体に剣を突き刺し、絶命しているか確認するまで、突き刺すあの匂いがする。

互いに珍しい者同士であり、その言葉 ボス に対する 障害者とイスルスは見なす。


「―――。」


言葉の途中から、イスルスは戦闘態勢を整えた。
人間 亜人 獣人でもない別の何か。
右足を後ろへ、左足を前へ その姿勢 今からとびかかるといわんばかりであり
顔を真っ直ぐに向けるそれから、顎を引くだけで、瞳が上を剥くだけで威圧するかのような表情。

金になれ そう言ってとびかかってくる様子。
下調べすら済んでいる イスルスは、隠しだてられることもない存在だとしても
犬だと 鮫だと 語りながら飛び掛かる活きの良さに
脚をけり出し、袖口を刹那振いあげ、両手には3本ずつの剣柄。
意思を持って、その刃がミゼリコルデ型の菱形の剣身を形成するならば、爪と一度擦れ合いながら
互いの怪力 握力を示すように、爪をはじくような振りぬき そして、イスルスはその足膝に対し
振りぬいた体を回しながら、濃紺なブーツの足の甲 そこを用いて、鱗膝へと全力で砕きにかかろうと

ぎゅらっ

と廻った。

ロン・ツァイホン > 返答はない。今までの語りに対する、感情の揺らぎも、ほとんどない。
だがそれは知っていた。彼女は有名であり、だからこそのこの金額。
人狼、という種族に対する畏れ……あるいは、イスルスという女の持つ強さと、その忠実さから。
その2つを兼ね備えているが故のこの”値段”なのだろうと。

油断は出来ない。自身の能力に胡坐を搔くことなど、自分自身が許せない。
遠くからのブレスによる狙撃も考えた。だがそれで殺せるならば、すでにやっている者がいるだろう。
今時、弓に魔法を使えば、簡単に数キロからも狙撃が出来るような存在もいる。
そしてそれが効く相手なら、ボス共々既にいなくなっているであろう。
故にこその、コソコソとしたものではなく、真正面から挑む。
それは誇りか、自信か、修練か、そのどれでもいい。
どちらにしろ不意打ちという手段が、そう簡単に効く相手ではないのは知っているのだから。
なにより……犬畜生を相手に、自分が隠れて襲うような事はプライドが許さない。


「シッ……!」


ガーーーギィン

右腕の爪と、メイドの取り出し、左手に持つ剣身が擦れあい、夜闇に火花が散る。
そこから一瞬、3本の剣身と鋭く頑丈な爪がぶつかり合ったまま、互いの怪力に腕が止まる。
ギリギリという不快な金属音が響くが、すぐにその力に対して竜人はさらに押し切ろうとするが
その前に上手く振りぬかれて、一歩、踏み込んだ場所から下がらされる。
そこからメイドはその勢いを利用して宙に体を回して、その足を延ばす。

竜人は、振りぬかれて下がった瞬間に、伸びていた右腕に合わせて上半身仰け反らせて、右腕を地へと着ける。
そのまま、振りぬかれた勢いを利用して、その右腕を軸に両足を地面から離す。
その動きによって後転に入りながら、しかし途中で右腕に力を入れて、完全に後転することはなく。
竜人はその両足に靴はなく、鱗に覆われた3本指の爪が生えた竜の足となっている。
そこから、メイドの回し蹴り、そのブーツの甲に対して、足技で答える。
体重と、重力を乗せた、ネリチャギー――踵落とし。

ゴッ……ガァンッ!

衝撃に空気が揺れ、周囲の建物にヒビが入る。
その辺を転がっている死体が吹き飛ぶほどの衝撃波が走り。
静止していた状態から、竜人は右腕をぐりぃ、と捻り、追撃が入らぬように足を離して。
右腕に力を込めて、その腕の力だけで軽く飛んだあと、後ろ向きに宙を回りながら距離を置く。


