2020/01/11 のログ
ご案内:「廃村(過激描写注意)」にレクスさんが現れました。
レクス > 曇天の隙間から注ぐ病んだような月明かり
それが照らし出すのは、踏み躙られた畑、焼け落ちた家々。
僅かに原形を留めた家も、荒れ果て、酒瓶や残飯が転がっている。
それはとてもよくある話だ。此処には村があった。貧しく、苦しくとも生活している人々がいた。
そこが突然盗賊団に襲われた。
抵抗する力のない村人たちが殺され、犯され、奪われた。それだけの話だ。

「嗚呼……とても――……」

ぽつり、と言葉が零れ落ちた。
村の中心にある井戸に、背中を預けるように座り込んだ男の唇から零れた。
伽藍洞の、木の虚に流れ込む風のような声だ。
病んだような月明かりの中、雪のように灰が舞う。

……そして、村人たちがいなくなったその村を盗賊団が根城にしたとしよう。
生き残った村人の話を聞いた軍隊か、冒険者か――その辺りの誰かが討伐に来るまでの束の間。
彼らがそこで刹那的な快楽に耽っていた。
殺された村人は、それを恨むだろうか。それを憎むだろうか――否だ。
しばらく前まで生きた人間だった村人たちは、少し前まで生きていた盗賊たちと共にいる。
何も悩まずに、何も苦しまずに、何も感じずに。

『――アァ――オォ――』

声が、響く。
それは、かつて村だった廃墟を彷徨い歩く亡者たちの声だ。
村人の格好をした者、盗賊の姿をした者、皆等しく屍になっている。屍になって屍を貪っている。
灰の雪の中で、彼等はもう争うこともない。生者を見れば、仲良く襲い掛かるだろう。
それを成した男は、ただ、虚ろな紫の瞳でその光景を眺めていた――。