2023/04/23 のログ
ご案内:「富裕地区 奴隷商館」にアロガンさんが現れました。
アロガン >  ────王都マグ・メールの富裕地区、その東側に位置する場所に大きな洋館がある。
 鉄の柵が並ぶ塀で覆われたそこは貴族の屋敷にも似て豪奢な造りであるが、その実態は奴隷商館だ。
 奴隷を扱う商会はこの国内には多く存在する為、その中の一つという扱いではあるものの、行っているのは奴隷の売買ではなくレンタル、すなわち貸し奴隷。

 奴隷商会アバリシア。
 その名を知り、利用する者は少なくない。
 良質な環境で教育され、鍛えられ、躾けられた素材の良い優秀な奴隷が商品として、顧客に貸し出される。
 出掛ける際の護衛から、規模の大きいパーティやサロンの下働き、男娼や娼婦として一晩の相手であったり、貴族の子の教育素材、他の商会の手伝いなど目的は多岐に渡る。
 あるいはもっとアングラな見世物や、仮面舞踏会を隠れ蓑にする違法な催しの付き添い、果ては実験や研究の素体として、なども。
 法的に危険なものほど比較的割高の料金となるが、奴隷を買うよりも目的に応じて適任の奴隷を借りると言った方が適切か。

 その奴隷商館は、比較的広く誰でも受け入れるが、紹介状は必要としている。
 "誰"の伝手で紹介されたのか。それさえ明確にしていれば、あとは金と内容次第でどの奴隷でも借り受けられるだろう。


 中庭で、木と木がぶつかり合う音がする。
 顧客も見学できる回廊で囲まれた中庭には、大柄な体躯をしたミレー族の男と、10歳から12歳ほどの幼い子供の奴隷たちが数人いた。
 まだ商品としては表に出していない子供の奴隷たちに、戦闘訓練をしているのだとわかるだろう。
 長い灰銀の髪を一つにくくり、スーツのジャケットは脱いでシャツとボトムだけの姿に、手には100㎝ほどの比較的短い棒を持つ男。
 狼の耳と尾を隠すことなく晒しながら、鍛えられていることがよくわかる体幹で、子供の奴隷が打ち込んでくるのを受け止め、いなし、時に弾く。

「握りが甘い。次」

 ヒュンと微かに風を切る音を立てて回転させた棒を握り直し、丸い木の棒を拾う子供を横目に次の少年を促す。
 そんな光景が、中庭には暫く広がっているだろう。

 顧客が来ているのならば見えるだろうし、あるいは男──アロガンを"借り"に来るものがあれば呼ばれるはずだ。
 それまで、アロガンの仕事は奴隷の子たちに戦い方を学ばせることである。

ご案内:「富裕地区 奴隷商館」にヴェルソートさんが現れました。
ヴェルソート > 入り口から、案内されるように回廊に入って来た、一見少し場違いな風体の男。
少し草臥れたように見える隻腕の男は、しかし案内される仕草自体はこなれたものを見せつつ、しかし奴隷を見に来た…という複雑さもあってか、少しばかり落ち着かない。
それこそ、男がそこそこに稼いでいる歌唄いで、気に入られた貴族の紹介状がなければ、そもそもここに来なかっただろう。

「あ~…定期的に護身術の指南?とかできる人を借りたくて…あ、できればミレー族だと助かる。」
案内人に頬をぽりぽりと掻きながら隻腕で身振り手振り話した要望が漏れ聞こえるなら、そんな言葉が聞こえるだろう。

ちらりと回廊から視線をやった中庭…ちょうど、子供に指南をしている狼耳の…ミレーらしき男が見えたので、そうそうあんな感じの…と、つい視線や指で示したりしながら。

アロガン >  磨き上げられた廊下に、絵画などの調度品が壁際に飾られた館内は広く、そこかしこに首輪をつけたスーツ姿の様々な種族の奴隷が目に入るだろう。
 男も女も、上質な接客業でも学んだかのように見目麗しい奴隷たちは一様に顧客へと微笑を浮かべ丁寧に頭を下げている。
 中庭が見える渡り廊下の回廊。
 そこから聞こえてくる声は、ここでは聞き慣れたものだ。

 男の歌唄いを案内していた初老の案内人は、奴隷ではないものの慇懃な様子で彼からの要望を聞き、アロガンを指さす彼に対して顎に手を添える。
 要検討、というべき表情か。
 案内人が「アロガン!」と呼んだ。
 その声に子供たちも振り向き、武器としていた木の棒を背に隠して綺麗に整列した。
 その内の一人に、アロガンは武器としていた棒を預けて、ジャケットを手に二人の下へと近づきながら羽織る。

 188㎝という高身長に、鍛えられた体は威圧感もあるだろう。
 灰色の目が顧客となる男を静かに見据えて、無表情のまま胸を手に当てて頭を下げる。
 その流れるような一礼をするアロガンの横で、案内人が男へと説明を連ねた。