「―――どんな脚力してんですか?あなた」


ちらりと自身のカカトに目を向ければ、その部分の鱗が一部砕けていた。
呆れたような目をしつつ、そのサングラスに隠された目からは闘志の衰えは感じない。

イスルス > 爪と剣 ミゼリコルデ型の刺突 鎧に対する貫通性 そして死者へと近づける手向け
その剣は、鋼と同程度の性能であれど、押し切られればへし折れる代物。
ならば、破壊されないように離した上で、独楽のように一回転させた膝砕き。

片足を破壊する。
その意思は、黒い瞳と右足に込める力が証明する。
鱗が砕けずとも、内側へかかる圧が膝の皿を砕けば問題ないといわんばかりの力押し。

しかし、その蹴り サイズ差も踏まえて避けにくいと踏めばカポエラのように手を地面に充て、浮かせ
そのサイズ差と怪力からくる踵落としと足甲 二つがぶつかり合うと、イスルスの足場は左足の踵が軽く踏み込まれ
靴底が埋まった痕を残す それが、二人にかかった圧を物語る。


「―――…、…。」


あわよくば、足を破壊しようとしたカウンター
しかしリザードマン擬きが放った一撃 それは鱗を多少砕くところまで行った様子を見る。
砕ける それを、月の夜の瞳はくっきりと映し出す。 蛇や鰐とは違う 確かな硬度の鱗ということ。
蹴り込んだ感触は、表面のひび割れに過ぎず その骨 踵もつなぎ目の剥離にも至っていない。

イスルスは、己に対する物言いと同時に、レベルを引き上げる。
あれは鬼と同等のような代物だと。

剣撃 殴撃 蹴撃

これらで攻撃を放つイスルスだとしても、おそらくは懐に入り込まない限りは
致命傷には至らない 互いのサイズ差もあり 現実では測れない力の富
しかし重さと硬さはあちらが上かと。

側面に対する蹴り 真下への直下落とし
この二つが上下からだった場合、砕けたのは足の甲かと、イスルスは顔を伏せる。

月の夜 イスルスの体から、煙がゆらりと立ち昇り
顔を上げた向こう イスルスの鮫の瞳 無変動の貌 それの反面が揺らめき、獣の形を作り出す。
白い煙は、まるで白い毛並みのように体から揺らめき


「―――ゴロロロ…、…ッ!」


その喉笛がうなりを上げ、眉間に深い溝 鼻筋はいくつもの横筋を作り出す
牙が並び、長い舌が見える。 半面が覗く、人狼の姿。

ロン・ツァイホン > 武器を用いる、怪力を持った異種族。
おそらくは犬ではなく、本来であればもっと気高い種族であっただろう。
故にこそ惜しい。このメイドが飼い犬であるという事実が。
だが、それ故に手に入れた力でもあるのだろう。少なくとも、こうして戦っているこのメイドは。
決して、”ボス”を裏切らないことはわかる。

地が割れ、互いに対峙する呼吸の”間”。
それを認識して、竜人は深いため息のようなものを吐く。
相手の蹴りに合わせた踵落とし。力がぶつかり合った結果、多少傷にならないとはいえ砕けたのは自身の鱗の方。
相手と違って、こちらは純粋な体重と筋肉で使ったものであり、相手は勢いや動きを乗せたうえでの怪力蹴り。
おそらく、純粋な力としては現状では互角に近いと感じる。


「入り方がしっかりすれば、片足は持って行けたと思ったんですがねぇ。やれやれ」


そうぼやいた瞬間、メイドの姿が歪む。
その顔は、女のモノではなく、口が伸びて、そこから先ほどまではなかった牙が生える。
おそらくは、いや、メイドの中で、自身が明確な”脅威”として映ったのだろう。
並みの魔族ですら、その射殺すような視線を受ければ、失神しかねないほどで。

――ニィ。と竜人の口が、裂けるような笑みを浮かべる。

そうだ。それでこそ、その姿こそがお前の本気のスイッチなのだろう。
やはりお前は犬畜生などではない、飼い犬などという生易しい存在などではない。
竜人もまた、メイドと同じように大きく口が裂けていき、自身の神官服を脱ごうとして。


