2023/03/08 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍛冶場工房地帯」にスピサさんが現れました。
スピサ >
昼間のマグメール
平民地区の一角で煙突から煙がいくつか立ち昇っている。
煙突のついた屋根が多く、火炉を持つ場所を示す工房が並ぶとわかる。
歩く者は鍛冶見習いや武器持ちが多く、目貫通りのような衝動ではなく目的
それでしか訪れる機会のない場所と言えるだろう。


        コォンッ コォンッ

        コォンッ コォ――ンッ


槌が火熱を孕む鉄塊へと打ち付ける音が響く工房
薄青い肌を持つスピサの工房は、炉が鞴で時折火を維持されながら
静かに轟々と内側で渦巻いている。

ヤットコで挟まれている赤白い鉄塊を金床で叩く度、槌は弾かれるのではなく吸い込まれる。
筋肉を纏う右腕が振う槌の一打一打が、柔らかくなった鉄塊へと打ち付ける度
その衝撃を吸い込み、形を変えていく。
熱を孕む鉄塊は槌を与えられる度、そうして独特な音を立てて響いた。

眼帯を身に着けず、大きな夕焼け色の単一の裸眼で鉄塊をジッと見つめ振う度
額に巻き付けるバンダナや胸の谷間には汗が静かに滲み、溜まるだろうか。
振るわれて形状を新たにしていくシルエットは、細身 且つ 肉厚。
刺突力を六分 斬撃力を四分に振り分けて形作る切っ先も鋭い剣。
レイピアに分類されたものながら、スピサが何度強く振ってもその細身
まるで気丈強情な女のように、曲がる処か形を変えるのも、普通の剣と同じように苦労させている。

スピサ >
首筋を掻き斬り、隙間から貫く。
脇腹や肋骨 手首の半ば 獣の硬い革と肋骨を潜り臓腑を傷つけるだろうと想起させる剣身
成人男性の指先から肩口程度の長さだろう剣身に柄を足せば、潜る鳥の尾のように
ヒュンッと軌道を得て振われるのが透けるような重量の具合を摘まんで確かめる。

レイピアと言えど、スピサが折り返し続けた剣身は隙間ない鉄塊品
男が得ても女が得ても、よほど大柄な漢でもない限りしっくりくるかは当人次第だろう。
女々しく見える剣身は、その実、多少鈍らに仕上げることが多い叩きつける騎士剣
それに比べて必ず射止める意思が見えている。

スピサは、今打つ刀身ならなんだろうと思ってから造った剣身だった
誰かの想いや願いが乗ったわけではない ただの手製なだけ。
しかし、途中から打つ度に、この気丈に見えた剣身が鳥の尾のように
目の前で円を描いて空を斬るのを想う度に、剣身に注ぐ魂は形作られて思いのほか良く仕上がっていく。
鍔や柄はどんなふうにしてやろうかとすら考えると、集中している無表情の裏では
心の内側で笑みだって浮かばせていただろう。


        「ふぅ。」


そうして、槌を形を置いてから見つめるまだ熱を孕んだ鋼色
焼き入れを行う為の長桶に付け入れる準備を済ませ、冷却させる。
水や油の中に入れて行われる焼き入れは、表面ほどすぐ硬くなり中へ行くほど緩やか。

ジュウウッとした音と共に、多少揺らして中で熱と冷が混ざり合いながら
剣身が冷え固まり、抜き出されると黒ずんだ剣身が出現するだろう。
これを焼き戻し 再び熱を与えて硬すぎて脆くなるようなことにならぬよう
鋼の硬さだけをいただき、鋼の粘り強さを失わせずに済ませることで
刺突斬撃で受け止めるだけの弾性を孕むものへとさせるだろうか。