『アロガンと言う奴隷です。狼種のミレー族。奴隷歴は十年程、相応に戦場や護衛の経験も豊富ですが、ミレー族なため少々値が張ります。一先ず部屋へご案内いたしましょう』

 案内人が告げて、顧客を近くの部屋へと案内する。
 アロガンは二人の後ろについて、一行は応接室の一つへと移動するだろう。


 ────部屋の中はそこそこに広く、向かい合うソファとローテーブルがメインにある。
 アロガンは無言のまま備え付けの給湯設備で茶を淹れ、質の良いダージリンを彼の前へ置き、一歩下がった。
 ここからは質疑応答、依頼内容の確認、金額の提示だ。
 金と条件さえ見合えば、アロガンを借り受けることは出来るだろう。
 案内人が再度、貸付の内容を問うた。

ヴェルソート > そこらの娼婦よりも身綺麗に整えられた奴隷達に、むしろ少しばかり気圧されてしまいそうだが、高級男娼を名乗れる身として、尻込みすることは少しばかり癪に障ったのか、小さく呼吸を整えると、案内人のエスコートを綺麗な所作で受け取りだす。

たまたま子供の指導をしていたので例として示した彼が近づいてくると、20cm以上ある身長差は自然と見上げるよう。
ただ近づけば…ミレーの嗅覚を柔らかな甘さが刺激する。男に刻まれた呪いは、無意識にでも、周りの雄への誘惑を試みる故に。
アロガンと呼ばれた長身の男に綺麗な仕草で頭を下げられると、思わず釣られたようにこちらも軽く頭を垂れた。
そのまま、案内人に連れられる形で応接室の一つに…目の前に置かれたダージリンを、上流階級との付き合いになれた仕草で軽く口に含めば。

「あ、おいし…。」
と思わず呟いて、思い出したように座り直してから、尋ねられる用途…という言葉は少しばかり据わりが悪いが。

「あー…定期的に、ミレー族の奴で家庭教師っていうか、主に戦闘やサバイバルの技術指導ができる奴が欲しくて…あとはついでにほら、俺の身の回りの世話とか。
 うちの子、人見知りするから、なるべく同じ奴に定期的に来てほしいんだよ。もちろん、他の予定が被ったらそっち優先してくれていいから。」
と、中身が無い袖をぴらぴらと軽く持って振って見せる、片腕が根元から無い男が紡ぐ甘いテノールは、どこか心を解すような…むしろ掻き立てるような響きを伴って。
ミレー族を指定しているのは単純、うちにいる「子」もミレーだからだ、流石にここで案内人に口にしたりはしないけども。

金額も、向こうが納得できる額をぽんと出せる自信はある。
歌唄いとしても、呪歌使いとしても、男娼としても…一流と言える稼ぎはあるのだから。
ネックがあるとすれば、都合が許す範囲で定期的に貸し出してほしい、という要望くらいだろうか。まぁ金を積んで解決できるなら、それで終わる話であろうが。

アロガン >  男から香る異質な甘い香りに、僅かばかりに眉間を寄せた。
 動物程ではないが嗅覚も良いアロガンにとってその匂いは確かに嗅ぎ取れるもので、考えたのはこの男はミレー族と相性が悪いなということだった。
 流石にそう思っても表情にも声にも出さないが、不機嫌そうに尾が揺れる。
 移動の最中にもアロガンは男を観察したが、茫洋とした雰囲気を持つ雄でありながらふとした時に見える艶と、性に関する特有の匂いがして、おそらくは"そちら側"なのだろうと。
 それはこれまで多くの顧客を見てきた案内人の男も見抜いてはいるだろう。

 部屋に入り、慣れた所作で茶を飲む顧客の要望を書き留めながら、案内人は顎に手を当てる。
 彼の要望としては、彼自身ではなく子供の家庭教師という内容。戦闘・サバイバル技術の教育ならば、アロガンは十分条件を満たしているだろう。
 ついでにと言われたが、身の回りの世話の分も金額は上乗せとなるが。

「……────失礼」

 黙っていたアロガンが、案内人の耳元へと顔を寄せる。
 その声は低く、内容までは彼に届くことはないだろう。
 案内人も黙って内容を聞いていたが、すっと軽く手を上げればアロガンはすぐに離れた。

『失礼ですがお客様。現在誘惑か魅了の魔術をご使用ですか?』

 剣呑とした視線が、彼へと向けられるだろう。
 男を、雄を誘うような香りが無意識か意識的かによって、対応も変わると言った様子である。
 柔らかな響きを伴い、謳うように誘う顧客の声質も相俟って、案内人はその手にある魔導具を持ち出し、説明をするだろう。

『当商会では、奴隷を魅了する系統の魔術ないし呪術、道具の利用などを禁じております。奴隷を魅了ないしは洗脳し、当館へ戻らぬよう仕向けるお客様が過去におりまして……大変申し訳ございませんが、規則ですので念の為調べさせていただいても?』

