2023/04/20 のログ
ご案内:「何処かへと向かう馬車」にセリカさんが現れました。
■セリカ > 娼婦というものは、存外、館の外へ出向くことも多いものらしい。
それも女の外見、囁かれる噂のためなのかもしれないが、
他所へ招かれ、あるいは広場へ引き摺り出されて見世物に、など、
この女の場合は館の中で客をとるより、外でとる方が多い、ようでもあった。
今朝がた、身を清めて仕度を整えた女を待っていたのは、黒光りする首輪、手枷、そして足枷。
それらを填めて目許には目隠しの布まで巻かれ、荷物のように抱えあげられて運ばれたのは、
どうやら馬車の荷台であるらしい。
らしい、と気づいたのは、冷たい床に転がされたまま、何処かへ移動しているのがわかったためだ。
ゴトゴト、ゴトゴト、街路を駆る車輪の軋み、馬の嘶き、ふるわれる鞭が風を切る音。
それらをぼんやりと聞きながら、女はなすすべも無く、何処かへ運ばれて行こうとしている。
何処ぞの貴族のもとか、あるいはいかがわしい秘密クラブの類か、それとも。
どうやら街はずれを走行しているらしいから、治安の良い界隈では無いだろう。
と、すれば、―――――当初の目的地へ無事に運ばれる確率と、
途中で予期せぬ邪魔が入り、全く想定外の事態に巻き込まれる確率とは、
さて、どのぐらい拮抗しているものだろうか。
奴隷であり、今は手も足も出ない荷物に過ぎない女の意志など、
どちらにしても、無いも同然なのだから―――――荷台に転がされた女はただ、
手足のしびれに堪え、溜め息を吐くよりほかにすることもなかった。
ご案内:「何処かへと向かう馬車」にファルスィークさんが現れました。
■ファルスィーク > 暇を持て余した。そんな理由は日常茶飯事であり、何かしらの刺激を求めて風の向くまま気の向くまま。
そう言えば、己が領地付近にはまた野盗やら野獣の類が出始めているとの噂もあり、少々様子見にでもと戻っている最中。
街道から少し離れた細道を通るのは、潜むのならこういう場所であるから。
まずは得物の狙いをつける為、斥候を配置して目ぼしい商隊などを狙うのが大体であるから。
この辺りは木々も生い茂る林道になっている様で、実を隠すにも丁度良いか……と周囲の地形を確認しながらの徒歩。
そんな中で聞こえてくる車輪の音。それに次いで木が倒れる時の軋み…重い音と共に歓声が上がった。
出たか…との呟きの後に、己が指に嵌めていた指輪を一つ外し徒歩から疾走へと変化させつつ、向かう先には……馬車に群がる野党の一団。
物々しい馬車はいい獲物だと判断したようで、倒木によって馬車の脚を止め馬と荷物を奪うなり、身代金でも要求しようという魂胆であるらしいく――突然の事に驚い手足を止める馬のいななきと、御者の悲鳴が歓声と重なるが他に往来はなく檻の中の娘には、馬車が突然止まった衝撃と悲鳴と歓声が耳に届くばかり。
己が辿り着く頃には御者は逃げ出すなり殺害されているかもしれないが…枷の嵌められた窓から馬車の中を覗き見たり、檻の鍵を外そうとしている輩がいたりとした状態か。
疾走したまま、それらの野党に襲い掛かり……
■セリカ > 視覚を奪われた暗闇の中、初めに聞いたのは恐らく、御者の切迫した悲鳴。
何か大きなものが倒れる音、馬の嘶き、それからまた、御者の声。
次いで、床に転がされていた身体が弾み、一瞬浮きあがったかと思えば、
強か叩きつけられて、思わず苦悶の声が零れる。
「――――――――――ッ、ッ……!」
無理矢理止められた獲物に飛び掛かろうとする男たちの中に、耳敏い者が居たらしい。
積み荷は女だ、女が居るぞ、などと楽しげに喚く声がして、女は密かに顔を顰める。
どうやら今日は、想定外の奇禍に見舞われるさだめであるらしい。
せめて、少しは女の扱いを心得た連中であって欲しいと思うけれど。
