2022/07/09 のログ
ご案内:「コルベール商会 質・万支店(貧民地区)」にルイーズ・マリーさんが現れました。
■ルイーズ・マリー > 貧民地区のとある一角。まだしっかりと建っている建物は、コルベール商会の1店舗。
その店舗の奥まった場所に女は腰かけていた。
店内の客は対していない時間帯。
買取希望の客は一段落して、あとは気まぐれで開けているような時間帯。
使用人もごく少数でまったりとした空気の中、紅茶を傾けて。
「さて、今宵のピークは過ぎたかしらね……この後どうなることやら、といった感じだけれど。」
独り言めかして口にすれば、テーブルの傍らに置いておいた本を手に取る。
こういうゆったりとした時間は嫌いではなかった。
勿論、一番好きなのは誰かと金稼ぎのための会話をしている時なのだが。
使用人が一人、また一人と帰宅のあいさつをして去っていく。
貧民地区の店に女が一人。
普通に考えれば危険を考えるものだが、あいにく店主は「魔商人」単なる強盗であれば後れを取ることもないだろうとこの時間では当たり前の出来事であった。
ご案内:「コルベール商会 質・万支店(貧民地区)」にルプスさんが現れました。
■ルプス > 普段利用している質屋が、臨時休業の日。
自分一人の都合なら開業するのを待ってもいいのだが、主人が必要とする品物の支払いが明日中というところまで迫っていた。
ぎりぎりまで金策に奔走していたのだから、このタイミングになってしまった事を責められたくはないものだが、偏屈な主人にその理屈は通用しない。
かなり切羽詰まった状況で同業者に、手頃な質店はないかと訊ねたところ、名前があがったのがこの店だった。
この時間ともなると、店仕舞いしていてもおかしくないが、今日は今日でこなさねばならない依頼があり、どうしても遅くならざるをえなかった少年にとっては僥倖──
小走りに入店すると、少し目を見開く。貧民地区には似つかわしくない風格の女性の姿が、奥にうかがえたからだ。
少年は、自然と店の主だと思わせる女性のもとに近寄り、普通の客がそうするのと同じように、布に包まれた品物を提示する。
「遅くにすいません、これを質に入れたいんですが、鑑定して貰えますか?」
布を開けば、そこには古い年代の、金属の柄に装飾を施された短剣。
そして、希望買取価格を伝える。それは冒険者なら当たり前の交渉だが、性格上ゴリ押しをする事もなく、遠慮がちに。
その希望価格は甘く見積もれば適正、厳正に見積もればやや足らず、といったところか。
■ルイーズ・マリー > 遅い時間でも閉店していなければ入ってくるのは当然客。
開く扉の音に本に向けていた視線を上げれば、少年とも少女ともつかない容姿の子。
ただ、少しの違和感を己の目に見せてくるが、この町でそういう相手は結構いるので気にするでもなく。
「いらっしゃいませ……質入れかしら。では、ちょっと拝見。」
近づいてきた少年が向けてきた言葉。
一つ頷いて短剣を受け取れば、鞘や刀身、柄に至るまで一通り確認して
「そうねぇ……質入れだとその額は少し難しいかしら。うちでつけられるとしたら、これくらい。」
返した金額は、希望価格に五分ほど足りないもの。
その額を提示して少年の瞳を見やる。
それで受け入れるのか、それとも希望額がどうしても欲しいのか。
それを確認するかのように。
視線を上げる時に軽く揺れた髪の毛のあたりから、仄かに漂う香りがこの距離なら少年の鼻をくすぐるかもしれない。
とはいえ、それは安心感を与えるような程度のものかもしれないけれど。
■ルプス > 提示された金額は、希望額を下回っていたが、少年が元からあり得る範疇だと考えていたライン上。
普段であれば、むしろありがたくその金額で頷いていたところだが、珍しく困ったような、考え込むような表情を見せる。
色々な状況が重なって、どうしても今夜中に提示した金額が必要だった。
被造物である少年にとって、創造主の意向に沿うのは、国王から授かった厳命に近いニュアンスがある。