 穏やかな声音で、案内人が手に持った検査用の魔導具を向ける。

ヴェルソート > 観察する視線に気づけば、ちらりと目が合い…まぁ、品定めはされるものだろうと気にはせず。
不機嫌そうに揺れる尻尾には少しばかり落ち着かないが…。
話は淡々と進み、まとまりそうかな、と思った矢先…初老の案内人の言葉が割り込む。
魅了の魔術を使っているか、と問われると…首を横に振りかけて、あ…と気づいた顔。

そこからは声を出さずに書くものが欲しい、とジェスチャーをして紙とペンを借り受けると。
『すいません、生活にあまり支障がないので男性を誘惑する呪いがかけられているのを失念してました。
 意図的ではなく個人の事情です。失礼を働いて申し訳ございません。
 確かに誘惑による事故はあり得ますので、男娼としての貸し出し料も上乗せしますが、どうでしょうか?
 もちろん、お引き取りくださいというなら、それに従います。』
と書いた紙を差し出し、必要なら魔道具の検査も受けるだろう。
確かに、下腹部に男性を誘惑してしまう呪いの痕跡も…まぁ、人間が自主的に施せる類のものでないから、「自主的ではなく誰かに呪われた」という言葉の証左には、なるだろうか。
もちろん、事を荒立てたいわけではない…大人しく帰れと言われれば、騒がせた謝罪をして、帰るだろう。

アロガン >  書くものを、ということでアロガンが紙と筆記用具をテーブルへ置く。
 案内人が検査をしている間にそのメモも完成するだろう。
 検査の結果も彼の書いた内容と似たものが出たことで、案内人は顎に手を当ててから「しばしお待ちを」と言って魔導具を片付けてから、別の用紙を持ち出す。

『呪詛を身に御受けになられているということは、それはご自身では制御出来るものではないということですね。こういった事例ですと、呪いの対象外の奴隷をご案内しておりますが……』

 例えばミレー族ではないが人間種ではない獣人の女性。
 そう言った呪詛に強い対抗力を持つ老齢のミレー族の奴隷。
 アロガン以外の奴隷を勧めてはみるものの、難色を示すようであれば案内人としては彼の持つ呪いの危険性を加味して、商談を切り上げねばなるまい。
 彼自身に非はない。特殊な事情があったのだろう。しかし、奴隷として一通りのことはこなせるにしても、アロガン自身は心の奥底で人間という種族を憎んでいる。
 無表情に淡々と大人しくしていても、感情は如実に獣部分に出る。そして憎む人間への加虐性は、理性を薄める性交渉が入ると特に表面に浮き出やすい。
 その理性を強制的に剥がそうとする彼の受けた呪いは、アロガンと相性が悪いのである。
 下手をすれば、顧客の身に危害が及ぶ。それは、奴隷商館としてはあってはならない失態だ。

 ────他の者をと言うのであれば、いくらか候補の奴隷を連れてくることに。
 適任の者がいればそちらを紹介する。なければ慇懃にお見送りをすることになるか。
 どちらにせよ、アロガンは部屋を下がることとなる。
 その後どういう商談が締結したか、破断したかはアロガンは後に知らされることとなるだろう。

ヴェルソート > 『お気遣いくださってありがとうございます。』
歌唄いの力と相まって、声にも魅了の力が宿っているので、この先は全て文字で案内人と会話することになる。
あれこれと、代わりの奴隷を考えてくれる案内人の提案を、自分のところに居る少年の気難しさ…常識の欠落を考えながらあーだこうだと、商談を続けていくなら話を進めていく…。

しかし、それは去った狼の耳には届かぬことだろう。

ご案内:「富裕地区 奴隷商館」からヴェルソートさんが去りました。
アロガン >  ────下がってよい、というジェスチャーによる指示のみで、アロガンは一礼してから部屋を出る。
 ゆっくりと足音を立てずに歩いていた速度は次第に上がり、大きな歩幅となって部屋から遠ざかっていっただろう。
 ああ、嗅覚が良いことが恨めしい。
 びきびきと血管が浮くほど、太く逞しい腕に力がこもる。
 その形相を見た他の奴隷がびっくりして、怯えて道を空けるのも介さず、アロガンは中庭へ出る。
 子供たちはすでに訓練を終えて、別の授業へ行ったのだろう。
 木々と草花の匂い、僅かな自然の息遣いを感じられる場所。
 空の色、風の匂いで、誘惑の呪いの匂いをかき消そうとするように何度も鼻を擦る。
 不機嫌な尾が逆立ち、深く眉間に皺を刻みながら木を殴る。

 この匂いは恐らく忘れることはないだろう。
 本人の意図がどうあれ、本能を搔き乱し官能を誘うアレをずっと諸に受けて、暫くは行き場のない熱を燻ぶらせている。

 深く息を吸って、吐いてを繰り返し、本来は休憩の時間ではあるが、アロガンは暫く、そこそこ長い時間、鍛錬によって熱を発散することとした。
 その後どうなったかは別の商会員から知らされることになるだろう。
 『ヴェルソート』という名と一緒に────。

ご案内:「富裕地区 奴隷商館」からアロガンさんが去りました。