荷台の扉を閉ざす閂には、これも頑丈な南京錠、そして鎖。
鍵は今、一撃で打ち倒された御者の腰を探れば出てくるのだが、
それよりは、閂ごと扉を叩き壊し、荷物を引き摺り出す方が簡単だと、
自らの得物と膂力にものを言わせ始めている男たちである。
丁重な扱いなどは期待できない、と、女は早くも諦めの境地に至っていた。
野蛮で粗暴な男たちを、別の誰かが襲おうとしているなど、女には未だ、知る術がない。
丸太のように縛られ、転がされた檻の中で、最初に伸びてくる誰かの手を待つばかりの身である。
■ファルスィーク > 探していれば、相手の方から出てきたのは幸先が良い。と口元は楽し気な笑みの形を作る。
2、3日、運が悪ければ1週間はかかるかと思っていた所に降って湧いた訳だから当然ではある。
切羽詰まった命乞いの言葉の後の悲鳴。それ以後、聞こえなくなれば殺されたと判断できる。
聞こえてくる「女だ」との声に呼応して、けたたましくなる歓声を上げ、荷台である檻に集中している野盗は、どうやら己に気付かなかったらしい。
広範囲型の魔術を使えば馬車も巻き添えにしてしまうし、目当ての必要人数を確保できない。
単体、複数を狙い撃ちしても良いが、それでは制圧に時間がかかるし人質という手段を与えると強気に出てしまう。
であれば……白兵戦が一番有効か。駆けたそのままの速度のまま、手には不可視の剣を生み…薙ぎ払いは一振りごとに歓声を上げたまま崩れ落ちていくのが4、5人。
一瞬の沈黙は、突如出現した黒マントと殺害された仲間が原因となる。
檻の鍵を弄る音や扉を壊そうとする振動は止まり、数秒後に歓声が悲鳴と怒号に変化し…やがて、命乞いの声へと変わっていった。
魔力封じの指輪を一つ外した事で、抑えていた魔力が少し解放された事による身体能力強化と武器の具現化。
…逃げようとする者は背後から斬り捨て、逃亡の意志を奪い終わる頃には戦意を喪失した野盗は半分程になっており、血の匂いが周囲に立ち込めて始めたが……。
「さて……君達には選択権がある。私に従属するか、死だ。
従属を選ぶのなら、それなりの報酬は約束しよう。
印をつけるので逃げても無駄だからね」
檻の中の女性には聞き覚えのある声となるか。
そんな選択肢であるのなら、全員が従属を選ぶことは間違いなく…
静かになった林道である為に、そんな言葉が切れ切れに聞こえてくるかもしれず……。
肯定の返事をした者から順に額に人差し指を当てるのは魔力で印をつける為。その後に指定の場所へ向かうようにとの指示を与える。
向かわせる先は勿論、己が領地にある都市であり……。
ごとりと南京錠が外れる音。
次いで閂と扉が開く音。中にいるのは、女性一人なのか、他にも何人かいるのか。
どちらにしても…まずは目隠しを外し、手枷、足枷の順で手で触れれば戒めは音を立てて床に落ちていく。
■セリカ > 女一人を転がしておくには、些か広い荷台である。
だからという訳でも無かろうが、荷台の中にはほかにも幾つか、
鍵の掛かる天鵞絨張りの箱やら何やら、高価な品物が置かれていた。
それでもスペースは未だ空いており、もしかすると何処かで、
あと一人二人、生きた玩具を調達する予定もあったのかも知れない。
この場でそれを知る筈だった唯一の人間はもう事切れて、
檻に群がっていた男たちの天下であった筈が―――――また、何かが起こったようだ。
どさどさと何かが、誰かが倒れ伏す音、歓声が途切れて怒号に変わり、
けれどそれも直ぐに、悲鳴と情けない哀訴の声にとってかわる。
何が起こったのか分からないまま、女はただ息をひそめて、
閂が外され、扉が開かれるのを待つばかり。
その過程でほんの少し、聞こえた声に聞き覚えがあるような気もしたが―――――
両開きの扉が開かれ、外の光が差し込めば、まず目につくのは黄金色の縁取りを施された長持か、