「フシュルルルル……と」


夜は温度が下がるとはいえ、この夏場。
この暑さの中、まるで冬場の吐息のような真っ白い息が上がるが。
しかし、何かを堪える様に考えて。


「―――割に合わないなぁ。ここだと」


おそらくは、このまま戦えばこの周辺の建物を壊すことになる。
それだけ被害が出れば、例えメイドを生け捕りに出来たとしても、修繕費などで賞金がひかれるだろう。
彼女との戦いは至高であり、自身の本気に足り得ると感じた。
しかしそこには、自身の命も問われることとなり、そしてその上で達成したとすれば
この被害の分だけ報酬が引かれる事になった場合の賞金を考えると”割に合わない”という計算が出た。

バサァッ

夜闇の、月の光を背に受けながら、竜人は翼を大きく広げる。
それはメイド……いや、イスルスの瞳のような漆黒であり
しかし月の光の反射で光る鱗は、イスルスにはない美しさが確かにあった。
無造作に、竜人は自身の首の後ろ、その逆鱗を一枚、イスルスの前に放り投げる。

「あなたの匂いは覚えました。―――今宵はまだ、前哨戦。次にあいまみえるのを楽しみにしておきます。
あなたはいい”雌”だ。……いつか、”喰”らって、見せますよ」

ガパッ、とその大きく裂けた口が開くと、青白い閃光が飛び散る。
一瞬、その光に目が眩み、また月を見上げれば。
翼を動かして、大きな影となって、空を飛び離れる竜人の姿が見える。

そしてイスルスの足元には、1枚の鱗。漆黒に光に反射される鱗は、間違いなく希少なもので。
―――不気味なほどに、輝いて見えた。

イスルス > イスルスの絶対的なルールはただ一つ ボス ただ一つ。
己を障害と定め、送り込み、消し、ボスを狙う。
そこまでのつながりは容易であり、死を賭してではなく確実に生きたまま屠る必要があった。
最悪の場合は、互いに致命傷まで。

己が倒れれば、次はボスであり そのボスですら、目の前のリザードマン擬きが執行する。
金さえ払えば動くだろうとみて取れる。

イスルスは、メイド服が煙に揺蕩い、顔の左半面が獣の形を帯びて 無表情などない。
獣の相はまさに食い殺すための喉笛を鳴らしていた。
それに対するのは怯えではなく同調。 その長い口元を開き、舌を鳴らす。
殺し合いの時間が始まろうとする中で、片や金 片や忠義
欲従と信従の違いは、メリットとデメリットを正確にさせる。

金を払って従う前者 忠義で従う後者。

性格よりも利益を優先させたリザードマン擬きが、翼を広げ、宙へ上がる。
壁を蹴り上げて一撃を放つか その翼の硬度 今一度剣で確かめるか。
月明りで影となった姿が、軟派な態度のまま、鱗を一枚足元へと抛りつける。

匂いは覚えた そして次はと。


「…、…―――。」


互いに闘争の空気が掻き消えていく。
煙が止み、顔が戻の形状へと戻るのならばそこには無変動のクラシックメイド服姿だけとなる。
賞金 狙われている身 それは、胸の内側で殺し合いを 強いどちらかだけが生き残る野生に準じた殺し合いを。
それに胸が静かに高鳴りを見せるものの、鱗を拾い上げる。


「…、…。」


次を約束されるなんて、いったいいつぶりのことだろう。
イスルスは教養と身に着ける服に従い、懐からハンケチを一枚取り出すとそれを包み、懐へ納める。
ボスへの報告の一環も兼ねる。 調べれば、リザードマンよりは格上の存在とわかるだろう素材鑑定とはなれるはず。

この気分はまだ消えない
無変動であったとしても、イスルスは再び袖をふるい、柄を二本ずつ出すと、それを指の間に握りこんだまま
再びこのグレーテル広場の拠点へと足を移動させる。
本来の目的、それに対して、次の朝には一つの半グレグループが斬撃と刺突 そして物理的な凹み 千切れを以って
その場にいる者が全滅していたという話が広がっていくことだろう。

ご案内:「港湾都市 ハイブラゼール グレーテル広場(過激描写注意)」からロン・ツァイホンさんが去りました。
ご案内:「港湾都市 ハイブラゼール グレーテル広場(過激描写注意)」からイスルスさんが去りました。