2022/04/12 のログ
ご案内:「平民地区 居酒屋 吉海」に吉海さんが現れました。
■吉海 > とんとん とんとん くつくつ くつくつ
暖簾という 看板やブロンズではなく、布地の端に屋号が刻まれた木造建て
湯殿旅館と同じような空気を匂わせる異国情緒というものがあるのだろうか
女将は、いくつかの包丁を使用しながらカウンター席に囲まれた姿で調理している。
店内はやや甘口の煮物の優しい匂いで満ちており
テーブル 席 お品書きといった 少し変わった 別の空間。
「どうぞ、ご用意できましたよ。」
割烹という変わった姿のそれは、着物の上から羽織るエプロンと同じ役割を果たす。
お客の一人に、故郷芋と赤人参 それと鶏肉の皮をはずした身を切ったもの
それが甘口で煮込まれた、全体的に茶色がかるそれを焼き物の器に盛ってコトリと置いた。
にっこりと出されたシチューやごったにとは違う、ほくほくとした赤人参やねっとりとした故郷芋
エールやワインではなく、ドライに感じながら慣れれば型にはまった透明な澄まし酒とよく合うと
お客のほっこりとした顔に、女将も笑みを返す。
又、そういったものをだしたからか、少なく少なく出される銚子という器の中身
小さく注がれるそれがもうなくなったと言われれば、ぬるめにもう一本頼まれ
「はい、ただいま。」
清酒を注いだ銚子を、湯が張られた場所でぬるめに仕上げるまで
その番は決して離れられない。
■吉海 > 銚子に注いだ清酒
その器に湯熱が伝わり、ぬるめに仕上げるお燗酒
温度は決められており、冷めないうちに飲むせいか
器は小さく 消えるのも早い。
持ち上げた銚子の底を指で撫で、温度を確かめる。
丁寧に布巾で底を拭えば、 トン とご注文したお客へと。
「どうぞ、ぬるめですよ。」
熱くなく冷たくもなく けれど人肌よりは温もりがある。
そんな酒の味を舌を気にせず ちびりと猪口に注いで飲む相手
故郷芋と赤人参を一緒に口に入れて、もぐもぐと動かしている姿
酒で酔うではなく、楽しむ
店内でそうしていると、新しく頼まれた卵巻き。
器に赤卵をカチリと割り入れ、手慣れた動作でかき混ぜられる。
酒に合わせる為、そこに出汁で割ると、四角い変わった鉄のフライパンに。
油を紙に馴染ませて塗りつけ、少しそのまま。
濡れ布巾で冷まし、投入。
焼く形が四角い為に、決まった形をとる黄色い敷物。
くる くる くる と楕円型に薄く巻かれていくのなら、端に寄せて次を注ぐ。
大きな音ではなく しゅうしゅう と焼かれていく卵の匂い。
くるくると大きく、出汁の水気のおかげか 焦げ目もない卵巻き。
まな板の上で、とん とん とん と一口大に切るのなら
聞こえてくるのはしょりしょりとなにかを削る音。
白く小さく盛られた、卵巻き用の調味料 白くて大きな根を下ろしたそれ。
「熱いから気を付けてくださいね、卵巻きです。」
顔を覚えているのか、そのおろしの量は少し多め。
たっぷりと乗せ、一口で頬張る相手が冷やのままの酒をクイと傾けるのを眺め。
それだけで、蛤女房としての女将は、その名を折らずにいられることがさっせれた。
■吉海 > やがて閉店時間が過ぎれば、最後の一人を見送ってから
屋号の書かれた暖簾をはずす。
店内の清掃や洗い物を終え、在庫の確認と共に休みに入るだろうか。
ご案内:「平民地区 居酒屋 吉海」から吉海さんが去りました。