それとも片隅に巻き取られた、色鮮やかな異国の敷物らしきものか。
それらに囲まれて芋虫同然に拘束されて転がる、小柄な女の姿がひとつ。
目隠しをされた顔はフードに半ば覆われているが、マントの裾は派手にはだけて、
黒鉄に食まれた足首どころか、むっちりとした白い腿までが露わになっている。
あるいは、その肉づきにこそ、男も憶えがあるかも知れないが―――――。
目隠しを外されれば、女は眩げに顔を顰め、俯いてそっと息を吐く。
手枷、足枷と外されるのに、抗うことはないものの、礼を口にするでもなく。
俯いたまま、視線も合わせず口唇を開き、掠れを孕んだ冷ややかな声で、
「……私にも、従属をお望みでしょうか。
嫌だと言ったら、この場で斬り捨てられてしまうのでしょうか?」
そんな生意気を言って、それからようやく。
顔を上げ、視線を向けて―――――ぽかんと、目を瞠る。
■ファルスィーク > 荷台の中は思ったよりも広く、様々な品は高価な物である事は一目見れば分かる物ばかりではあるが、街外れの道を使用していた辺りから、公にしたくはない何処かの貴族の献上品か、豪商の極秘に運びたい品なのか。
どちらにしても、知っているだろう御者は既に事切れている為に、どうしても聞き出したいのなら死霊術でも行使すれば可能かもしれないが…其処まで手間を掛ける事も無い。
運搬に当たって護衛も付けなかったのは、リスクを考慮して荷が届いても届かなくても構わない算段があったからか―。
そんな品々の中でも、己にとって一番目を惹いたのが女性であり、目隠しを外す為にフードを外し、はだけたマントの下に見える四肢にも見覚えがあるのは、つい数日前の事でもある方当然とも言える。
上体を抱き起すには華奢な躰ゆえに然程力もいらないだろう。
向けられる多少憮然とした様な声を紡ぐ度に動く桜色の唇を眺め……。
「やあ、素敵な夢の紡ぎ手さん。
君を助けに来た…と云えれば格好いいんだろうね。
この状況で、そんな言葉が出るようなら大丈夫そうだ」
従属か…悪くない提案ではある。残念ながら、斬り捨てる選択肢は無いな。と言葉を続けながら浮かべる笑み。
唖然とした様子で己を見る女性に対して、はて…?と首を傾げる。
状況を説明した方が良いだろうか…と思案し、大まかな事の顛末を離しながら、伸ばした手は女性の細い首に嵌る首輪へと触れる。
と、普通の枷であっても魔術的な施しがされていても開錠し外れ、緩んだ首輪と掴んで落とし。
■セリカ > 何処かへ運ばれ、使われる筈だった女には、もちろん何も分からない。
一緒に押し込められていた品物たちと、自身の価値を同等だとも思っていない、
きっと幾らでも替えの利く、消耗品程度の扱いであろう、との認識だ。
ともあれ、輸送はそれを目論んだものにとっては、恐らく最悪の形で頓挫した。
何ひとつ手には入らない、部下の一人さえ戻らない。
最後の枷として存在していた首輪が、女の細首から外されて落ちた。
「――――――それ、は、……格好が良過ぎて、逆に胡散臭く感じてしまいます。
本当は何もかも、貴方の差し金、計画のうちだったのでは、なんて、
邪推、してしまいそうです」
王都の人間ではないと聞いてはいたが、こんな所で偶然、行き会うというのは。
暫し、茫然と見つめていた視線をゆるく伏せ、そっと頭を振りながら。
ずれかけていたフードを降ろし、自由になった両手で乱れた髪を軽く整え、
「助けて頂いたことには、お礼を申し上げますけれど……
私、お仕事の途中だったのです。
こんなことになってしまって、……一度、館に戻るしかないかしら」
それにしてもここは何処なのか、巡る視線は途中で確かに血だまりと、
そこへ沈む野盗の姿などを映したが―――――女の表情も、声の調子も、揺らぐ様子は無く。
ただ、頓挫した仕事の事ばかりを考えているようで。