商売人の都合を曲げさせるような無茶な振る舞いをするのは、少年としても望むところではない。
しかし、普段なら引き下がるところで一歩──前のめりになってしまったのは、あるいは女性から漂う香によって、
普段は発揮することのない大胆さがかま首をもたげたからかも知れない。
「そこを……どうにか。なりませんか?」
どうしても、という言葉。それは、あくまで強い語調ではないが……
もちろんタダで、というつもりはなく。どうにか、という言葉には当然、相手側の要求を呑んだ上でという意味も込められている。
それは冒険者の交渉では当然であり、明確な言葉にしてはいないが。
■ルイーズ・マリー > 少年が踏み込んできた一歩。
その言葉に目を少しだけ細めつつ、口元に軽く弧月が浮かぶ。
もう少し欲しい、と向けてきた言葉。
それを耳にすれば、少しだけ考えるしぐさを見せてから
「では、提示できるものは二つ。1つは質入れではなくて買取にすること。それならば、これくらい。」
ここで提示した金額は、希望額から二分ほど低い額。
ほんの少しだけ目標に近づいたか。
「それでもどうしても足りないのなら、そうねぇ……貴方の体で支払ってもらうか。大した額ではないので、ほんの少しの”仕事”で事足りると思うわ。こっちなら、”働き”次第で積んであげる。」
どちらが良いかしら?と小さく小首をかしげて向ける問い。
その時にほんの少しだけ顔を少年に寄せた。
■ルプス > 普段、こういった年代の、貴族の奥方様と言われても違和感の無い風格を有する女性と接点の無い少年にとって、
ほんの少しだけ縮まった距離でも気後れするには十分。
しかし、少し背を反らせるだけで後ずさったりしなかった辺り、得体の知れない誘引力を感じている証左だった。
「…………」
そのままの姿勢で、少年は少し考え込んで計算を働かせる。
買取って貰ったところで問題は無く、その際の金額はかなり譲歩と受け取れた。
朝一番で金策に走れば、目標金額も現実的な射程距離と言えるかも知れない……
しかし、冒険者らしくない発想だが、賭けはあまり好みではなかった。
「──分かりました、じゃあ仕事の方で」
食事のあと、財布を忘れて皿洗いで勘弁して貰うのと似たような理屈だ。
そして、そちらの方が性分に合っている。
まさか、暗殺をさせられるわけでもなかろうし、単純労働には少し自信があった。
軽くガッツポーズをして、腕力脚力を振るうことに異論はないという気概をアピールする。
■ルイーズ・マリー > ”仕事”を選んだ少年に、弧月はより丸みを強める。
一つ頷けば、立ち上がり、少年の方へと歩を進める。
というより、足を向けた先は扉なのだが。
「ええ、そっちを選ぶと思ったわ。では、店を閉めてしまうので少し待ってて頂戴な。」
そう言葉を向ければ、扉に鍵をかける。
そして、少年のそばまで戻ってくれば、そっと右手が少年の胸の先端を掠めて
「じゃぁ、こっちへいらっしゃい。貴方はいくら稼ぐかしらね?」
そう口にして、店の奥へと少年を誘導していった
ご案内:「コルベール商会 質・万支店(貧民地区)」からルイーズ・マリーさんが去りました。
■ルプス > 胸元を霞める手に、少年は一瞬ビクっとしてその場で軽く飛び上がりそうになる。
怯えている訳ではないし、怯える理由がある訳でもない。
冒険者の業界で生きている人間とは、まるで別世界の雰囲気に呑まれているだけ。
いうなれば突然社交界にでも放り込まれたような、と言ったところか。
「…………?」
その女性の呟きに、少年はわずかに首を傾ける。
倉庫か何かで働くのだろうか──
であれば想定通りといったところだが、幾ら稼ぐか、という言葉には歩合制を想起させる。
どれだけ働けるかで対価が変わる労働というのは珍しくないので、すぐに首の傾きは元に戻るが。
そうして、女性のあとについて歩いて行く──
ご案内:「コルベール商会 質・万支店(貧民地区)」からルプスさんが去りました。