■ファルスィーク > まだ興奮状態の馬ではあるが、倒木に遮られ馬車に繋がれた状態ではいななきと足踏みくらいしかできる事はなく…それでも訓練された馬であるだろうから、その内に落ち付くだろう。
「言われてみれば確かに…。
―君の為にここまでの演出をしたとしたら、そこは評価してくれても良い様な気もするんだが」
普通なら恐怖や怯え、安堵等の感情を露わにしている状況だが、何処か淡々とした口調は肝が据わっているとも言えるか。
驚いているのは分かるのだが、言葉のやり取りができる程の精神状態を維持できる事には半ば感心し、手櫛で髪を梳く仕草を見ていたが…続いた言葉には肩を竦ませて呆れた様に。
「一応、今の状態では所有者不明の荷馬車は、私が所有権を訴えても接収しても良いのでは…と思っている。
それにしても、都合のいい状況であるのに、このまま逃げ出そうとは考えないとか……何か訳ありだったりするのかな?」
己が居なければ、馬も中野にも含めて野盗に奪われていただろうから、己が接収しても誰にも知れることはないだろう。
そして、荷の一部である女性もどこぞに連れ去られたとしてしまえば、晴れて自由の身ともなろうが……馬車の外の惨劇を目にしながらも感情を崩さないままに、仕事に向かわなければいけないと呟くのを聞き、理由があるのなら訳アリだろうかと尋ねながら、不意に唇を重ねてはみるが。
■セリカ > 「―――――――――― 評価、ですか」
その言葉を繰り返す、女の声はひどく冷たく響いただろう。
男から外していた眼差しを再び、男の顔へまっすぐ戻した時、
紅茶色の双眸に滲む光すら、何処か硬質に。
枷が失われたのなら、女は自らの足で立つことも出来る。
荷台から起こした躰で、すく、と地を踏みしめて。
「評価、……評価、ですか。――――――――――、」
不意に落とされた口づけを、強引に避けたりはしないものの。
受け容れる素振りは示さず、目も閉じず、ただ触れるに任せて、
―――――数秒、間を措いてから顔を背けた。
躰ごと、身を捩るようにして男から距離をとり、
「この荷馬車の中身は、どうぞ、ファルス様のお好きになさいませ。
ですが私は、……私がお約束出来ますのは、対価に見合う、一夜の夢のみ。
それ以上は、どうか、――――――――――ご容赦、下さいませね」
身の上を打ち明けるのも、娼婦としてではなく、一人の女として伴われるのも、
少なくとも今は、否。
その意思を籠めて一度、頭を垂れた後には、女は返事も待たず歩き出す。
柔らかなサンダルで、血だまりをこともなげに踏み締め―――――ひたり、ひたりと。
走り出しはしないけれど、制止を許さぬ確固たる足取りで目指すのは、取り敢えず。
車の轍が深く刻まれた、その先だった。
ご案内:「何処かへと向かう馬車」からセリカさんが去りました。
■ファルスィーク > 一般の娘とは違うものを感じ取るには十分すぎる態度から、何か内に秘めているものがありそうだ。
一変して固く冷たい雰囲気を纏い、それは言葉や瞳にも分かり易いほど現れているのが窺えた。
唇は重ねはしたが、己も瞼を閉じずにいれば重なる目線。
魔眼を発動する事も無く…態度からも拒絶の意志を受けると深追いはしないままに。
「野暮な事を聞いてしまったかな。
いずれまた、夢を紡いでもらう事にしよう」
問いかけに対して言葉にせずとも態度が示す事は大く、結構な訳アリである事は理解した。
己に向けての一礼には手をひらりと振り返すも、馬車を降りて此処よりは徒歩で向かうらしい。
この辺りを根城にした野盗は先程討ったので襲われる心配はないだろうが、かといってそのまま放り出すのも…と考えると溜息を洩らしながら倒木を排除した後に馬車を操り女性を目的地の近くまで運んでいったとか―。
無論、中の荷は馬車ごと、頂く事にはなったが。
ご案内:「何処かへと向かう馬車」からファルスィークさんが去りました。